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スタートアップ法務 ~事業会社とスタートアップとの連携におけるポイント~ 後編:出資・M&A


【はじめに】

オープンイノベーションの促進のために、事業会社とスタートアップやベンチャー企業との連携の重要性がますます意識されるようになっています。事業会社とスタートアップとの連携を成功に導くには、お互いに相手方の立場・視点を尊重した上で、イノベーションや新たな事業価値を創出するために協調的に行動することが重要ですが、いざ契約の交渉段階になると、各当事者独自の利益・権利を確保する要請とのバランスを取ることが難しく、結果的に当初想定していたような連携が実現できなくなることも少なくありません。
本対談では、スタートアップ・ベンチャー法務、とりわけ事業会社とスタートアップ企業・ベンチャー企業との連携におけるポイントについて、スタートアップ・ベンチャー法務に多く携わる殿村弁護士と、事業会社とスタートアップの双方への出向経験を有する小松弁護士が議論します。

対談者

パートナー

殿村 桂司

TMT分野を中心に、M&A、知財関連取引、テクノロジー関連法務、スタートアップ法務、デジタルメディア・エンタテインメント、ゲーム、テレコム、宇宙、個人情報・データ、AI、ガバナンス、ルールメイキングなど企業法務全般に関するアドバイスを提供している。

アソシエイト

小松 諒

事業会社とスタートアップの双方への出向経験を持つ。テクノロジー関連法務、スタートアップ法務及びメディア/エンタテインメント・スポーツ関連法務に幅広い経験を有し、コーポレート、不動産、紛争解決(仲裁・訴訟)など企業法務全般を取り扱う。

CHAPTER
03

事業会社×スタートアップ②:出資・M&A

殿村

次に、事業会社とスタートアップの連携に関する出資の場面を取り上げたいと思います。スタートアップの事業を遂行・拡大するためには資金が必要となりますが、どのようなプレイヤーがスタートアップに資金を提供するのでしょうか。

小松

スタートアップの投資家は、一般的には、ベンチャーキャピタル(VC)、事業会社、事業会社の投資部門や投資用子会社であるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などが挙げられます。また事業上の連携において議論にあがったJVの組成も、出資を通じた連携の一形態と言えそうです。

殿村

最初期のシードステージでは、エンジェル投資家などの個人の投資家も重要なプレイヤーですね。資金を提供する投資家側にも様々な思惑があるわけですが、VCは、投資に対し金銭的なリターンであるキャピタルゲインを得ることを主な目的とするのに対し、事業会社やCVCは、新規事業のシーズの獲得やスタートアップとの事業シナジーによる自社事業の拡大・進展を目的としていることが多いですね。
今回のテーマである事業会社とスタートアップとの連携という観点から、事業会社自身やCVCによるスタートアップへの出資について議論していきましょう。プロダクト開発が順調に進み、プロダクトを市場に普及させるグロースステージにあるスタートアップをイメージすると分かりやすいかもしれません。事業会社から見て、シードステージやアーリーステージほどリスクが高くなく、かつ、新規事業のシーズや事業シナジーが見出しやすい状況であり、スタートアップとしては、事業をより一層拡大させるために商品開発、顧客開拓等において事業会社の経営資源を成長に取り込みたいと考えているようなフェーズですね。

小松

まず、協議のスタートとして、出資方法をどのようにするかが議論になるかと思います。株式による出資の場合、普通株式による方法と、剰余金の配当や残余財産の分配などに関して普通株式とは異なる内容にした種類株式による方法があります。また、最初から株式を発行するのではなく、いわゆるコンバーティブル投資による方法も選択肢として考えられます。

殿村

コンバーティブル投資については、経済産業省が2020年12月に活用ガイドラインを公表するなど推進しており、実際に活用される機会が増えていますね。どういったものか、少し補足して説明していただけますか。

小松

コンバーティブル投資は、投資家が株式取得に先立って資金供給を行い、企業価値評価の正確性が高まった将来のタイミングで株式への転換を行う投資手段を言います。株式転換前に投資家が取得するものとしては、新株予約権付社債のようにデット(負債)の性質をもつもの(コンバーティブル・ノート)と、新株予約権そのもののようにエクイティ(資本)の性質をもつもの(コンバーティブル・エクイティ)があります。

殿村

スタートアップへの出資に関しては、シード期のような企業価値評価が難しいステージにおいては特に、デュー・ディリジェンス(DD)や株主間契約の交渉に時間と費用がかかったりするという難しさがあります。スタートアップとしては、タイムリーに必要な資金調達ができるかが死活問題ですので、資金供給段階で厳格な企業価値評価やDDを行わなくて済むという観点から、コンバーティブル投資手段のメリットが説明されることが多いように思います。

小松

コンバーティブル投資は、アメリカのシリコンバレーでのスタートアップ投資プラクティスから発展してきました。近年活用が進むコンバーティブル・エクイティについては、アメリカではSAFE(Simple Agreement for Future Equity)やKISS(Keep It Simple Security)といった契約書のひな型が公開されており、広く浸透しています。日本でも、日本版のKISSとしてJ-KISSが公開されています。

殿村

エンジェル投資家やVCだけでなく、事業会社やCVCがそのようなコンバーティブル投資を用いることもありますし、事業会社とスタートアップとのオープンイノベーションの推進の観点からも活用が期待されているところですが、数としては出資により株式を取得するケースが多いと思いますので、ここでは株式を前提に議論を進めていきましょう。先ほど出たように、株式による場合も普通株式の場合と種類株式の場合がありますね。

小松

種類株式を用いることで、剰余金の配当や残余財産の分配において普通株式より優先する設計が可能となります。VCのようにリターンを重視する場合には、種類株式も選択肢となりやすいと言えるかと思いますし、事業会社やCVCによる種類株式への投資も多くあります。

殿村

残余財産の分配において普通株式より優先する優先株式とした上で、スタートアップのM&Aにより投資家がエグジット(Exit)する際に、みなし清算として優先的にM&Aの対価の分配を受けられるようにすることで、エグジットに際して多くのリターンが期待できるということですね。また、スタートアップとしても、同じ金額を出資してもらうにしても、1株あたりの価値が高い株式を発行した方が、創業者の持分の希釈化を抑えることができるというメリットもあります。

小松

優先すると一言で言っても、所定の優先配当を受けた後に残余の分配可能額がある場合にはさらに追加して配当を受けることができるか否かに関する参加型・非参加型の違い、所定の優先配当が支払われなかった場合に不足分を翌事業年度以降の分配可能額から受けることができるか否かに関する累積型・非累積型の違いなど、設計にも様々なバリエーションがありますね。

殿村

事業会社やCVCが出資する時点では、スタートアップが既にVC等から優先株式で資金調達をしているケースも多く、その場合は、バリュエーション以外の条件は当該優先株式の内容が交渉のベースになることが通常ですが、事業会社やCVCはキャピタルゲインの獲得よりも、新規事業のシーズや事業シナジーの獲得を目的としているので、その点も踏まえて優先株式の内容を交渉することになります。
ここまでの議論は、発行する優先株式の内容をどのように定めるかということでしたが、次に、出資を行うにあたり、投資家と発行体であるスタートアップとの間で締結する契約について見ていきましょう。

小松

出資に際して締結される契約は、主に投資契約と株主間契約が挙げられます。
投資契約は、投資家が株式を取得する際の投資条件を中心に定める契約です。発行する株式の内容、表明保証、誓約事項、投資実行の前提条件といった投資条件を規定します。
株主間契約は、投資後の株主間の権利義務などを取り決めるもので、会社のガバナンスに関する事項、会社の運営に関する事項、株式の譲渡等や投資家のエグジットに関する事項などを中心に規定します。会社のガバナンスに関する事項は様々なものがあり、事前承認・報告事項、取締役指名権・オブザーベーションライト、情報開示に関する事項などが挙げられます。株主間契約は既存株主と新たに株主となる投資家の全員で締結することもありますが、株主間契約は主要株主とだけ締結し、財産分配契約や買収対価分配合意書といった名称で、株主間契約からM&Aによるエグジット部分を中心に抜き出した契約を全株主で締結することもあります。

殿村

ありがとうございます。会社のガバナンスに関する事項を投資契約に規定する場合もあるので、投資家の顔ぶれ・持株比率、誰を拘束するべき内容かなどの観点を踏まえて、どの契約にどの項目を規定するかを検討する必要がありますね。事業会社の事業に関連する事項については、別途、事業会社とスタートアップの間で業務提携契約を締結することも考えられますね。
出資契約や株主間契約に定める項目の中で議論になりやすいのはどのようなポイントでしょうか。

小松

投資契約に関しては、例えば、事業会社やCVCが出資に際してデュー・ディリジェンスを行う場合、その発見事項を表明保証や誓約事項に反映しようとする場合や、事業会社が通常のM&A取引で使用している広汎な事項について定めた表明保証を求めようとする場合などは、細かい契約書上の規定ぶりも含めて交渉の対象になります。

殿村

ありがとうございます。株主間契約についてはどうでしょうか。

小松

株主間契約での重要な交渉ポイントとしては、会社のガバナンスに関する事項が挙げられるかと思います。
例えば、取締役指名権やオブザーベーションライト(オブザーバーを派遣する権利)は、事業面でのシナジーを期待する事業会社サイドから求めることも多く見られ、スタートアップにとっても外部から新たな知見を取り入れることができるというメリットがある一方で、その事業会社との連携以外の事業も行うスタートアップにとっては情報が出すぎてしまうことを懸念するなど懸念事項もあります。取締役やオブザーバーを派遣したいという事業会社のニーズには、情報把握の他に業務遂行の監視監督目的もありますが、取締役会とは別の株主報告の機会を設けるなど、取締役やオブザーバーの派遣が目的のために必須ではない場合もあるため、事業会社側のニーズとスタートアップ側の懸念をしっかり議論していくことが重要かと思います。

殿村

ありがとうございます。投資家側とスタートアップ側の双方の事情をしっかりと議論して、お互いのニーズと懸念がどこにあるのか把握することが重要であるということですね。

小松

殿村さんの方ではどのような事項が議論になりやすい印象でしょうか。

殿村

会社経営に関する事項の事前承認事項、いわゆる拒否権事項をどこまで定めるかという点が議論になることもありますね。スタートアップの経営には機動性が求められますので、拒否権事項が多いとその制約となってしまうため、2社間の合弁会社における拒否権事項とは状況が違います。もっとも、新規事業のシーズや事業シナジーを期待している事業会社としては、「これを勝手にされては困る」という事項がありますので、事業会社の持株比率や他の投資家の顔ぶれ等も踏まえて交渉することになります。
そのほかにスタートアップに特有の事項という観点では、創業者株主との関係が挙げられるかと思います。例えば、表明保証違反や誓約事項違反があった場合の投資家の救済措置として、投資家が保有している株式の買取を求める株主買取請求権が定められることがありますが、これを発行体であるスタートアップに対してだけではなく、創業者株主に対し行使することが求められる場合があります。

小松

スタートアップもステージが様々ですが、早い段階のステージではスタートアップ自体の信用力も大きくないため、創業者株主を巻き込みたいというニーズはありますよね。他方、事業連携・出資指針※1においては、スタートアップの経営株主等の個人に対し買取請求が可能な株式買取請求権の設定を要請することは、スタートアップの起業意欲・オープンイノベーションを阻害するとして、請求対象から経営株主等の個人を除いていくことが競争政策上望ましいと指摘しています。必ずしも全てが禁止されるものではありませんが、スタートアップ側・創業者株主側から要請を拒む場面は今後多くなりそうです。

殿村

海外のプラクティスとのズレとしても指摘されていますね。契約実務も日々アップデートされているので、留意が必要です。このような政府動向を受けて、中小企業庁は、ベンチャー投資に係る「投資契約書のひな型」について事業連携・出資指針を踏まえた留意事項や各契約のタームシートの例を公開したり※2、また、経営者保証が起業・創業の阻害要因とならないように、経営者保証を不要とする創業時の新しい信用保証制度として「スタートアップ創出促進保証制度」を開始したりするなどの動きが見られます※3。最初に紹介したように、政府によるスタートアップへの後押しは一段と増していますので、近時の動向にしっかり注意を向けておくことが重要です。

小松

事業会社がスタートアップとの事業シナジーを達成するため、出資ではなく買収するという選択肢もありますね。殿村さんは、スタートアップのM&Aの経験も豊富ですが、スタートアップ特有の留意点はどのようなものでしょうか。

殿村

M&Aといっても様々なフェーズがあり、買収スキームの検討、NDAやLOI・MOUといった基本合意書の締結、買収者によるスタートアップのDDの実施、株式譲渡による場合は株式譲渡契約の交渉、買収後のPMIなどがあります。また、研究開発型スタートアップであれば、事前にPoC(実証実験)契約や共同開発契約が締結されることもあります。それぞれに気をつけるべきポイントはありますが、スタートアップを買収する目的を意識して交渉する必要があります。主たる目的が人材の取得なのか技術の取得なのかによっても、交渉のポイントが異なってきます。また、通常の大企業や中小企業のM&Aとスタートアップの買収の違いも意識して、契約内容を検討・交渉する必要があります。
また、M&Aによって支配権の異動が生じることになるため、先ほど小松さんが挙げた投資契約、株主間契約や財産分配契約といった既存の契約において、支配権の異動をトリガーとして発動される創業者株主や各投資家の権利を分析して、買収のスキームや交渉戦略を検討する必要があります。このあたりも、通常のM&Aとは異なる面があると思います。

小松

アメリカでは投資家のスタートアップからのエグジットとしてM&Aが主流ですし、日本でも増加傾向にあるといわれています※4。契約を締結するにあたっては、そのようなM&Aによるエグジットを見据えた条項を設けておくことが重要と言えますね。
CHAPTER
04

おわりに

殿村

今日はスタートアップ法務に関し、特に事業会社とスタートアップとの連携の場面における法務について議論してきました。事業会社とスタートアップとの連携は非常に早いスピードで進める場合が多いので、予めスタートアップとの連携において重要なポイントを把握しておき、検討の早い段階からビジネスセクションと法務セクションが協力して対応することが重要です。出資においても、買収・M&Aにおいても、スタートアップ特有の事情を意識した上で検討を進める必要があります。
また、今日は触れられませんでしたが、スタートアップが新規ビジネスを行う上で、法令上の制約や、法令の適用関係が不明確というグレーゾーンの存在が問題となることも珍しくありません。私が関与している経済産業省の「スタートアップ新市場創出タスクフォース」のほかにも、官公庁から様々なサポートツールも提供されていますので、そのようなツールも最大限活用して欲しいと思います。
政府はスタートアップの推進に非常に力を入れていますので、事業連携・出資指針のように取引実務に影響を与える政府の動向にはしっかり注意を向けておくことが重要です。
小松さんからも、今日の感想をお願いできますか。

小松

たくさんのテーマをお話しできて、私自身も非常に勉強になりました。事業会社とスタートアップとでは、企業規模や意思決定プロセス、ステークホルダー、事業範囲やその成熟度など、様々な点で違いがあります。「スタートアップだから」「事業会社だから」と括って対応するのではなく、今後付き合っていくビジネスパートナーのことをよく知るという観点で、お互いに相手の状況を把握して理解する姿勢をもって臨むことが重要なことだと改めて感じています。事業会社とスタートアップの双方に出向した経験を、そのような姿勢をもって臨む契約交渉のサポートに活かしていきたいと思います。

殿村

ビジネスの現場では当然に意識されていることだとは思いますが、事業会社とスタートアップの連携の場面では特に、改めてそのような姿勢を確認することは重要ですよね。そのようにお互いの視点を理解するには、事業会社側へのアドバイスもスタートアップ側へのアドバイスも、日頃から両サイドと接しアドバイスをしている我々の知見も大いに役立ていただけると思います。

小松

また、我々の事務所、特に殿村さんと私は、生成AIやweb3・メタバースといった先端テクノロジーを活用するビジネスに関する法務にも幅広く取り組んでいます。そのような先端テクノロジーはスタートアップが競争力を持つ分野でもあり、事業会社はスタートアップとの連携を通じて先端テクノロジーの活用を推進するという動きが見られます。スタートアップの事業に関連するテクノロジー法務を幅広く理解している弁護士が、スタートアップとの事業提携やスタートアップへの投資・買収にも関与することで、効率的かつ効果的に、当該スタートアップの法的リスクや事業課題をより深く理解した上で、それをデュー・ディリジェンスや契約交渉等の過程に反映できるのも、我々の強みであると感じています。

殿村

具体的なプロジェクトのご相談のほかにも、先ほど話にあがった社内セミナーや勉強会なども行っていますので、そのような機会も是非積極的に活用いただければと思います。本日はありがとうございました。

本対談は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。

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