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労働者保護法の改正に関する最新動向(タイ)

NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報

著者等
箕輪俊介
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Asia Legal Update ~アジア最新法律情報~ No.252(2025年10月)
業務分野
キーワード
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 労働者保護法は、タイの労働法制を規律する重要な法令である。この労働者保護法の改正案が、2025年9月15日に上院にて承認された。この改正案は、上院での承認を以て両院で可決されたため(2025年7月16日に下院で承認がなされている)、施行日は未定であるものの、近日、労働者保護法の改正法が施行されるものと思われる。今後、実際に施行される改正法は現行法案から多少の変更が加えられる可能性はあるものの、概ね現行法案に近しい内容になるものと思われるため、本稿にて現行法案の主たる内容を紹介したい。

出産・育児に関する労働者の権利の拡充

 今回の改正の主たる内容は、出産・育児に関する労働者の権利の拡充である。

 タイを含む一部の東南アジアでは出生率の低下が深刻な社会問題となっている。そして、他の東南アジア諸国では、この問題に対処するための法整備が進められている。例えば、同じ問題を抱えるシンガポールでは、夫婦間で共有可能な新たな育児休暇制度が2025年に導入されている。

 タイは、出生率が2024年に1.0近くまで落ち込んでいるものと報じられており、深刻な少子化に悩む国の一つである。そのため、タイでも、他の東南アジア諸国と同様に、出産・育児に関する労働者の権利の拡充が検討され、以下の改正が考えられている。

出産休暇期間の拡張

 出産休暇期間は現行の98日から120日に拡張される予定である。

 2019年の改正時にも当時の90日から現行の98日に拡張されたが、更なる大幅な拡張が予定されている。また、出産休暇期間中の賃金についても最低60日分は支払われることとされている。現行法では45日分が賃金の支払期間の下限とされているため、出産期間の拡張に伴って賃金の支払期間の下限も拡張される予定である。

2019年改正以前 現行制度 改正案
出産休暇期間 90日 98日 120日
期間中に支払われる賃金 最低45日分 最低45日分 最低60日分

新生児の健康状態に応じた追加休暇制度

 本改正により、子を出産した労働者が、出産休暇に追加する形で休暇を取得することができるようになることが予定されている⁠。子を出産した労働者は、新生児の身体に何らかの問題が見受けられる場合には⁠、当該状況を示す医師の診断書を提出することを条件として⁠、出産休暇に加えて15日まで休暇を取得することができるとされている⁠。この休暇を取得している期間において⁠、労働者は⁠通常の賃金の50⁠%以上の賃金を受領することができるものとされている。

配偶者による育児休暇制度

 本改正により、⁠配偶者が育児休暇を取得することができる制度も新規に導入されることが予定されている⁠。労働者は、性別を問わず配偶者の出産前、又は、出産後90日までの間に、最大15日間の育児休暇を取得することができる⁠。現行法案にて育児休暇を取得できる者を「父親」と規定するのではなく、「配偶者」と規定している理由は、2024年に施行された婚姻平等法を受けて、同性の配偶者も育児休暇を取得することができることを明確化するためのものと推察される。この休暇を取得している期間において⁠、労働者は⁠、賃金の全額を受領することができるとされている。

本改正の影響

 本改正がなされていない、本稿の執筆時点(2025年10月現在)でも、外資系の企業やタイの大企業を中心に、育児休暇等の制度を任意に設けている企業は少なからず存在する。今回の改正案が法制化されることにより、全ての企業に上記の制度の導入が義務づけられる予定である。

 この改正に伴い、現行法令に基づいて就業規則を策定している企業は、就業規則を改訂することを検討する必要が生じるものと思われる。加えて、多様な働き方を許容する、現代的な福利厚生の在り方も、会社のこれからの担い手となる若い世代にとって、就業先を考えるにあたり重要な考慮要素となり得る。このことからすれば、これを機に、本改正の枠に留まらず、若手にとって真に魅力のある福利厚生を志向することも一考に値するものと思われる。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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