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スタートアップ法務 ~事業会社とスタートアップとの連携におけるポイント~ 前編:事業上の連携


【はじめに】

オープンイノベーションの促進のために、事業会社とスタートアップやベンチャー企業との連携の重要性がますます意識されるようになっています。事業会社とスタートアップとの連携を成功に導くには、お互いに相手方の立場・視点を尊重した上で、イノベーションや新たな事業価値を創出するために協調的に行動することが重要ですが、いざ契約の交渉段階になると、各当事者独自の利益・権利を確保する要請とのバランスを取ることが難しく、結果的に当初想定していたような連携が実現できなくなることも少なくありません。
本対談では、スタートアップ・ベンチャー法務、とりわけ事業会社とスタートアップ企業・ベンチャー企業との連携におけるポイントについて、スタートアップ・ベンチャー法務に多く携わる殿村弁護士と、事業会社とスタートアップの双方への出向経験を有する小松弁護士が議論します。

対談者

パートナー

殿村 桂司

TMT分野を中心に、M&A、知財関連取引、テクノロジー関連法務、スタートアップ法務、デジタルメディア・エンタテインメント、ゲーム、テレコム、宇宙、個人情報・データ、AI、ガバナンス、ルールメイキングなど企業法務全般に関するアドバイスを提供している。

アソシエイト

小松 諒

事業会社とスタートアップの双方への出向経験を持つ。テクノロジー関連法務、スタートアップ法務及びメディア/エンタテインメント・スポーツ関連法務に幅広い経験を有し、コーポレート、不動産、紛争解決(仲裁・訴訟)など企業法務全般を取り扱う。

CHAPTER
01

事業会社とスタートアップとの連携をめぐる動向

殿村

今日は、スタートアップ法務をテーマに、とりわけ事業会社とスタートアップとの連携について、スタートアップ法務に携わる小松弁護士とともに議論したいと思います。
まず、私から簡単に自己紹介させていただきます。スタートアップ法務に関しては、私は、スタートアップ側で新規事業の立ち上げ、ルールメイキング、資金調達等に関してアドバイスすることも、事業会社やベンチャーキャピタル等の投資家・ビジネスパートナー側で、スタートアップに対する出資・買収、業務提携等に関してアドバイスすることもあります。普段からテクノロジー法務全般を扱っていますので、テック領域であれば分野を問わず取り扱えることと、クロスボーダーの案件も扱っていることが特徴の一つかと思っています。経済産業省の「スタートアップ新市場創出タスクフォース」※1の構成員も務めさせていただいております。
小松さんも自己紹介をお願いできますか。

小松

本日は宜しくお願いします。
私は7年ほど事務所で執務した後に、アメリカのワシントン州シアトルにあるUniversity of Washington School of Lawとカリフォルニア州バークレーにあるUniversity of California, Berkeley, School of Lawで知的財産権などを学び、帰国後は大手不動産デベロッパーである事業会社と、深層学習技術をはじめとする先端技術の実用化に取り組むスタートアップに出向しました。事務所に復帰した後は、事業会社側・スタートアップ側いずれにもアドバイスをしていますが、事業会社とスタートアップの双方に出向した経験を活かし、相手側の視点を踏まえたアドバイスを提供するよう心がけています。

殿村

事業会社とスタートアップの両方への出向経験があるのは珍しいですね。今日は、そのような出向経験を踏まえたコメントを楽しみにしています。宜しくお願いします。
まずはスタートアップに関する昨今の動向について確認しておきたいと思います。岸田政権は、「新しい資本主義」の実現に向けた取り組みの一環として、スタートアップを、社会的課題を成長エンジンに転換して持続可能な経済社会を実現する「新しい資本主義」の考え方を体現するものと位置づけ、スタートアップの推進に力を入れて取り組んでおり、昨年に続き今年の「経済財政運営と改革の基本方針2023」(いわゆる骨太方針)においてもスタートアップの推進を掲げています※2。スタートアップは、新しい技術やアイディアにより社会課題をスピード感を持って解決していく存在として期待されており、昨今の社会・経済情勢の急速な変化もあってスタートアップへの政策的対応の重要性は一段と増していますね。

小松

スタートアップの事業推進を政府が法的な面からサポートするものとして、2022年に経済産業省に「スタートアップ新市場創出タスクフォース」が設置されました※1。殿村さんは、そのタスクフォースの構成員ですが、このタスクフォースはどのようなものなのでしょうか。

殿村

スタートアップの新市場創出の推進に向け、規制に関する相談やグレーゾーン解消制度等の活用促進を行うために設置されたもので、自らの事業に対する法律の適用関係や関連する法律の解釈が分からないという課題を抱えているスタートアップに対して、活用できるツールを紹介する等のアドバイスを提供するものです。現在は基本的にWeb会議で相談を行っておりますが、ご相談の中でクリアしなければならない課題が明確化されることもありますし、無償で利用できるものですので、スタートアップの皆様には是非とも積極的に活用していただきたいと思っています。

小松

新市場の開拓や新規事業の創出にあたっては既存の規制との関係の検討が必要になりますが、スタートアップはどうしてもリソースが限られていることが多いので、政府が主導して専門の弁護士を集めたタスクフォースを設置し、スタートアップが相談できるのは非常に有り難いですね。
政府によるサポートという観点では、「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書(OIモデル契約書)」(以下「モデル契約書」)が特許庁HPに公開されており、事業会社・スタートアップ間での契約において参考となる契約のサンプルを解説付きで参照することができます※3

殿村

今年になり、大学と大学発ベンチャー間の契約、大学と事業会社間の契約も追加され充実していますよね。実際に使われている場面にはよく出会いますか。

小松

スタートアップがモデル契約書をベースに契約書のドラフトを作成していたことや、契約書の交渉においてモデル契約書に記載された解説を参照してスタートアップが自社の立場を説明していたことなど、モデル契約書が活用されている場面に出会うことはありますね。
他方、モデル契約書のパンフレットなどにも記載がありますが、モデル契約書は想定シーンを設定してサンプル条項と解説を提供しており、実際のケースでは想定シーンと異なる要素が多々生じますので、それに合わせて対応する必要があります。またモデル契約書自体はスタートアップ寄りの内容となっている事項も多いため、事業会社側はモデル契約書を自社のひな型として活用することは多くないように思います。そのような場面で弁護士への相談をいただくことが多い印象ですね。

殿村

モデル契約は、基本的に個別の事案に応じて修正が必要であることを理解した上で活用することが重要ですね。モデル契約をベースとする場合でも、個別ケース毎にどのようにカスタマイズするかが弁護士の腕の見せ所ではありますが、どのような点を意識していますか。

小松

依頼者の利益を最大化することが重要ですが、事業会社とスタートアップは、様々な点で違いがあるので、その点を意識した上で交渉を前に進めていくことを意識しています。例えば、意思決定の方法やスピード感、リスクに対する許容度等も全く異なることは、私自身の事業会社とスタートアップの双方への出向経験から実感していますので、その経験を活かして、両当事者のギャップを埋めることを意識しています。

殿村

そうですね、あまり本質的ではないところでボタンの掛け違いが発生することも多いですしね。

小松

あとは、提案する内容に関しても、事業会社とスタートアップで求めるレベル感や、重視するポイントが異なっていたりすることがあるので、その点を意識しつつ相手方からどのようなコメントが来るのかを予想した上で提案内容を検討するようにしています。

殿村

出向経験を踏まえたより一歩踏み込んだ提案をすることで、双方の落着点を早期に見つける手助けにもなりそうですね。

小松

その他にも、契約交渉において意識しておくべきものとして、公正取引員会・経済産業省が公表している「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(以下「事業連携・出資指針」)があります※4。それまで事業連携に関する指針として公表されていたものに、昨年、出資に関する指針が追加されました。概要は昨年ニュースレターで紹介しましたが※5、スタートアップとの事業連携・出資における独占禁止法・競争政策上の懸念事項が示されており、交渉にあたって留意すべきものと言えます。

殿村

スタートアップへの政策的支援は様々なものがあり、それらを上手く活用する必要があります。実際には案件毎に留意すべき事項は異なってくるので、法律上又は実務上許容される範囲を理解し、個別の事情や相手方の立場を意識した上で、交渉を行っていくことが重要ですね。
CHAPTER
02

事業会社×スタートアップ①:事業上の連携

殿村

では、ここから事業会社とスタートアップとの連携場面に分けて具体的に議論していきましょう。まずは、事業会社とスタートアップが、事業上の連携を行うに場面を取り上げたいと思います。

小松

ある事業で事業会社とスタートアップが連携しようとする場合、そもそもどのような形態で進めていくかから議論になるかと思います。二当事者間で業務提携契約などの事業連携に関する契約を締結して、その中で様々な事項を取り決めていく場合もあれば、両者で合弁会社(JV)を設立してJVにより事業を進めていく場合もあります。

殿村

そうですね。最初からJVを設立するケースは、連携して行う事業の内容や各当事者の役割が具体的に決まっている場合や、何らかの事情で別法人が必要な場合等に限られる印象ですので、今日は、業務提携契約などの事業連携に関する契約について議論していきたいと思います。
なお、事業会社とスタートアップとの間のJVに関しては、通常のJVと同様、株主間契約が重要な契約になりますね。いずれかがマジョリティになるケースでは、スタートアップ側が出資比率が低くマイノリティになることが多いですが、マイノリティ側からは、役員構成や重要な意思決定事項に関する拒否権、株式譲渡に関する制約などが交渉においてのポイントに挙げられるかと思います。

小松

最初から業務提携契約を締結して包括的に様々な事項を合意する場合もありますが、どのような事業連携が可能かまだ明確ではないケースでは、事業会社とスタートアップが段階的に事業連携をする場合もありますね。そのときは、まず秘密保持契約(NDA)を締結して情報交換を行い、開示・交換される情報を踏まえて特定の仮説を検証するためPoC(Proof of Concept:概念実証)を行うことが多いかと思います。PoC後に、共同研究や共同開発を行い、研究や開発によって生じた知的財産権について、その知的財産権の帰属に応じて事業会社・スタートアップ間でライセンス等を行う契約を締結するという一連の流れが、段階的に研究開発が成功した場合の一つの流れと言えそうです。

殿村

その流れを前提にすると、事業会社とスタートアップとの間では、秘密保持契約(NDA)、PoC契約を締結して検討を進め、一定の段階に至った場合は共同研究契約や共同開発契約、ライセンス契約や共同出願契約を締結するといった流れで事業会社・スタートアップ間の契約が締結されていくことになりますね。特徴を挙げるとするとどういう点でしょうか。

小松

事業会社とスタートアップとの連携においては、その段階ごとに留意点がありますが、事業会社同士の事業連携においてあまり見られないものとしてPoC契約が挙げられるかと思います。

殿村

技術などを試してみて事業性・将来性を評価するという、中間的な段階にある契約という点が特徴的ですね。PoC契約では一般的にどのような事項が規定されるでしょうか。

小松

主な事項としては、まずはPoCの内容が挙げられます。検証作業の内容やスケジュール、PoCの対価、レポート等の成果物を作る場合は記載されるべき事項や納期などを定めます。そしてPoCは中間的な段階になりますので、次の段階である共同研究や共同開発に関する契約やそれに向けた協議に関する事項も規定されることが多くあります。その他には、PoCの過程で発生した知的財産権の帰属や取扱いに関する事項も、規定されることの多い事項に挙げられます。

殿村

ありがとうございます。事業会社・スタートアップ間で議論になりやすいのはどの事項という印象でしょうか。

小松

どの事項も揉めるときは揉めますが、対立がはっきりしやすいのは知的財産権の帰属でしょうか。互いに自社への帰属を主張し合う場合ですね。また、PoCの次の段階に関する事項も、PoCの結果を受けた協議を規定するのかしないのか、規定する場合に協議義務の程度がどのようなものかなどが議論になる印象です。

殿村

そうですね、知的財産権の帰属は対立がはっきりと出やすい事項ですね。PoC契約を締結する時点では、具体的な成果物としてどのようなものが創出されるのか分からないこともあるので、知的財産権の帰属について定めていないケースも見られます。戦略的にあえて規定していないというケースもあると思いますが、一般論としては、後で紛争になることを避ける観点からは定めておいたが方が望ましいですね。ただ、PoCはスピード感が非常に重要ですので、契約交渉にあまり時間をかけられないことも多く、実務的には悩ましい点です。
例えば、PoCの対価を事業会社側が負担している場合、成果物の権利を全て事業会社に帰属させることを求めることがありますね。

小松

モデル契約書の新素材編では、検証の主体がスタートアップ側であることから、スタートアップに帰属する規定となっています。その背景には、設定された対価は作業費用であり、発生する知的財産権の移転対価は含まれていないことが前提となっています。この点は、事業連携・出資指針の共同研究の項目において、スタートアップに対し知的財産権の無償提供等を要請する場合で、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には優越的地位の濫用として問題となる旨の指摘がなされている点にも注意が必要です。

殿村

モデル契約を使いこなすためには、そういった背景事情もしっかりと理解しておくことは重要ですね。何に対する対価なのか、という話だと思いますが、その点が契約書上明確でない場合も多い印象です。協調的に交渉を進めていくためにはどのような点に留意するとよいでしょうか。

小松

契約のドラフトの交換に至る前の交渉やタームシートにおいて、知的財産権の帰属について協議したり、対価を提示する際には知的財産権の移転対価まで含まれているのか示しながら協議したりできるとよいかと思いますが、ビジネスセクションの方のみで進めている間はその点を意識することが難しいかもしれませんので、早い段階から法務セクションと協働することが重要かと思います。

殿村

スタートアップ側は十分なリーガルのリソースがなかったり、事業会社側としてはPoCは比較的規模が小さいので、ビジネスセクションの方のみで話が進みがちですね。
政府による事業会社・スタートアップ間の連携促進の一環として、OIモデル契約書を用いる前の段階を含めた良好なパートナーシップ構築に向けた「事業会社とスタートアップのオープンイノベーション促進のためのマナーブック」※6や、「ディープテックスタートアップの評価・連携の手引き」※7といったビジネスセクション向けの資料も公開されています。これらの資料に法務セクションとの連携や知的財産権の帰属を含めた様々なポイントが触れられていますので、ビジネスセクションの方々にこれらの資料を参照してもらいながらスタートアップとの協議を進めていくのも有用だと思います。

小松

また、社内セミナーや勉強会を通じて、社内にスタートアップとの協議における留意点を浸透させていくことも有用ですね。

殿村

我々も外部弁護士としてそのような社内セミナーや勉強会に招かれることもありますので、是非積極的に活用頂きたいですね。

本対談は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。

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