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資産運用の高度化・多様化に係る令和6年金商法改正の政令・内閣府令

NO&T Finance Law Update 金融かわら版

著者等
清水啓子鈴木謙輔金田裕己(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Finance Law Update ~金融かわら版~ No.96(2025年4月)
業務分野
キーワード
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 令和6年の金融商品取引法(金商法)の改正には、資産運用の高度化・多様化に向けたものとして、(1)投資運用関係業務受託業の導入、(2)投資運用業に関する規定の整備、及び(3)非上場有価証券特例仲介等業務(特例仲介業)の規定の整備があります。この改正に係る金融商品取引法施行令(施行令)、金融商品取引業等に関する内閣府令(業府令)、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(監督指針)を含む政令・内閣府令等が、パブリックコメント(パブコメ)を経て公表され、2025年5月1日に施行されることになりましたので、これらの改正について解説します。

投資運用関係業務受託業の登録制度の創設

 令和6年金商法改正では、投資運用業に関するいわゆるミドルオフィス・バックオフィス業務として計理業務とコンプライアンス業務を「投資運用関係業務」と定義し(金商法2条43項)、これを投資運用業者から委託を受けて行う「投資運用関係業務受託業」について任意の登録制が創設されました。この登録はあくまでも「登録を受けることができる」ものであり任意ですので、投資運用業者がミドルオフィス・バックオフィス業務を委託する場合に、登録を受けている事業者に委託しなければならないものではありませんし、登録を受けている事業者でなければ受託できないものでもありませんが、令和6年金商法改正により、この任意の登録を受けた事業者(投資運用関係業務受託業者)に投資運用関係業務を委託する場合は、投資運用業に係る人的構成要件が緩和されるメリットがあります。具体的には、当該投資運用関係業務の部分については「その業務の監督を適切に行う能力を有する役員又は使用人を確保していれば足りる」(金商法29条の4第1項1号の2但書き)とされており、監督指針では、「監督を適切に行う能力を有する者」を、「投資運用関係業務受託業者に委託する投資運用関係業務の内容を理解し把握するとともに、当該投資運用関係業務受託業者に対して適確に指示を行う能力がある者をいい、当該投資運用関係業務を直接遂行するにあたって必要な知識及び経験並びに過去に投資運用業に関する業務に従事していた経験は問わない」とされています(監督指針Ⅵ-3-1-1(1)①ニ)。そのため、今後は投資運用関係業務受託業者への業務委託を活用することにより、計理業務又はコンプライアンス業務については、その業務自体の経験を有する役職員を確保しなくても、監督能力を示せれば、必要な人的構成が確保されているものとして、投資運用業の登録ができる可能性があります。もっとも、「監督を適切に行う能力を有する者」を確保するだけではなく、投資運用関係業務受託業者を監督し、適切に連携するための体制整備も併せて行う必要があり、求められる体制に関する留意点が監督指針で示されています(監督指針Ⅵ-3-1-1(7)②)。

 この改正に伴い、業府令においては、投資運用業者が投資運用関係業務を委託する場合に、投資運用関係業務受託業者に委託するかにかかわらず、登録申請書(金商法29条の2第1項12号)や業務執行体制書面(業府令9条1号、監督指針Ⅵ-3-1-1(3)④及び⑦ロ)に一定の記載が求められるほか、新たに帳簿書類(業府令157条1項17号へ)として記録の作成・保存が求められることになります。この点、投資運用関係業務に該当する具体的な業務内容については、監督指針で以下の表に掲げるものが例示されています(監督指針Ⅵ-3-1-1(7)①)。また、投資運用関係業務は、「委託する業者における投資運用業の質を左右し得る一定の継続性・能動性を有するものであり、そのような性質を有しない業務は投資運用関係業務には該当しない。」と明記され(監督指針Ⅵ-3-1-1(7)①)、自社にコンプライアンス部門があるものの、例えば年に1回のコンプライアンス研修の講師を外部委託する場合など、投資運用関係業務受託者の登録を行った業者にコンプライアンス業務の一部の支援を求めるような場合には、原則として金商法及び関連政令・内閣府令等の投資運用関係業務に関する規定は適用されないことが明確化されています。

計理業務
  • 投資信託財産に係る計算及びその審査
  • 運用対象財産の評価額の計算及びその審査
コンプライアンス業務
  • 法令等遵守の観点から定期的な業務実態の把握、課題の指摘及び対応策の検討その他これに関連する業務
  • コンプライアンスに関する社内規則その他マニュアル等の案文作成・管理
  • コンプライアンス研修の定期的な企画・実施その他コンプライアンスに関する情報の提供

 なお、施行日(2025年5月1日)に現に投資運用関係業務を委託している金融商品取引業者については、施行日において、登録事項(金商法29条の2第1項12号)に変更があったものとみなされ、6月以内に変更届を提出することを要します(改正法附則8条)。もっとも、上記の通り、「委託する業者における投資運用業の質を左右し得る一定の継続性・能動性を有するものであり、そのような性質を有しない業務は投資運用関係業務には該当しない。」とされていますので、例えばコンプライアンス業務の一部の支援を受けているのみの場合などは、原則として、変更届の提出は不要と考えられます。

投資運用業者による運用権限の委託に係る規律の見直し

 令和6年金商法改正前は、投資運用業者が、すべての運用財産について、その運用権限の全部を他の事業者に委託することが禁止されていました(金商法42条の3第2項)が、ファンドの運営機能(企画・立案)と運用(投資実行)の分業化・専門化を促進するために、すべての運用財産について運用権限を全部委託することが可能となるように改正されました(金商法42条の3第2項)。

 この改正に伴い、運用権限を委託する場合(運用権限の一部のみを委託する場合も含まれます)には、委託元である投資運用業者は、「当該委託を受ける者に対し、運用の対象及び方針を示し、かつ、内閣府令で定めるところにより、運用状況の管理その他の当該委託に係る業務の適正な実施を確保するための措置を講じなければならない」と定められました。この措置の具体的な内容として、業府令では、以下が規定されています(業府令131条2項)。これらの規定は、監督指針に従前から定められていたものと同旨と思われますので、運用権限を委託する投資運用業者の多くは既に対応済みであると考えられますが、今後はこれらの措置の不備は業府令の違反となりますので、注意を要します。

  • 委託先の選定の基準及び委託先との連絡体制の整備
  • 委託先の業務遂行能力及び委託契約の遵守の状況を継続的に確認するための体制の整備
  • 委託先が当該委託に係る業務を適正に遂行することができないと認められる場合の対応策の整備

 また、投資運用業者が運用権限を委託する場合、委託業務の監督を行う部門を統括する者が新たに重要な使用人に追加されており(業府令6条2項2号)、この統括者については、「運用を行う資産に関する知識及び経験を有する者が確保されていること」(監督指針Ⅵ-3-1-1(1)①ハ)が求められています。この改正により、運用の外部委託を行っている投資運用業者においては、重要な使用人に係る変更届出の要否を検討する必要が生じる点に留意を要します。なお、施行日に現に運用の外部委託を行っている投資運用業者が、委託業務の監督を行う部門を統括する者について重要な使用人に係る変更届出を行う場合の変更届出の期限は6月以内とされています(業府令附則3条)。

非上場有価証券特例仲介等業務の創設

 非上場有価証券の流通の活性化を図るべきとの見地から、令和6年金商法改正により、非上場有価証券に係る一定の仲介行為を「非上場有価証券特例仲介等業務」と規定し、第一種金融商品取引業のうち非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う者を「非上場有価証券特例仲介等業者」とし(金商法29条の4の4第1項、7項)、第一種金融商品取引業でありながら、課される規制の一部が緩和されました。

 非上場有価証券特例仲介等業務の対象となる有価証券からは、金融商品取引所に上場されているものと店頭売買有価証券が除外されています(金商法29条の4の4第8項1号、施行令15条の10の4)が、有価証券の種類は限られておらず、株式、社債のほか、外国投資信託の受益証券や外国投資法人の投資証券も広く対象に含まれます。

 非上場有価証券特例仲介等業務に該当する行為には、売買の媒介や私募の取扱い行為も含まれていますが、「一般投資家」が関与する一定の場合が除外されており、プロ投資家(一般投資家以外の投資家)同士の取引の仲介を原則としています。ここでいう「一般投資家」とは、特定投資家等(特定投資家及び一定の非居住者をいいます)、当該有価証券の発行者及び内閣府令で定める者以外の者とされている(金商法29条の4の4第8項1号イ)ところ、内閣府令で定める者として、当該発行者の役職員や親会社等が規定されています(業府令16条の3第1項)。したがって、発行者と関係が希薄なアマチュア投資家は広く「一般投資家」に当たることになります。また、これらの仲介行為に関して、顧客から金銭の預託を受けることは、取引の決裁のために必要である限り非上場有価証券特例仲介等業務に含まれますが(金商法29条の4の4第8項2号)、預託期間は1週間以内である必要があります(施行令15条の10の5)。

 非上場有価証券特例仲介等業者については、いわゆる届出業務や承認業務といった金商法35条3項・4項に規定する業務範囲規制が適用されず(金商法29条の4の4第3項・4項)、自己資本規制比率(金商法46条の6)や金融商品取引責任準備金の積立(金商法46条の5)に係る規律の適用もありません(金商法29条の4の4第5項)。更に、第一種金融商品取引業者の最低資本金は原則として5,000万円であるところ、非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う場合には、1,000万円に軽減されます(施行令15条の7第1項6号)。また、第一種金融商品取引業者は、その行う第一種金融商品取引業の業務経験が3年以上ある者を常勤役職員の中に複数確保する必要があるところ、非上場有価証券特例仲介等業者が、特定投資家を相手方とする仲介行為のみを行う場合(PTS運営業務を行う場合は除く)は、業務経験1年以上の者を1名以上確保すれば足りることとされています(監督指針Ⅳ-4-1(2))。

 他方で、このような特例が法令上定められていない限りは、非上場有価証券特例仲介等業者についても引き続き第一種金融商品取引業の規制が及ぶことになります。例えば、利益相反管理体制の整備義務(金商法36条1項)や非公開情報の授受等のファイアーウォール規制(業府令153条1項7号~9号)については、非上場有価証券特例仲介等業者を対象から除外する特例が見当たりませんので、引き続き規制対象になると思われます。また、外務員登録についての特例はありませんので、非上場有価証券特例仲介業者において、第一項有価証券についての私募の取扱いや売買の媒介等の外務員登録を要する業務を行う者は、外務員登録(金商法64条)が必要となります。

 この新しい非上場有価証券特例仲介等業者制度については、国内のプロ投資家に対して、外国投資信託や外国投資法人への投資を勧誘することを企図する事業者にとっては、従来の第一種金融商品取引業登録の負担を大幅に軽減する現実的な選択肢として検討に値すると考えられます。ただし、第一種金融商品取引業者としての規制がすべて適用外となるものではありませんので、適用される規制への遵守体制整備の負担も踏まえて採否を検討する必要があります。

その他の変更点

 上記以外にも、令和6年金商法改正により、投資運用業を行う場合の登録申請書について、金銭又は有価証券の預託を受けるか否かが記載事項とされました(金商法29条の2第1項5号の2)。預託を受けない場合の資本金要件は5,000万円から1,000万円に減額されます(施行令15条の7第1項4号)。施行日において現に金商法29条の2第1項5号の2に規定するときに該当する金融商品取引業者は、施行日から6月以内に、変更登録の申請書を提出しなければならないとされています(改正法附則7条)。パブコメにおいては、「投資運用業に関して顧客から金銭等の預託を受けず、かつ、今後も預託を受ける意思がない場合等」にはこれに該当するとしつつ、今後預託を受ける可能性がある場合にはこれに該当しないともしており、かかる変更登録の申請の要否については、各社の事情を踏まえ検討する必要があります。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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