
森大樹 Oki Mori
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東京
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NO&T Technology Law Update テクノロジー法ニュースレター
消費者庁に設置されていた「アフィリエイト広告等に関する検討会」が、2022年2月15日付けで報告書(以下「本報告書」)を公表しました。
アフィリエイト広告とは、アフィリエイトサービスプロバイダ(以下「ASP」)等が仲介するアフィリエイトプログラムを利用した成果報酬型の広告であり、アフィリエイターが自己の運営するブログやSNSサイト等にアフィリエイター以外の者(広告主)が供給する商品・サービスの広告等を当該広告主の販売サイトのハイパーリンクと共に掲載し、当該サイトを閲覧した者が当該ハイパーリンクをクリックしたり、当該ハイパーリンクを通じて広告主のサイトにアクセスして広告主の商品・サービスを購入したりした場合などに、あらかじめ定められた条件に従って、アフィリエイターに対して、広告主から成功報酬が支払われるものをいいます。
アフィリエイト広告の市場は年々拡大されているものの、アフィリエイターにはクリック数等に応じた歩合制での成功報酬が支払われることが多いため、虚偽・誇大広告を作成するインセンティブが生じるおそれがある一方で、広告主とアフィリエイター間には直接の契約関係が無いことが多く、アフィリエイターの数も膨大であることから、アフィリエイターへの監督が十分に機能しない構造があることが指摘されています。実際にも、昨年、アフィリエイト広告の広告主に消費者庁が措置命令を行った事例も発生しています※1。そのような中で、本報告書においては、アフィリエイト広告の適正な表示を実現する観点から、アフィリエイト広告に関する各論点について整理・提言がなされました。
景表法5条は、事業者が自己の供給する商品・サービスについての優良誤認表示・有利誤認表示等の不当な表示をすることを禁止しています。ASPやアフィリエイターは商品・サービスを「供給」していないことや、アフィリエイト広告において広告主が「表示」をした主体といえるかどうかが必ずしも明確ではないことから、アフィリエイト広告においては、景表法の適用の可否や、誰に景表法が適用されるかが従前より議論されていました。
特商法12条においても、通信販売(インターネット通販を含む)における誇大広告等は禁止されています。同条においては、景表法5条と異なり、「販売業者」又は「役務提供事業者」が規制の対象となっていることから、アフィリエイターやASPが広告主と共同の販売業者や役務提供事業者であると評価できる場合はこれらの者にも適用することができます。
問題のあるアフィリエイト広告が特に多いと言われているのが化粧品・健康食品・健康雑貨の分野のアフィリエイト広告です。この分野の広告については、健康増進法および薬機法の広告規制が適用されうるところ、それらの法律の規制対象は「何人」(なんぴと)とされていることから(健康増進法65条1項、薬機法66条・68条)、それらの法律においては、アフィリエイターも広告規制の対象となります。
本報告書では、主に以下の論点につき、整理・提言がなされました。
広告主が自らの判断でアフィリエイト広告を利用して自らが供給する商品・サービスの宣伝を行うことを選択しているところ、ASPやアフィリエイターはあくまでその広告主の提示条件の下で、アフィリエイト広告を提供する際の機能を果たしているに過ぎず、広告主がアフィリエイト広告の基本的な表示内容を決定しているといった実態が認められることから、アフィリエイト広告の表示内容については、ASPやアフィリエイターではなく、まずは広告主が「表示内容の決定に関与した事業者」として責任を負うべき表示主体であると考えられることを周知徹底する必要があるとされました。すなわち、アフィリエイターが作成した広告であっても、広告内容に対する景表法の規制は、広告主に適用されることが明確化されました。他方で、ASPやアフィリエイターに対しても広告主と同様に景表法の規制対象とすることは、多くの誠実な事業者に対する萎縮効果を招き、問題となるアフィリエイト広告の排除という目的を超えて、アフィリエイト広告市場全体の縮小を招く可能性もあるとして、慎重に考える必要があるとしています。
上記のとおりアフィリエイト広告においても広告主が景表法の表示主体とされ、ASPやアフィリエイターへの景表法の適用は慎重にすべきとする一方で、本報告書は、悪質な広告主は、広告主の出資会社、コンサルタント会社や広告代理店、広告制作会社等の事業者から指示を受け、表示上の問題があるアフィリエイト広告を生み出している状況があることを指摘しています。その上で、これらの事業者が広告主と連携共同して通信販売を行い、一体となって事業活動を行っていると認められる場合は、これらの事業者(ASPやアフィリエイターなど)についても景表法上の供給主体と認めて景表法を適用することが必要であるとしています。
さらに、広告について実質的な指示役を担っている個人に対しては、特商法の誇大広告等の規制を適用することが必要であるとされています※2。
加えて、不当なアフィリエイト広告の多くが健康食品と化粧品に集中していることを踏まえ、不当な表示を繰り返すASPやアフィリエイターに対する措置を視野に入れ、「何人も」と規制対象を限定していない健康増進法65条や薬機法66条を柔軟に活用して虚偽・誇大表示に関する執行を強化することも提言されています。
景表法26条1項において、事業者は、アフィリエイト広告に限らず、不当表示の未然防止等のため管理上の措置を講じなければならないこととされており、関連するものとして「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年内閣府告示第276号)(以下「本指針」)が定められています。本報告書においては、アフィリエイト広告の広告主が講ずべき措置として次の①から③のような内容を追加し、考え方を具体化することが必要としています。
アフィリエイト広告には広告である旨の明示は法令上義務づけられておらず、現状では多くのアフィリエイト広告は広告である旨を明示していないと言われています。本報告書は、アフィリエイト広告の表示が広告主の広告である旨を消費者が理解できるようにすることは、消費者の自主的かつ合理的な選択に資するものといえ、同時に不当表示を未然に防止するという指針の趣旨に沿うとして、アフィリエイト広告においては、広告主は、広告である旨を認識できるような文言や形(表現、文字の大きさ、色、掲載場所等)で、当該広告主の広告である旨を明記する措置を講ずべきとしています。また、具体的な明記方法は、消費者庁が、現在の業界団体の慣行等も踏まえつつ示すべきとしています。また、広告主の指示や表示内容のレギュレーションを超え、アフィリエイター自身の判断で、広告である旨の表示が削除等されることのないよう、アフィリエイターとの契約において、広告である旨を表示する義務を規定し、契約違反をした場合の提携解除、報酬の支払停止、既払い報酬の返還などの内容を規定することなどが必要であるとしています。
本報告書は、今後の対応として、広告主が責任をもってアフィリエイト広告を管理することにより、景表法の不当表示となるようなアフィリエイト広告を防止できるとし、現時点では景表法の改正は不要とし、消費者庁において、所管する法令(景表法、特商法、健康増進法等)を適正に執行することで、問題となる表示を是正させるべきであるとしています。
アフィリエイト広告の内容について広告主に景表法が適用されるかどうかは議論がありましたが、執行事例も複数現れており、かつ、本報告書によって、広告主に景表法が適用されるという前提で消費者庁による今後の法執行が行われることが明確になったものと考えられます。さらに本報告書においては悪質な広告主等に対する厳正な法執行の重要性が説かれていることからすると、今後、アフィリエイト広告に関する景表法等の執行・処分事例の増加が見込まれます。そのため、アフィリエイトプログラムの利用にあたってアフィリエイターの表示内容について従前は十分な注意を払っていなかった広告主についても、今後は本報告書および今後改定が見込まれる本指針に沿った対応が求められるものと考えられます。
※1
2021年3月3日付け消費者庁「株式会社T.Sコーポレーションに対する景品表示法に基づく措置命令について」、2021年11月9日付け消費者庁「株式会社アクガレージ及びアシスト株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」
※2
景表法は、主にその広告主を規制対象とする一方、特商法は、個人を規制対象とすることもできるため。
※3
なお、本報告書においては、その他不当表示の未然防止に重要であると考えられることとして、関係事業者等が主導する協議会の設置についての意見も述べられている。
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(2025年3月)
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(2025年2月)
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(2024年11月)
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(2025年3月)
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