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シンガポールの上場規制に関する近時の動向

NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 2025年7月に、NTT系のデータセンターREIT(データセンターを対象に運用する不動産投資信託)がシンガポール証券取引所(「SGX」)に上場された。このニュースは、世界的なデータセンター需要が高まり、今後さらなる拡大が見込まれる中で※1、そのような成長銘柄に関する日本発のREITが、東京証券取引所ではなくSGXに上場されたことで少々驚きをもって受け止められた※2

 SGXは、2025年8月8日に、2025年度(事業年度末:2025年6月末)における売上高及び純利益が上場以来過去最高であった旨を発表しており※3、このようなSGXの近時の状況も踏まえ、今後、シンガポール市場に注目が集まる可能性がある。SGXに関しては、2025年2月に、金融当局であるシンガポール通貨金融庁(「MAS」)が、シンガポールの株式市場の活性化のための措置に関する提言を公表しており、かかる提言に従い、上場規制の見直しが進められているところである。今後SGXでのIPO(新規上場)やセカンダリー上場(SGX以外で既に上場している会社株式のSGXでの上場)等を検討している当事者は、このような近時の動きも考慮の上で検討を進める必要があると考えられるため、本稿では、かかるシンガポールの上場規制に関する近時の動向について触れることとしたい。

2. 2025年2月のMASによる提言(「2月提言」)

(1) 2月提言の背景

 2月提言は、厳密には、2024年8月にMASによって設置された株式市場検討部会(Equities Market Review Group;「検討部会」)によるものである。検討部会は、過去数年間におけるSGXへのIPOの低迷やSGXへの上場取りやめ(delisting)が相次いだことを受けて、シンガポールの株式市場の強化施策の検討を目的として組成されたものである。SGXやシンガポール当局は、これまでにも、流動性の低さ、IPO案件の減少、市場に参加している投資家が限定的であること等のシンガポール市場が抱える問題点に対応するための一連の改革を行ってきたが、2月提言の内容は、シンガポール証券市場に過去最大の変化をもたらすものと評されている。

(2) 2月提言の概要

 上場規制の観点からは、ディスクロージャーベースの方針へのシフトが2月提言に含まれている点が注目される。すなわち、シンガポールの株式市場は上場審査時の規制当局による審査を重視するメリットベースの体制が取られてきたところ、MASによる2月提言においては、メリットベースの要素を減らす一方で、投資家の意思決定に必要な情報開示の充実を重視するディスクロージャーベースの体制の採用が推奨されている。

 そのための具体的な措置として、以下のようなものが提案されている。

  • 上場審査時の審査主体の統一:
    現在は目論見書(prospectus)の審査は①MAS及び②SGXの規制部門(「SGX RegCo」)の2つの当局によって行われているが、合理化の観点からこれをSGX RegCoに統一
  • メリットベースの範囲の縮減:
    SGXの上場審査基準(=現在は定性的・定量的の両観点から検証)について、定性的な要素を合理化しつつ、重要な情報の開示の有無に焦点を絞った審査プロセスとする
  • 目論見書の記載内容の合理化:
    現状、既に他国の証券取引所で上場(=primary listing)している株式をSGXにも上場(=secondary listing)させる場合、原則としてSGXの標準的な上場審査基準を満たす必要がある(例外の適用を受けることが可能であるが時間と手間がかかる)が、一定の証券取引所(NYSE、Nasdaq、LSE、HKEX等)にprimary listingを行っている発行体がSGXへのsecondary listingを検討する場合、目論見書における情報開示の内容を簡易化
  • 上場申請プロセス・タイムラインの合理化:
    現状、上場申請者は申請プロセスにおいて大別して2つのカテゴリーの情報の提供を求められるところ、これを1つのパッケージに統一することで、審査プロセスを短縮化(これにより、標準的な事案については6-8週間以内の審査完了を目指す)
  • その他:
    発行体による投資家への早期コンタクトの許容等

 なお、これらの上場規制に関する措置の他、2月提言には、SGX上場証券への投資やSGXへの上場を促進するための税制優遇措置や、MASその他のシンガポール当局による資金投入の施策が盛り込まれている。

3. 2025年5月のMAS・SGX RegCoによる上場規制見直し案の公表(「見直し案」)

(1) 見直し案の概要

 2月提言の内容を受けて、2025年5月15日に、MAS及びSGX RegCoは、上場規制の具体的な見直し案を公表した。この見直し案について、MASによる提案は目論見書における情報開示の内容の合理化・潜在投資家へのアプローチの多角化のための施策を内容とするものであり、SGX RegCoによる提案はSGXの上場審査基準を合理化し、ディスクロージャーベースの方針へのシフトを企図したものとなっている。

 各見直し案の概要は以下のとおりである。

(a) MASの提案内容

  • 目論見書の記載内容の合理化
  • 発行体による投資家候補へのより柔軟な接触の許容(タイミングの早期化、開示可能な情報の範囲の拡大等)

(b) SGX RegCoの提案内容

  • ディスクロージャーベースへの方針転換に向けた定性的な上場審査基準の縮減
  • 市場ニーズを踏まえた定量的な上場審査基準の一部見直し
  • 上場後の監視体制に関する見直し(財務状況悪化企業の「ウォッチリスト(Watch-list)」への掲載制度の廃止等)

(2) 今後の流れ

 MAS及びSGX RegCoが公表した各見直し案はパブリックコメント手続に付され、その意見募集期間は2025年6月14日に終了している。現在、MAS及びSGX RegCoにて関係各所から寄せられたフィードバックの分析、及び、それを踏まえた見直し案の修正の要否の検討等の作業を行っていると考えられるが、その後、各当局から、パブリックコメントに対する回答や上場審査基準等の具体的な改正案の発表は行われておらず(2025年9月1日現在)、今後のアクションが注目される。

脚注一覧

※1
齋藤理・洞口信一郎・渡邉啓久著「データセンター開発・運営プロジェクトの法的留意点①~ストラクチャリング上の論点~」「データセンター開発・運営プロジェクトの法的留意点②~カスタマー契約の性質・許認可・電力調達の観点~」NO&T Real Estate Legal Update 不動産ニュースレター/NO&T Infrastructure, Energy & Environment Legal Update インフラ・エネルギー・環境ニュースレター(2025年7月)、松本岳人著「シンガポール及びマレーシアにおけるデータセンター開発規制の動向」NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報(2025年3月)

※2
日本のREIT市場、砂上のアジア首位 NTT系データセンター取り逃す」日本経済新聞(2025年7月11日 15:00)

※3
SGX Group reports FY2025 net profit of S$610 million」SGX Group News Release(2025年8月8日)

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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