
宮城栄司 Eiji Miyagi
パートナー
東京
NO&T Food System and Nature Law Update 農林水産・食品ビジネス法務ニュースレター
NO&T Technology Law Update テクノロジー法ニュースレター
農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律(以下「促進法」という。)が2024年6月14日に成立し、同年6月21日に公布された。促進法は公布日から6ヶ月以内に施行される予定である。農林水産省は、ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用したスマート農業の実証をスタートし、スマート農業の社会実装を加速させていくため、2019年からスマート農業実証プロジェクトを開始していたところである※1。本稿では、農林水産省によるこれまでのスマート農業の促進施策を踏まえ、促進法を概観する。
促進法は、「スマート農業技術の活用」、「農産物の新たな生産の方式の導入」、「スマート農業技術等の開発及びその成果の普及を促進するための措置」により、スマート農業技術の活用を促進し、農業の持続的な発展及び国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的としている(促進法第1条)。
促進法では、「スマート農業技術」は、農業機械等※2に組み込まれる遠隔操作、自動制御その他の情報通信技術を用いた技術であって、農業を行うに当たって必要となる認知、予測、判断又は動作に係る能力の全部又は一部を代替し、補助し、又は向上させることにより、農作業の効率化、農作業における身体の負担の軽減又は農業の経営管理の合理化を通じて農業の生産性を相当程度向上させることに資するものと定義された(促進法第2条第1項)※3。
また、「生産方式革新事業活動」及び「開発供給事業」の定義が設けられ、後述のとおり、それぞれの活動・事業に係る認定を受けることができる制度が設けられた(同条第3項及び第5項)。
定義 | |
---|---|
生産方式革新事業活動 |
農業者等※4(団体である場合は構成員等を含む。)が、以下の事業活動の全てを相当規模で行うことにより、当該農業者等が行う農業の生産性を相当程度向上させること
|
開発供給事業 |
|
生産方式革新事業活動としては、自動収穫ロボットによる収穫や省力樹形とした上で直線的な配置とすることで機械作業を可能にするような生産方式等が想定されている※6。
また、「スマート農業技術活用サービス」は、農業者等が行う農業を支援するため対価を得て継続的に行うスマート農業技術を活用した以下の役務と定義されている(同条第4項)。
促進法は、①国が「生産方式革新事業活動の必要性及び有効性に関する知識の普及及び啓発」を図ること、②農業者等が「スマート農業技術の性格、生産する農産物の特性等に応じて、生産方式革新事業活動に主体的かつ積極的に取り組むことにより農業の生産性の向上を図ること」を基本的な理念とする(促進法第3条第1項)。また、開発供給事業については、開発供給事業を行う者及び関係者が「相互に密接な連携」を図り、「特に必要性が高いと認められるスマート農業技術等を重点的かつ迅速に開発し、農業者等に供給することにより農業の生産性の向上を図ること」が理念として掲げられている(同条第2項)。
国は、スマート農業技術の活用の促進に関する推進に当たって、生産方式革新事業活動を行う農業者等及び開発供給事業を行う者に対して集中的かつ効果的な支援を行うよう努めるものとされている(促進法第4条第2項)。また、国は、生産方式革新事業活動又は開発供給事業の促進に資するよう、これらに関する情報の収集、整理及び提供を行うこととされた(促進法第20条)。
上記のような基本理念等を踏まえ、農林水産大臣は、以下の内容を含む基本方針を定めることとされた(促進法第6条第1項及び第2項)。
生産方式革新事業活動 |
|
開発供給事業 |
|
生産方式革新事業活動と開発供給事業の連携に関する基本的な事項 | |
生産方式革新事業活動と開発供給事業の促進に関する重要事項 |
生産方式革新事業活動を行おうとする農業者等は、単独又は共同で、生産方式革新事業活動の実施に関する計画(生産方式革新実施計画)を作成し、農林水産大臣の認定を受けることができる(促進法第7条第1項)。生産方式革新実施計画には、以下の事項を記載する(同条第2項)。
また、生産方式革新実施計画には、以下の区分に応じてそれぞれ以下の事項を含むことができる(同条第3項)※10。
農業者等 | 含むことができる事項 |
---|---|
スマート農業技術活用サービス事業者 | スマート農業技術活用サービスの活用 |
食品等事業者※11 | 農産物又は食品の新たな製造・加工・流通又は販売の方式の導入 |
さらに、生産方式革新実施計画には、生産方式革新事業活動及び上記の事項に関連して、以下の事項を記載することができる(促進法第7条第4項)。
生産方式革新事業活動の用に供する設備等の導入 |
|
スマート農業技術活用サービスの提供及び農産物又は食品の新たな製造・加工・流通又は販売の方式の導入の用に供する設備等の導入 |
|
無人航空機を飛行させる行為※12 |
|
一定の方法※13によらずに無人航空機を飛行させる行為 |
|
農林水産大臣は、生産方式革新実施計画が基本方針に照らし適切であり、当該生産方式革新実施計画に係る生産方式革新事業活動が円滑かつ確実に行われると見込まれるものである場合には、認定を行うものとされている(促進法第7条第5項)。
認定を受けた農業者等は、認定を受けた生産方式革新実施計画を変更しようとするときは、軽微な変更の場合を除き、農林水産大臣の認定を受ける必要があり(促進法第8条第1項)、認定を受けた生産方式革新実施計画に従って生産方式革新事業活動を行っていない場合には、農林水産大臣は、認定を取り消すことができる(同条第3項)。認定の取消しについては、その旨が公表される(同条第5項)。
生産方式革新実施計画について認定を受けた場合には、その内容に応じて、以下の特例が適用される(促進法第9条乃至第11条)。
適用法令 | 該当する場合 | 適用される内容 |
---|---|---|
農地法 | 生産方式革新事業活動の内容として、農作物栽培高度化施設の底面とするために農地をコンクリートその他これに類するもので覆う措置を記載した場合 | 農地法第43条第1項の規定による届出があったものとみなされる |
航空法 | 無人航空機を飛行させる行為が記載された場合 | 航空法第132条の85第4項第2号の許可があったものとみなされる |
一定の方法によらずに無人航空機を飛行させる行為が記載された場合 | 航空法第132条の86第5項第2号の承認があったものとみなされる | |
野菜生産出荷安定法 | 産地連携野菜供給契約※14に基づく指定野菜※15の供給の事業(指定野菜を生産する農業者等の作付面積が一定の面積に達している場合に限る。)を行う旨が記載された場合 | 認定を受けた農業者等を野菜生産出荷安定法第10条第1項に規定する登録生産者とみなして、交付金の交付を定める同法第12条が適用される |
また、株式会社日本政策金融公庫は、認定生産方式革新事業者であって、以下に該当する者に対し、食料の安定供給の確保又は農業の持続的かつ健全な発展に資する長期かつ低利※16の資金であって、認定生産方式革新実施計画に従って行われる生産方式革新事業活動を行うために必要な、以下に規定するもののうち農林水産大臣及び財務大臣の指定する貸付けを業務として行うことができることとされた(促進法第12条第1項)。これにより、認定生産方式革新事業者は、日本政策金融公庫による長期低金利の融資を受けられることとなる。
貸付けを行う対象となる認定生産方式革新事業者 | 貸付けを行うことができる範囲 |
---|---|
|
他の金融機関が融通することを困難とする資金であって、資本市場から調達することが困難なもの |
|
他の金融機関が融通することを困難とする資金 |
|
他の金融機関が融通することを困難とする資金であって、その償還期限が10年を超えるもの |
開発供給事業を行おうとする者は、単独又は共同で、開発供給事業の実施に関する計画(開発供給実施計画)を作成し、農林水産大臣の認定を受けることができる(促進法第13条)。
開発供給実施計画には、以下の事項を記載する(同条第2項)。
また、開発供給実施計画には、開発供給事業に関連して、以下の事項を記載することができる(同条第3項)。
開発供給事業の用に供する設備等の導入 |
|
無人航空機を飛行させる行為※17 |
|
一定の方法※18によらずに無人航空機を飛行させる行為 |
|
研究開発設備等※19の利用 |
|
農業競争力強化支援法第2条第6項に規定する事業参入 |
|
農林水産大臣は、開発供給実施計画が基本方針に照らし適切であり、当該開発供給実施計画に係る開発供給事業が円滑かつ確実に行われると見込まれるものである場合(農業競争力強化支援法第2条第6項に基づく事業参入が記載されている場合には、同法第21条第1項の認定をすることができる場合)には、認定を行うものとされている(促進法第13条第4項)。
認定を受けた者は、認定を受けた開発供給実施計画を変更しようとするときは、軽微な変更の場合を除き、農林水産大臣の認定を受ける必要があり(促進法第14条第1項)、認定を受けた開発供給実施計画に従って開発供給事業を行っていない場合には、農林水産大臣は、認定を取り消すことができる(同条第3項)。認定の取消しについては、その旨が公表される(同条第5項)。
開発供給実施計画について認定を受けた場合には、その内容に応じて、以下の特例が適用される(促進法第15条、第16条及び第19条)。
適用法令 | 該当する場合 | 適用される内容 |
---|---|---|
航空法 | 無人航空機を飛行させる行為が記載された場合 | 航空法第132条の85第4項第2号の許可があったものとみなされる |
一定の方法によらずに無人航空機を飛行させる行為が記載された場合 | 航空法第132条の86第5項第2号の承認があったものとみなされる | |
種苗法 | 開発供給事業の成果に係る出願品種に関する品種登録出願を行った場合(当該開発供給事業の実施期間の終了日から2年以内に品種登録出願がされたものに限る。) |
|
農業競争力強化支援法 | 農業競争力強化支援法第2条第6項に規定する事業参入に関する事項が記載された場合 | 農業競争力強化支援法第21条第1項の認定があったものとみなされる |
また、株式会社日本政策金融公庫は、認定開発供給事業者であって、以下に該当する者に対し、食料の安定供給の確保又は農業の持続的かつ健全な発展に資する長期かつ低利※21の資金であって、開発供給実施計画に従って行われる開発供給事業を行うために必要な、以下に規定するもののうち農林水産大臣及び財務大臣の指定する貸付けを業務として行うことができることとされた(促進法第18条第1項)。これにより、認定開発供給事業者は、日本政策金融公庫による長期低金利の融資を受けられることとなる。
貸付けを行う対象となる認定開発供給事業者 | 貸付けを行うことができる範囲 |
---|---|
|
他の金融機関が融通することを困難とする資金であって、資本市場から調達することが困難なもの |
|
他の金融機関が融通することを困難とする資金であって、その償還期限が10年を超えるもの |
促進法は、スマート農業技術を促進するために制定され、日本政策金融公庫による長期かつ低金利の融資を受けられる仕組みが導入された。加えて、令和6年度予算では、スマート農業技術の開発やスタートアップへの総合的支援のための約44億円の予算が確保されているところである。人口減少、高齢化が進む中、スマート農業技術を用いた持続的な農業基盤の維持のため、多数の新規参入企業の増加が期待される。
※1
農林水産技術会議「『スマート農業実証プロジェクト』について」
※2
農業機械、農業用ソフトウェア及び農林水産省令で定めるものが該当する。
※3
スマート農業技術の例については農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」5頁以下及び農林水産省「スマート農業技術カタログ」も参照。
※4
農業者又はその組織する団体(農業者が主たる構成員又は出資者となっている法人を含む。)をいう(促進法第2条第2項)。
※5
スマート農業技術その他の生産方式革新事業活動に資する先端的な技術をいう。
※6
農林水産省基本法検証部会(令和6年3月11日)資料5-2「参考資料 農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律案」(以下「部会資料」という。)5頁
※7
ドローンによる農薬散布、ロボットコンバインによる収穫等(部会資料6頁)。
※8
収穫ロボット等のレンタル・シェアリング等(部会資料6頁)。
※9
データの収集・分析等により栽培管理の見直しや作業体系の最適化を提案するサービス等(部会資料6頁)。
※10
いずれも農業者等が行う生産方式革新事業活動の促進に資するものに限られる(促進法第7条第3項)。
※11
農作物又は食品(農作物を原料又は材料として製造・加工した飲食物のうち医薬品、医薬部外品及び再生医療等製品(いずれも医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に定義される。)以外のものをいう。)の製造・加工・流通又は販売の事業を行う者を指す。
※12
航空法第132条の85第1項第2号に掲げる空域(人口集中地域)における飛行を指す。
※13
航空法第132条の86第2項第1号乃至第3号、第5号又は第6号に掲げる方法を指す。具体的には、①日出から日没までの間において飛行させること、②無人航空機及びその周囲の状況を目視により常時監視して飛行させること、③無人航空機と地上・水上又は物件との間に一定の距離を保って飛行させること、④無人航空機により爆発性・易燃性を有する物件その他他人に危害を加え、又は他の物件を損傷するおそれがあるものを輸送しないこと、⑤無人航空機から物件を投下しないことである。
※14
農業者等が指定野菜を原料・材料として使用する製造・加工の事業又は指定野菜の販売の事業を行う者との間で締結する指定野菜の供給に係る契約(複数の山地の農業者等が連携して行う指定野菜の供給に係るものであって、天候その他やむを得ない事由により供給すべき指定野菜に不足が生じた場合に、これと同一の種別に属する指定野菜を供給するものを内容とするものに限る。)をいう。
※15
指定野菜とは、野菜生産出荷安定法第2条に規定する指定野菜をいう。現時点では、キャベツ、きゅうり、さといも、だいこん、トマト、なす、にんじん、ねぎ、はくさい、ピーマン、レタスのうち各季節に出荷されるものが指定されている。
※16
促進法第12条第2項及び6月24日に公表された政令案(以下「政令案」という。)によれば、利率は最高年8.5%、償還期限は25年(据置期間は5年)の範囲内で公庫が定めることが予定されている。
※17
航空法第132条の85第1項第2号に掲げる空域(人口集中地域)における飛行を指す。
※18
航空法第132条の86第2項第1号乃至第3号、第5号又は第6号に掲げる方法を指す。
※19
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の保有する研究開発に係る設備等及び土地のうち開発供給事業の促進に資するものとして農林水産省令で定めるもの
※20
政令案によれば、出願料及び登録料については納付すべき額の4分の3の軽減が予定されている。
※21
促進法第18条第2項及び政令案によれば、認定生産方式革新事業者に対する貸付けと同様、利率は最高年8.5%、償還期限は25年(据置期間は5年)の範囲内で公庫が定めることが予定されている。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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