
箕輪俊介 Shunsuke Minowa
パートナー
バンコク
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フィリピンでは近年外資規制の緩和を積極的に行っているが、2022年12月より再生可能エネルギーの分野でも外資規制の緩和がなされたため、本稿にて紹介したい。
2022年は一年を通じてフィリピンにて外資規制の緩和が見られた年であった。
2022年の前半に任期を満了したドゥテルテ前大統領は、外資規制の緩和を政策の一つとして掲げていたこともあり、任期を終える直前に外資規制に関する重要度の高い法改正を相次いで行った。1月には小売自由化法が改正され、小売業における外資規制が大幅に緩和された。また、3月には公共サービス法(the Public Service Act)が改正され、外資規制の対象となる公益事業の範囲が具体的に規定された。これにより、従前は公共サービスに含まれるものとして考えられていた通信、海上・航空輸送、鉄道等の事業は公共サービスに該当しないことが明らかとなり、外資規制の対象外であることが明確化された。
ドゥテルテ前大統領の後任として就任したマルコス現大統領は、投資環境整備の強化については前政権の政策を踏襲しつつ、前政権の政策に加えて新たに、環境分野の雇用創出のため、グリーンエコノミー・ブルーエコノミーを推進すること、持続可能な資源の活用や持続可能なコミュニティーの創出を目指すことを明言している。
現在のフィリピンの電力事情は、他の多くの国と同様に、石炭・石油・天然ガスといった化石燃料を利用した火力発電が電源構成の主流である。フィリピン・エネルギー省が公表している統計によれば、2021年時点で化石燃料を利用した火力発電の設備容量が他の発電方式を含めた全設備容量の70%強に及ぶ。水力発電が14%強、地熱発電が7%強と続き、残りの10%弱が太陽光・風力・バイオマスにて構成されている。
このような現状の中、フィリピン政府は以下の理由で、化石燃料を利用した発電から再生可能エネルギーへの転換を図っている。
フィリピン政府が公表している国家再生可能エネルギー計画では、2030年までに再生可能エネルギーの割合を35%以上、2040年までに50%以上に到達させることを目標としている。
上記の事情もあり、再生可能エネルギー分野の活性化のためにフィリピンでは近年段階的に再生可能エネルギー分野にて外資規制の緩和が積極的に行われている。
フィリピンでは、従前、再生可能エネルギー事業への外資の出資は40%までに制限されていた。
これに対して、フィリピン政府は2019年にバイオマス発電事業、2020年に大規模な地熱発電事業※1についてそれぞれ外資規制を緩和し、外資系企業による100%の出資を認める市場開放政策を採った。
これに加えて、2022年11月15日にフィリピン・エネルギー省は再生可能エネルギー法施行規則を改正することを公示し、これにより太陽光、風力、水力及び海洋・潮力発電事業による外資の出資制限が撤廃され、外資100%による事業進出が可能となった。法改正の詳細は以下のとおりである。
上記の再生可能エネルギー法施行規則の改正は2022年12月8日に発効した。フィリピンにおける再生可能エネルギー事業では、上記のとおり水力や地熱を利用した発電事業の割合が多いが、過去10年で太陽光発電の増設も進んでいる。ウッドチップの調達が容易である東南アジアでは全体的にバイオマス発電事業は増加の傾向にあり、日本や台湾でも近年では洋上風力のプロジェクトが増えている。フィリピンでも今後は外資事業によるこれらの事業への進出が期待されている。
日本とフィリピンは2国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism :JCM)のパートナー国である。JCMを利用することにより、日系企業はフィリピンでのプロジェクトを通じて取得したクレジットを温室効果ガス削減目標達成に活用することもできるため、JCMの利用も視野に入れてより多くの日系の事業者がフィリピンにてクリーンエネルギープロジェクトに関与することが期待される。
※1
初期投資額が5,000万米国ドル(2023年1月時点のレートでおよそ65億円)以上のもので、かつ、政府との間で締結する技術又は資金の支援に関する契約を通じて行う事業
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