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ニュースレター

トランプ政権下におけるFCPA執行ポリシー等の動向

NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター

著者等
深水大輔、Daniel S. Kahn(Davis Polk & Wardwell LLP)(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Compliance Legal Update ~危機管理・コンプライアンスニュースレター~ No.103(2025年3月)
関連情報

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(2025年4月4日(金)11:00~17:00、2025年4月5日(土)13:30~17:55)

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2025年2月10日、ドナルド・トランプ米大統領は、米司法省(DOJ)のBondi司法長官が「米国の経済および国家安全保障を促進する」執行ガイドラインを発表する中、米国海外腐敗行為防止法(FCPA)の執行を180日間「一時停止」する大統領令およびファクトシートを発表しました。新しいガイドラインのもとでFCPAがどのように執行されるかを正確に予測することは困難であるものの、”戦略的な商業的優位性(a strategic commercial advantage)”を提供する目的で、アメリカの企業や市民に対して実質的に有利な扱いがなされる可能性が高いと予測されます。

 トランプ大統領の大統領令と関連ファクトシートは、Bondi司法長官が、FCPA案件がカルテルやTCOに関わる行為に焦点を当てることを含め、DOJがカルテルや国際犯罪組織(TCO)の完全排除を達成する方法を概説するmemorandumを発表してから1週間も経たないうちに発表されました。2月10日の大統領令は、カルテルやTCOに関わる事件に加え、DOJがFCPA違反の捜査と執行を「海外におけるアメリカの通商に対する過度の障壁を排除することにより、アメリカの経済と国家安全保障を促進する」ような形で行うことを示唆しています。180日間の「一時停止」の間、DOJはFCPAに基づく新たな捜査や執行を開始せず、既存の事例についてはその適切性を慎重に見直すこととされています。

 この大統領令は、以下に述べるような多くの不確実性を残したままであり、企業(たとえ米国企業であっても)が賄賂の支払いを始めることや、汚職防止コンプライアンス・プログラムを大幅に緩和したりすることが許容されると読むべきではありません。実際、2025年2月21日、DOJは、建設許可を得るためにインドで賄賂を受け取ったとされる米国企業の元幹部である2人の米国人のFCPA事件の公判を進めると発表しており、米国企業や個人が関与するFCPA事件が全面的になくなるわけではないことを示唆しています。

 また、仮にFCPAの執行が一時的に停止されたとしても、FCPA違反の時効(FCPA贈収賄防止違反は5年、FCPA会計違反は6年)はトランプ大統領の残りの政権期間よりも長く、そのような行為を禁止する様々な他の執行当局や法令が存在します。日本企業を含む非米国企業はFCPA執行の標的となる可能性が高まるおそれがあり、コンプライアンス・プログラムの実効性や汚職関連の報告や疑惑の取扱に特に注意を払う必要があります。とりわけ、このような不安定な状況において、FCPA違反やその疑いをDOJや米国証券取引委員会(SEC)に自主的に報告(Voluntary Self Disclosure)するか否かを判断する際には、企業は特に慎重に検討すべきであると考えられます。

大統領令とファクトシート

 大統領令のBackgroundにおいては、FCPAが「アメリカ市民や企業」に対していかに使われ過ぎており、「アメリカの経済競争力、ひいては国家安全保障に害を及ぼしてきたか」が概説されています。その関連部分には次のように記されています:

  • 「大統領の外交政策権限は、米国企業のグローバルな経済競争力と表裏一体である。アメリカの国家安全保障は、重要な鉱物、深海港、その他の重要なインフラや資産に関わらず、アメリカと米国企業が戦略的なビジネス上の優位性を獲得することにかなりの部分を依存している。」
  • 「しかし、他国での日常的な商慣行に対して、米国市民や企業に対して、わが国政府による、過剰で予測不可能なFCPAの取締りは、米国の自由を守るために充てられるはずの限られた検察リソースを浪費するだけでなく、米国の経済競争力、ひいては国家安全保障を積極的に害するものである。」

 大統領令は、180日間(司法長官が適切と判断した場合、さらに180日間延長できる)、司法長官が「FCPAに基づく調査や執行に関するガイドラインや方針を見直す」こと、その間、司法長官は新たな調査や執行を開始しないことを指示しています。大統領令によれば、DOJは以下の対応を行うものとされています:

  1. 司法長官が個別に例外を設けるべきと判断しない限り、FCPAに関する新たな調査や執行の開始を停止する。
  2. FCPAの執行に適切な制限を回復し、大統領の外交政策の特権を維持するために、既存のFCPA調査または執行をすべて詳細に見直し、そのような事項に関して適切な措置を講じる。
  3. 外交問題を遂行する大統領の権限を適切に促進し、米国の利益、他国に対する米国の経済競争力、連邦法執行資源の効率的な使用を優先させるために、適宜、最新の指針または方針を発行する。

 FCPAの取締りが再開された際には、FCPAの調査や執行はこの新しい司法長官のガイドラインや方針に従うことになり、「司法長官の個別の承認を得なければならない」と大統領令は指示しています。また、司法長官は、「過去の不適切なFCPA調査や執行に関する是正措置を含む」追加措置が必要か否か、あるいは適切か否かを決定することとされています。

日本企業にとっての留意点

 この大統領令とファクトシートは、今後のFCPAの運用が歴代政権におけるFCPA取締りに対する従来のアプローチから大きく逸脱する潜在的可能性を示唆しています。大統領令は、外国企業に対する関税や経済制裁措置により近い形でFCPAの執行を活用する戦略的なアプローチと、米国企業に対するより有利な待遇を示唆しています。現に、ファクトシートでは、メキシコ、カナダ、中国に対する関税、規制緩和、貿易取引の再交渉、人工知能における米国のリーダーシップ強化に関する大統領の行動を、このイニシアチブのような「米国第一主義」の他の例として具体的に紹介しています。

 以上のような動向を踏まえると、日本企業にとっていくつか留意すべき点があると考えられます。

 第一に、上記のような明確な意図を持って「米国市民」と「米国企業」を保護し、「他国に対する米国の経済競争力」を促進することに重点を置いていることから、今後発表されるガイドラインも、米国企業や個人を優遇し、外国企業や個人に対する継続的な執行を認める可能性が高いと思われます。その一方で、多くの不確実性も残されています。例えば、米国に拠点を持つ非米国企業、米国で上場している非米国企業、あるいは米国に「友好的」な国の非米国企業に有利な取り扱いが適用されるか否かは明らかではありません。また、米国企業と競合する非米国企業がより有利な待遇を受ける可能性は低いと考えられますので、日本企業を含む非米国企業は、内部通報制度の実効性を確保し、潜在的な不正の疑いについては適切に調査を行うなど、贈収賄リスクの管理を含む、コンプライアンス・プログラムの実効的な運用を今後も続けていくことが望ましいと考えられます。

 第二に、米国企業に対する優遇措置が、調査・執行の対象となる行為(例えば、汚職や国家安全保障上の利益に関わる行為)の範囲を狭めるという形をとるのか、より寛大な解決条件を提示するという形をとるのか、あるいは執行を完全に廃止するという形をとるのかは明らかではありません。例えば、前述のように、DOJは、米国で上場し、法人化され、本社を置く企業の元幹部である2人の米国市民の公判を進める意向を表明しています。もちろん、今後、DOJが方針転換する可能性はありますが、このことは、少なくとも米国企業に対する取締りが完全に停止されるわけではないことを示しています。また、カルテルとTCOに関する司法長官の2月5日付memorandumと大統領令が整合的に解釈され、DOJはカルテルとTCOに関わる海外汚職に関与する企業や個人(米国企業を含む)を国籍に関係なく捜査・起訴し続けることも考えられます。したがって、企業はカルテルやTCOに関連したリスクが大きい国での事業活動には特に注意を払うことが求められます。例えば、健全な企業であっても、そのビジネスパートナーがカルテルやTCOに関係していることに気づかずに、ジョイントベンチャーを締結したり、第三者のサプライヤーを雇い入れたりすれば、執行の標的とされる可能性があります。したがって、この文脈でのリスクベースのデューディリジェンスとモニタリングを強化することにより、関連するリスクを軽減することが望ましいと考えられます。

 第三に、大統領令(および対応するDOJのガイドライン)は、米国企業も非米国企業も、賄賂の支払いを開始したり、汚職防止コンプライアンス・プログラムを大幅に緩和したりすることが望ましいと示唆するものと読むべきではありません。FCPA違反の一般的な時効(FCPA贈収賄防止違反は5年、FCPA会計違反は6年)は、トランプ大統領の政権期間よりも長く、DOJは、共謀罪や裁判所の命令による時効中断を利用して、さらに遡る行為にも法を適用する権限を持っています。また、海外での汚職行為を禁止する他の米国連邦法(反マネーロンダリング法、電信詐欺法、旅行法等)、海外汚職事件を提起する能力を有する州当局、この10年間に取締りを強化した海外取締当局も存在します。

 第四に、大統領令はその表面上、DOJが「新たな」FCPAの調査や執行を「開始」することの停止を指示しているものの、進行中の調査は司法長官がその適切性を見直すと述べているに過ぎません。既存のFCPA調査は、司法長官が今後発表するガイドラインによってほぼ間違いなく一定の影響を受けることが予想されるものの、その間に調査が一時停止されるか否か、またどのような種類の調査が一時停止されるかは明らかではありません。すでにFCPAの調査を受けている企業は、この状況下でどのように案件を進めるべきかを慎重に評価することが求められます。

 最後に、大統領令は、DOJがFCPAをどのように調査・執行するかについて言及している一方で、SECに対して同様の指示は出していません。もっとも、SECの新指導部は、大統領令の広範な行政方針の表明に沿ったアプローチをとる可能性が高いと考えられます。実際、トランプ大統領は2025年2月18日に別の大統領令に署名し、SECのような独立機関は、大統領または司法長官から文書で権限を付与されない限り、”規制、ガイダンスの発行、訴訟での立場を含むがこれに限定されない”法律の問題に関して、大統領または司法長官の意見に反する法律の解釈を米国の立場として提示してはならないと指示しています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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