icon-angleicon-facebookicon-hatebuicon-instagramicon-lineicon-linked_inicon-pinteresticon-twittericon-youtubelogo-not
People 弁護士等紹介

多岐にわたる分野の専門的知識と実績を持つ弁護士が機動的にチームを組み、質の高いアドバイスや実務的サポートを行っています。

Publications 著書/論文

当事務所の弁護士等が執筆したニュースレター、論文・記事、書籍等のご紹介です。多様化・複雑化する法律や法改正の最新動向に関して、実務的な知識・経験や専門性を活かした情報発信を行っています。

Seminars 講演/セミナー

当事務所では、オンライン配信を含め、様々な形態でのセミナーの開催や講演活動を積極的に行っています。多岐にわたる分野・テーマの最新の企業法務の実務について解説しています。

Who We Are 事務所紹介

長島・大野・常松法律事務所は、国内外での豊富な経験・実績を有する日本有数の総合法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題に対処するため、複数の弁護士が協力して質の高いサービスを提供することを基本理念としています。

SCROLL
TOP
Publications 著書/論文
ニュースレター

米司法省「企業コンプライアンス・プログラムの評価」のアップデートを踏まえた人事・懲戒制度の見直し

NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2023年3月、米国司法省(DOJ)の刑事局(Criminal Division)は、企業のコンプライアンス・プログラムを評価する指標として「企業コンプライアンス・プログラムの評価」(Evaluation of Corporate Compliance Programs)の改訂版を公表しています※1(以下「本指針」といいます。)。

 本指針は、リスクベース・アプローチに基づき、企業のコンプライアンス・プログラムが「適切に設計されているか?」、「真摯かつ誠実に適用されているか?(実効的に機能するよう十分にリソースと権限を与えられているか?)」、「実際に機能しているか?」を評価するという従前の枠組みを維持しつつ、人事・懲戒制度に関わるコンプライアンスのインセンティブ設計についての項目や、近年のテレワーク等によるコミュニケーション手段の変化等を踏まえた項目等、評価を行う上での考慮要素を新たに追加しています。

 DOJの検察官は、起訴・不起訴の処分や司法取引等の合意を含む企業不正事案の処理方針を決定するにあたり、「当該企業のコンプライアンス・プログラムの有無及び従来存在していたコンプライアンス・プログラムの実効性」や「企業による改善措置」等を考慮することとされています。したがって、企業が実効性のあるコンプライアンス・プログラムを整備・運用することは、単に組織内の不正のリスクを低減させるだけでなく、DOJの検察官において企業の訴追を見送るという判断や、制裁金を大きく減額するという判断を導き、DOJの調査の際に企業が被る不利益を最小限に止めることにつながります。

 そこで、本稿では、2023年に行われた本指針の2つの主要な改訂箇所を紹介するとともに、改定後の執行例も踏まえた人事・懲戒制度の見直しについて概説します。

1. 報酬体系と予後管理によるインセンティブ設計

(1) 改訂の概要

 本指針の主要な改訂の一つ目は、「報酬体系と結果管理(Compensation Structures and Consequence Management)」という評価項目が新たに追加されたことです。ここでは、企業が社内の不正行為をより確実に発見するとともに、不正行為に関与した役職員を処分することなどを通じて、役職員が不正行為を行うインセンティブを削ぐ体制を実効的に構築できているかがポイントとなります。

 その具体的な考慮要素は以下のとおり整理されています。

人事プロセス
  • 問題となっている不正類型を含め、誰が懲戒処分を行う決定に関与しているか?
  • 懲戒プロセスの設計及び実施について、企業はどの程度透明性を保っているか?
  • 役員がコンプライアンス違反を理由に企業を退職した場合、企業は、従業員との関係で当該退職の条件についてどの程度透明性を保っているか?
  • 全ての事例において懲戒処分の実際の理由は従業員に周知されているか?そうでない場合、なぜ周知されていないのか?
  • 不正の各事例において同じプロセスに従うのか?そうでない場合、その理由は何か?
  • 企業は、懲戒プロセスに関する情報の開示又はアクセスを制限する措置を講じているか?情報を制限する法律上又は調査上の理由はあるか?それとも、内部告発や外部調査から会社を守る口実としての理由が示されていないか?
懲戒処分
  • 経営者は、コンプライアンス・ポリシーを実施しようとする場合、どのような種類の懲戒処分を利用することができるか?
  • 企業は、役員又は従業員に直接的又は間接的に起因する不正行為がなければ得られなかったであろう報酬を回収するためのポリシー又は関連手続を定めているか?
  • 不正行為の潜在的な果実から利益を得ることはないと従業員に周知するために、企業は、どのようなポリシーと慣行を有しているか?
  • 問題となっている特定の不正行為について、企業は、当該不正行為との関係で、自社のポリシーと慣行に従うために誠意を持って努力してきたか?
整合性のある適用
  • 懲戒処分及びインセンティブは、企業全体において公平かつ整合的に適用されているか?
  • コンプライアンス部門は、一貫性を確保するために、その調査及びその結果としての懲戒処分をモニタリングしているか?
  • 異なる取扱いを受けた不正の類似事例はあるか?もしある場合、その理由は何か?
  • 組織のすべての地域、事業ユニット及び階層にわたる懲戒処分の一貫性を確保するために、企業はどのような指標を適用しているか?
金銭的なインセンティブ・システム
  • 企業は、金銭的な報奨その他のインセンティブがコンプライアンスに与える影響を考慮しているか?
  • 企業は、商業目標が当該ビジネスをコンプライアンスに準拠した倫理的な方法で運営する場合に達成可能なものであるか評価したか?
  • コンプライアンス部門は、組織の上層部における金銭的なインセンティブを設計し提供する際に、どのような役割を果たしているか?
  • どのようにしてコンプライアンスや倫理的行動を奨励しているか?
  • 役員報酬の何パーセントが、持続的かつ倫理的な事業目標を推進するために組み込まれているか?
  • 賞与及び繰延給与は、それらが提供される前後にコンプライアンス違反又は非倫理的な行動が明らかになった場合、適用法の下で可能な範囲で、撤回又は回収されるという条件になっているか?
  • 企業は、不正行為が行われた場合に支払った報酬を回収するためのポリシーを持っているか?
  • コンプライアンス及び倫理上の考慮から行った措置の具体例(例えば、昇進や賞与の却下、報酬の回収、繰延給与の撤回)はあるか?
実効性
  • 企業は、どのようにしてコンプライアンス違反の実効的な結果管理を実際に確保しているか?
  • 企業のホットラインの管理から、コンプライアンス重視の風土やホットライン申告の管理の指標となるどのような洞察が得られるか?
  • 企業全体で報告された不正行為と同様の類型の不正行為の発生率を(つまり、2つ以上の異なる州、国又は部署の間で)どのように比較し、又は、同様の状況にある企業を把握している場合、それとどのように比較するか?
  • 企業は、特定の行為が比較的過大に又は過小に報告されている分野について根本的原因の分析を行っているか?
  • ホットライン申告について調査を完了するまでの平均時間は?
  • 一貫性のない調査は担当部署によってどのように管理されているか?
  • 不正行為を行ったことが判明した経営幹部に与えられた報酬の何パーセントが、倫理違反を理由とする取消又は回収の対象となったか?
  • 報酬体系の関連する部分に適用される関連する法律及び地域の状況を考慮しつつ、企業は、どのようにコンプライアンス違反を処分し又は倫理的な過ちを処罰しようとしてきたか?
  • コンプライアンス関連の活動により実際にどの程度の報酬が(積極的に又は消極的に)影響を受けているか?

(2) クローバック・パイロット・プログラム

 報酬制度に関わるインセンティブ設計について、DOJの刑事局は2023年3月3日にパイロット・プログラム(3年間)の実施を公表し、企業が不正行為を行った従業員等から報酬の取り戻し(いわゆるクローバック)をした場合に一定の条件の下で当該企業に対する罰金を減額することなども示しています※2

(3) 改訂を踏まえた人事・懲戒制度の見直し

 役員報酬については、日本企業においても、クローバック条項やマルス条項(中長期的なインセンティブ報酬に関して支給前の報酬を減額したり消滅させたりするもの)の導入が進められています。もっとも、本指針やクローバック・パイロット・プログラムは役員と従業員とを区別していないため、従業員との関係で、どのような金銭的インセンティブの設計が可能なのか、果たして効果的かつ効率的に機能させることができるのかが問題となります。

 不正行為を行った役職員に対する処分の在り方について、本指針やクローバック・パイロット・プログラムは基本的に米国法を念頭に置いていますが※3、日本企業としては、日本の労働法等の規律を踏まえて対応を行う必要があります。例えば、従業員を解雇することについては解雇権濫用法理による制約があり、また、従業員に対して(損害賠償請求を行うことは考えられるものの)報酬の支払いを拒絶したり、その返還を求めたりすることは基本的に認められないと考えられます(労働基準法第24条1項参照)。

 この点、改訂後の執行例としては、2023年9月にAlbemarle社とDOJとの間で締結されたNPA(Non-Prosecution Agreement)が参考になります※4。本件においては、複数の国で行われていた贈賄スキームに関与していた17名の役職員のボーナス(合計76万3,453ドル)をAlbemarle社が凍結(withhold)したことについて、DOJのFraud Sectionが上記のパイロット・プログラムを適用し、制裁金の減額が認められています。ボーナスについては、企業によってその位置づけが異なるものの、純粋な賃金と比べると柔軟な設計が可能であると考えられます。また、退職金についても同様であり、ボーナスや退職金の設計を見直すとともに、効果的に周知・運用することにより、役職員が不正を行うインセンティブを下げ、本指針と整合的な形でコンプライアンスを重視する企業の姿勢を示すことが可能になると考えられます。

 また、従業員の行動をデザインする観点から、確かに金銭的インセンティブは分かり易い側面があるものの、人の行動は様々なインセンティブが複合的に影響し合い、また、多くのバイアスの影響を受けた結果として生じるものであるため、これらの要素にも丁寧に目を向け、インセンティブ設計を総合的に行うこともまた重要となります。

 さらに、懲戒制度は企業の姿勢や従業員に期待される行動を組織内に示すシグナルとして強い効果を持ち得るにもかかわらず、日本においては、懲戒制度の活用に非常に謙抑的な企業が少なくないと思われます。もっとも、本指針の改訂によってDOJの期待が明確化されたことを踏まえ、健全な組織風土を醸成し、コンプライアンス・プログラムの実効性を確保する観点からその運用を見直すことも検討に値するように思われます。

2. 社内コミュニケーションの管理(メッセージングアプリ、私的デバイス等)

(1) 改訂の概要

 本指針の主要な改訂の二つ目は、業務に利用されるコミュニケーション・チャネルや私的デバイスに関するルールを整備することにより、不正行為が発生した場合に企業や当局がその証拠を保全・収集できる環境を整える必要性が示されたことです。コンプライアンス・プログラムが実効的に機能するために不正行為の調査が徹底して行われなければならない旨は以前から示されていましたが、近年、金融機関の従業員による私的デバイスを利用した業務内容を含むコミュニケーションについて、米国証券取引委員会等が業務上のコミュニケーションを記録する義務に違反するものとして厳しく取り締まっていることや※5、コロナ禍でのリモートワーク等を契機として業務に様々なコミュニケーションツールや私的デバイスが利用されるようになったことを踏まえ、新たに視点が示されたものと考えられます。

 その具体的な考慮要素は以下のとおり整理されています。

コミュニケーション・チャネル
  • 企業とその従業員は、事業を行うために、どのような電子的コミュニケーション・チャネルを使い、又は、使うことが許されているか?
  • その実務は、裁判管轄や事業部門によってどのように異なるか?また、なぜ異なるのか?
  • 各電子的コミュニケーション・チャネルに含まれる情報を管理・保存するために、企業は、どのような仕組みを整備しているか?
  • 各コミュニケーション・チャネルにおいて、各従業員には、どのような保存設定及び削除設定が可能であるか?また、企業のポリシーは、それぞれに関して何を要求しているか?
  • どのコミュニケーション・チャネル及び設定が許可されるかを決定する企業のアプローチの理論的根拠は何か?
ポリシーに関する環境
  • 交換されたデバイスからコミュニケーションその他のデータを保存できるようにするために、どのようなポリシー及び関連手続が実施されているか?
  • セキュリティを確保したり、ビジネスに関連するコミュニケーションを監視/アクセスしたりする企業の能力を統制するための、①行動規範及び②プライバシー、セキュリティ及び雇用に関する法律又はポリシーは何か?
  • 企業が「私的デバイスの業務利用」(BYOD)プログラムを持っている場合、私的デバイス(メッセージング・プラットフォーム内に含まれるデータを含む。)に保存された企業のデータ及びコミュニケーションの保存及びアクセスを統制するポリシーはどのようなものか?そして、それらのポリシーの背後にある根拠は何か?
  • 個人デバイス及びメッセージング・アプリケーションに関して、企業のデータ保持ポリシー及びビジネス行動ポリシーは、どのように適用され、実施されているか?
  • 企業のポリシーは、BYOD及び/又はメッセージング・アプリケーションにおけるビジネス上のコミュニケーションを確認することを企業に許しているか?
  • 企業により、これらのポリシーにどのような例外又は制約が認められているか?
  • 従業員が、私用の電話やメッセージング・アプリケーションから、メッセージ、データ及び情報を企業の記録管理システムに転送して保存・保持すべきかについて、企業がポリシーを持っている場合、当該ポリシーは実際に遵守されているか?そして、当該ポリシーは、どのように実施されているか?
リスクマネジメント
  • 企業が社内のコミュニケーションにアクセスすることを拒否する従業員は、どのような影響を受けるか?企業は、それらの権利を行使したことがあるか?
  • 企業は、企業にそれらのコミュニケーションにアクセスさせるというポリシー又は要求に従わない従業員を懲戒しているか?
  • 個人デバイスやメッセージング・アプリケーション(一時的なメッセージング・アプリケーションを含む。)の利用は、企業のコンプライアンス・プログラム、企業が社内調査を実施する能力、或いは、企業が検察官、民事執行機関又は規制当局からの要請に応える能力を、何らかの形で損なわせていないか?
  • 企業は、どのようにセキュリティを管理し、企業の業務を遂行するために使用されるコミュニケーション・チャネルを統制しているか?
  • BYOD及びメッセージング・アプリケーションを含むコミュニケーション・チャネルを許容し管理する企業のアプローチは、当該企業のビジネス上の必要性やリスク・プロファイルに照らして合理的であるか?

(2) 改訂を踏まえたポリシー・ルールの整備や運用の見直し

 企業が役職員に貸与している業務用デバイス(PC、スマートフォン等)に関しては、業務外の利用を禁止し、有事の際にはデータを確認することができる旨定めている日本企業もあります。他方、業務に利用される私的デバイスのデータに関しても必要な限度で調査の対象とするためには、それを可能とするポリシーを予め策定・周知し、必要に応じて従業員の承諾を得ておくことが重要となります。これらの対応が行われているか否かは、有事の際、企業又はその依頼を受けた弁護士等による調査に大きな影響を与える可能性があるため、未だ対応を行っていない日本企業においては、平時から対応の要否を検討することが望ましいと考えます。

 また、業務用デバイスや私的デバイスの利用状況について、ポリシーやルールに従った運用が行われているか否かを継続的にモニタリングしたり、違反が確認された場合に適切に処分を行ったりしているか否かについても、DOJは関心を持つことが想定されるため、単にポリシーやルールを策定するだけでなく、それらが有効に機能していることを確認するプロセスを適切に運用することが重要となります。

おわりに

 本指針のアップデートやパイロット・プログラムが公表された昨年3月以降、特にクローバックに関する論点を中心に、その適否や有効性が認められる範囲、現実的な運用方法等について実務家や学者の間で様々な意見が見られます。したがって、現時点で今回ご紹介したトピックについてプラクティスが確立されているわけではありませんが、日本企業のみなさまにおいては、公表される執行例やDOJ幹部のリマークス等を今後も参考にしつつ、適用法令や企業の規模、組織のストラクチャー、ビジネスの内容、範囲を含め、個々の企業がその置かれた状況と直面する具体的なリスクに応じて効果的(effective)かつ説明可能(accountable)なコンプライアンス・プログラムを整備、運用すべく、継続的にメンテナンスを行っていただければ幸いです。

脚注一覧

※2
報酬を利用したインセンティブとクローバックに関する刑事局のパイロット・プログラム(The Criminal Division’s Pilot Program Regarding Compensation Incentives and Clawbacks)(https://www.justice.gov/opa/speech/file/1571906/download)参照

※3
ただし、本指針やクローバック・パイロット・プログラムも、法領域により取扱いに差異が生じること自体は認識しているものと考えられます。

※5
例えば、2022年9月28日付の日本経済新聞電子版の記事においては、金融機関の従業員が業務のやり取りの記録を怠ったとして、SECと米国商品先物取引委員会(CFTC)が11社の銀行と証券会社に対し、合計18億ドル(約2,600億円)の制裁金を科すと発表したことが報道されています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


全文ダウンロード(PDF)

Legal Lounge
会員登録のご案内

ホットなトピックスやウェビナーのアーカイブはこちらよりご覧いただけます。
最新情報をリリースしましたらすぐにメールでお届けします。

会員登録はこちら

弁護士等

危機管理/リスクマネジメント/コンプライアンスに関連する著書/論文

労働法に関連する著書/論文

紛争解決に関連する著書/論文

労働争訟に関連する著書/論文

決定 業務分野を選択
決定