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ウクライナ危機アップデート 米国における対ロシア制裁の追加

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

NO&T Europe Legal Update 欧州最新法律情報

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 ロシアによるウクライナ侵攻が終息しない中、米国が追加の対ロシア制裁を相次いで発表しています。2022年5月24日までに米国で取られた制裁措置については、当事務所の米国最新法律情報No.76/欧州最新法律情報No.13でご紹介いたしましたが、本ニュースレターでは、その後の米国における経済制裁措置のアップデートを概説いたします。

 本ニュースレターは2022年8月11日時点の情報に基づいており、ロシアに対する経済制裁措置を巡る状況は日々目まぐるしく変動しています。当事務所では、ロシア・ウクライナ危機対応に関する専用のお問い合わせ窓口を設けていますので、最新情報については以下の専用メールアドレスまでお問い合わせください。

 ロシア・ウクライナ危機対応 相談窓口:russia-support@noandt.com

輸出管理規則改正によるロシア及びベラルーシに対する輸出規制の強化

 米国商務省産業安全保障局(the US Commerce Department’s Bureau of Industry and Security)(BIS)は、2022年6月2日、ロシア及びベラルーシに対する輸出管理を強化する、輸出管理規則(Export Administration Regulations)(EAR)の改正※1を発表しました。主要な項目は以下の通りです。

(1) 軍事エンドユーズ・エンドユーザールールの変更

 輸出等の対象品目が、ロシア又はベラルーシにおいて軍事エンドユーズ(military end use)で使用される又は軍事エンドユーザー(military end user)によって使用される場合に許可を必要とするルールについて、EAR99に該当する食料及び医薬品については例外的に許可が不要とされていましたが、当該例外規定が削除されました。これにより、EAR99に該当する食料及び医薬品の輸出等の許可はケース・バイ・ケースで判断されますが、例外としてロシアのForeign Intelligence Service、Federal Security Service及びMain Intelligence Directorateに関する取引についてはpolicy of denial(原則不許可)の基準で判断されます。

 また、上記EAR99に該当する食料及び医薬品について輸出許可を必要とするルールは、ロシア市民、クリミア地域、いわゆるドネツク人民共和国及びルハンスク人民共和国を含むウクライナの一定地域の人民の使用及び利益のための輸出等については適用されないことも明確化され、これらの取引については引き続きBISの許可は不要です。もっとも、米国人が関連する取引については、一般的にSDNリスト等別途OFAC(Office of Foreign Assets Control)の規制の対象となる点、留意が必要です。

(2) 許可申請についての原則及び例外の明確化

 ロシア、ベラルーシに加え、クリミア地域並びにいわゆるドネツク人民共和国及びルハンスク人民共和国を含むウクライナの一定地域に対する、EARで規制される対象品目の輸出等を申請する場合にはpolicy of denial(原則不許可)の基準で判断されること、但し、航空安全、海運安全、民生用原子力安全、人道支援、政府宇宙協力、米国企業又はEARにおいて特定された同盟国に本店を置く企業のみにより所有される民間電気通信インフラを支援するもの、及び政府間の活動については、ケース・バイ・ケースで判断される旨が明確化されました。

エンティティリストの更新※2

 EARで規制されるすべての製品について、BISの発行するエンティティリストに記載されたエンティティが取引の当事者となる場合、BISの許可を得ない限り輸出等が禁止され、許可の可否は原則policy of denial(原則不許可)の基準で判断されます。これまでもロシア及びベラルーシ関係者がエンティティリストに追加されてきましたが、ロシアの戦闘に協力しているとみなされたエンティティを含むエンティティリストの更新は続いています。エンティティリストに記載されるエンティティのうち、航空機製造業者、造船業者、電子機器製造業者を含む一定のエンティティは、エンティティリストの脚注3において指定され、ロシア及びベラルーシ軍事エンドユーザー外国製直接製品ルール(Russia/Belarus Military End User foreign-produced direct product rule)が適用されます※3

大統領令14066、14068及び14071において禁止の対象となる「新しい投資」についてOFACからの見解の提示

 2022年6月6日及び9日、OFACは、大統領令14066、14068及び14071(大統領令14066は「米国人によるロシアのエナジーセクターへの新たな投資」を、大統領令14068は「財務長官によって決定されるロシア経済の一定のセクターへの新たな投資」を、大統領令14071は「米国人によるロシアへの新たな投資」を禁止しています)において、何が禁止の対象となる「新しい投資」に該当するかについて見解を示しました。

(1) 「新しい投資」の意味

 「新しい投資」という用語について、「投資」とは、収益又は価値の増加を生み出すための資金その他の資産のコミットメントを意味し、「新しい」投資とは、各大統領令発効日以降になされたコミットメントを意味するとしています※4。「新しい投資」には、各大統領令発効日以降に締結された契約に基づくコミットメントのみならず、発効日前に締結された契約に基づく権利の行使であっても、コミットメントが発効日以降になされた場合はこれに含まれるとしています。「新しい投資」には、発効日前に行われたロシアへの投資を維持(maintain)することは含まれない点については(2)をご参照ください。

「新しい投資」として禁止される例
  • ロシア国内の不動産の購入・取得(非商業的個人使用を除く)
  • ロシア国内のプロジェクト又は事業の設立若しくは拡張のために資金その他の資産の拠出を要する契約の締結。ロシア国内におけるジョイントベンチャーその他の企業体の設立を含む。
  • ロシアにおけるロイヤルティ又は継続収益への参加を提供する契約の締結
  • ロシア国内に所在する者に対する商業目的での資金貸付。ロシアにおける新規若しくは拡張プロジェクト又は事業に資金が予定される場合を含む。
  • ロシア国内に所在するエンティティの持分の購入(下記(3)ご参照)
  • ロシア国内における天然資源権益の取得又はその採掘権の取得
「新しい投資」に含まれない例
  • 通常の商業的売買の条件に基づく、ロシア向け又はロシアからの製品、サービス若しくは技術の輸出入又はこれらに関連する売買。また、これらの売買取引においては、信用状(Letter of Credit)、荷為替手形等の通常の貿易金融商品を利用することができる※5
  • 各大統領令発効日前からロシアに所在するプロジェクト又は事業を有する米国人の子会社及び関連会社に引き続き資金を提供すること。但し、子会社又は関連会社による資金の利用は、新しい又は拡大されるプロジェクト又は事業のためではなく、投資の「維持」と整合的である場合に限る※6
  • 既存の投資(ロシアにおけるエンティティ、プロジェクト又は事業への既存の投資を含む)の処分又は処分の促進に関連する取引。但し、当該取引には、OFACの許可がない限り、制裁対象者(Blocked Person)その他禁止された取引が関連してはならないとしています。また、米国人は、当該取引の買主側の活動(ロシアに所在するエンティティの持分の取得について買主に承認、融資、保証等を提供すること)を促進することが禁止されます※7
  • ロシア国外に所在するエンティティへの資金貸付又は当該エンティティの持分購入。但し、当該資金が特にロシアにおける新規プロジェクト又は事業のためのものではなく、かつ当該ロシア国外に所在するエンティティの収益が主にロシアにおける投資によるものではない場合に限る※8

(2) 「維持(maintenance)」活動として「新しい投資」とみなされない取引の種類※9

  • 従業員、供給業者、土地所有者、レンダー及びパートナーへの支払いを含む、ロシアに所在する既存のプロジェクト又は事業の継続性を確保するための取引
  • ロシアにおける既存の有形資産の保存及び維持
  • 既存の資本投資又はエクイティ出資の維持に関連する活動
  • 各大統領令発効日前に締結された契約の履行に通常付随する取引。但し、当該取引が既に確立された慣行に合致しており、既存のプロジェクトや事業をサポートするものであることを条件とする。

(3) ロシアのエンティティが発行する新規及び既存の負債及びエクイティ証券の購入の禁止※10

 米国人による、ロシアのエンティティが発行する新規又は既存の負債又はエクイティ証券の購入は新しい投資として禁止されます。但し、米国人がロシアのエンティティが発行する負債又はエクイティ証券を米国人以外の者に売却、処分又は売却若しくは処分を促進すること、及び預託証券を制裁の対象となっていないロシアの発行体の原株式に転換することは、禁止されません。

大統領令14071において禁止の対象となる「米国から又は米国人による、会計、信託、会社設立、マネジメントコンサルティングの、ロシアに所在する者への輸出、再輸出、販売又は供給」についてOFACからの見解の提示 

 大統領令14071及び2022年5月8日付けOFACの決定により、米国から又は米国人による、会計サービス、信託若しくは会社設立サービス、又はマネジメントコンサルティングサービスの、ロシアに所在する者への輸出、再輸出、販売又は供給が禁止されましたが、2022年6月9日、OFACから以下の見解が示されました※11

(1) 「ロシアに所在する者」、「輸出、再輸出、販売又は供給」の定義

 「ロシアに所在する者」とは、ロシア内の者、ロシアに通常居住する個人、ロシア又はロシア内の管轄の法に基づき設立又は組織されるエンティティを指すと定義されました※12。輸出、再輸出、販売又は供給には、間接的な輸出、再輸出、販売又は供給も含まれ、間接的なサービスの提供には、サービスの利益を最終的にロシアに所在する者が受領する場合を含みます。

 また、禁止されるサービスには、ロシアに所在する会社に対して、ロシアの会社の米国子会社又は米国人従業員を含む米国人により提供されるサービスを含みます※13

 ロシアに所在する者に所有され又は支配されていても、ロシア国外に所在し物理的にロシア国外で事業を行っている会社に対するサービスの輸出、再輸出、販売又は供給は禁止の対象とならないものの、サービスが更にロシアに所在する者に対して輸出又は再輸出されない場合に限るとされました※14

(2) 禁止されないサービスの例

  • 米国人がロシアの会社の取締役となること。但し、米国人が、ロシアに所在する者の代理として役員候補者、取締役、株主又は署名者となることは禁止される※15
  • ロシアの会社が米国人を従業員として雇用すること。但し、当該従業員が本決定に規定されるサービスを直接又は間接に提供することは禁止される(米国人によって直接又は間接に保有又はコントロールされるロシア所在のエンティティに対するサービス、ロシア人によって直接又は間接に保有又はコントロールされるのではないロシア所在のエンティティの解散又は処分に伴うサービスはこの禁止に含まれない)※16
  • 大学のオンラインによる会計、マネジングコンサルティング、信託又は会社設立についての授業をロシアに所在する者に提供するような、教育サービスの提供※17
  • 会計、マネジメントコンサルティング、信託/会社設立に関連するソフトウェアの輸出、再輸出、販売又は供給。当該ソフトウェアの輸出に関連するサービス(ソフトウェアのデザイン及びエンジニアリング等)※18

(3) 禁止されるサービスの例

  • 既存か新設かを問わず、信託及び会社設立サービスは禁止される。本決定により禁止されるロシアに所在する者に対する信託及び会社設立サービスは、サービスが新しい信託又は会社の設立のために提供されるか、既存の信託又は会社の管理又は維持のために提供されるかを問わない※19
  • 本決定により禁止されるマネジングコンサルティングサービスには、経営幹部のヘッドハンティング及び審査サービスが含まれる※20
  • ロシアに所在する者を代理して議決権を行使することを受託する、議決権信託の受託を禁じる※21
  • 税務申告サービスは「会計サービス」として禁止される(米国人によって直接又は間接に保有又はコントロールされるロシア所在のエンティティに対するサービス、ロシア人によって直接又は間接に保有又はコントロールされるのではないロシア所在のエンティティの解散又は処分に伴うサービスはこの禁止に含まれない)。但し、税務申告に関連するソフトウェアの輸出、再輸出、販売又は供給は禁止されない※22

脚注一覧

※3
本ルールの内容については米国最新法律情報No.70/欧州最新法律情報No.9ご参照。

※4
OFACのFAQ1049

※5
OFACのFAQ1051

※6
OFACのFAQ1052

※7
OFACのFAQ1053

※8
OFACのFAQ1055

※9
OFACのFAQ1050

※10
OFACのFAQ1054

※11
大統領令14071及び2022年5月8日付けOFAC決定の詳細な内容につきましては、米国最新法律情報No.76/欧州最新法律情報No.13をご参照ください。

※12
OFACのFAQ1058

※13
OFACのFAQ1061及びFAQ1062

※14
OFACのFAQ1059

※15
OFACのFAQ1060

※16
OFACのFAQ1061

※17
OFACのFAQ1066

※18
OFACのFAQ1067

※19
OFACのFAQ1063

※20
OFACのFAQ1064

※21
OFACのFAQ1065

※22
OFACのFAQ1068

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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