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2023年デラウェア州一般会社法(DGCL)の改正のポイント

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

著者等
大久保涼(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T U.S. Law Update ~米国最新法律情報~ No.102(2023年10月)
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2024年デラウェア州一般会社法(DGCL)の改正のポイント(2025年1月)

業務分野
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2023年8月1日、デラウェア州一般会社法(以下、「DGCL」といいます。)の改正(以下、「本改正」といいます。)が施行されました。本改正により、DGCLの一部の条文の整合性及び不明確さが改善され、かつ、デラウェア州の会社が近年直面してきた一定の不便や実務上の負担が軽減されました。本ニュースレターでは、本改正のポイントについて紹介します。

本改正のポイント

1. 株式分割・併合及び発行可能株式総数の変更に関する決議要件(第242条※1

 DGCL上、定款(certificate of incorporation)の変更には、原則として、取締役会の承認に加えて株主総会における議決権を有する株主の過半数による承認(種類株主総会による承認を含みます。)が必要です※2

 本改正では、その例外として、会社が一定の株式分割・併合(forward stock split又はreverse stock split)を行い、又は発行可能株式総数の増加又は減少を実施するために、従前必要とされていた株主総会による承認を不要とし又は軽減しました。本改正は、上場会社において、近年受動的な個人投資家や議決権行使を控えるポリシーを採用する機関投資家が増加するにつれて株主総会における必要な賛成票を得ることがより難しくなっているという背景の中で、特に上場会社にとって、株主の承認を得るための労力を省く効果があります。

(1)   株式分割(Forward Stock Split)

 本改正により新たに追加された第242条(d)(1)は、一種類のみの株式を発行している会社(上場・非上場は問いません。)が、株式分割をし、またそれに伴い発行可能株式総数を同比率で増加させるために定款変更をする場合において、株主総会による承認を不要としました※3※4。実務上、株式分割は、上場会社の1株あたりの価値が著しく高騰し、それにより投資家が投資しづらくなるという影響が生じた場合に行われることが多いところ、本改正は特にこのような場合において、上場会社が迅速に株式分割を行い、投資家が投資しやすい投資環境を整えることを可能にしました。

(2)   発行可能株式総数の変更及び株式併合(Reverse Stock Split)

 本改正により新たに追加された第242条(d)(2)は、上場会社に限り、①株式分割以外の場合に発行可能株式総数を増加し又は減少させるために定款を変更する、又は②会社が株式併合を行うために定款変更をする場合において、株主総会による承認の要件を、原則である議決権を有する株式の過半数から、出席株主による投票数の過半数による賛成に引き下げました。

 なお、第242条(d)の冒頭には「定款において別途明示的な定めのない限り(unless otherwise expressly required by the certificate of incorporation)」という条件が記載されているため、会社は、その定款において、第242条(d)は適用しない旨の規定を明示的に設けることも可能です。

2. 無効行為の追認(第204条)

 株主総会決議や取締役会決議など必要な内部承認手続を欠き無効(void)又は取り消し得る(voidable)会社の行為(新株発行、取締役選任、配当等)があって、会社がかかる手続的瑕疵がある行為を追認した場合、従前は、追認対象の手続的瑕疵のある行為自体についてデラウェア州長官室に一定のcertificateを提出する義務※5がある場合において、常にcertificate of validationの提出が要求されていました。これに対しては、追認行為によりcertificateの内容が変わらない場合でもcertificate of validationの提出が必要とされる点などにおいて、負担であるとの指摘がなされていました。

 これに対して改正204条(e)は、追認対象の会社の行為について(i)当該行為時にcertificateが提出済みであったが当該行為を追認するために当該certificateの内容を変更する必要がある場合、又は(ii)当該行為時にcertificateが提出されていなかった場合のいずれが該当する場合のみにcertificate of validationの提出を行えばよいことにしました。また、certificate of validationに記載すべき内容も簡素化されました※6。上記に加えて、第204条(c)及び(d)において、瑕疵のある会社の行為を追認できる株主を確定するための基準日が、取締役会による追認決議日であることに明確化されました。

3. 組織変更(conversion)の手続(第265条・第266条)

 改正第265条(k)において、デラウェア州の法人以外である「その他のエンティティー(other entity)」※7がデラウェア州法人に組織変更(conversion)する場合に、組織変更計画(plan of conversion)を採択することが可能になりました。組織変更計画には、次に掲げる事項を定めるものとされています。

(1)   組織変更の条件
(2)   組織変更されるエンティティーの基本定款(計画に添付する)
(3)   組織変更されるエンティティーの株式、権利、証券等の交換又は転換の方法
(4)   組織変更されるエンティティーにおける組織変更のために必要な手続
(5)   その他組織変更されるエンティティーの準拠法上含むべき内容

(1)  組織変更の条件
(2)  組織変更されるエンティティーの基本定款(計画に添付する)
(3)  組織変更されるエンティティーの株式、権利、証券等の交換又は転換の方法
(4)  組織変更されるエンティティーにおける組織変更のために必要な手続
(5)  その他組織変更されるエンティティーの準拠法上含むべき内容

 その上で、改正第265条(l)は、デラウェア州法人に組織変更する企業は、採択された組織変更計画に記載されている会社の行為については、デラウェア州法人化後の取締役会や株主の決議等による別途の承認が不要であるものとしています。従前はデラウェア州法人化完了直後にこれらの承認手続を行う必要があったため、本改正により、デラウェア州法人化の手続が簡略化されたと言えます。

 逆に、デラウェア州法人から「その他のエンティティー」への組織変更についても、改正第266条(l)が第265条(k)と同様の規定を定め、デラウェア州の会社が組織変更する際に組織変更計画を採択することを可能としました。なお、組織変更計画は、当該組織変更の承認決議と同時に承認されることが必要です。

4. デラウェア州法人による移転(transfer)、国内化(domestication)又は存続(continuation)の手続(第390条)

 DGCLにおいては、米国外にある会社であっても、デラウェア州長官室に対してファイリングを行うことにより、デラウェア州の会社となったり(第388条、domestication)、一時的にデラウェア州の会社としてデラウェア州に移転(第389条、transfer)することが可能です。

 逆に、第390条により、デラウェア州の会社は、米国外の法域に、移転、国内化又は存続(continuation)することができ、その際、同時にデラウェア州の会社として存続することもできます。

 改正第390条(j)では、組織変更の場合と同様、移転・国内化・存続計画の採択が許容されました。かかる計画は、当該移転・国内化・存続の承認決議と同時に承認されることが必要です。なお、これらを承認するためには、かつて発行済株式の全てによる承認が必要でしたが、本改正により株主総会における議決権の権利を有する株主の過半数による承認に引き下げられました※8

 なお、改正第390条(k)により、本改正の施行日前に設立されたデラウェア州の会社の基本定款において合併等を制限又は禁止する規定が含まれている場合、基本定款上に異なる定めがない限り、かかる規定は同社に関する移転・州内化・存続にも適用されます。従って、会社の基本定款において、合併等を行うには優先株主の種類株主総会の同意が必要というような規定があった場合、かかる種類株主総会の同意は、移転・州内化・存続にも必要となります。他方、本改正の施行後に設立された会社の場合は、移転・州内化・存続には優先株主の種類株主総会の同意が必要という規定を置かないと、優先株主は、自分の保有しているデラウェア州の会社の株式が移転・州内化・存続により外国会社の株式や現金その他の資産に転換されてしまうリスクに晒されることになるので留意が必要です。

5. 株式に関する発行及び対価(第152条・第153条)

 2022年に改正された第153条により、会社は、自己株式(treasury stock)を株式発行(第152条)と同一の手続に基づいて処分可能になりましたが、第152条に定める額面株式の発行の際の最低発行価額要件(額面価額以下の発行価額で発行することはできません。)が自己株式の処分に適用されるかは不明確でした。改正第153条(c)により、自己株式の処分には、第152条の最低発行価額要件は適用されず、会社は自己株式の処分の対価として、当該株式の額面価格に関わらない額の、金銭又は資産その他の利益を受領できることが明確化されました※9

6. ストックオプション等の発行権限の役員への委譲手続(第157条(c))

 2022年の第157条の改正により、会社の取締役会は、一定の要件を満たした場合、CFOなどの役員等にストックオプション等を発行する権限を委譲することができるようになりました。本改正第157条(c)においては、かかる権限に以下の通り技術的な修正が加えられました。

(1)   委譲に際して移譲先において発行可能なオプション等の上限数を特定することが不要となりました。
(2)   委譲の決議において、ストックオプション等の行使の条件(行使価額又はその計算式、ベスティング等)を定めることが許容されました。
(3)   委譲の決議において、(i)委譲先がストックオプション等を発行可能な期間、及び(ii)ストックオプション等の行使により株式を発行できる期間を定めることが必要とされました。

(1) &nbsp委譲に際して移譲先において発行可能なオプション等の上限数を特定することが不要となりました。
(2)  委譲の決議において、ストックオプション等の行使の条件(行使価額又はその計算式、ベスティング等)を定めることが許容されました。
(3)  委譲の決議において、(i)委譲先がストックオプション等を発行可能な期間、及び(ii)ストックオプション等の行使により株式を発行できる期間を定めることが必要とされました。

7. 株主総会の書面決議結果の通知に関する基準日(第228条)

 従前、会社が株主総会の決議を書面決議により行った場合にどの株主にその結果の通知を送る必要があるかについて、実際の株主総会が開催されていたと仮定してその株主総会の招集通知の基準日が、可決に必要な書面決議の数が会社に初めて届いた日であったとした場合に、株主総会の招集通知を受領する権利を有し、かつ書面決議の同意書に署名しなかった株主に対して通知を行う必要がある、とされていました。これは、事務的に複雑であることに加えて、第213条(b)の書面決議に参加できる株主の基準日に関する規律と不整合であることが指摘されていました。

 そこで、改正第228条(e)では、①書面決議の基準日の時点に株主である、②書面決議の同意書に署名しなかった、③実際の株主総会が開催されていたと仮定してその株主総会の招集通知の基準日が、書面決議の基準日と同一であった場合に、株主総会の招集通知を受領する権利を有していた株主に対して通知を行えばよいことになりました。

 また、上場会社の場合には、改正第228条(e)により、1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)のインターネット上による通知に関する定めに従って、かかる通知を行うことが可能になりました。

8. 担保資産の処分に関する株主総会決議の省略(第272条)

 会社が自己の全て又は実質的に全ての資産を売却する場合、第271条により発行済株式の過半数の株式による株主総会における承認が必要となります。改正第272条は、その例外として、抵当権又は担保権が設定された財産・資産に関する売却等を行う際には、以下のいずれかに該当する場合に限り、株主総会における承認が不要となりました。

(1)   担保権者が、担保権の対象資産を会社の同意なしに売却できる場合。
(2)   取締役会が、担保権者への負債の返済に充てるため対象資産等の任意売却等を承認した場合。

(1)  担保権者が、担保権の対象資産を会社の同意なしに売却できる場合。
(2)  取締役会が、担保権者への負債の返済に充てるため対象資産等の任意売却等を承認した場合。

 かかる規定は、担保権者による時機に応じた担保の実行の確実性を確保することができるため、会社によるローン調達を容易にする効果があると言えます。

脚注一覧

※1
条文番号は、別途記載がない限りDGCLの条文番号をいうものとします。

※2
第242条(b)

※3
例えば、ある会社が普通株式のみを発行しており、その発行可能株式総数が100株、発行済株式総数が50株であった場合、1株を3株に分割する会社分割を行う際に、発行可能株式総数を300株に増加することが可能になります。

※4
複数の種類株式を発行している(例えば、株式が普通株式及び優先株式に分類されている場合等)上場又は非上場会社は、株主総会による承認要件を排除させた改正を導入することはできません。

※5
日本でいう登記申請に近いものと言えます。

※6
具体的には、certificate of validationにおいて、瑕疵のある会社の行為の内容、取締役会及び(必要に応じて)株主の承認を経て当該行為が追認された旨並びに追認された日付を記載する要件が排除されました。

※7
デラウェア州設立の有限責任会社(limited liability company)、法定信託(statutory trust)、事業信託又は事業合同(business trust or association)、不動産投資信託(real estate investment trust)、コモンローに基づく信託(common law trust)、その他の法人化されていないエンティティー(組合を含みます。)又は州外会社(foreign corporation)を意味します。

※8
DGCL第390条(b)

※9
なお、第160条(b)の改正に基づき、会社の基本定款において自己株式は消却(retire)する旨規定されている場合を除き、会社による買戻し(repurchase)又は償還(redemption)を通じて取得された自己株式も、第153条に従って再び処分可能であることも明確化されました。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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