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人権デュー・ディリジェンスガイドライン(責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン)案の公表

NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター

著者等
福原あゆみ
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Compliance Legal Update ~危機管理・コンプライアンスニュースレター~ No.67(2022年8月)
関連情報

本ニュースレターの英語版はこちらをご覧ください。

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 経済産業省は、本年8月8日、企業活動による人権侵害についての企業の責任に関する国際的な議論がより活発になる中で、企業に求められる人権尊重の取組みをまとめたガイドラインである「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」(以下「本ガイドライン案」といいます。)を策定し、パブリックコメントを開始しました。

 本ガイドライン案の内容は、経済産業省が本年3月に立ち上げ、筆者も委員として検討に加わった「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」での議論や国際機関との意見交換を経てとりまとめられたものになります。本ガイドライン案は、本年8月29日までパブリックコメントに付された後、政府として正式に決定される予定であり、パブリックコメント等を経て内容が変更される可能性もありますが、現時点の概要をお伝えします。

 なお、今後人権尊重の取組みの内容をより具体的かつ実務的な形で示すための資料を経済産業省が作成中のことであり、これについても内容が注目されます。

2. 「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」概要

(1) 本ガイドライン案の枠組み

 本ガイドライン案は、日本政府が2020年に策定したビジネスと人権に関する行動計画(NAP)をふまえ、OECD多国籍企業行動指針等の国際スタンダードをふまえた指針として策定されるものであり、企業の規模や産業分野(セクター)を問わず実施が求められる指針を示すものです(ただし、ガイドラインであるため強制力はなく、あくまで任意の規範となります。)。本ガイドライン案が、企業に対して求める対応は、大きく分けて人権方針の策定、人権デュー・ディリジェンス、救済手段の確立の3つであり、その概要は以下のとおりです。

ア 人権方針の策定

 本ガイドライン案では、人権方針について、以下の5つの要件を満たすことを求めており、検討にあたっては社内の各部門やステークホルダーとの対話・協議が推奨されています(本ガイドライン案3.1)。

  • ① 企業のトップを含む経営陣で承認されていること
  • ② 企業内外の専門的な情報・知見を参照した上で作成されていること
  • ③ 従業員、取引先、及び企業の事業、製品又はサービスに直接関わる他の関係者に対する人権尊重への企業の期待が明記されていること
  • ④ 一般に公開されており、全ての従業員、取引先及び他の関係者に向けて社内外にわたり周知されていること
  • ⑤ 企業全体に人権方針を定着させるために必要な事業方針及び手続に、人権方針が反映されていること
イ 人権デュー・ディリジェンスの実施

 本ガイドライン案は、以下のプロセスにおいて、企業が自社のサプライチェーンを対象とした人権デュー・ディリジェンスを行うことを求めています。また、このような人権デュー・ディリジェンスのプロセスは1回だけでなく、新規取引開始時や事業環境の変化等の場合にも実施すべきであるとされています。

  • リスクが重大な事業領域の特定
  •  セクターのリスク、製品・サービスのリスク、地域リスク、企業固有のリスクといったリスク要素を考慮し、人権への負の影響※1が生じる可能性が高く、リスクが重大であると考えられる事業領域を特定します。その上で、事業領域ごとに自社のビジネスの各工程において、人権への負の影響がどのように発生し、自社とどのように関わりを有しているかを特定します(本ガイドライン案4.1.1)。
  • 負の影響への対応の優先順位付け
  •  特定された人権への負の影響について、人権への負の影響の規模、範囲、救済困難度という3つの基準をふまえて、対応の優先順位を判断します(本ガイドライン案4.1.3)。
  • 負の影響を防止・軽減するための措置
  •  企業活動により人権への負の影響が引き起こされ、又は助長されている場合には、これを防止・軽減するための措置をとることが求められます(本ガイドライン案4.2.1.1)。一方で、(企業活動と人権への負の影響の関わりが上記ほど強い場合とはいえないものの)自社の事業等が人権の負の影響に直接関連している場合にも、状況に応じて自社の影響力を行使して負の影響の軽減に努めることが推奨されます(本ガイドライン案4.2.1.2)。ただし、取引停止を行うことにより負の影響それ自体が解消されず、相手企業の経営状況が悪化して従業員の雇用が失われる可能性があるなど、人権への負の影響がさらに深刻になる可能性もあることから、取引停止は最後の手段として検討されるべきことが記載されています(本ガイドライン案4.2.1.3)。
  • 取組みの実効性に関する評価
  •  企業は、サプライヤーへの監査等を通じて、人権への負の影響の特定・評価や防止・軽減等の対応状況を評価することが求められます(本ガイドライン案4.3)。
  • 公表
  •  企業は、人権の負の影響への対処方法等について、1年に1回以上の頻度で公表・情報提供を行うことが求められており、その内容は、関与した特定の人権への影響事例への企業の対応が適切であったかどうかを評価するのに十分な情報であるべきであるとされています(本ガイドライン案4.4)。

 また、本ガイドライン案では、人権デュー・ディリジェンスを実施するにあたっての留意点として、脆弱な立場にあるステークホルダー(技能実習生等)が深刻な負の影響を受けやすいため特別な注意を払うことが望ましいこと(本ガイドライン案4.1.2.2)、紛争等の影響を受ける地域において企業活動が意図せず紛争等に加担してしまう可能性があることや、撤退に際しての配慮が必要になることに鑑み、高いリスクに応じた人権デュー・ディリジェンスが必要であること(本ガイドライン案4.1.2.4、4.2.2)、構造的問題(マイノリティー集団に対する差別等、企業による制御可能な範囲を超える社会問題等により広範に見られる問題)についても可能な限り取組みを進めることが期待されること(本ガイドライン案4.2.3)についても記載しています。

ウ 救済手段(苦情処理メカニズム)

 本ガイドライン案は、個人や集団が、企業から受ける負の影響について、懸念を提起し、救済を求めることができるよう、苦情処理システムを確立するか、業界団体等が設置する苦情処理メカニズムに参加することを求めています(本ガイドライン案5.1)。

3. 今後企業に求められる対応

 本ガイドライン案によれば、企業は①人権方針の策定、②人権デュー・ディリジェンス、③苦情処理メカニズムの設置が求められることになります。これから人権デュー・ディリジェンスへの取組みを始める企業にとっては、自社のサプライチェーンにおける一次的な優先対応分野の策定を行うことが優先順位付けのためのファーストステップとして重要ですし、また、すでに取組みを始めている企業にとっても本ガイドライン案をふまえて改めて自社の取組みを見直すことが有益と考えられます。

 なお、人権リスクとの関連では、米国ウイグル強制労働防止法(UFLPA)に基づく輸入禁止措置が本年6月21日から開始され、同法の執行策をまとめたUFLPA戦略が公表される※2などしており、米国輸出製品との関係では同法の執行も見据えて対応が必要になるなど、各国法の動向にも留意しておく必要があります。

脚注一覧

※1
最も深刻度が高いと言われるものとして強制労働や児童労働等が挙げられています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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