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ニュースレター

米国における自己株式取得課税に関する規則案の公表

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 当事務所が2023年6月13日に発行したニュースレター※1(以下「前回ニュースレター」といいます。)では、2022年8月に制定されたインフレーション抑制法(the Inflation Reduction Act of 2022、「IRA」)に基づく上場会社による自己株式取得に対する1%の物品税(excise tax)(「自己株式取得税」)について、米国に子会社を有する日本の上場企業による自己株式取得にも広く適用される可能性がある旨を、2022年12月に公表された自己株式取得税の中間ガイダンス(「Notice 2023-2」)※2を踏まえて紹介しました。米国財務省及び内国歳入庁は、その後の議論を踏まえて、2024年4月12日に、自己株式取得税に関する計算方法及び手続に関する規則の最終案を公表し、手続関係に関する規則(「手続関係規則」)については、一部の修正を経て最終化を行う旨が6月28日に公表されました※3

 そこで、本ニュースレターでは、前回ニュースレターのアップデートとして、4月12日に公表された計算関係に関する規則(「計算関係規則」)の最終案及び6月28日に公表された最終の手続関係規則の概要について紹介します。

自己株式取得課税の日本企業への適用

 まずは、前回ニュースレターでも紹介しましたが、自己株式取得税について簡単にその概要を紹介します。自己株式取得税は、米国国内の上場会社(covered corporation、「対象会社」)が自己株式の買戻し(repurchase)をした場合、又は特定関連者(specified affiliate)が対象会社の株式を取得(purchase)した場合に、当該株式の公正市場価値(fair market value)の1%に相当する額を、物品税として、対象会社に対して課税するものです。そして、発行する株式が外国の確立した証券市場で取引されている外国会社(applicable foreign corporation、「適用外国会社」)の米国内にある特定関連者も「適用特定関連者」として、適用外国会社の株式を取得する場合には自己株式取得税の適用があるとされています。すなわち、日本の上場会社の米国子会社が当該日本の上場親会社の株式を取得する場合には自己株式取得税の適用があることになります。

 この点、子会社による親会社株式の取得を原則禁止とする会社法135条が海外の子会社による親会社株式の取得についても適用があるという立場に立てば、日本企業の米国子会社が日本の親会社の株式を取得することは原則として制限されるため、自己株式取得税が日本の上場会社に適用される場面は限定的とも思われますが、Notice 2023-2では以下の資金調達ルールの原則及びみなし資金調達ルールが規定されており、これらによる日本の上場企業への広い適用可能性が示唆されていました※4

1. 資金調達ルールの原則

 Notice 2023-2では、適用外国会社による自己株式の買戻し又は外国の特定関連者による適用外国会社の株式の取得であっても、以下の要件を満たす場合には、自己株式取得税の適用があるとされています(「資金調達ルール」)。

  1. 適用特定関連者から、その方法の如何を問わず(配当、貸付、出資を含む。)調達された資金によって適用外国会社株式の買戻し又は取得が行われたこと
  2. 当該資金調達が自己株式取得税を回避することを主要目的として行われたこと
  3. 当該資金調達が2022年12月27日以降に行われたこと

 この資金調達ルールによれば、日本の上場会社による自己株式の買戻しであっても、その買戻資金が米国子会社からの配当や貸付であった場合には、自己株式取得税の適用があり得ることになります。もっとも、そのためには、特に上記②の要件を満たす必要があります。

2. みなし資金調達ルール(Per Se Funding Rule)

 上記②の要件に関して、Notice 2023-2では、さらに、適用特定関連者からの資金調達が、(i)配当以外の方法によって、(ii)自己株式取得の2年以内に行われた場合には、上記租税回避の主要目的が存在するものとみなされると規定されています(「みなし資金調達ルール」)。

 したがって、たとえば、米国子会社から日本の上場親会社に対してグループ間取引に基づく売掛債権の支払を行った場合であっても、その2年以内※5に日本の上場親会社が自己株式取得を行えば、当該売掛債権の回収は自己株式取得税を回避することを主要目的として行われたとみなされ、自己株式取得税が課税される可能性がありました。

計算関係規則の最終案

 米国財務省及び内国歳入庁は、2024年4月12日付で計算関係規則の最終案を公表しました※6。当該最終案は適用事例を含む多くの内容を規定したものとなっていますが、日本の上場企業との関係で特に重要な点としては、上記みなし資金調達ルールが見直された点が挙げられます。修正後のみなし資金調達ルールは以下のとおりです※7

  1. 適用外国会社の適用特定関連者が、その方法の如何を問わず、直接又は間接に、下位関連事業体(「downstream relevant entity」)に対して資金の供与を行っていること
  2. 当該資金供与が、当該下位関連事業体による又は当該下位関連事業体を代理して行われた適用外国会社株式の買戻し又は取得の2年以内に行われていること
  3. 当該ルールによる租税回避目的の推定は、事実関係及び事情によって租税回避目的がなかったことを明確に証明した場合には反証可能であること

 なお、みなし資金調達ルールにおける「下位関連事業体」とは、適用外国会社の適用特定関連者が、直接又は間接を問わず、個別に又は総体として、25%以上の株式、持分等を所有している関連事業体を意味し、「関連事業体」とは適用外国会社の特定関連者であって、適用特定関連者ではないものを意味します※8

 以上からすると、みなし資金調達ルールによって自己株式取得税の回避目的が主要な目的であったと推定される場面は、日本の上場企業の米国子会社が25%以上の株式又は持分を所有する関連事業体に対して資金供与をした場合に限定されましたので、みなし資金調達ルールが適用される場面は、当該関連事業体が日本の上場会社の株式を購入する場合等に限定され、懸念されていた、日本の上場会社の米国子会社が日本の上場親会社に資金供与し、日本の上場親会社が自己株式を取得する場合には適用されません。また、Notice 2023-2公表時にはみなし資金調達ルールは反証不可のみなし規定とされていましたが、反証可能であることが計算関係規則の最終案で明記された点も大きなポイントといえます。

 他方で、資金調達ルールの原則自体は引き続き計算関係規則に規定されているため※9、事実関係及び事情を踏まえて、米国子会社から日本の上場親会社に対する資金供与が自己株式取得税の租税回避目的が主要な目的であると判断された場合には、その前後※10で行われた日本の上場親会社による自己株式取得に対して自己株式取得税が課せられる可能性は依然あるという点には留意が必要です。

手続関係規則の最終化

 冒頭で述べたとおり、米国財務省及び内国歳入庁は、2024年6月28日に、同年4月12日付で公表した自己株式取得税に関する手続関係規則について、一部の修正を加えた上で、最終化したと公表しました。重要なポイントとして、自己株式取得税に関する申告の方法及び期限について、物品税に関するForm 720を自己株式取得税の計算を行ったForm 7208と共に申告を行うこととされており、その期限は、Form 720の期限である、課税対象の事業年度終了後の最初の四半期末までとされています。そして、自己株式取得税の適用がある2023年1月1日以降に行われた自己株式取得に関する申告については、2023年1月1日から2024年6月28日までの間に終了した事業年度に関する申告を、2024年6月28日(手続関係規則の効力発生日)以降の最初の四半期末、すなわち2024年10月31日までに申告するよう求められていますので、上記期間(2023年1月1日から2024年6月28日まで)内において行われた自己株式取得に自己株式取得税の適用がある場合には、2024年10月31日までに申告が必要となります。

実務上のポイント

 以上のとおり、みなし資金調達ルールの見直しによって、日本企業による自己株式取得に対する自己株式取得税の適用可能性は、当初Notice 2023-2が公表された当時に想定したものよりは限定的になると思われます。しかしながら、米国当局が米国子会社から日本の上場親会社に対する何らかの資金提供が自己株式取得税の回避が主要な目的であると判断すれば、資金調達ルールの原則に従って自己株式取得税の適用を主張してくる可能性は否定できません。この場合、上記で述べたとおり、会社法135条が米国子会社にも適用があるという立場に立てば、そもそも米国子会社が日本の上場親会社の株式を取得することは制限されているため、自己株式取得税の原則的な適用の余地はなく、米国子会社から日本の上場親会社に対する資金供与が租税回避目的とはなり得ない等といった主張等が検討に値します。また、米国子会社と日本の上場親会社の間における取引における資金の流れについて、自己株式取得税の回避目的はないといえるためにどのような実務上の対応が求められるのか、米国当局が自己株式取得税の回避目的を認定するために必要な事実関係及び事情とは具体的にどのような内容が想定されるのか等といった点については、今後の実務の集積が待たれるポイントになると考えます。いずれにせよ、今回の手続関係規則の最終化によって自己株式取得税に係る申告のタイミングが明確になりましたので、少なくとも2023年1月1日から2024年6月28日までに終了する事業年度において自己株式取得を行った日本の上場会社が米国に子会社を有し、米国の子会社から日本の上場親会社に資金の流れがある場合には、自己株式取得税の適用の有無について検討が求められる可能性があるという点について、留意いただく必要があります。

脚注一覧

※4
詳細は前回ニュースレターをご参照ください。

※5
みなし資金調達ルールの適用にあたって、資金調達後2年以内に行われた自己株式に限るのか、資金調達の前後2年以内に行われた自己株式取得も対象になるのか明らかではありませんでしたが、その点は計算関係規則において修正されたルールにおいても明確にされていません。

※7
計算関係規則案§58.4501-7(e)(2)

※8
計算関係規則案§58.4501-7(a)(xi)及び(xiv)

※9
計算関係規則案§58.4501-7(e)(1)

※10
計算関係規則案§58.4501-7(e)(1)は、資金供与が適用外国会社による買戻し等の前後で行われているか否かを問わないとされています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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