
佐々木修 Shu Sasaki
パートナー
東京
NO&T Finance Law Update 金融かわら版
ニュースレター
銀行の外国子会社の業務範囲規制と具体的事案の取扱い(2024年6月)
2021年11月22日、「新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律」(令和3年5月26日法律第46号)(以下「本改正」といいます。)が施行されました。本改正においては、外国業務に経営資源を投じ、「海外で稼ぐ力」の強化を目指す銀行・銀行グループを後押しする観点※1から、銀行の外国子会社※2・3の業務範囲について、以下のような緩和が行われています。
本ニュースレターでは、かかる銀行の外国子会社業務範囲規制の緩和について解説します。
本改正は、従来から存在する銀行グループによる外国会社買収時の特例措置を拡張するものですので、まず、前提として、従来の特例措置について説明します。
銀行が子会社とすることができる子会社対象会社は、法令上限定列挙されています(銀行法16条の2第1項参照)。そして、銀行法上、銀行の子会社の子会社(いわゆる孫会社以下の会社)は、銀行の子会社とみなすこととなっています(銀行法2条8項)。そのため、銀行グループが買収対象会社を子会社とする買収を実施する際には、買収対象会社のみならず、その子会社全てについて、銀行法上のどの条文に該当し、子会社として認められるのかを事前に整理しなければなりません。整理の結果、銀行法上子会社とすることができない会社が含まれている場合には、事前に、当該会社を買収対象会社から除外したり、問題となる業務を廃止することを求めたりする必要がありますので、実務上、買い手である銀行は、買収の申し入れにおいて一定の条件を付けざるを得ず、これにより日本の銀行が諸外国の銀行と競合する場合に不利な状況におかれているとの指摘がありました※4。
このような指摘を受け、金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成25年6月19日法律第45号)により、旧銀行法16条の2第4項から第6項が追加され、一定の要件を満たす買収の場合、買収対象グループの中に銀行法上の子会社対象会社でない会社が含まれていても、5年間は当該子会社対象会社でない外国の会社を銀行の子会社とすることができるようになりました。なお、一定の要件とは、以下の(a)~(d)のとおりです(旧銀行法16条の2第4項)。
なお、上記(d)の要件のうち5年の猶予期間については、一定の「やむを得ない事情」があると認められる場合には、期限が到来するまでに承認を受けることで1年猶予期間を延長あるいは再延長することも可能とされていました(旧銀行法16条の2第5項、第6項)。
上記のように本改正前においても外国会社買収時の特例措置は存在しましたが、国際競争力の強化を目指す銀行・銀行グループによる機動的な買収を実現し、現地において一体として付加価値を創造してきた外国会社・外国会社グループを不合理なかたちで分離・解体することを強いられないようにする観点※5から、本改正により、上記の要件が以下のように拡張されます(銀行法16条の2第6項1号※6、本改正前の要件との差分に下線を付しています。)。
ここで「外国特定金融関連業務会社」について補足すると、外国特定金融関連業務会社とは、金融関連業務のうち内閣府令で定めるものを主として営む外国の会社をいうと定義されており(銀行法16条の2第6項1号)、具体的には、貸金業、包括信用購入あっせん業務、個別信用購入あっせん業務及び一定の範囲のリース業務並びにこれらに附帯する業務を主として行う外国の会社をいいます(銀行法施行規則17条の4の4)。そして、ここにいう「主として」とは、総収入の50%以上をこれらの業務(すなわち、貸金業、包括信用購入あっせん業務、個別信用購入あっせん業務及び一定の範囲のリース業務並びにこれらに附帯する業務)から生じる収入が占めているか否かで判断されます(主要行等向けの総合的な監督指針Ⅴ-3-3-5(4))。このように収入の50%以上を一定の業務から得なければならないという制約こそあるものの、逆にいうと、総収入の50%未満の範囲内においては、従来銀行の子会社に認められてこなかったような一般事業を兼営することが可能であり、この点が今までの金融関連業務を専ら営む会社(銀行法16条の2第1項11号)とは大きく異なるといえます※9。すなわち、金融関連業務を専ら営む会社に該当しない会社であっても、外国特定金融関連業務会社に該当する場合があります。なお、外国特定金融関連業務会社を子会社とする場合には、その親会社を子会社とすることに認可が必要な場合を除き※10、認可が必要となります(銀行法16条の2第7項、第4項)。
なお、上記(d)の要件のうち10年の猶予期間については、一定の「やむを得ない事情」が認められる場合には、期限が到来するまでに承認を受けることで1年猶予期間を延長あるいは再延長することも可能という枠組みは従前と同様ですが、後述のとおり、子会社対象会社以外の外国の会社を恒久的に子会社とすることができる制度が新設されました。
上述(d)の要件のとおり、子会社業務範囲規制の適用猶予特例を受けた外国の子会社は、10年間の適用猶予(「やむを得ない事情」が認められる場合には1年ごとの延長も可)を受けますが、その期間内に所要の措置を講じる必要があります。この点、本改正により、銀行法16条の2第8項の承認(以下「恒久化承認」といいます※11。)を受けることにより、10年の猶予期間を超えて当該子会社対象会社以外の外国の会社を子会社とすることが認められることとなりました。
恒久化承認の要件は以下の①又は②のいずれかに該当することです(銀行法16条の2第9項1号、2号)。
いずれの要件においても、「競争力の確保その他の事情」に照らして、子会社対象会社以外の会社(すなわち、子会社業務範囲規制の適用猶予を受けている会社)の継続保有が必要であると認められるかが審査されることになりますが、この審査の際には以下のような事項が考慮要素となります(主要行等向けの総合的な監督指針Ⅴ-3-3-5(5))。
これらの考慮要素は例示であり、恒久化承認に当たっては、他の事情も斟酌されます。恒久化承認を得るためには、何故現地グループにおいて当該業務が必要なのか、その業務がない場合に競争上、どの程度劣位におかれてしまうのかといった点を当局に十分に説明する必要があるものと考えられます。
本改正により銀行グループがM&Aなどの買収により外国の会社を子会社とできるケースが大きく拡張されており、海外におけるビジネスを強化する銀行グループにとってはチャンスが拡大しているものと考えられます。
※1
2020年12月22日「金融審議会 銀行制度等ワーキング・グループ報告‐経済を力強く支える金融機能の確立に向けて‐」13頁参
※2
本ニュースレターでは、銀行の子会社について解説しますが、銀行の兄弟会社(すなわち、銀行持株会社の子会社)に関しても同様の改正が行われています。
※3
銀行の子会社のみならず、銀行法上の子法人等及び関連法人等に関しても、主要行等向けの総合的な監督指針において業務範囲規制に関する着眼点が示されています(同指針Ⅴ-3-3-1(3)①、Ⅴ-3-3-5(1)参照)。本ニュースレターに記載の銀行の子会社業務範囲規制の特例に関する記載は、基本的に銀行の子法人等及び関連法人等に対しても妥当するものと考えられます(同指針Ⅴ-3-3-5(7)参照)。
※4
「この点に関し、諸外国の銀行と日本の銀行が海外の金融機関の買収において競合する場合、入札時に子会社対象会社以外の会社を売却するとの条件を付けざるを得ない日本の銀行が不利な状況におかれ、海外市場への進出を阻害する要因となっているとの指摘がある。」2013年1月25日金融システム安定等に資する銀行規制等の在り方に関するワーキング・グループ「金融システム安定等に資する銀行規制等の見直しについて」18頁抜粋
※5
主要行等向けの総合的な監督指針Ⅴ-3-3-5(5)参照
※6
当該子会社対象会社以外の外国の会社が外国特定金融関連業務会社である場合には、(a)から(c)の要件を検討する必要はありません(銀行法16条の2第6項2号)。
※7
情報通信技術その他の技術を活用した当該銀行の営む銀行業の高度化若しくは当該銀行の利用者の利便の向上に資する業務若しくは地域の活性化、産業の生産性の向上その他の持続可能な社会の構築に資する業務又はこれらに資すると見込まれる業務を営む会社をいいます(銀行法16条の2第1項15号)。
※8
主要行等向けの総合的な監督指針Ⅴ-3-3-5(4)③において、「(c)当該会社の業務のうち子会社対象会社が営むことができない業務の廃止、当該業務に係る事業譲渡等により当該子会社を子会社対象会社とするための措置を講じたうえで、当該子会社対象会社となった会社を子会社とするために必要な認可等を受ける方法」が子会社対象外国会社等の認可申請書類に記載されているかが留意点として記載されたことから、10年間の猶予期間中に売却や清算等の方法により当該子会社対象会社以外の外国の会社を銀行の子会社に該当しないようにすることに加え、銀行法上問題となる業務のみを廃止したり、事業譲渡したりすることによって、当該子会社対象会社以外の外国の会社を「子会社対象会社」とする方法が認められることが明確化されました。
※9
本改正前であれば、買収対象会社を金融関連業務を専ら営む会社と整理する際には、「専ら」要件のため、対象会社が営む業務内容を全て洗い出し、金融関連業務に該当するかを確認する必要がありましたが、本改正後は貸金業、包括信用購入あっせん業務、個別信用購入あっせん業務及び一定のリース業務並びにこれらに附帯する業務の収入割合が確認できる場合、子会社管理の観点は別として、買収時における子会社業務範囲規制に係る整理としては、必ずしもこのような確認を行う必要はないものと思われます。
※10
銀行法16条の2第7項括弧書参照
※11
主要行等向けの総合的な監督指針Ⅴ-3-3-5(5)でも同様の定義が使われています。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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