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「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会とりまとめ」に学ぶ製造業におけるコンプライアンス課題と対応

NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター

著者等
眞武慶彦豊田紗織(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Compliance Legal Update ~危機管理・コンプライアンスニュースレター~ No.102(2025年3月)
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本ニュースレターの中国語版はこちらをご覧ください。

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. 検討会とりまとめの背景

 平成28年以降に発覚した自動車メーカーの燃費不正問題、完成検査問題、及び排ガス試験不正問題を受け、国は、道路運送車両法及び同法に基づく自動車型式指定規則等の改正を実施し、不正に取得された型式指定の取消、法令違反の是正に係る命令制度、報告徴収に対する罰則の強化などを行い、不正行為を防止するための対応を行ってきました。しかし、その後も、令和5年には産業機械用エンジンの排ガス試験不正及び軽自動車メーカーの衝突試験に関する認証不正が判明し、さらに、これを契機として国土交通省が自動車メーカー及び装置メーカー等85社に対して型式指定申請における不正行為の有無等に関する調査・報告を指示したところ、令和6年5月末、他の自動車メーカーにおいても、型式指定申請に係る不正行為が判明しました。このような、次々と発覚する自動車メーカーによる型式指定申請に係る不正行為を憂慮し、国土交通省は、令和6年4月、外部有識者を含む「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会」を設置しました。今回公表された「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会とりまとめ」(以下「検討会とりまとめ」といいます。)は、かかる検討会における議論を踏まえて対応策をとりまとめたものですが、その内容は、自動車メーカーに限らず、製造業全般に参考となる内容となっています。本ニュースレターは、検討会とりまとめとそれを受けた省令案のキーポイントをご紹介します。


2. 不正事案の原因

 検討会とりまとめは、今般の自動車メーカーにおける不正事案に共通する点として、以下の点を挙げています。

  1. 申請に係る不正行為に加え、型式指定後にも申請内容と異なる又は保安基準不適合となる自動車やエンジンが長年にわたり製作されていたこと
  2. 管理職が現場の担当者に対して不正行為を行うよう指示するなど、管理職が主体となって不正行為に関与した事例はないこと

 さらに、検討会とりまとめは、上記各不正行為を行った各自動車メーカーに共通する主な原因を、以下の6項目に分けて整理していますが、その中でも①は、他の全ての原因に影響を及ぼす根本的な原因であり、それが②の経営の問題を生み出し、③から⑥のコンプライアンス体制の不十分性に繋がったものと考えることができます。

  1. 経営層における認識・取組不足等【根本原因】

    • 経営層が型式指定や不正リスクに対する十分な認識に基づく問題把握・解決を行っていないこと。
    • 経営トップが継続的に法令遵守の必要性を発信する等の取組を行っていないこと。
    • 法令遵守の方針が全社的に明示されていないこと。
  2. 日程計画・経営資源管理【経営の問題】

    • 十分な認証業務の期間が確保されていないこと。
    • 必要に応じたスケジュールの見直しが行われず、認証業務にしわ寄せが生じる構造となっていること。
    • 認証業務のための人員や施設が不足していること。
  3. 組織・責任体制【コンプライアンス体制】

    • 開発、実験、認証それぞれの組織で法令適否の判断と検証を行うことができる体制となっていないこと。
    • それぞれの組織の責任が明確になっていないこと。
    • 認証過程が現場任せとなっていること。
  4. 人材教育【コンプライアンス体制】

    • 法令遵守に係る教育が不足しており、法令遵守意識が欠如していること。
    • 業務内容に合わせた教育を継続的に繰り返し実施しておらず、社内に十分浸透していないこと。
  5. 認証業務実施体制【コンプライアンス体制】

    • 関係業務に係る社内規定が整備されていないこと。
    • 管理職や他部署による確認体制が整備されていないこと。
  6. 監査・内部通報制度【コンプライアンス体制】

    • 不正行為により生じる法的及び社会的責任に関するリスクを十分に認識していないため、管理職や他部署が認証業務を行う部署に対して監視を行う体制の構築が不十分であること。
    • 内部監査で潜在的なリスクを踏まえた調査を行っていないこと。
    • 内部通報制度の利用を促進していないこと。

3. 検討会が提言する対策の内容

 検討会とりまとめは、上記原因分析を踏まえ、以下のとおり対策を提言しています。検討会とりまとめが提言する対策は、自動車メーカーに対して内部統制の強化及び徹底を求めるもの(対策1)と、国土交通省に対して監視及び規制の強化を求めるもの(対策2及び3)に分けられます。

(1) 【対策1】内部統制の強化・徹底

 検討会とりまとめは、対策内容を、自動車メーカー等に対して義務的に実施を求める事項(以下「義務的実施事項」といいます。)と実施を推奨する事項(以下「推奨実施事項」といいます。)に分けて提言しています。それらは、以下の表のとおり、原因分析で挙げられた6項目に対応させる形で整理することができます。但し、一部の推奨実施事項は、複数の原因への対策として機能することから、関連すると思われる複数の原因について、当該対策を記載しています。

原因 対策
義務的実施事項 推奨実施事項
経営層における認識・取組不足等 経営層が型式指定や不正リスクに対する十分な認識に基づく問題把握・解決を行っていないこと。
  • 他社の不正事案を踏まえ、自社の業務実態の確認やリスク評価を行う等、新たなリスク要因を特定し対処を行う。
経営トップが継続的に法令遵守の必要性を発信する等の取組を行っていないこと。
  • 経営トップから社員に向けて法令遵守のメッセージの発信や行動規範の周知などを繰り返し行う。
  • 経営層が現場の実態を把握・理解するため、現場訪問や社員との直接対話等を継続的に行う。
法令遵守の方針が全社的に明示されていないこと。 認証業務に係る法令遵守を経営方針に明記する。
  • 法令遵守がコストや日程に優先することを経営方針に明記する。
日程計画・経営資源管理 十分な認証業務の期間が確保されていないこと。
  • 法令遵守がコストや日程に優先することを経営方針に明記する。
  • 開発及び認証の日程管理や必要な日程見直しが柔軟にできる仕組みを構築する。
  • 認証試験開始以降、認証に影響する設計変更が行われない仕組みとする。
必要に応じたスケジュールの見直しが行われず、認証業務にしわ寄せが生じる構造となっていること。
  • 開発及び認証の日程管理や必要な日程見直しが柔軟にできる仕組みを構築する。
  • 認証試験開始以降、認証に影響する設計変更が行われない仕組みとする。
認証業務のための人員や施設が不足していること。
  • 認証業務に必要な人員や予算などの経営資源を現場の意見を踏まえて柔軟に確保・配分できる管理体制を整備する。
  • 認証試験を正しく実施するために必要な試験設備を設置・確保し、維持管理する。
組織・責任体制 開発、実験、認証それぞれの組織で法令適否の判断と検証を行うことができる体制となっていないこと。
  • 現場の社員等から「認証業務責任者(仮称)」や「プロジェクト管理者(仮称)」などの責任者まで課題や問題について報告が上がる体制を構築する。
それぞれの組織の責任が明確になっていないこと。 認証業務全般に関して責任を有する「認証業務責任者(仮称)」及び申請車種のプロジェクトを管理する「プロジェクト管理者(仮称)」を明確化する。
  • 会社のホームページ等に「認証業務責任者(仮称)」の氏名を公表する。
  • 責任体制や認証過程の承認プロセスを明記した社内規定を整備し周知する。
  • 取引先(装置メーカー)等における法令遵守に係る経営方針や具体的な不正防止対策とその有効性を継続的に確認する。
認証過程が現場任せとなっていること。
  • 経営層が現場の実態を把握・理解するため、現場訪問や社員との直接対話等を継続的に行う。
  • 現場の社員等から「認証業務責任者(仮称)」や「プロジェクト管理者(仮称)」などの責任者まで課題や問題について報告が上がる体制を構築する。
  • 認証業務に必要な人員や予算などの経営資源を現場の意見を踏まえて柔軟に確保・配分できる管理体制を整備する。
人材教育 法令遵守に係る教育が不足しており、法令遵守意識が欠如していること。
  • 全職位の社員に対し、型式指定制度、法令遵守、不正行為に係るリスク対応について定期的に繰り返し社内教育を行う。
業務内容に合わせた教育を継続的に繰り返し実施しておらず、社内に十分浸透していないこと。
  • 認証試験方法及び認証手続きに係る社内教育を実施する。
  • 認証業務に関する技能確認や資格制度の導入等により、習熟度が客観的に確認できる体制を整備する。
  • 部門をまたがる人事異動や交流により、風通しの良い組織風土を醸成する。
認証業務実施体制 関係業務に係る社内規定が整備されていないこと。
  • 認証試験方法及び認証手続に係る社内規定を整備し、当該規定遵守のための仕組みを構築する。
  • 責任体制や認証過程の承認プロセスを明記した社内規定を整備し周知する。
管理職や他部署による確認体制が整備されていないこと。 認証業務に係る内部統制の状況評価及び報告書作成を行う。
  • 開発業務と認証業務をそれぞれ別の部署で行うなど、互いの独立性を確保する。
  • 認証試験の指示・設定・結果等に係る記録を確実に保存する。
  • 社内の認証試験が適切に行われていることを確認する仕組みを構築する。
  • 社員による認証データへのアクセス権限を設定・管理する。
  • デジタル技術の活用を推進し、記録の自動化などにより改ざんを防止する。
監査・内部通報制度 不正行為により生じる法的及び社会的責任に関するリスクを十分に認識していないため、管理職や他部署が認証業務を行う部署に対して監視を行う体制の構築が不十分であること。 認証業務に係る内部統制の状況評価及び報告書作成を行う。
  • 三層監査(三つの別々の部門(例:現業部門、管理部門、内部監査部門)による社内監査)を実施する。開発業務と認証業務をそれぞれ別の部署で行うなど、互いの独立性を確保する。
内部監査で潜在的なリスクを踏まえた調査を行っていないこと。 認証業務に係る内部統制の状況評価及び報告書作成を行う。
  • 三層監査(三つの別々の部門(例:現業部門、管理部門、内部監査部門)による社内監査)を実施する。
  • 第三者機関による認証業務に係る内部統制の取組状況に係る評価を受審する。
内部通報制度の利用を促進していないこと。
  • 社員が心理的安全性が確保された状態で通報できるよう内部通報制度を整備する。
  • 不正行為等のコンプライアンス違反に対する社内処分規定を整備する。
  • 型式指定後に実車を用いて量産車の保安基準適合性や諸元値との整合を確認する。

(2) 【対策2】国による監視の強化及び【対策3】規制の実効性向上

 さらに、検討会とりまとめは、国による監視の強化及び規制の実効性向上のための対策として、以下のとおり「対策2」及び「対策3」を提言しています。

<【対策2】国による監視の強化>
  • 対策1において挙げた義務的実施事項3点を型式指定審査時に報告させる。推奨実施事項についても、各社に対応を促す。
  • 「型式指定後の段階で型式指定車の保安基準適合性等を確認する措置」(生産ラインからの抜き取りを提案(交通安全環境研究所・国が試験を実施)。また、例として、米国環境保護庁(EPA)による新車抜き取り、使用過程車の抜き取りについて言及。)
  • 違反者に対する措置の強化として、違反者には、型式指定の申請を行う際には、不正防止措置を適切に講じたことを証する書面の提出を求める、マイナーチェンジでも変更内容以外の審査を可能にする、国の指示に従って量産車の試験を行い、国に報告するといった措置を講じられるようにする。
<【対策3】規制の実効性向上>
  • リスクベースでのメリハリのある対応と認証プロセスの合理化によって、法執行を効率的かつ効果的(重大事案に資源を集中する)に行う取組と理解される。
  • 認証業務に係る内部統制を適切に構築し良好に運用している自動車メーカー等に対しては、国による監査や量産車適合制監視の頻度を下げる等、不正リスクに応じた軽重ある対応を行う。
  • 保安基準を適用する時期を各年で統合することで、自動車メーカー等の技術開発等が効率化される。(規制対応のための無理な開発・認証スケジュールになっていないかもチェックする。)
  • 認証手続の簡素化及び合理化
  • 認証試験・計測機器のデジタル化の推進
  • 官民協議会を設置し、国と自動車メーカー等の間での意見交換を促進する。
  • 国連WP.29における国際基準活動への推進(WP.29への積極提案)
  • 交通安全環境研究所における型式指定審査に係る相談窓口を設置し、保安基準適合制に関して様々な相談を受け付ける窓口を設置する。

 検討会とりまとめは、上記に加えて、国が継続して検討するべき事項として、課徴金制度や、型式指定申請の欠格条項(自動車の型式指定申請に係る不正行為をした者に対して一定期間申請自体をできなくする制度)について言及しています。課徴金制度については、導入した場合でも各国においてはいずれにせよ認証取消や出荷停止が行われていること、安全確保及び環境保全上の問題解決に直接的につながらないことを理由として継続検討とし、今回の提言には含まれませんでした。また、欠格条項については、新たな保安基準の適用期日が来てしまった場合に継続生産車の販売すらできなくなり、サプライヤーや販売店にまで甚大な機会損失が生じ得ることを理由として、こちらも継続検討を要するとされています。

4. 令和7年1月21日付け「自動車型式指定規則等の一部を改正する省令案等について」

 国土交通省は、検討会とりまとめの提言を受け、令和7年1月21日付けで、「自動車型式指定規則等の一部を改正する省令案等について」を公表しました。当該改正案には、検討会とりまとめが、「対策2」として提言した以下の事項が盛り込まれています。

  1. 自動車等の型式指定に係る申請に際し、申請者に対して、当該申請者の申請業務等に係る体制に関する書面の提出を求める。(自動車型式指定規則及び共通構造部型式指定規則のみ)
  2. 型式指定後において、指定製作者等に対して、実車を用いて量産車等の基準適合性等を確認し、その結果を国に報告するよう求める。(自動車型式指定規則及び共通構造部型式指定規則のみ)
  3. 道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第75条第7項等に基づく是正命令を受けた者に対して、当該処分を受けた日以後初めて指定の申請をする場合においては、当該処分に関する不正行為を防止するための措置が適切に講じられていることを証する書面の提出を求める。
  4. 不正行為を行った者に対して、自動車型式等の変更申請時において、国の判断により、省略可能となっている申請に係る添付書類の全部又は一部の提出を求めることを可能とする。

 パブリックコメントの受付は令和7年2月21日に既に終了しており、この後、令和7年3月31日に交付され、令和7年4月1日及び令和8年4月1日(項目による)に施行されることが予定されています。

最後に

 検討会とりまとめは、相次ぐ不祥事によって危機にさらされている型式指定制度の信頼回復とともに、日本の基盤産業である自動車業界の健全な発展を目的とするものです。国土交通省が、その公表からまもなく上記4のとおり省令の改正案を公表したことからしても、この問題に対する深刻な懸念を背景にこれらの提言を速やかに制度に落とし込んでいくという強い姿勢が見てとれます。

 検討会とりまとめが指摘するとおり、自動車業界においては、これまで製品開発や製造の現場での改善活動が尊重される反面、コンプライアンスに関わる事項が現場任せになってしまったり、現場の実態を十分に理解していない経営層が現場に過度な圧力をかけてしまう傾向があったといわれています。そして、そのような傾向は必ずしも自動車業界に限ったものではなく、厳しい国際競争の中でコンプライアンスについてもより高い水準を求められるようになった日本の製造業、中でも現場と経営の距離が遠くなりやすい大企業の多くによくあてはまるのではないでしょうか。日本の製造業で多く発覚している大規模品質不正事案では、概ね検討会とりまとめにあるような各種の再発防止策が講じられてきましたが、新たな問題の発覚は後を絶たず、不正の防止が効果的に行われるようになってきたといえるのかいまだ明らかではありません。

 検討会とりまとめにおいて挙げられた原因と対策は、多くの企業の最大公約数のようなものであり、各社が自社に合った具体的施策に落とし込んでいかなければなりませんが、ともすれば形式的な施策の実施に留まってしまい、実際に目指していた効果が得られたのかどうかは評価が難しいことも多く、多くの企業が悩みを抱えているのではないかと思われます。検討会とりまとめを含む他社事例の教訓を参考としつつ、社外の目を入れて新しい気づきを得るなどしながら、企業全体の経営やガバナンスにも関わる問題として、現場で発生する不正リスクへの対処に取り組む必要があるでしょう。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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