
大久保涼 Ryo Okubo
パートナー(NO&T NY LLP)/オフィス共同代表
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ニュースレター
米国HSR企業結合届出の基準額及び手数料の改定(2024年)(2024年2月)
米国HSR企業結合届出規則の改正について(2024年11月)
2025年1月10日、米国連邦取引委員会(以下「FTC」といいます。)が、Hart-Scott-Rodino Act(以下「HSR法」といいます。)に基づく企業結合届出(以下「HSRファイリング」といいます。)に関して、HSRファイリングが必要となる届出基準額及び手数料の金額の改定(以下「本改定」といいます。)を発表しました※1。本改定による新しい基準額は、2025年2月21日(効力発生日)以降にクロージングを迎える取引に適用されることになります※2。
2024年2月に発行したニュースレター※3でもご紹介したとおり、HSRファイリングの届出基準等については、米国の国民総生産(GDP)の増減を勘案して毎年改定されています。本改定によりHSRファイリングが必要になる取引の範囲が変わり、M&A取引の実務にも影響があるため、本ニュースレターでは、HSRファイリングの届出要件の概要及び本改定の内容をご紹介します。また、本ニュースレターの末尾では、FTCより別途発表されたClayton Act(以下「クレイトン法」といいます。)第8条に基づく役員兼任禁止の基準額の変更についてもご紹介します。
なお、2024年11月に発行したニュースレター※4でご紹介していたHSR企業結合規則の改正(HSRファイリングの提出時に当事者が提供すべき情報や書類の範囲を大幅に拡大するもの)については、2025年2月10日に効力が発生することになっていますが、2025年1月10日に米国商工会議所(The Chamber of Commerce of the United States)らにより改正規則の効力の差止めを求める訴訟がテキサス東部地区地方裁判所において提起されたこと※5等から、予定通り2025年2月10日に効力発生となるかは不確実な状況であり、今後の動向を注視する必要があります。
HSR法の下では、議決権付き証券又は資産を取得する一定の要件を満たす企業結合について、当事者がFTC及び米国司法省に対して事前届出を行うことが求められ、届出受理から一定期間(待機期間)の取引実行が禁止されます。かかるHSRファイリングが必要となるか否かは、原則として、①通商要件(Commerce Test)※6、②取引規模要件(Size of Transaction Test)、及び③当事者規模要件(Size of Person Test)により判断されます※7。
上記②の取引規模要件について、取引規模(取引の結果、買収者が保有することになる議決権付き証券又は資産の価値)が一定の基準額を超えない場合には、HSRファイリングは不要となります。かかる取引規模要件の基準額は、本改定により126.4百万ドルとなります(2024年の基準額は119.5百万ドル)。
他方、取引規模が126.4百万ドル(本改定後の基準額。以下、いずれも同様です。)を超え、505.8百万ドル以下の場合には、③の当事者規模要件を満たした場合にのみHSRファイリングが必要になります。そして、取引規模が505.8百万ドルを超える場合には、③の当事者規模要件にかかわらず、HSRファイリングの提出が必要になります。
③の当事者規模要件は、以下のいずれかに該当する場合に満たされることになります。
元の法令上の基準額、2024年に改定された基準額及び2025年(本改定後)の基準額については以下をご覧下さい。
元の法令上の基準額 | 2024年の基準額 | 2025年の基準額 | |
---|---|---|---|
取引規模基準 | 50百万ドル | 119.5百万ドル | 126.4百万ドル |
取引規模基準(この基準額を超えると当事者規模要件にかかわらず届出が必要となる) | 200百万ドル | 478百万ドル | 505.8百万ドル |
当事者規模基準 | 10百万ドル及び100百万ドル | 23.9百万ドル及び239百万ドル | 25.3百万ドル及び252.9百万ドル |
HSR法に基づく報告の閾値(notification threshold)も、それぞれ以下のとおり改定されています。ある取引について上記の取引規模要件や当事者規模要件を満たしてHSRファイリングが必要となった場合、HSRファイリング時に以下のいずれの報告閾値を超える取引かを明示することになります。買収者は、当該HSRファイリングの待機期間が終了した後1年間、明示された報告閾値を超える(但し、それよりも上の報告閾値を超えない)取引を実行することができます。そして、かかる取引の実行後、待機期間の終了後5年間は、買収者が同じ被買収者の議決権付き証券を追加で取得したとしても、HSRファイリング時に明示していた報告閾値よりも上の閾値を超えない取引については、新たにHSRファイリングを行う必要はありません。
元の法令上の基準額 | 2024年の基準額 | 2025年の基準額 |
---|---|---|
50百万ドル | 119.5百万ドル | 126.4百万ドル |
100百万ドル | 239百万ドル | 252.9百万ドル |
500百万ドル | 11.95億ドル | 12.64億ドル |
25%(但し、10億ドルを超える場合) | 25%(但し、23.9億ドルを超える場合) | 25%(但し、25.29億ドルを超える場合) |
50%(但し、50百万ドルを超える場合) | 50%(但し、119.5百万ドルを超える場合) | 50%(但し、126.4百万ドルを超える場合) |
また、本改定によりHSRファイリングの手数料の額にも変更がありました。本改定後のHSRファイリングの手数料の金額は以下のとおりです。
取引規模 | HSRファイリングの手数料 |
---|---|
126.4百万ドル~179.4百万ドル未満 | 30,000ドル |
179.4百万ドル~555.5百万ドル未満 | 105,000ドル |
555.5百万ドル~11.11億ドル未満 | 265,000ドル |
11.11億ドル~22.22億ドル未満 | 425,000ドル |
22.22億ドル~55.55億ドル未満 | 850,000ドル |
55.55億ドル以上 | 2,390,000ドル |
上述のとおり、本改定後の届出基準は効力発生日以降にクロージングを迎える取引に適用され、本改定後のHSRファイリングの手数料は、効力発生日以降に行われるHSRファイリングに適用されることになります。
また、HSR法に違反した場合の罰金(civil penalty)の上限額についても、一日当たり51,744ドルから、一日当たり53,088ドルに変更されました(当該変更の効力発生日は2025年1月17日)。
クレイトン法第8条は、一定の要件を満たす競合する二つの会社の取締役(director)や執行役(officer)の兼任を禁止しているところ、FTCは、効力発生日を2025年1月22日として、クレイトン法第8条の兼任禁止に関する基準額の変更についても発表しました※8。新たな基準額の下では、競合する会社のそれぞれの資本金、剰余金及び未処分利益の合計額が51,380,000ドルを超える場合で、かつ、両者の競合する売上高がそれぞれ5,138,000ドル以上の場合には、一定のセーフハーバーに該当しない限り、原則として役員兼任が禁止されることになります。
※3
当事務所発行の米国最新法律情報No.110/独占禁止法・競争法ニュースレターNo.28「米国HSR企業結合届出の基準額及び手数料の改定(2024年)」(2024年2月)
※4
当事務所発行の米国最新法律情報No.131/独占禁止法・競争法ニュースレターNo.39「米国HSR企業結合届出規則の改正について」(2024年11月)
※6
企業結合取引の一方当事者が通商に従事していること又は通商に影響を及ぼす事業活動に従事していることが要件とされており、通常の企業結合取引はかかる通商要件を充足することになると考えられます。
※7
その他、HSR法ではファイリングが不要となる様々な適用除外(例えば、一定の外国会社の議決権付き証券の取得に関する適用除外等)が定められていますが、本ニュースレターではかかる適用除外の説明は割愛いたします。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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