
ヴェトリース・シュー Bertrice Hsu
アソシエイト
シンガポール
NO&T Dispute Resolution Update 紛争解決ニュースレター
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ニュースレター
【From Singapore Office】SIACの新仲裁規則(第7版)施行 第1回 少額事件へのStreamlined Procedureの自動適用と保護的予備命令制度の導入について(2025年1月)
1. 2023年8月、シンガポール国際仲裁センター(以下「SIAC」という。)は SIAC 仲裁規則第7版の意見公募用草案(以下「本草案」という。)を公表した。
2. 本草案の焦点は、仲裁の迅速性と費用対効果の改善である。実務的に重要と思われる次の3点について以下紹介する。
3. 新設のStreamlined Procedure、現行の迅速手続、及び改正後の迅速手続の違いは次のとおり。
Streamlined Procedure |
迅速手続 (現行) |
迅速手続 (改正後) |
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---|---|---|---|
手続利用のための条件 ※いずれか一つ |
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仲裁人の数 |
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ヒアリング |
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※証人尋問又は文書提出の要求が認められるか、ヒアリングは原則バーチャルとするかについて明記なし |
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タイムライン |
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費用 |
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4. これらの改正は、特に、低額な請求又は(高額であっても)事実上の争いが限定的であるなど比較的単純な事案の当事者にとって、望ましい内容と考えられる。非公開の手続により秘密を保持することができるという仲裁の中核的な便益はそのままに、迅速で費用対効果の高い紛争の解決を図ることができる。
5. 既存の緊急仲裁手続についても本草案は変更を加えており、利便性と迅速性の向上につながると考えられる。
6. 本草案によれば、仲裁提起前に緊急仲裁の申立てをすることができることとなる。現行制度上、緊急仲裁の申立ては少なくとも仲裁提起と同時に行わなければならないとされているので、これは重要な変更である。また、本草案によれば、緊急仲裁人は任命から(現行制度の定める14日より短い)10日以内に緊急仲裁判断を出さなければならない。
7. 緊急仲裁の救済が必要になるのは、通常、(i)被申立人の行為の差止めを求める場合や、(ii)金銭的手段では十分に補償できない損失(例えば、被申立人の行為が申立人の評判に回復不能な損害をもたらす場合など)を避けるために被申立人に一定の行為を強制させることを求める場合である。今回提案された手続の変更は、これらの場面において緊急仲裁制度の有効性を高めることとなる。
8. 仲裁の他の争点に影響を及ぼす特定の重要な争点を早期の段階で解決するために、部分的な判断を求める暫定的決定(Preliminary Determination)に関する規則が新設された。暫定的決定を利用する主な目的は、争点及び仲裁の範囲を早期に削減し仲裁の残余部分の判断を合理化することであり、これにより当事者は時間とコストを節約できる。また、重要な争点に関する暫定的決定は、本案の所在をより明確にし、仲裁が本格的に進行する前の段階で最終的な和解の契機となる可能性もある。
9. 本草案においては、当事者が暫定的決定を利用するための申請の手続、考慮事項、スケジュールが明示されている。これは当事者が暫定的決定の申請を適切に検討するための指針となり得るもので、例えば、最終判断に重大な影響を及ぼす重要な法的問題がある場合や、責任の有無と損害額に関する問題を分離できる場合などの適切な事案において暫定的決定の申請を適時に行うことが考えられる。
10. SIAC仲裁規則の最後の改正は2016年である。本草案には、迅速性、費用対効果、及び利用しやすさを向上させる有益な特徴が盛り込まれており、改正が実現すれば国際紛争解決の選択肢としてのSIAC仲裁の魅力はさらに高まる。
11. 本草案に関する意見公募期間は本年11月に終了した。意見公募に基づき変更すべき点がある場合には最小限の修正を加えた形で、本草案は2024年前半に施行される見込みである。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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