
斉藤元樹 Motoki Saito
パートナー
東京
NO&T Capital Market Legal Update キャピタルマーケットニュースレター
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上場会社がエクイティにより資金調達を行う方法としては、大別すると、①広く一般公衆を対象とする公募、②特定の第三者を対象とする第三者割当、③既存株主を対象とする株主割当(ライツオファリング)が挙げられるところ、第三者割当については、実務上、普通株式、優先株式、新株予約権(ワラント)、新株予約権付社債(転換社債)などが用いられる。もっとも、ほとんどの第三者割当においては、特定の日に一度、有価証券を発行するものであり、短期間内に複数の有価証券を繰り返し発行することが予定されているものではない※1。
他方、近時は、上場会社であっても、いわゆるエクイティ・プログラム契約の設定を通じて、複数回(2回~8回程度)に分けて、数ヶ月にわたって、普通株式や新株予約権を発行する事例があり※2、新たな潮流として注目される。そこで、本ニュースレターでは、上場会社によるエクイティ・プログラムを通じた第三者割当について解説をする。
上述のとおり、エクイティ・プログラムを通じた第三者割当は、複数回に分けて有価証券が発行されるところ、通常の第三者割当によるエクイティ・ファイナンス(以下「通常の第三者割当」という。)とエクイティ・プログラムを通じたエクイティ・ファイナンスの想定スケジュールは大要以下のとおりである※3。
通常の第三者割当 | エクイティ・プログラム | |
---|---|---|
当初公表日(X日) |
発行決議 引受契約の締結※4 |
第1回発行に係る発行決議 エクイティ・プログラム契約の締結 |
X+15以降 | 払込日 | 第1回発行に係る払込日 |
第2回発行に係る条件決定日(Y日) | – | 第2回発行に係る発行決議 |
Y+15以降 | – | 第2回発行に係る払込日 |
第n回(第3回目以降)発行に係る条件決定日(Z日) | – | 第n回発行に係る発行決議 |
Z+15以降 | – | 第n回発行に係る払込日 |
エクイティ・プログラムを通じた第三者割当の場合、第1回発行に係る発行決議時(X)に、同プログラムに基づく第2回目以降の発行の条件決定予定日・発行予定日・発行数又は発行総額等が、第1回発行に係る発行条件と共に公表されることが通常である。また、第2回目以降の発行については、条件決定日前の期間の株価が一定額以上であることなど、一定の条件(エクイティ・コンディション)が付されることがあり、当該条件が未成就の場合、第2回目以降の発行が行われない場合もある※5。
エクイティ・プログラムを通じた第三者割当について、通常の第三者割当の場合と比較した場合の特徴としては、以下が挙げられる。
通常の第三者割当の場合、会社法上の公告規制及び金融商品取引法(以下「金商法」という。)上の効力発生規制を考慮して、払込日は、当初公表(発行決議)時から15日程度空けることが想定され、払込日をもって資金調達は原則として一旦完了する※6。これに対して、エクイティ・プログラムを通じた第三者割当の場合、発行手続を複数回行う必要があるため、資金調達の完了まで、より長期間を要する。このため、発行会社・投資家ともに、プログラム期間内の環境変化や株価変動等についてリスクを負うことになることから、後述のとおり、制度設計においては考慮が必要となる。
通常の第三者割当の場合、調達金額は当初公表日(発行決議日。上記表のX)の直近の株価を参照して1株当たりの発行価額等(新株予約権の行使価額、新株予約権付社債の転換価額を含む。以下同じ。)が決定されるのが通常である。これに対して、エクイティ・プログラムを通じた第三者割当の場合、2回目以降の発行についての1株当たりの発行価額等は、2回目以降の発行条件決定日(上記表のY、Z)直近の株価を参照して決定されるのが通常である。このため、発行会社にとっては、今後、短期間での成長や一定のマイルストーン達成を見込んでいる場合には、現時点での資金ニーズを満たしつつ、発行条件決定時期を分散・先延ばしすることによって、将来の株価上昇の期待を織り込んだアップサイドを享受することも可能となる。他方、割当先(投資家)としては、株価が上昇する場合にはより大きな資金を投入する必要があるものの、株価が下落する場合には投入資金が少なくなることとなる。
上述のとおり、エクイティ・プログラムを通じた第三者割当において、第2回目以降の発行については、条件決定日前営業日の終値が一定額以上であることなど、一定の株価条件等が付されることがあり、当該条件が満たされない場合には、2回目以降の発行も行わない場合もある。当該条件が満たされない場合、発行会社においては、調達金額が減少することになるものの、その分、希薄化は抑制されることになる。割当先(投資家)にとっては、当該条件を付すことにより、当初投資決定時以降に想定外の事象が生じた場合には2回目以降の投資を中止することにより、一定のリスクヘッジを図ることが可能となる。
以上の特徴を踏まえた上で、以下、エクイティ・プログラムを通じたファイナンスにおける、①開示規制・会社法上の留意点、及び、②発行会社・割当先(投資家)視点からの制度設計や契約書上の留意点について解説する。
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