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【From Singapore Office】SIACの新仲裁規則(第7版)施行 第1回 少額事件への迅速手続の自動適用と保護的予備命令制度の導入について

NO&T Dispute Resolution Update 紛争解決ニュースレター

著者等
エンニャー・シュー室憲之介(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Dispute Resolution Update ~紛争解決ニュースレター~ No.28(2025年1月)
関連情報

本ニュースレターは、「全文ダウンロード(PDF)」より日英併記にてご覧いただけます。シンガポール・オフィスの紛争解決チームについてPDF内にてご紹介しております。

ニュースレター
【From Singapore Office】SIAC仲裁規則第7版の草案公表(2023年12月)

業務分野
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

シンガポール国際仲裁センター(以下「SIAC」という。)が新たに定めたSIAC仲裁規則(第7版)が2025年1月1日に施行された(以下「新規則」という。)。これは、2016年8月1日に施行されたSIAC仲裁規則の第6版(以下「2016年規則」という。)の改正版である。新規則には、重要な手続および既存手続の強化に係る改正が多数含まれており、2023年12月の本ニュースレターで紹介した草案からの変更もある。本稿では、2016年規則からの2つの重要な変更点として、(i)新たな迅速手続(Streamlined Procedure)の係争額100万シンガポールドル以下の手続への自動的な適用と簡易手続(Expedited Procedure)の適用拡大、(ii)緊急仲裁手続の強化を紹介する。

3種類の選択肢と迅速手続・簡易手続の位置付け

2016年規則では、当事者は通常の仲裁規則または簡易手続を適用するか、いずれかを選択することができた。新ルールでは、(1)新規則で導入された迅速手続(Streamlined Procedure)、(2)改正後の簡易手続(Expedited Procedure)、(3)通常の仲裁の3種類から、事案に応じた手続を選択することができる。それぞれの主な特徴は下表の通りである。

種類 新規則で導入された迅速手続
(Streamlined Procedure)
改正後の簡易手続
(Expedited Procedure)
通常の仲裁
要件 両当事者の合意があるとき
または
係争額が100万シンガポールドル以下の場合、別段の定めがない限り、自動的に適用される。
両当事者の合意があるとき
または
当事者が、以下の場合にSIACに簡易手続が適用されることを申し立てることができる。

  1. 係争額が 100万シンガポールドルを超え1,000万シンガポールドル以下の場合
  2. 係争額が100万シンガポールドル以下の場合であって、迅速手続が適用されない場合
  3. 本手続の利用が適当であるとき
迅速手続または簡易手続が適用される場合を除き、自動的に適用される。
仲裁人の数 1名 別段の決定がない限り1名 デフォルトでは1名(別段の合意がない場合または3人仲裁とする決定がなされなかった場合)
証拠調べ 別段の決定がない限り、文書提出手続は行わず、人証は採用しない。 仲裁廷が、文書提出手続を拒否し、書面提出や人証の範囲を制限することができる。 通常、文書提出手続と証人による立証が行われる。
ヒアリング 別段の決定または当事者による申立を受けた仲裁廷が認めた場合でない限りは行わない。 当事者がヒアリング実施を求め仲裁廷がこれを認めた場合でない限りは行わない。
ヒアリングを実施する場合であっても、別段の合意または決定がない限り、オンラインで行われる。
ヒアリングを行わない旨の別段の合意がない限り、当事者が要求する場合はヒアリングが行われる。
仲裁判断のスケジュール 期限が延長されない限り、最終仲裁判断は、仲裁廷の成立した日から3ヶ月以内とする。 期限が延長されない限り、最終仲裁判断は、仲裁廷の成立した日から6ヶ月以内とする。 特に期限なし
費用 SIACの料金表(Schedule of fees)の最大料金の50%以下。 SIACの料金表(Schedule of fees)に従う。 SIACの料金表(Schedule of fees)に従う。

書面による合意によって明示的に除外されない限り、100万シンガポールドル以下の請求には、自動的に迅速手続(Streamlined Procedure)が適用されることには留意すべきである。以前は通常の仲裁手続以外の手続は、当事者間の合意またはSIACの決定がある場合にのみ適用されていたことと大きく異なる。また、この点は、新規則の草案段階からの変更でもある。当事者の申立も必要としない自動的な適用の仕組みを採用したことにより、草案よりも、迅速手続が適用される事件の範囲が拡大されている。迅速手続(Streamlined Procedure)は原則として書面のみの仲裁であり、例外的な状況を除き、文書提出手続、人証調べ、ヒアリングは行われない。迅速手続の導入により、単純かつ少額の事件を、低コストで比較的すばやく解決することが可能となり、事業者にとっては魅力的なものと思われる。

保護的予備命令

新規則では、2016年規則と異なり、当事者は、(1)仲裁の申立前であっても、(2)相手方当事者に通知することなく、緊急仲裁人の選任を申し立て、緊急の暫定的救済(emergency interim relief)を求めることができる。これに加え、申立当事者は並行して「保護的予備的命令(protective preliminary order application)」を申し立て、暫定的救済の実効性を確保するための保全命令を併せて求めることができる。この手続も新規則の草案には含まれていなかった。緊急仲裁人は選任後24時間以内に保護的予備命令申立に対する決定をすることが義務付けられており、発令された場合、当該命令は14日以内に失効する。これは、一般的には裁判所を通じてのみ利用可能な手段を仲裁手続上の新しいメカニズムとして導入したものである。相手方当事者への通知を経ない、緊急の暫定的救済に更に先立つ暫定措置である。ただし、かかる命令が発令されたとしても、14日間という短い有効期限内に、命令に従わない当事者に対して執行可能な判決に転換する必要があるところ、その実効性は限定的と思われる。

おわりに

新規則は新たなメカニズムを導入することなどにより2016年規則を改善し、SIACの初めての利用者やより洗練された利用者の両方の要求と期待に応えようとするものと理解される。新規則には、他にも注目すべき変更が含まれているため、次回のニュースレターにおいても、引き続き主要な変更点を紹介する予定である。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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