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ニュースレター

新型コロナウイルス感染症―ワクチン接種をめぐる法的問題と企業における対応―

NO&T Labor and Employment Law Update 労働法ニュースレター

著者等
緒方絵里子清水美彩惠(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Labor and Employment Law Update ~労働法ニュースレター~ No.1(2022年3月)
関連情報

本ニュースレターの英語版はこちらをご覧ください。
本ニュースレターの中国語版はこちらをご覧ください。

業務分野
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。


NO&T Labor and Employment Law Update ~労働法ニュースレター~創刊のご案内

 当事務所では、このたび「NO&T Labor and Employment Law Update ~労働法ニュースレター~」を創刊しました。

 当事務所の労働法プラクティスグループは、豊富な経験と専門的知識に基づき、日本企業及び外資系企業に対し、様々な労務問題(採用、労働時間管理、労働条件変更、懲戒処分、解雇、労災、退職後の競業避止義務、ハラスメント等)や頻繁な法改正を踏まえた対応について、日英両言語で日々助言を行っています。近年、労務コンプライアンスの重要性が益々高まっていることを背景として、企業内の労働法の遵守状況・労務コンプライアンス体制の調査・評価検証等にも関与・助言しております。さらに、当事務所は、多数の企業買収や企業再編に関与していることから、企業買収案件においても、法的な人事デューディリジェンスのみならず、各種場面に関連する労働法関連の助言についても豊富な経験を有しています。

 また、主に企業を代理して、種々の労働争訟(従業員や労働組合を相手とする紛争)に関与しています。裁判所、労働委員会等における手続の代理はもちろん、労使紛争の初期から依頼者に助言を行い、早期解決を目指して相手方との交渉代理・助言も行います。

 本ニュースレターでは、今後、労働関連法の改正や裁判例の動き、実務のポイント等をお伝えしてまいります。

はじめに

 新型コロナウイルスによる最初の緊急事態宣言から約2年が経過しました。日本においても、ワクチン接種が進み、日本経済新聞の調べによれば、2回のワクチン接種が完了した人は、2022年2月24日現在で、総人口の79.1%であるとされています※1。一時は感染者数が減少傾向にありましたが、2022年の年明けから、感染力が強い変異型「オミクロン型」がまん延したことにより再び感染者数が急増し、3回目のワクチン接種が開始したところです。

 企業は、従業員に対して安全配慮義務を負っており(労働契約法第5条)、コロナ禍においても、職場において適切な感染症拡大防止対策を講ずることが求められています。仮に職場で新型コロナウイルスのクラスターが発生したり、職場で感染した可能性が高い従業員が死亡した場合等には、企業は安全配慮義務違反の責任を問われる可能性も否定できません。

 新型コロナワクチンは、発症予防効果などに一定の効果があるとされていることから、企業においても、従業員のワクチン接種の促進に積極的に取り組むことが期待されていますが、他方で、新型コロナウイルスのワクチンは、インフルエンザ等のワクチンと比較しても副反応が大きいこと等から、接種を望まない人もいます。

 そこで、以下では、新型コロナワクチン接種をめぐる法的問題と企業における対応について解説していきます。

企業は従業員に対して新型コロナワクチンの接種を強制できるか

 米国では、バイデン政権が、2021年9月に、従業員100人以上の企業に、従業員への新型コロナワクチン接種を実質的に義務づける感染予防策を決定しました。各企業もそれに従って従業員のワクチン接種を進め、ワクチン接種を拒否した従業員を解雇するなどの例も見られました。しかし、2022年1月13日に、米国連邦最高裁判所が政府によるワクチン接種の義務化を差し止める判断を示したことが話題になりました。

 我が国における新型コロナワクチン接種については、予防接種法第9条の規定が適用され、「努力義務」にとどまるとされています。したがって、企業はワクチン接種を従業員に強制することはできないとされており、厚生労働省のウェブサイトの「新型コロナワクチンQ&A」においても、同様の考え方が示されています※2

 上記のとおり、企業は、従業員に対して安全配慮義務を負い(労働契約法第5条)、適切な感染症拡大防止対策を講ずる責務があるとされており、業務の性質上、従業員同士の対面の共同作業が必要な職種や、接客業、窓口業務などを含め、顧客と対面で接することが求められる事業や職種においては、感染の危険性も高く、可能な限り、従業員にワクチン接種を求めたいという事情があります。また、ワクチン接種済みの場合には出入国制限が緩和される国もあり、海外出張の必要のある企業においてはワクチン接種を推進したいというニーズもあるでしょう。

 そこで、以下では、ワクチン接種を希望しない従業員がいる場合に、企業としてとりうる対応について検討します。

ワクチン接種を希望しない従業員に対して企業がとりうる対応

1. 人と接することのない業務への配置転換(配転)の可否

 日本においては、会社の就業規則や従業員との労働契約において、「業務上の必要性がある場合には配置転換(配転)を命ずることができる」という趣旨の規定が設けられていることが一般的です。このような定めがある場合には、(当該従業員と、職種や勤務地を限定する合意をしている場合でない限り、)使用者(企業)は、従業員の個別の同意がなく、配置転換(以下「配転」といいます。)を命じることができます。ただし、使用者の配転命令権に関しては、判例上、一定の制約があり、①使用者に不当な動機・目的がある場合や、②配転の業務上の必要性と、配転による労働者の不利益とを比較衡量した結果として、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等の特段の事情がある場合に無効とされる可能性があります。

 ワクチン接種を希望しない従業員が、接客等、通常業務において人と接する業務に従事する場合や他の従業員と対面で共同して作業することが不可欠である場合等には、使用者として、新型コロナウイルスの感染防止のための対策を講ずる業務上の必要性は肯定されるべきであると考えられます。

 新型コロナウイルスの感染防止のため、流行時に、接客業や窓口業務等、不特定多数の人と接する機会の多い従業員を一時的に、人との接触が少ない業務に配転するということは、(他に特段の事情がない限り)不当な動機・目的によるものとはいえないと考えられます。

 そこで、使用者としては、ワクチン接種を希望しない従業員に対して、当該従業員の担当する職務の内容、感染予防の必要性の程度、配転以外の感染防止対策手段の有無、当該従業員に想定される不利益の程度等の事情を検討した上で、やむを得ない場合には、当該従業員を一時的に人と接触することのない又は少ない業務へ配転することも選択肢の1つとして考えられます。もっとも、持病等によってワクチン接種が難しい従業員もいるため、かかる配転については慎重に検討して従業員の理解を得ながら進めていくことは必要でしょう。

 なお、厚生労働省のウェブサイトの新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)においても、ワクチン接種を希望しない従業員に対して配転を命ずることが一律に禁止されるものではないとの立場が示されています※3

2. 出張について、ワクチン接種をした従業員のみとすることは可能か

 出張についても、基本的には1.の配転と同様に考えることができます。すなわち、誰に出張を命ずるかは、使用者の指揮命令権の問題であり、権利濫用と評価されるような例外的な場合を除き、使用者がその裁量によって決定できると考えられます。出張は、公共交通機関等、多数の人が利用する移動手段を使用せざるを得ない場合も想定されることから、一般論として、出張者の選定にあたり、ワクチン接種の有無を考慮要素とすることも許されると考えるべきです。

 このため、臨時的な出張について、複数の出張候補者から、ワクチン接種をした従業員を優先して選定することは許されると考えられます。特に、海外出張についてはワクチン接種の有無によって出入国の規制が異なる国も多いため、新型コロナウイルス感染症がまん延している状況下においては、そのような選択が使用者の権利濫用と評価される可能性は低くなると考えられます。

3. 在宅勤務を命じることができるか

 ワクチン接種を希望しない従業員に対しては在宅勤務を義務づけ、ワクチン接種を条件として出社を許可するという運用は可能でしょうか。

 このような場合において、新型コロナウイルスのまん延等の状況があり、感染予防の必要性が高い場合には、ワクチン接種を希望しない従業員に対し、在宅勤務を義務づけることは可能と考えられます。

 かかる業務命令について、パワーハラスメント(一類型である「人間関係からの切り離し」)に該当する等の主張を従業員から受ける可能性はありますが、基本的に在宅勤務で業務ができる体制にあるのであれば、職場全体の感染防止の観点から、感染拡大時に在宅勤務を命じることは業務命令として可能であると考えられます。この場合も、在宅勤務でできない業務がある場合には、他との接触を減らして短時間の出勤を許可する、オンラインによるコミュニケーションを促進することで疎外感を与えないようにする等の配慮は必要となるでしょう。

新規の採用に関し、新型コロナワクチン接種を条件とすることができるか

 最後に、既に雇用関係のある従業員ではなく、新規の採用に関し、新型コロナワクチンの接種を条件とすることができるでしょうか。

 企業は、従業員の採用に関し、採用の自由があると考えられており、法律その他による特別の制限がない限り、どのような人を採用するかを自由に決定できると解されています。法律により、求人や採用選考の際に、性別、年齢、障害の有無等により差別することは禁止されていますが、現時点において、ワクチン接種を採用条件とすることを禁止する法律はないため、企業が新規の採用に関し、新型コロナウイルスのワクチン接種を条件とすることも禁止されていないと考えられます。

 もっとも、前述のとおりワクチン接種は努力義務であり、業務上、ワクチン接種を必須とすることが必要かという観点から慎重に検討すべきでしょう。また、採用面接において、業務上の必要性から、応募者にワクチン接種の有無について質問をする場合には、応募者のプライバシー等に配慮して、回答が任意であることを伝えた上で質問するなどの配慮を行うことが望ましいと考えます。

 なお、厚生労働省のウェブサイトの「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」においては、新型コロナワクチン接種を条件とすることについて、そのような条件を課す理由の合理性について求人社において十分検討すること及びその理由を応募者に予め示して募集を行うことが望ましいとの考えを示していますが、新型コロナワクチン接種を条件とすること自体については禁止されていないとの立場が示されています※4

最後に

 長引くコロナ禍で、企業は平時とは異なる労務管理が求められています。今後も、社会情勢や法改正を踏まえて、企業の皆様の関心事項について発信していきたいと思います。

脚注一覧

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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