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ニュースレター

米国HSR企業結合届出の基準額及び手数料の改定(2024年)

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2024年1月22日、米国連邦取引委員会(以下「FTC」といいます。)が、Hart-Scott-Rodino Act(以下「HSR法」といいます。)に基づく企業結合届出(以下「HSRファイリング」といいます。)に関して、HSRファイリングが必要となる届出基準額及び手数料の金額の改定(以下「本改定」といいます。)を発表しました※1。本改定の効力発生日は2024年3月6日とされています※2

 HSRファイリングの届出基準等については、米国の国民総生産(GDP)の増減を勘案して毎年改定されています。本改定によりHSRファイリングが必要になる取引の範囲が変わり、M&A取引の実務にも影響があるため、本ニュースレターでは、HSRファイリングの届出要件の概要及び本改定の内容をご紹介します。また、本ニュースレターの末尾では、FTCより別途発表されたClayton Act(以下「クレイトン法」といいます。)第8条に基づく役員兼任禁止の基準額の変更についてもご紹介します。

HSRファイリングの概要及び本改訂の内容

 HSR法の下では、議決権付き証券又は資産を取得する一定の要件を満たす企業結合について、当事者がFTC及び米国司法省に対して事前届出を行うことが求められ、届出受理から一定期間(待機期間)の取引実行が禁止されます。かかるHSRファイリングが必要となるか否かは、原則として、①通商要件(Commerce Test)※3、②取引規模要件(Size of Transaction Test)、及び③当事者規模要件(Size of Person Test)により判断されます※4

 上記②の取引規模要件について、取引規模(取引の結果、買収者が保有することになる議決権付き証券又は資産の価値)が一定の基準額を超えない場合には、HSRファイリングは不要となります。かかる取引規模要件の基準額は、本改定により119.5百万ドルとなります(2023年の基準額は111.4百万ドル)。

 他方、取引規模が119.5百万ドル(本改定後の基準額。以下、いずれも同様です。)を超え、478百万ドル以下の場合には、③の当事者規模要件を満たした場合にのみHSRファイリングが必要になります。そして、取引規模が478百万ドルを超える場合には、③の当事者規模要件にかかわらず、HSRファイリングの提出が必要になります。

 ③の当事者規模要件は、以下のいずれかに該当する場合に満たされることになります。

  1. 買収者の売上高又は総資産が全世界で239百万ドル以上、かつ、被買収者(製造業)の売上高又は総資産が全世界で23.9百万ドル以上である場合
  2. 買収者の売上高又は総資産が全世界で239百万ドル以上、かつ、被買収者(非製造業)の総資産が全世界で23.9百万ドル以上である場合
  3. 買収者の売上高又は総資産が全世界で23.9百万ドル以上、かつ、被買収者の売上高又は総資産が全世界で239百万ドル以上である場合

 元の法令上の基準額、2023年に改定された基準額及び2024年(本改定後)の基準額については以下をご覧下さい。

  元の法令上の基準額 2023年の基準額 2024年の基準額
取引規模基準 50百万ドル 111.4百万ドル 119.5百万ドル
取引規模基準(この基準額を超えると当事者規模要件にかかわらず届出が必要となる) 200百万ドル 445.5百万ドル 478百万ドル
当事者規模基準 10百万ドル及び100百万ドル 22.3百万ドル及び222.7百万ドル 23.9百万ドル及び239百万ドル

 HSR法に基づく報告の閾値(notification threshold)も、それぞれ以下のとおり改定されています。ある取引について上記の取引規模要件や当事者規模要件を満たしてHSRファイリングが必要となった場合、HSRファイリング時に以下のいずれの報告閾値を超える取引かを明示することになります。買収者は、当該HSRファイリングの待機期間が終了した後1年間、明示された報告閾値を超える(但し、それよりも上の報告閾値を超えない)取引を実行することができます。そして、かかる取引の実行後、待機期間の終了後5年間は、買収者が同じ被買収者の議決権付き証券を追加で取得したとしても、HSRファイリング時に明示していた報告閾値よりも上の閾値を超えない取引については、新たにHSRファイリングを行う必要はありません。

元の法令上の基準額 2023年の基準額 2024年の基準額
50百万ドル 111.4百万ドル 119.5百万ドル
100百万ドル 222.7百万ドル 239百万ドル
500百万ドル 11.137億ドル 11.95億ドル
25%(但し、10億ドルを超える場合) 25%(但し、22.274億ドルを超える場合) 25%(但し、23.9億ドルを超える場合)
50%(但し、50百万ドルを超える場合) 50%(但し、111.4百万ドルを超える場合) 50%(但し、119.5百万ドルを超える場合)

 また、本改定によりHSRファイリングの手数料の額にも変更がありました。本改定後のHSRファイリングの手数料の金額は以下のとおりです。

取引規模 HSRファイリングの手数料
119.5百万ドル~173.3百万ドル未満 30,000ドル
173.3百万ドル~536.5百万ドル未満 105,000ドル
536.5百万ドル~10.73億ドル未満 260,000ドル
10.73億ドル~21.46億ドル未満 415,000ドル
21.46億ドル~53.65億ドル未満 830,000ドル
53.65億ドル以上 2,335,000ドル

 上述のとおり、本改定の効力発生日は2024年3月6日とされており、本改定後の届出基準は効力発生日以降にクロージングを迎える取引に適用されます。また、本改定後のHSRファイリングの手数料は、効力発生日以降に行われるHSRファイリングに適用されることになります。

クレイトン法第8条に基づく役員兼任禁止の基準額の変更

 クレイトン法第8条は、一定の要件を満たす競合する二つの会社の取締役(director)や執行役(officer)の兼任を禁止しているところ、FTCは、効力発生日を2024年1月22日として、クレイトン法第8条の兼任禁止に関する基準額の変更についても発表しました※5。新たな基準額の下では、競合する会社のそれぞれの資本金、剰余金及び未処分利益の合計額が48,559,000ドルを超える場合で、かつ、両者の競合する売上高がそれぞれ4,855,900ドル以上の場合には、一定のセーフハーバーに該当しない限り、原則として役員兼任が禁止されることになります。

脚注一覧

※3
企業結合取引の一方当事者が通商に従事していること又は通商に影響を及ぼす事業活動に従事していることが要件とされており、通常の企業結合取引はかかる通商要件を充足することになると考えられます。

※4
その他、HSR法ではファイリングが不要となる様々な適用除外(例えば、一定の外国会社の議決権付き証券の取得に関する適用除外等)が定められていますが、本ニュースレターではかかる適用除外の説明は割愛いたします。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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