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農林水産法務シリーズ第2回「スマート農林水産業/データ・ノウハウ等の保護」


座談会メンバー

アソシエイト

宮城 栄司

資源・エネルギー、不動産ファイナンス、プロジェクトファイナンス、J-REIT及び私募ファンドの組成・運営等を含むインフラ・不動産取引全般、その他一般企業法務を取り扱う。近時は、テクノロジー、カーボンニュートラル、農林水産分野等に関する法律問題にも取り組んでいる。

アソシエイト

鳥巣 正憲

ライフサイエンス・ヘルスケア分野を中心に、国内外のM&A、ライセンス、共同研究開発その他の各種企業取引及び規制・官公庁対応等において、幅広くリーガルサービスを提供している。近時は、遺伝子・ゲノム関連技術やデジタル関連技術等を応用した同分野の各種ビジネスへの助言も多く提供している。

アソシエイト

羽鳥 貴広

知的財産に関する国内及び国外の紛争やライセンス契約等の知的財産についての取引や契約などを中心に企業法務についてアドバイスを提供している。また、農林水産分野に関する法的問題への取り組みも行っている。

アソシエイト

今野 恵一朗

銀行、保険会社等に関する金融レギュレーションやキャピタルマーケット等を中心に、企業法務全般についてリーガルサービスを提供している。

アソシエイト

灘本 宥也

テクノロジー関連法務やM&A、コーポレートを中心に企業法務全般についてアドバイスを提供している。

【はじめに】

農林水産法務シリーズ第2回及び第3回では、伝統的な農林水産業と先端テクノロジーとが融合する分野である、スマート農林水産業やフードテックについて議論していきたいと思います。デジタル技術やバイオテクノロジー、ゲノム編集技術といった近時目覚ましい発展を遂げているテクノロジーを農林水産業の場でも活かしていこうという動きが様々な場面で見られます。一方、このような先端的なテクノロジーの活用に際しては、色々な新しい法的問題も生じます。2回の座談会を通じて、これらの問題について掘り下げていきたいと思います。

CHAPTER
01

スマート農林水産業の推進の背景

宮城

農林水産分野では、人口減少に伴う就業者の減少や高齢化の進展等に伴う労働力不足が懸念され、また、人力に頼る作業も多いため、省力化や作業負担の軽減も課題とされています。これらの課題を解決するため、ロボット技術やICT(情報通信技術)を農林水産業に活用したスマート農林水産業が推進されていますね。

灘本

スマート農林水産業については、大別して、①作業そのものの効率化、②生産管理、③作業ノウハウなどに分けられると思います。①作業そのものの効率化については、例えば、ドローンなどの利用や農業機械の自動走行などにより、作業の自動化による作業効率の向上や作業負担の軽減が考えられます。

羽鳥

②生産管理という観点からは、人工衛星等を利用したセンシング技術、情報通信技術等による様々なデータの収集・解析を踏まえた管理の高度化や効率化、それらによる高品質・高付加価値な農林水産品の作出などが期待されています。

宮城

③作業ノウハウという点は、どうしても熟練した従事者の経験や勘等に頼らざるを得ず、技術やノウハウの承継が難しいところです。これらについては、高度なセンサー等を活用し、熟練者の作業等のデータを集積し、AI等により蓄積されたデータを解析することにより、熟練技術をデータ化し、技術やノウハウの承継を容易にしたり、ロボット等にその技術を利用させることなども期待されますね。
CHAPTER
02

スマート農林水産業における法的課題等

鳥巣

最先端技術やデータの利活用により、農林水産分野における労働力不足や作業負担といった課題の解決に加えて、高い生産性、高付加価値化などの実現が期待されるとなると、これまで農林水産業とは関係のなかった事業者が新しく農林水産分野に参入も増えそうですね。

今野

スマート農林水産業に関する技術の活用を、資金面から推進する制度も拡充されており、スタートアップ企業等、テクノロジーを武器にした事業者が新規参入しやすい環境が整ってきているのではないかと思います。例えば、ドローンや情報通信技術等の活用を通じて農業者をサポートするサービスである、農業支援サービスに取り組む事業者を対象として、農林水産省作成の「農業支援サービス関連施策パンフレット(Ver.3.0)」に関連施策がまとめて公表されていますが、出融資や保証制度等、様々な施策が用意されており、関係省庁も新たなサービスの育成や創出に力を入れていることが分かります。

灘本

スマート農林水産業の代表と言えるのは、ドローンを農業に活用する方法だと思います。ドローン等の無人航空機には、航空法が適用されます。ドローンを使って農薬を空中散布する場合には、航空法で禁止されている「物件の投下」に該当し、国土交通大臣の承認が必要となります。

今野

散布する農薬の種類によっては、危険物に当たるため、この点からも国土交通大臣の承認が必要となる場合がありますね。

灘本

人や家屋が密集している地域の上空を無人航空機が飛行することもあり得ますが、この場合にも国土交通大臣の許可が必要となります。

宮城

令和4年6月20日に施行された改正法では、使用者によるドローンの登録が義務化されるなど、航空法によるドローン関連の規制については短期間に度々改正されていますし、灘本さん、今野さんが指摘されたとおり、ドローンの使い方によっても規制が異なるため、注意が必要ですね。

羽鳥

他にも、農業機械の自動走行については、製造や使用面で安全性を確保するため、2017年に「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」が策定されました。本ガイドラインは新たなロボット農機の開発状況等を踏まえて修正することが予定されているものですが、策定以降、ほぼ毎年改正されています。

今野

現在は、目視可能な場所から使用者が監視する方法により使用する場合を想定したガイドラインとなっていますが、今後は、遠隔監視による自動走行や圃場間の移動を伴う自動走行等の実用化に向けた安全確保策も検討されているようです。

鳥巣

新規技術に対する法規制やガイドラインは新たに設けられたり、頻繁に改正されることがありますから、法務の重要性も高まります。
CHAPTER
03

データ・ノウハウ等の保護の必要性

灘本

スマート農林水産業では、熟練した従事者が持つ優れた熟練技術・ノウハウに係るデータを取得・収集し、AIで解析するなどして、ノウハウ等を形式知化することが容易になり、ロボット等でも活用できるようになるでしょう。これにより、優良な技術やノウハウの承継が容易になり、生産効率の向上や高品質化、省力化にもつながります。

今野

実際に、スマートグラスやAI技術を利用して、ブドウ栽培における熟練技術者のプロの技をデータ化する例など、情報通信技術等を活用して熟練者が保有する技術を「見える化」しようとする事例がありますね。

羽鳥

そうですね。他方で、形式知化により、ノウハウ等が意に反して持ち出されたり、流出したりするリスクが今まで以上に高まると考えられます。この技術やノウハウ等は市場における競争力や優位性を基礎付けるものです。これらの技術やノウハウ等の知的財産を法的に保護していくことが重要です。

宮城

これまでは農林水産分野では、ノウハウや技術、知識等が見える形で確立されていないこともあってか、オープンリソースとして共有されている例も多いように思います。法的に保護するとなると、事業従事者もこれまでの意識を変えていく必要もありますね。

羽鳥

技術やノウハウ等のうち他者に共有・流出することで大きな不利益を受け得るものかを見極め、そのようなノウハウ等については営業秘密として保護するための措置を十分に講じることなどが必要となってきます。令和4年3月に公表された「農業分野における営業秘密の保護ガイドライン」は、分野の特殊性を踏まえたノウハウ等の営業秘密としての保護の方法等について参考になるでしょう。

灘本

農林水産分野のビジネスでも法務の重要性が増すことになりますね。スマート農林水産業においては、生産管理という点から、情報通信技術やAIによるデータの利活用も期待されており、既に相当数の活用例が紹介されています。データについては、知的財産権や営業秘密として法的に保護される場合もありますが、限定的と考えられていますので、基本的には関係者間の契約を通じてデータ保護を図ることになってきます。

羽鳥

具体的な内容は個々の事案によりますが、有用なデータが競業他者に流出し、利用されてしまうなどにより大きな不利益を被るリスクを低減するという観点から、対象となるデータの定義、データの提供や取得・提供データに係る利用範囲、目的、利用条件、第三者への提供の可否、データの管理に関する事項、秘密保持義務や派生データの取扱いなどを取り決める必要があるでしょう。また、開発を伴う場合、開発によって得られた知的財産の取扱いなどを定めることも大事です。公表されている「農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン」や「水産分野におけるデータ利活用ガイドライン」、関連資料を参考にしつつ、農林水産分野の性質、個別具体的な利活用の仕方、事業の内容等を踏まえた契約が重要です。

鳥巣

データやノウハウ等を適切に保護しながら、情報通信技術等を活用することが鍵であり、今まで以上に法務の関与が期待されそうです。

本座談会は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。