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対抗の時代:中国の半導体原材料及びドローン等の輸出制限の法的影響と対応策

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NO&T International Trade Legal Update 国際通商・経済安全保障ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2023年7月3日に、中国商務部等2部門は、半導体、通信、電気自動車産業の原材料となる金属であるガリウムとゲルマニウム及びそれらの関連化合物の輸出を制限することを公表し、8月1日から施行されることとなった(以下「半導体等原材料輸出規制」という。)。また、7月31日には、中国商務部等4部門が、特定スペックを満たすドローン及び関連機器の輸出を規制すると公表し、9月1日から施行されることとなっている(以下「ドローン等輸出規制」という。)。本稿では、同措置の概要、WTOルールとの関係及び日本企業に及ぼす影響と対応策について考察する。

1. 規制の概要

(1) 規制対象

(a) 半導体等原材料輸出規制

 半導体等原材料輸出規制の対象となるのは、ガリウム関連が金属ガリウムや酸化ガリウム等8種類、ゲルマニウム関連が金属ゲルマニウム等6種類であり、詳細は別表1(※)の通りである。これらの規制対象品目については輸出する場合には許可が必要となる。

(※)別表1はPDF内に掲載しておりますので、「全文ダウンロード(PDF)」よりご覧ください。

 ガリウム関連品目は、半導体材料、半導体発光コンポーネント、集積回路、トランジスタ、5G及び国防通信無線周波数デバイス、CIGS薄膜太陽電池等の製造に必要な原料であり、特にヒ化ガリウム及び窒化ガリウムは、半導体の原材料としての重要性が高いとされている。中国は世界のガリウムの埋蔵量の80-85%を占めており、関連製品の生産量は90%以上とされている。

 ゲルマニウム関連品目は、赤外線光学、光ファイバー通信、太陽光電池、触媒等に利用される。中国は世界のゲルマニウムの埋蔵量の41%を占めるが(米国が45%)、中国以外ではゲルマニウムの採掘が限定的にしか行われていないため、中国の生産量は70%近いとされている。

(b) ドローン等輸出規制

 ドローン等輸出規制の対象となるのは、一定の要件(①操縦者の自然視界外での飛行が可能、②飛行可能時間が30分以上、③離陸時の重量が7kg以上又はドローン本体の重量が4kg以上の条件を満たし、④レーザーセンサーや投擲装置等を備えている。)を満たすドローン本体と、最大持続動力が16KWを超えるドローン用エンジン、赤外線撮像装置等特定の技術仕様を満たすドローンの積荷(ペイロード)、無線通信設備、民生用反ドローンシステム等の関連機器であり、詳細は別表2-1(ドローン関連機器)及び2-2(ドローン)(※)の通りである。

(※)別表2-1及び2-2はPDF内に掲載しておりますので、「全文ダウンロード(PDF)」よりご覧ください。

 ドローン等輸出規制は、上記規制品目については一般的に輸出する場合の許可を必要としているが、規制品目に該当しないドローンについても、2年間の臨時規制期間を設け、当該期間内にドローンの用途が武器拡散、テロリズム活動及び軍事目的であると知り又は知るべき場合の輸出を禁止している。

 中国はドローン大国として知られており、トップメーカーであるDJIをはじめ、民生用ドローンでは世界の7割以上のシェアを占めているとされている。

(2) 規制根拠

 商務部等の公告によれば、半導体等原材料及びドローン等(以下「本件対象品目」という。)の輸出規制の根拠となるのは、いずれも輸出管理法、対外貿易法及び税関法とされている。対外貿易法は貨物及び技術の輸出入及び国際間の役務の取引を規制する一般法であり(同法2条参照)、輸出管理法は、デュアルユース及び軍事用の技術等に関して、国家安全及び武器拡散防止の観点から制定された特別法の位置づけであるから(同法2条参照)、同法に基づく手続が優先される関係にあり、公告で輸出管理法が規制根拠のトップに挙げられていることも同法の優先適用を裏付けている。

 輸出管理法9条1項では、輸出規制管理部門は規制品目に関する輸出管理リストを作成及び変更できるとされており、同2項では、規制品目以外の物品及び技術等についても、2年以内の臨時規制期間を設けることができるとされている。9月のドローン等輸出規制では、規制品目外のドローンについても臨時規制期間が設けられ、一定の制約を受けることとなった。

 なお、同法10条では、規制品目について、一般的に輸出を禁止すること又は特定の国と地域又は組織と個人に輸出を禁止することができるとされている。この点、今回の規制では、本件対象品目のいずれについても、輸出を禁止するのではなく、輸出する際に当局に許可を申請する必要があることと留めており、当局も「特定の国を想定した規制ではない」と発言している。

(3) 許可申請手続

 規制品目となった半導体等原材料及びドローン等については、輸出しようとする者(「輸出経営者」)は、各地域の商務関連当局を通じて商務部に対して輸出許可申請を行う必要があり、その際は「両用品目及び技術輸出申請書」を提出するほか、添付資料として輸出に関する契約、輸出品目に関する技術の説明のほか、エンドユーザー及び最終用途の証明、輸入者及びエンドユーザーの説明等を提供する必要がある。商務部は申請を受領してから審査を行い、原則として自ら許可又は不許可の決定を下すが、「国家安全に重大な影響を及ぼす輸出」の場合は、国務院の承認を得てから許可の決定を下すこととなる。

(4) 違反した場合の処罰

 上記輸出許可を得ずに、又は輸出許可の範囲を超えて輸出する等違法行為を行った場合は、原則として行政罰として、輸出管理法に基づき、違法行為の停止、違法所得の没収のほか、違法経営に係る金額が50万人民元以上の場合は同金額の5倍以上10倍以下の制裁金(未満の場合は50万人民元以上500万人民元以下の制裁金)を課されるほか、情状が悪質の場合は、営業停止又は輸出入の資格の取消等の処罰が課されうる(同34条)。また、輸出当事者以外にも、輸出が違法であることを明らかに知った上で同輸出を幇助する行為(輸送を代理する行為及び金融の提供等)を行った者に対しても処罰が課されうる(同36条)。

2. 国際通商ルールとの関係

 WTO協定を基本とする国際通商ルール上、物品の輸出入制限は原則としては禁止されており(関税及び貿易に関する一般協定(以下「GATT」という。)11条1項)、例外ルールに準拠する限りにおいて正当な輸出制限として取り扱われる。本件対象品目にも同様のことが当てはまる。したがって、本件規制の当否自体は勿論、その今後の運用と国際ビジネスへの影響を考える上では、例外ルールの要件を満たすことができるかがポイントとなる。

 振り返ると、中国は、WTOに加盟した2001年以降も鉱物資源について輸出割当等の輸出制限を実施してきたが、これまで2度にわたってWTO紛争処理手続でも争われ(いわゆる「原材料事件」※1及び「レアアース事件」※2)、結果的に中国はいずれの事案でも敗訴し、WTOの紛争解決機関が出した是正勧告に従う形で、問題の輸出制限を撤廃した。当時中国は、比較的措置国の裁量が広い安全保障例外ルール(GATT21条(b)号)を援用できず、有限天然資源の保存に関する一般的例外ルール(GATT20条(g)号)等の例外ルールを援用したが、二審制の中での上訴機関である上級委員会も含めてその主張は認められず、中国は輸出制限を維持できなかったのである。もっとも、最初の申立国による紛争処理の申立てがあってから輸出制限措置の廃止までに、原材料事件では約3年半、レアアース事件では約3年、それぞれかかった。

 その後、中国は2020年1月に輸出管理法を制定したが、今般ついに、本件規制により、「レアメタル」の一種であるガリウムとゲルマニウムの関連製品及び特定のスペックを満たすドローン及び関連機器が、輸出管理法上の輸出許可対象に加えられたことになる。その間、米国は、2022年8月、CHIPS及び科学法を成立させ半導体産業の国内誘致に巨額の補助金を供与するための法整備を実行し、さらに同年10月、半導体等及び関連するソフトウェア・技術に関する輸出管理規制の大幅強化に踏切った。中国は同年12月、一連の対中輸出管理措置の強化をWTO協定違反だとしてWTOに直ちに提訴した。米国の動きに呼応して、2023年に入り、オランダ及び日本両政府は半導体製造装置の輸出規制の強化を打ち出した。(CHIPS及び科学法による補助金は一旦置いておくとしても)これら一連の半導体関連の輸出管理強化の動きは相互連関していると見られ、中国の立場からすれば、米欧日の「先行攻撃」が行われている中、それらを牽制する黙示的な「対抗措置」であるとして、国際情勢的にも新たな具体的措置を打ち出しやすい環境が整ったという側面もある。

 このように、過去の中国産鉱物資源をめぐる通商紛争の歴史と帰結、GATTの一般的例外と安全保障例外の区別、更には昨今の米中対立に端を発する安全保障関連措置の増加という世界情勢の変化を念頭におくと、本件規制は、過去の中国による鉱物資源への輸出制限措置とは質的に異なっており、供給不安リスクが過去に例を見ない段階に入っていることが理解できよう(但し、現時点では、措置対象が中国が強みを持つ原材料及び機器類に限られている。)。

 なお、GATT21条(特に(b)号※3)の安全保障例外との関係では、以下の2点に留意が必要である。第一に、最近のWTO紛争処理での先例によれば、安全保障措置の実施国が安全保障のために必要だと見なしさえすれば自動的に措置が許容されるわけではないという意味で、措置国の完全な裁量権は否定的に捉えられていることから、措置国の高度な政治的判断の中にも、ルールによる規律は生きている。すなわち、同号柱書の「締約国が・・・必要であると認める」という文言にかかわらず、同号の各サブパラグラフ((i)~(iii))の要件充足性は客観的に満たされなければ、例外として許容されないと考えられている。

 第二に、より具体的には、同号サブパラグラフ(ii)との関係では、本件対象品目のようなデュアルユース品目については、後段の「軍事施設への供給関連取引」に該当することについて、個別の輸出許可申請事案ごとに、当局は慎重に判断をしなければならないため、本件規制の今後の中国当局による運用実態を注視する必要がある。また、(iii)は、「その他の国際関係の緊急時」の定義は難しいが、最近の先例の解釈に従っても、偶発的な武力衝突等があったにすぎない場合であっても、それが輸出制限措置の理由とされる可能性は否定できない。

3. 中国による今後の対抗措置の動向及び日本企業の留意点

 上記の通り、米中対立が激化する一方で、今年からは日本が米国、オランダと共に半導体製造装置の輸出規制の強化を打ち出したことで、年初以来中国は対抗の動きを加速化させており、日本も対象国として意識されるようになっている。

 本件対象品目のうち、特に半導体原材料であるガリウムの輸出規制については、日本は最も影響を受ける国の一つであると指摘されている。日本企業はガリウムの精製技術を多く保有しており、これまで中国から低純度のガリウムを輸入して精製することが多く行われてきたためである※4

 もっとも、それ以外の対象品目を含め、日本及び中国はいずれもWTO加盟国であり、輸出制限は安全保障目的等の限定的な範囲内でのみ認められる※5。日本企業としては、民生用目的が明らかであれば輸出許可が得られることを前提に、中国の輸出元に粛々と輸出申請をしてもらうことが一次的に考えられるが、(明らかに民生用目的にもかかわらず)輸出許可が得られない事態が継続すれば、日本政府を通じた働きかけや、WTO協定との整合性を検討する動きも出てくる可能性がある(もっとも、上記の通り、WTOへの提訴を通じた問題解決は一定の時間がかかるうえ、安全保障例外の絡む事案では、高度の政治性ゆえに、違反を立証するハードルも高くなる。)。

 他方で、中国として輸出規制を実際にどのように運用するかを予測するのは必ずしも容易ではない。輸出者にとっては、せっかく世界的に大きなシェアを獲得した製品を輸出できないことは損害となりうるため、許可を得て輸出を行おうとするインセンティブが働く。また、輸入者が日本企業である場合、日本側の7月23日から施行した半導体製造機器/技術の輸出規制の実施状況とも連動すると思われ、両国の規制当局のにらみ合いが続く可能性もある。中国の国内報道が引用した中国の前商務部副長官の発言※6が示唆するように、現在公表されている以外の対抗措置も、随時施行される可能性がある。

脚注一覧

※1
Appellate Body Reports, China — Measures Related to the Exportation of Various Raw Materials, WT/DS394/AB/R, WT/DS395/AB/R, WT/DS398/AB/R (January 30, 2012)。 ボーキサイト、コークス、蛍石、マグネシウム、マンガン、炭化ケイ素、金属ケイ素、黄リン、亜鉛の9種類の鉱物資源に対する中国による各種の輸出規制が争われた。

※2
Appellate Body Reports, China — Measures Related to the Exportation of Rare Earths, Tungsten and Molybdenum, WT/DS431/AB/R, WT/DS432/AB/R, WT/DS433/AB/R (August 7, 2014)。各種形態のレアアース(希土類)、タングステン及びモリブデンに対する中国による各種輸出規制が争われた。なお、これら三品目はいずれも「レアメタル」の一種であるが、本件規制が対象とするガリウム及びゲルマニウムも「レアメタル」の一種である。

※3
GATT21条(b)号は、「武器、弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び原料の取引に関する措置」(同号(ii))又は、「戦時その他の国際関係の緊急時に執る措置」(同号(iii))であって、「締約国が自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める」(同号柱書)措置を、安全保障のための例外として執ることができると定めている(なお、同号(i)は核物質に関する措置。)。

※4
一部報道によれば、日本はガリウムの6割を輸入に依存しており、そのうちの7割は中国から輸入しているとのことである。

※5
この点は、日本からの輸出規制についても同様に当てはまる。

※6
半導体等原材料の輸出規制が公表された7月初旬の「中国日報」に掲載された中国の前商務部副長官の魏建国氏の発言によれば「(同輸出規制は)中国による対抗措置の始まりに過ぎず、制裁手段と種類は多様である。中国向けの先端技術規制が進めば、中国の対抗措置も更に強化されるはずである。」とされている。(https://cn.chinadaily.com.cn/a/202307/05/WS64a51565a310ba94c5614f5a.html

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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