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ニュースレター

債務超過会社の株主価値―完全子会社化を伴う私的整理における債権者と株主の利益についての考え方―

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 コロナ禍によって事業や財政状態が毀損した企業の再生が課題となる近時、実質的に債務超過状態にある上場会社をスポンサーが完全子会社化する(つまり既存株主の保有する株式を全てスポンサーが取得する)ことで、その経営再建を図る事例が増加しつつある。

 こうした事例では、事業再生ADR手続等の準則型私的整理手続を通じた金融債権者(金融機関)を対象とする債務リストラクチャリング(債務免除による金融支援)によって過剰債務を解消するとともに、スポンサー支援を通じて資本を拡充し手元資金を確保した上で、対象会社の上場を廃止してスポンサーの完全子会社となり抜本的な再建プロセスが講じられることになる。

 その際、資本を提供するスポンサーの立場からは、既存株主に相応の負担を求めるのはもちろんのこと、スポンサーによる出資資金が既存の金融債権者への返済に充てられるという事態は受け入れがたく、出資の条件としてこれらの既存債権者に対し金融支援(債権放棄・債務免除)を求める場合も多い。他方、債務免除に応じる既存債権者からは、対象会社が実質債務超過であり既存債権者に金融支援を求める以上、株主責任として既存株主が把握する価値(スクイーズアウト価格)はゼロとすべきとの主張が私的整理の中でなされることも多い。このように、完全子会社化を伴う私的整理において、既存債権者と既存株主の利益についてどのように考えるかは大変難しい問題である。

 そこで本ニュースレターでは、完全子会社化を伴う私的整理におけるスクイーズアウト手続において、既存株主に帰属すべき価値についての考え方を整理してみたい。

債務整理を伴う完全子会社化のための手法

 まず、既存の金融債権者との利益調整・金融支援に関する交渉は、事業再生ADR手続等の準則型私的整理手続※1を通じて、当該手続の対象となる金融債権者(以下「対象債権者」)全員の同意により行われることが考えられる。他方、スポンサー以外の既存株主※2の保有する株式を全部取得して完全子会社化するためには、平常時の会社であれば公開買付け(TOB)及びその後のスクイーズアウト(いわゆる二段階買収)という手法が用いられるのが一般的である。しかしながら、TOBを前置する二段階買収にあたっては、一定数の株主がTOBに応募することが前提となる。すなわち、二段階買収による完全子会社化のためには、TOBの後に株式併合又は特別支配株主による株式等売渡請求を利用した少数株主のスクイーズアウトの手続が必要になるところ、それぞれ、スポンサーが3分の2超又は90%以上の議決権を取得することが前提となる。この点、スポンサーの経済合理性を考慮すると、実質債務超過の状態にある会社に対して、既存株主にとって魅力的なプレミアムを付した価格でTOBを実施できる事態は想定し難く、第一段階のTOBにおいて相当数の応募を確保することは難しい(大株主がディスカウントTOBに応じる意向を示しているような特殊なケースに限られる)。また、対象会社とすれば、会社の資本拡充・手元資金の確保が必要な局面であるにもかかわらず、スポンサーの買収資金の相当割合が既存株主に配分され、対象会社への払い込みが行われないTOBはその資金需要に対応できないという問題もある。

 そのため、危機時期において対象会社を完全子会社化する手法としては、「スポンサーに対する第三者割当と、その後のスクイーズアウト」という手法が有力候補となる。その際、既存債権者との財務リストラクチャリングを通じた利益調整が必要となる場合、かかる手続に事業再生ADR手続等の準則型私的整理手続を組み合わせるということになる(以下「第三者割当増資・スクイーズアウトと私的整理の併存型」)。

 近時の実例としても、スポンサーに対する第三者割当増資を前置してスクイーズアウトを行ったパイオニア※3に端を発し、第三者割当増資・スクイーズアウトと事業再生ADR手続等による私的整理の併存型の事例であるワタベウェディング※4、佐渡汽船※5、日医工※6と、複数の事例がこれに続いており、こうした再建手法が、既存債権者の債務整理を伴いつつ対象会社の上場を廃止し、完全子会社化する手法として定着しつつある。

既存株主が得るべき利益についての基本的な考え方

 こうした第三者割当増資・スクイーズアウトと私的整理の併存型の再建手法がとられる場合に、既存株主が得るべき利益、すなわち、スクイーズアウト手続において既存株主に帰属すべき価値についてどのように考えるべきか。

 そもそも、スクイーズアウト手続において既存株主に支払われる対価(以下「スクイーズアウト価格」)について、とりわけ私的整理を始めとする事業再生局面では、債権放棄等の金融支援に応じる対象債権者から、株主責任を問う意味で、「スクイーズアウト価格はゼロ又は備忘的価格であるべきである」という指摘がなされることがある。その指摘の理論的背景には、債務超過の状態にある株式会社については、その時点で法的整理手続がなされたとすれば株主は残余財産の分配を受領することはできないから、既存株主に帰属すべき価値はゼロであるとの考え方(いわゆる会社倒産時の絶対優先原則)があると思われる。また、資金を提供するスポンサーの立場からも、既存株主に支払われるスクイーズアウト価格は可能な限り低い価格とすることが望ましいともいえる。

 しかしながら、上記の実例では、それぞれのスクイーズアウト手続において、既存株主に対して一定の対価が支払われており※7、少なくとも実例においては、債務超過状態である場合に既存株主に帰属すべき価値がゼロであると単純に捉えられているわけではない※8。また、特に対象会社が上場会社である場合、実質債務超過であるからといって必ずしも株価がゼロとなっているわけではなく、市場の評価としても、そのような状態の株式にある程度の価値が見いだされているともいえる。

 この点、会社法学説においても、理論的には、株式会社が実質債務超過(現時点で評価した継続企業価値が負債の額を下回る場合)の状態にあっても、その株式は無価値になるとは限らないと考えられている。すなわち、将来業績が好転するとか、あるいは増資や債務の一部免除を受けるなどの財務ストラクチャリングを通じて、株式の無償取得をしなくても実質債務超過を解消する可能性がある場合には、株式はいわゆるオプションバリューとして正の価値を有すると考えられている※9。こうした場合のスクイーズアウト価格はまさにこのオプションバリューを加味した結果として、実質債務超過であってもゼロにはならないこととなる。もっとも、会社が実質債務超過であり、かつ、株式の無償取得をしなければそれを解消する見込みがない場合(無償取得をしないと新たな出資が得られないため、会社は資金不足で倒産を免れない場合など)には、もはや株式にはオプションとしての価値もなく、その価値はゼロになると考えられている※10

 上記の会社法学説における「財務ストラクチャリングを通じて、株式の無償取得をしなくても実質債務超過を解消する可能性がある場合」に株式に正の価値を認めるということは、言い換えると、既存株主が有する債務免除に対する期待利益を根拠にオプションバリューを認めるということになる。

 この点、実際の裁判例においてもかかる考え方が採用されたものがある。これは、「対象会社の債権者が、債務者である対象会社の事業の継続を前提として、長期に渡り債権の回収を行っていない場合には、対象会社の有する当該債務の全部又は一部に債務免除に対する期待利益が存在するといえ、これを対象会社の将来の業績の見通しに関する事情として考慮し、利害関係参加人の資産価値のうち負債の時価評価に反映させることができる」と判示し、期待利益を株式価値算定の計算において読み込み、オプションバリューの考え方が容認されたという事例である(後述する東京地決令和2年7月9日資料版商事法務437号157頁(以下「MAGねっと事件東京地裁決定」))。

 実質債務超過状態にある上場会社の再建過程においては、こうして実際に形成されている株価やオプションバリューについての考え方、裁判例等も踏まえて、どのように手続を設計すべきかという問題が生じる。

 なお、「第三者割当増資・スクイーズアウトと私的整理の併存型」の手法をとる際には、スクイーズアウトの手続に伴う反対株主株式買取請求や株主総会決議取消訴訟などが「スポンサーによる資金拠出後に」提起される可能性がある。かかる法的手続によって当該案件の遂行可能性を阻害されたり、応訴負担を強いられたりすることを避けるという観点からも、必ずしも私的整理の時点で交渉相手として手続に関与するわけではない(将来、権利行使をする可能性がある)既存株主のために、あらかじめ合理的な根拠をもって一定のスクイーズアウト価格を設定しておくことが必要となる点に、実務上の対応の難しさがある。

債務超過状況にある会社の株式価値に関する裁判例

 債務超過状態にある会社のスクイーズアウト価格について、一定の判断を示した裁判例が存在するが、これらはいずれも、上記基本的な考え方に沿って判断がなされているものである。

 ① まず、上記MAGねっと事件東京地裁決定では、債務総額の50%の債務免除に対する期待利益が存在すると評価でき、これを負債の時価評価に反映するのが相当として、資産価値及び収益価値※11に、債務免除に関する期待利益を加えた企業価値を、残存する株主及びスクイーズアウト対象株主が有する発行済株式総数(自己株式を除く)で除して、1株あたり28円と決定した。すなわち、この事案では、上記のとおり、債務総額の50%の債務免除に対する期待利益が存在すると評価し、これを負債の時価評価に反映させるのが相当と判示された。

 ② 次に、大阪地決平成27年12月24日(LEX/DB25542068)は、通貨デリバティブ取引による多額の債務を抱え、債務超過の状態の株式会社が私的整理を行うという事案において、株式価値を0円と判断した。
この事案では、債務者が債務超過状態にあることだけでなく、近時における清算が予定されていることが指摘されており、債務超過の解消が見込めないために、オプションとしての価値としても0円とすべき事例であったと考えられる。

 ③ さらに、福岡高判平成26年6月27日金判1462号18頁は、プロサッカーチームを運営する株式会社について全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトに際して、その取得対価を無償と定めたとしても、それが著しく不当な内容であったということはできないと判示した。
この事案では、会社が実質的に債務超過の状態であるかそれに近い状態にあり、スポンサーによる増資の前提として100%減資(無償取得)の必要性が高く、100%減資を行わなければスポンサーすら付かない状況であって、他に取り得る手段がなかった状況であったとも考えられ、株式価値を0円とすべき事例であったと考えられる。

実際の「第三者割当増資・スクイーズアウトと私的整理の併存型」の事例

 以上の会社法学説及び裁判例を踏まえた上で、実際に「第三者割当増資・スクイーズアウトと私的整理の併存型」による事業再生を行った事例として、2021年のワタベウェディング株式会社(以下「ワタベウェディング」)の事例がある。公表資料※12によると、事案の概要は以下のとおりである。

  ア. ワタベウェディングは、ブライダル業を主たる事業とする東証第一部上場企業であったところ、新型コロナウイルス感染拡大の影響により業績が悪化し、銀行からコロナ支援融資を受けたが、2020年12月期に債務超過の状態に陥り、これらの融資に対する約定債務の返済が極めて困難となった。そのため、2021年3月、事業再生ADR手続を利用し金融支援を要請するに至った。

  イ. 資産評定に関する基準に基づき実施された財務デュー・ディリジェンスの結果、2021年2月末基準での調整後純資産は8,730百万円の債務超過と試算された※13。また、事業再生計画において、対象債権者である金融機関は、対象借入債務のうち総額9,078百万円(対象借入債務の総額18,500百万円の約49.07%)について2021年5月末を効力発生日として債権放棄を行うこととされた。
一方、ワタベウェディングは、スポンサーである興和株式会社(以下「本スポンサー」)から第三者割当増資によって総額2,000百万円の出資を受け、その後、株式併合の方法によってスクイーズアウトを実施し同社普通株式の上場は廃止された。株式併合に係るスクイーズアウト価格は、1株あたり180円と設定されたが(決議日前日終値407円から55.8%ディスカウント)、大株主3社(議決権割合合計59.01%)については協議を経てスクイーズアウト価格は実質的に1株あたり40円※14になるように設定された。その結果、本スポンサーを除くスクイーズアウト対象株主に交付された金額は合計965百万円となった※15

  ウ. ワタベウェディングがスクイーズアウト価格等を設定するに際して、第三者算定機関により提出された株式価値算定書では、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法(以下「DCF法」)に基づいて株式1株あたりの株式価値の範囲は0円から44円(株式価値の総額0百万円~439百万円)と評価されていた。

 上記のとおり、ワタベウェディングの事例では、総額965百万円が本スポンサーを除くスクイーズアウト対象株主に交付された。その際、当該スクイーズアウト対象株主が保有していた株式数(自己株式を除く)は9,908,774株であったため、1株あたりの(平均)スクイーズアウト価格は97.4円に相当することになる。上記のとおり、この事例では大株主との協議の結果、一部株式の無償譲渡が行われ、大株主とそれ以外の一般株主に対して支払われる実質的な金額は、それぞれ1株当たり40円、180円と設定された。つまり、既存株主間における調整の結果、上記スクイーズアウト総額の範囲内で大株主から他の一般株主への利益の移転が生じたと見ることができる。

 事業再生ADR手続のような、いわゆる準則型私的整理手続における事業再生計画は、一定の資産評定に関する基準に基づく実態貸借対照表をもとに、公正・中立な手続実施者等の第三者の検証を経て策定される。そのため、こうした過程を経て策定される事業再生計画に基づく対象債権者の債権放棄には高い経済合理性が認められ、逆にいうと、既存株主において債務免除に対する合理的な期待利益が存在し、一定のオプションバリューが認められる状況にあったといえる。また、本件ではスポンサー候補が現れて事業再生ADR手続の下で実現可能性のある事業再生計画が策定されたものであり、法的清算手続以外にとりうる手段がないという状況にもなかったため、かかる一定のスクイーズアウト対価が既存株主に分配されたことは、前述の会社法学説及び各裁判例で示された基本的な考え方とも整合する。

スクイーズアウト手続で既存株主に帰属すべき価値の考慮要素

 ここまで見てきたとおり、スクイーズアウト手続において既存株主に帰属すべき価値は、債務免除に対する期待利益を源泉とするものであり、かかる債務免除に対する期待は対象債権者が債権放棄に応じる経済合理性を根拠とする。

 そのため、スクイーズアウト手続において既存株主に帰属すべき価値を検討するためには、私的整理の局面において対象債権者が債権放棄に応じる際の経済合理性がどのような要素に基礎付けられるかという点を踏まえる必要がある。

 この点、一般的に事業再生ADR手続による私的整理における金融支援額は、事業再生計画における債権額の回収の見込みが、破産手続による債権額の回収の見込みよりも大きいこと(清算価値保障原則)※16に加えて、事業再生ADR手続における資産評定に関する基準※17により算出される実質債務超過額を最大額とすることが必要である。

 既存株主が有する債務免除に対する期待利益の最大値を導くのは、以上の条件を満たす金融支援(債権放棄)であり、これを超える支援は金融機関から見て経済合理性がない過剰支援となるため、そのような過剰支援に対する「期待利益」は保護されないと考えられる。つまり、既存株主が有する債務免除に対する期待利益は、「(最大で)実質債務超過額に相当する額の債務免除」に対する期待利益であるということができる。

 一方、「債務免除に対する期待利益」の最小値は、上記とは逆に、債務者の事業再生の可能性を発生させる範囲で金融支援額が最小となる場合に既存株主に分配されるべき価値が最小となるから、理論的には再生可能性の発生という条件を満たすために必要最小限の債権放棄額を考えればよいということになる。この点、事業再生ADR手続についていえば、経産省令において再生期間(計画成立後最初に到来する事業年度開始の日から3年)終了時点での実質債務超過の解消や経常黒字化の目標が定められている※18。しかしながら、実務上、実質債務超過を解消しないままにスポンサー支援を受けることは困難であるため、金融支援額は実質債務超過額に相当する金額として算定されることも一般的である。

 以上を踏まえると、スクイーズアウト手続において既存株主に帰属すべき価値は、

 「企業価値 - (有利子負債等の額 - 実質債務超過額(≒債権放棄合意額))」

との算式で導かれることになり、理論的な1株当たりのスクイーズアウト価格は、これを、自己株式を除く発行済株式総数で割った価格となりそうである。

 しかしながら、事業再生局面にある債務者企業において、その具体的な値の把握は必ずしも容易ではない。これは、かかる局面においては、上記算式の出発点となる「企業価値」の把握が極めて困難であることによる。平常時であれば、一定の価値算定手法を用いて合理性のある企業価値を算出することが可能と考えられるが、事業再生局面にある企業においては、そもそも継続企業の前提に疑義がある又はかかる前提が失われている状況であり、スポンサー支援や金融支援を前提としないスタンドアロンの企業価値の算定に困難が伴い、客観的にはゼロと評価される可能性も高いためである※19。そもそも、企業価値はその評価手法等によって変動する幅のある概念であるとともに、事業再生局面においては、スポンサー支援(第三者割当増資の引受け)による純資産の増加があることや、スポンサー傘下で対象会社の事業の収益性が向上し企業価値そのものの向上が見込まれることなど、スポンサーの選定基準や支援条件、交渉経緯に依存する変数も介在するものである。

おわりに

 足元コロナ禍からの脱却や、金利・物価上昇・人材不足などの経営環境の悪化が進む中、今後も、上場会社が「第三者割当増資・スクイーズアウトと私的整理の併存型」による再生を企図する事例が増加することが予想される。その際には、債務者となる上場会社がスポンサー候補及び金融債権者と協議・交渉を進めつつ事業再生計画を策定する過程において、かかる協議・交渉に直接関与する術を持たない既存株主の利益を保護し、実行可能性のある事業再生計画を成立させる必要が生じ、また、既存株主による反対株主株式買取請求や株主総会決議取消訴訟が提起されるなど、裁判所においてスクイーズアウト価格の公正性が正面から争われる可能性もある。

 そのため、上記のように具体的な値の算出には困難が伴うとしても、「第三者割当増資・スクイーズアウトと私的整理の併存型」の事業再生手法において、金融債権者が債権放棄に応じる経済合理性を根拠とする債務免除に対する期待利益を源泉としてスクイーズアウト手続で既存株主に帰属すべき価値が見いだされるという帰結と、その算定において考慮される要素にはいかなるものがあるかについて認識しておくことは重要である。

脚注一覧

※1
本稿では、以下、産業競争力強化法に基づく特定認証紛争解決手続(事業再生ADR手続)を念頭に論じるが、ここで論じる内容は対象債権者の全員同意に基づく他の準則型私的整理手続にも妥当すると考えられる。

※2
本稿では、スクイーズアウト手続によって退出させる株主(少数株主)を、当該手続後に唯一の株主として残存するスポンサーと対比して、「既存株主」と総称する。

※3
https://jpn.pioneer/ja/corp/news/press/2018/pdf/1207-2.pdf。パイオニアは、私的整理手続を経た金融支援が行われた案件ではなく、制度会計の連結貸借対照表上は債務超過ではなかったものの、スポンサーによるデュー・ディリジェンスの結果、清算価値が純資産額を大幅に下回るとの査定がなされた案件であった。

※5
https://corporate.sadokisen.co.jp/wp-content/uploads/2022/02/20220207.pdf。本件は、産業競争力強化法に基づく新潟県中小企業再生支援協議会が実施する私的整理手続を通じて疑似DESと債務のリスケジュールが行われた事例であった。

※7
パイオニア(1株66.1円)、ワタベウェディング(1株180円)、佐渡汽船(1株30円)及び日医工(1株36円)(各社開示資料)

※8
準則型私的整理手続の1つである事業再生ADR手続では、債務免除を伴う事業再生計画においては、債権放棄型の事業再生計画の場合、減資等により株主権の全部「又は一部」を消滅させることが必要とされている(経済産業省関係産業競争力強化法施行規則(平成26年経済産業省令第1号、以下「経産省令」)29条1項3号)。

※9
田中亘「会社法第4版」(東京大学出版会、2023年)485頁、田中亘「数字で分かる会社法」(有斐閣、2013年)185頁。

※10
田中亘「会社法第4版」(東京大学出版会、2023年)485頁。

※11
当該事案では対象会社が事業計画を策定していなかったことから収益価値は0円と評価されていた。

※12
前掲注4参照。

※13
2021年5月27日付ワタベウェディング開示資料「事業再生ADR手続における事業再生計画案の決議のための債権者会議の開催並びに 事業再生ADR手続の成立及び債務免除等の金融支援に関するお知らせ」を参照。なお、債務免除の効力が生じた2021年5月末時点では、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響もあって実体債務超過額はさらに拡大していたと考えられ、その範疇で債務免除額が合意されたと考えられる。

※14
大株主の保有する株式の一定割合(180分の140)を会社が無償取得し、残る部分(180分の40)について株式併合によるスクイーズアウトの対象とされた。

※15
株式併合の結果生じる1株に満たない端数の処理の方法として、その合計数に相当する数の株式が、裁判所の許可を得て、本スポンサーに売却され、その売却によって得られた代金が既存株主に交付されている。

※16
特定認証ADR手続に基づく事業再生手続規則27条2項8号。

※17
経産省令29条1項1号・2号。

※18
経産省令28条2項各号。

※19
実際、DCF法を用いたワタベウェディングにおける価値算定にあたっても、「なお、本価値算定書において採用されたDCF法に関し、本価値算定書では、当社の事業が計画期間終了後も継続することを前提とした場合の株式価値を算定しており、金融機関からのバックアップが得られない等の要因により、計画期間中あるいは計画期間終了後に事業の継続が困難になる状況は想定されておらず、この点について、このような事業継続が困難になる状況を想定した場合には、本価値算定書におけるDCF法による算定結果よりも低い株式価値が算定される可能性があるとの見解が本価値算定書において示されています。」と付記されている。前掲注4参照。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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