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小規模会社更生の運用開始 ―DIP型会社更生の利用余地が拡大、今後の実務に注目―

NO&T Restructuring Legal Update 事業再生・倒産法ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 コロナ渦におけるゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)が終了したものの、物価高騰・人手不足等の外的要因も重なって収益が改善されず、ゼロゼロ融資等で増加した金融債務の返済や、税金や社会保険料といった公租公課の納付ができないことが原因で法的整理に至る中小企業・中堅企業等が近年増加しています※1

 そのような中、東京地方裁判所民事第20部(倒産部)が、今年4月から、負債総額50億円未満の株式会社を対象とする、簡易・迅速な会社更生手続の運用(小規模会社更生)を導入しました※2

 この小規模会社更生は、公租公課の納付に苦しむ中小企業・中堅企業等の事業再生における選択肢の一つとして注目されます。そこで、本ニュースレターでは、公租公課の納付が困難な中小企業・中堅企業等の状況について紹介した上で、小規模会社更生の概要、その活用方法や今後の検討が期待される点について紹介します。

公租公課の納付が困難な中小企業・中堅企業等の状況

1. 私的整理

 窮境に陥った企業が私的整理を行う場合、たとえ公租公課の納付が困難だったとしても、公租公課については納付期限に全額納付することが必要であり、これをしなければ、最終的に滞納処分によって差押えを受けてしまいます。そこで、一定の要件を満たした場合に、国税、地方税、社会保険料における納付・換価の猶予制度等を活用することが考えられますが、国税や地方税の例でいえば、原則として猶予金額に相当する担保の提供が必要であり、その猶予期間も1年(やむを得ない理由があると認められる場合は当初の猶予期間と合わせて最長2年)に限られます※3

 このような中、昨年6月から、関係省庁が連携して再生支援の強化を図るために、「事業再生情報ネットワーク」の運用が開始されています。本ネットワークでは、中小企業活性化協議会・金融庁から関係省庁を通じて、公租公課の徴収現場(年金事務所、税務署等)等に対し、経営改善・事業再生に向けた中小企業の取組状況を共有することで、公租公課の適正な納付計画の策定、関係機関による処理方針や支援の判断・決定に資する仕組みを構築し、公租公課の確実な納付と事業再生の両立を目指しており、実際に、公租公課の納付が困難な企業に対して分納が認められる例も出てきています。

 もっとも、本ネットワークを通じて公租公課の徴収現場等に情報共有したとしても、必ずしも対応方針が変更となることを確約するものでないことは明確に示されており※4、徴収権者によって猶予が認められなければ、公租公課の納期限(又は猶予期間)を過ぎると直ちに支払を求められることに変わりはありません。

2. 民事再生

 窮境に陥った企業においては、まずは私的整理による再生を目指しつつ、私的整理が難しい場合には、民事再生による事業再生を目指すことが考えられます。しかし、民事再生においても、公租公課は一般優先債権として弁済禁止の対象とならず、私的整理の場合と同様に、納期限に全額納付することが必要です※5

 したがって、公租公課の納付が困難であることが原因で民事再生による事業再生を諦め、やむを得ず破産手続において一部でも事業の継続を目指す企業や、それも実現できずに廃業を選択する企業も多く存在します。

3. 小括

 以上のように、公租公課の納付が困難な中小企業・中堅企業等においては、納付・換価の猶予制度等の活用を検討しながら、まずは私的整理による再生を目指し、私的整理が難しい場合には民事再生の利用を検討し、それも難しい場合には、やむを得ずに破産手続を選択するのが現状です。

小規模会社更生の概要

 東京地方裁判所民事第20部(倒産部)において今年4月から導入された小規模会社更生は、負債総額50億円未満の株式会社が対象となり、現経営陣の中から選任される事業家管財人が事業経営を継続するいわゆるDIP(Debtor In Possession)型手続として、下表のとおり、民事再生と同程度の標準スケジュールに従って迅速な手続進行をする点が特徴として挙げられます。

類型各手続 会社更生(管理型) 会社更生(DIP型) 小規模会社更生(DIP型) 民事再生(通常)
申立て・予納金納付 0日 0日 0日 0日
開始決定 1月 2週間 2週間 1週間
債権届出期限 3月 2月+2週間 1月+2週間 1月+1週間
認否書提出期限 6月 4月+2週間 3月 2月+1週間
財産評定書提出期限 6月 4月+2週間 3月 2月+1週間
一般調査期間 6月+1~3週間
(期間2週間)
4月+3週間~5月
(期間1週間)
3月+1~2週間
(期間1週間)
2月+2~3週間
(期間1週間)
計画案提出期限 9月 5月+2週間 4月 3月
付議決定 9月+1週間 5月+3週間 4月+1週間 3月+1週間
認可決定 11月 7月+2週間 5月+2週間 5月

 ※申立日からの日数を指します。

 ※いずれも東京地方裁判所民事第20部(倒産部)が公表する標準スケジュールです。

 また、更生手続開始の申立ての際に必要な予納金の額について、東京地方裁判所民事第20部(倒産部)は、下表の基準額を一応の目安として、諸事情を総合的に判断して決定する旨を公表しています(小規模会社更生はDIP型に分類され、該当部分は太字・下線部分参照)。

類型負債総額 会社更生(管理型)
自己申立て
会社更生(管理型)
債権者申立て
会社更生(DIP型) 民事再生(通常)
5000万円未満 800万円 1200万円 560万円 200万円
5000万円~1億円未満 800万円 1200万円 560万円 300万円
1~5億円未満 800万円 1200万円 560万円 400万円
5~10億円未満 800万円 1200万円 560万円 500万円
10~25億円未満 1000万円 1500万円 700万円 600万円
25~50億円未満 1300万円 1950万円 910万円 600万円
50~100億円未満 1600万円 2400万円 1120万円 700万円
100~250億円未満 1900万円 2850万円 1330万円 900万円
250~500億円未満 2200万円 3300万円 1540万円 1000万円
500~1000億円未満 2600万円 3900万円 1820万円 1200万円
1000億円以上 3000万円 4500万円 2100万円 1300万円

小規模会社更生の活用方法と今後の検討

 多額の公租公課の滞納がある場合、民事再生では即時の弁済・納付の要求により資金繰りを維持できるかが重大な問題となる一方、会社更生では、開始決定前の原因に基づく租税債権は優先的更生債権として、更生計画によらない弁済・納付が禁止される(更生計画による弁済・納付の対象となる)ため、更生計画において確実な納付計画を立てることができます※6

 小規模会社更生は、このような公租公課の納付が困難な中小企業・中堅企業等において、(i)DIP型により現経営陣が事業経営を継続できるほか、(ii)民事再生と同程度の迅速なスケジュールで進めることができ、(iii)予納金額は管理型(自己申立て)よりも相当安く設定されていることから、納付・換価の猶予制度等を活用しても再建計画を策定できない中小企業・中堅企業等が、その代替手段として会社更生を利用しやすいものにした点で意義があると考えます。

 また、会社更生は、公租公課だけでなく担保権も手続に取り込み、更生計画によらなければ権利行使ができず、更生計画において権利の変更も受けるという特徴があります。そのため、担保権者との間で別除権協定を締結することが困難という事情がある中小企業・中堅企業等は、民事再生の代替手段として小規模会社更生の利用を積極的に検討することができます。言い換えると、従前から存在したDIP型会社更生は、債務者主導で担保権を取り込みつつ手続を遂行できる再建型の法的手続でしたが門戸が狭かったので、特に中小企業・中堅企業等により利用しやすいよう新たな運用が開始されたということも可能です。

 もっとも、東京地方裁判所の運用上、会社更生のいわゆるDIP型手続を利用するためには、更生手続開始決定時において、①現経営陣に不正行為等の違法な経営責任の問題がないこと、②主要債権者が現経営陣の経営関与に反対していないこと、③スポンサーとなるべき者がいる場合はその了解があること、④現経営陣の経営関与によって会社更生手続の適正な遂行が損なわれる事情が認められないことの4要件※7を満たす必要があるとされていました。小規模会社更生についてもいわゆるDIP型手続であるため、これらの4要件を満たすことが前提条件になるのかどうか、今後の運用には注目が必要です。

 また、小規模会社更生は通常の会社更生法の規定に沿って遂行される手続であるため、標準スケジュールは短く設定されていますが、法律上やるべき事項は省略ができません。そのため、申立前から会社更生に知見のある弁護士や公認会計士等の専門家と協議を進めて、早めに申立ての検討・準備を進めることが重要であると考えられます。例えば、財産評定書提出期限が申立てから3か月と定められていますが、民事再生では原則として処分価格(再生債務者の事業を清算して早期に処分を行うことを前提とする価格)で財産を評価するのに対して、会社更生では「時価」で評価する必要があること※8等により、民事再生よりも一定の時間を要することになる点に留意しなければなりません。

最後に

 以上のとおり、小規模会社更生は、公租公課の納付に苦しむ中小企業・中堅企業等の事業再生における選択肢の一つとして注目される手続ですが、担保権対応に困難が予想される事案にも広く応用ができる手続といえます。

 なお、近時、多数決によって私的整理手続を行うことができる、早期事業再生法が成立しました(早期事業再生法の概要については、NO&T Restructuring Legal Update ~事業再生・倒産法ニュースレター~ No.25「早期事業再生法の成立—日本でも私的整理にて多数決原理が導入される—」(2025年7月)をご参照ください。)。この早期事業再生手続では、担保権の処理は手続外のものとして破産や民事再生の別除権と同じ扱いとなっています。そのため、同手続において担保権者との協議が難航して再建計画の成立が危ぶまれる場合には、いわゆるDIP型で早期に手続を進めることができる小規模会社更生がその移行先の一つとして検討されることも生じるものと思われます(負債総額が50億円未満という制限には留意が必要です。)。

 いずれにしても、債務者が選択可能な再建手法が増えることは、事業再生の実務においては歓迎されることと考えられます。債権者として関与することとなる金融機関としても、債務者が採り得る手段との関係で債務調整の協議における意思決定が変化することになりますので、新しい運用についてもよく理解しておく必要があると考えます。

脚注一覧

※1
2025年7月2日付けで帝国データバンクが公表した「『ゼロゼロ融資後倒産』動向調査(2025年上半期)」(https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250702yushigotousan/)によれば、ゼロゼロ融資を受けた企業(負債額1,000万円以上)の法的整理件数(上半期)について3年連続300件を超え、2020年7月以降2025年6月30日までの累計で2,272件となったことが明らかになっています。また、2025年3月21日付けで帝国データバンクが公表した「『公租公課滞納』倒産動向調査(2024年度)」(https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250321kosokoka/)によれば、集計を開始した2020年度以降4年連続で税金・社会保険料等を納付できず、又は滞納による差押えにより経営が困難となった倒産件数が増加しており、2024年度が集計開始以来過去最多件数であったことが明らかとなっています。

※3
国税の納付の猶予について国税通則法46条2項・5項・7項、国税の換価の猶予について国税徴収法151条1項、151条の2第1項、152条3項・4項、地方税の徴収の猶予・換価の猶予について地方税法15条1項・4項、15条の5第1項・第2項、15条の6第1項・第3項、16条1項。なお、申請による換価の猶予2年と職権による換価の猶予2年合わせて最長4年間の換価の猶予が認められる場合もあります。

※4
2024年6月7日付けで発出された、関係省庁の各業界団体等代表者に対する要請文「コロナ資金繰り支援策の転換を踏まえた事業者支援の徹底等について」参照。

※5
そのため、民事再生を行う場合にも、滞納処分によって再生を困難にするおそれがあるときは、納付・換価の猶予制度等の活用を検討することとなり、徴収権者によって猶予が認められる必要があります。

※6
更生計画において、租税等の請求権につき、その権利に影響を及ぼす定めをするには、徴収の権限を有する者の同意を得るのが原則ですが、3年以下の期間猶予、開始決定日から1年を経過する日までの間に生じる延滞税、利子税及び延滞金の減免、並びに納税の猶予又は換価の猶予期間中に生じる延滞税及び延滞金の減免であれば、徴収の権限を有する者の意見を聴取することで足ります(会社更生法169条)。また、更生計画において、同意を得て本税部分の免除を受ける旨を定める事例もあります。

※7
難波孝一ほか「会社更生事件の最近の実情と今後の新たな展開」(NBL 2008年)15-16頁

※8
民事再生規則56条1項、会社更生法83条2項

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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