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企業によるスポーツ選手とのスポンサーシップ契約に係る課税関係

NO&T Tax Law Update 税務ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 企業のマーケティング戦略としては様々なものが存在するが、その一つとして、スポーツ選手との間でスポンサーシップ契約を締結し、自社のブランド・商品の認知やイメージの向上を図るという戦略がある。例えば、最近では、株式会社伊藤園がロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手とグローバルアンバサダー契約を締結し、その結果、販売数量やブランド認知度が向上したという事例が典型的な例であろう。スポーツ選手とのスポンサーシップ契約においては高額なスポンサー料が支払われることも多いため、その課税関係を正確に理解し、適切な契約書を作成することが重要になってくる。本ニュースレターでは、企業がスポーツ選手との間でスポンサーシップ契約を締結し、スポンサー料を支払う場合の課税関係を解説する。

2. スポンサーシップ契約※1とは

 一言でスポンサーシップ契約といってもその内容としては様々なものが含まれているが、スポーツスポンサーシップとは「スポンサーが、スポーツに関わる個人や団体の活動・イベント等との関連性を商業的に利用して自らのブランド・商品の認知やイメージの向上等を図る権利を取得し、その対価として金銭、物品またはサービスを提供する取引」などと定義することができる。スポンサーシップ契約の具体的な内容として、まず契約当事者については、スポンサーは自社のブランドや商品を宣伝したい企業であることが一般的であり、もう一方の当事者(ライツホルダー)としては、スポーツ選手(そのマネジメント会社や資産管理会社等の法人が当事者になる可能性もある。)、クラブチーム、スポーツリーグ等が考えられる。また、スポンサーシップ契約によってスポンサーが取得する権利としても、スポーツ選手にスポンサーのロゴが掲載されたユニフォーム等を使用させる権利、肖像権・氏名利用権、広告への出演等、様々な内容が考えられる。その他の契約の内容についても、ケースごとにユニークで多様なものになることが通常である。

 スポンサーがスポンサーシップ契約に基づき支払うスポンサー料の課税関係は、契約当事者が個人か法人か、居住者(内国法人)か非居住者(外国法人)か、スポンサーシップ契約の内容(特にどのような権利の付与、役務の提供に対してスポンサー料が支払われるのか)等によって変わるため、スポンサーシップ契約を作成するにあたっては、課税関係に与える影響も意識する必要がある。

3. スポンサーシップ契約の課税関係

(1) 総論

 上記のとおり、スポンサーシップ契約としては様々な内容が考えられ、その内容に応じて課税関係を分析する必要があるが、以下では、日本の企業が、外国のプロリーグのクラブチームに所属しており、日本の非居住者に該当するプロスポーツ選手個人(日本に事務所等は有していない)とスポンサーシップ契約を締結する事例を想定して、その課税関係を解説する。スポンサーシップ契約の具体的な内容としては、①選手によるスポンサーのロゴマークが掲載されたユニフォーム等の使用、②肖像権・パブリシティ権等、③広告出演についてそれぞれの課税関係を考える。なお、注意すべき点としては、実際のスポンサーシップ契約においては、上記①~③の2つ以上の内容が規定されていることも多いことであり、そのような場合には、スポンサー料が何の対価として支払われるのかを検討する必要がある。また、その点が明確でないことによって課税関係が不明確になるということであれば、スポンサー料をスポーツ選手が提供する権利ごとに区分して規定することも考えられる。

(2) スポンサーのロゴが掲載されたユニフォーム等の使用

① 所得税

 スポーツ選手に対して、スポンサーのロゴが掲載された競技用ユニフォームを着用する義務や、スポンサーが製造する製品(シューズや用具等)を競技で使用する義務等を課し、その対価としてスポンサーがスポーツ選手に対してスポンサー料を支払うものである。非居住者であるスポーツ選手に対するスポンサー料の支払いは、それが所得税法161条1項各号に定める国内源泉所得に該当する場合、当該スポンサー料に対して日本で所得税が課されることになる。スポーツ選手がスポンサーのロゴが掲載されたユニフォーム等を着用して競技を行い、その対価としてスポンサー料を受領する場合、当該スポンサー料は通常所得税法161条1項12号イの人的役務の提供に対する報酬に該当すると考えられる。所得税法161条1項12号イの人的役務の提供に対する報酬は、「国内において行う……人的役務の提供」が課税対象とされているため、スポーツ選手が海外でのみ競技を行う場合には、人的役務の提供を国内では行わない結果、日本で所得税の課税対象にはならない。一方で、スポーツ選手が海外のみならず日本でも競技を行い、スポンサー料に日本での競技に係る対価が含まれる場合には、その分については同号の国内において行う人的役務の提供に対する報酬として国内源泉所得に該当することになる。したがって、スポンサー料を支払うスポンサーは、20.42%の税率で源泉徴収を行う必要がある(所得税法161条1項12号イ、212条1項、213条1項1号)。

 スポーツ選手が居住している国によっては、日本と当該国との間で締結された租税条約が適用されることがある。ただし、租税条約においては基本的に、スポーツ選手の活動により得られた所得は、当該活動を行った国において課税することが認められているため※2、租税条約によっても日本の課税は軽減・免除されないことが多い。

 なお、スポンサーが支払うスポンサー料のうち、日本での競技に対応する分は、契約内容に基づき合理的な割合を用いて算定することになると考えられるが、契約においてスポーツ選手が提供する役務として様々な内容を定めている場合には算定に困難を伴うことも多いと考えられる。そのような場合には、あらかじめ契約当事者間で合意の上、スポーツ選手が提供する役務の種類ごとにスポンサー料を区分して算定した上で、契約書に規定しておくことも考えられる。

② 法人税

 通常、スポンサー料は企業にとって広告宣伝費に該当することから、スポンサー料を支払った企業は法人税の確定申告において当該スポンサー料について損金算入ができる。

③ 消費税

 非居住者であるスポーツ選手に支払うスポンサー料に日本の消費税が課されるかを検討するにあたっては、スポーツ選手によって提供される役務が国内取引(課税)に該当するか、国外取引(不課税)に該当するかが主として問題になる。役務の提供については、当該役務の提供が行われた場所が国内か否かによって判定することになるため(消費税法4条3項2号)、スポーツ選手が海外で行われる競技にのみ参加する場合には、役務の提供は国外取引に該当することになり、消費税は課されない。一方で、スポーツ選手が海外のみならず日本でも競技に参加する場合には、役務の提供が国内及び国外の両方で行われることになり、役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地によって判定することになる(消費税法施行令6条2項6号。実務上の解釈については、消費税法基本通達5-7-15も参照。)。本件ではスポーツ選手は日本に事務所等を有していないことから、「役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地」は国外であると考えられるため、スポンサー料に係る役務の提供の全体が国外取引に該当することになり消費税は課されないことになる※3。消費税が課されないということは、スポーツ選手において消費税を申告・納税する必要がないことに加えて、スポンサー料を支払うスポンサーにおいては仕入税額控除を行うことができないことを意味する。

(3) 肖像権・パブリシティ権等

① 所得税

 スポンサーが広告等においてスポーツ選手の映像や写真、名前等を使用することを認め、その対価としてスポンサーがスポーツ選手に対してスポンサー料を支払うものである。肖像権やパブリシティ権は、法令上明文の規定はないものの裁判上認められている権利であり※4、著作権には該当しない。そのため、所得税法161条1項11号ロの「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)」の使用料に該当せず、その他の161条1項各号に定める国内源泉所得にも該当しないため、日本でスポンサー料に対して所得税は課されない。

② 法人税

 通常、スポンサー料は企業にとって広告宣伝費に該当することから、スポンサー料を支払った企業は法人税の確定申告において当該スポンサー料について損金算入ができる。

③ 消費税

 スポーツ選手によるスポンサーに対する肖像権等の提供が国内取引に該当するか否かが問題となる。肖像権等の提供は資産の貸付けに該当すると考えられることから※5、資産の貸付けを行う者の当該貸付けに係る事務所等の所在地によって国内取引に該当するか否かを判定する(消費税法施行令6条1項10号)。本件においては、スポーツ選手は国内に事務所等を有していないため、肖像権等の提供は国外取引に該当して消費税は課されないことになると考えられる。

(4) 広告出演

① 所得税

 スポーツ選手が出演する広告を撮影し、当該広告出演の対価としてスポンサーがスポーツ選手に対してスポンサー料を支払うものである。スポーツ選手による広告への出演は、所得税法161条1項12号イの人的役務の提供に該当すると考えられるため、役務の提供が国内で行われる場合には国内源泉所得に該当し、国外で行われる場合には国内源泉所得には該当しないと考えられる。したがって、スポーツ選手の出演する広告の撮影が国内で行われる場合、スポンサー料は国内源泉所得に該当すると考えられる。その場合、スポンサー料を支払うスポンサーは20.42%の税率で源泉徴収を行う必要がある(所得税法161条1項12号イ、212条1項、213条1項1号)。

 上記(2)①でも記載したとおり、スポーツ選手が居住している国によっては、日本と当該国との間で締結された租税条約が適用されることがある。ただし、租税条約においては基本的に、スポーツ選手の活動により得られた所得は、当該活動を行った国において課税することが認められているため、租税条約によっても日本の課税は軽減・免除されないことが多い。なお、スポーツ選手が広告に出演する場合、「一方の締約国の居住者である個人が……芸能人又は運動家として他方の締約国内で行う個人的活動によって取得する所得」という文言のいずれに該当するのかは問題になり得る。この点、広告に出演することは運動家としての活動には該当しないものの、当該広告出演との関係ではスポーツ選手は「芸能人」に該当するため当該条項が適用されると解すべきように思われる※6

 なお、広告出演契約において、出演した広告の放送等についても対価(著作隣接権としての放送権等の対価)を受ける場合があるが、そのような場合にも、広告出演の対価とともに支払いを受けるものについては、使用料ではなく人的役務の提供の対価に該当するとされている(所得税基本通達161-22※7)。

② 法人税

 通常、スポンサー料は企業にとって広告宣伝費に該当することから、スポンサー料を支払った企業は法人税の確定申告において当該スポンサー料について損金算入ができる。

③ 消費税

 広告出演という役務の提供が国内で行われたものか(国内取引として課税)、国外で行われたものか(国外取引として不課税)が問題になる(消費税法施行令6条2項6号)。広告が国内で撮影された場合には、役務の提供が国内で行われたものとして、国内取引に該当し、消費税の課税対象になる※8。スポーツ選手による広告の出演は、特定役務の提供に該当し(消費税法2条1項8号の5、同法施行令2条の2)、リバースチャージ方式によって消費税が課されることになる。したがって、スポーツ選手は消費税の確定申告及び納税を行う必要はなく、スポンサーが消費税の申告・納税義務を負うとともに、申告・納税を行った消費税額について仕入税額控除の対象にすることができる(消費税法5条1項、28条2項、30条1項、45条1項1号)※9。一方で、広告の撮影が海外で行われる場合には、役務の提供が国外で行われたものとして、国外取引に該当し、消費税の課税対象にはならない。

4. 契約上の手当て

 上記のとおり、スポンサーシップ契約の内容によって所得税(源泉徴収)及び消費税の課税関係が大きく異なるため、課税関係を正確に整理した上で、それを契約書に反映させる必要がある。源泉所得税については、源泉徴収に関する規定を設けるのか、そもそもグロスアップ(所得税基本通達181~223共-4)の規定を設けるのかなどを検討する必要がある。消費税についても、消費税の課税対象になる場合には、合意したスポンサー料が消費税込みの金額か否かを明示する必要がある。また、源泉所得税や消費税に関して、課税対象となる役務とそうではない役務が混在する場合には、課税関係を明確化するためにスポンサー料を役務ごとに区分することなども考えられる。

5. 終わりに

 スポンサーシップ契約における課税関係は、契約の当事者や内容によって変わり得るため、課税関係を正確に理解した上で、課税関係に即した(または課税関係を最適化できるような)適切な契約書を作成する必要がある。本ニュースレターがその一助となれば幸いである。

脚注一覧

※1
本章の記載は、加藤志郎『スポーツスポンサーシップの基礎知識と契約実務』(中央経済社、2023年)(以下「加藤文献」という。)に依拠している。同書は、スポーツスポンサーシップの基本的な内容、法律関係、契約実務などを詳細に解説している。

※2
例えば、日・米租税条約16条1項。ただし、同項ではスポーツ選手が取得する収入額が当該課税年度において1万米ドルを超えない場合には課税が免除されるものとされている。なお、スポーツ選手がスポンサーのロゴが付いたユニフォームを試合中に着用した場合は同条項の適用対象に含まれると解説するものとして、OECDモデル租税条約第17条に関するコメンタリーのパラグラフ9がある。

※3
カーレースのスポンサー料について裁判所が判断を示した事例として、東京地判平成22年10月13日訟務月報57巻2号549頁がある。当該事案では、役務の提供に係る事務所等は国内の事務所であるとして、国内取引に該当し消費税の課税対象になる旨判示されている。

※4
加藤文献73頁。

※5
苅米裕「税理士実務Q&Aセカンドオピニオン 第29回 消費税 プロスポーツ選手に係るスポンサー料の国内外取引の判定」税務通信3790号21頁。

※6
OECDモデル租税条約第17条に関するコメンタリーのパラグラフ9.1は、「『芸能人又は運動家』の文言は1回のみのイベントであっても芸能人又は運動家のように振る舞う者全て含む。」と解説しており、当該解説からは、スポーツ選手も広告出演との関係では芸能人と解することができると思われる。この点については、消費税との関係ではあるが、国税庁も「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税に関するQ&A(平成27年5月)(令和6年7月改訂)」(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/cross-QA.pdf。以下「国税庁Q&A」という。)35頁にて同様の解釈を示している。

※7
同通達は、直接には161条1項6号の人的役務提供事業に係る所得に関するものではあるが、同項12号イの人的役務の提供に対する報酬についても当てはまると考えられる(柳沢守人編著『令和6年版問答式源泉所得税の実務』(清文社、2024)754頁参照)。

※8
国税庁Q&A35頁。

※9
ただし、その課税期間における課税売上割合が95%以上の場合、リバースチャージ方式により申告を行う必要はない(平成27年改正法附則42条、44条2項)。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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