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組織再編成に関する行為計算否認規定を適用してなされた更正処分が初めて取り消された事例(東京地裁令和6年9月27日判決)

NO&T Tax Law Update 税務ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 本来は非適格組織再編であるものを形式的に適格組織再編の要件を充足させ適格組織再編とするなどの手法で租税回避が行われた場合、税務当局により「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(法人税法132条の2)として更正処分が打たれ、その課税関係を否認(否定)されることがあります(同条を組織再編成に関する行為計算否認規定といいます。)。このような代表的な事例としては、ヤフー事件(最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決)、TPR事件(東京地裁令和元年6月27日判決、東京高裁令和元年12月11日判決)が挙げられ、これらはいずれも繰越欠損金の引継ぎが否定された事案です。本稿で紹介するPGM事件(東京地裁令和6年9月27日判決)もグループ会社間の合併による繰越欠損金の引継ぎが問題となった事案ですが、行為計算否認規定を適用してなされた更正処分が初めて裁判所によって取り消された事案として注目に値します※1

事案の概要

 本件は、ゴルフ場運営会社PGMグループのグループ法人であるPGMプロパティーズ(原告)が、2回の適格合併を経て、PGPAH6の繰越欠損金※2約57億円を引き継いだことに対し、法人税法132条の2が適用され、繰越欠損金の引継ぎが否認された事案です。

 具体的には、まずグループ法人のPGPの完全子会社であるPGMP4を合併法人、同じくPGPの完全子会社であるPGPAH6を被合併法人とする完全支配関係のある法人間における適格合併(法人税法2条12号の8のイ、「本件合併1」)を行った後に、同日中に本件合併1の効力発生を停止条件として、PGPがその株式の99%以上を保有する子会社であるPGMプロパティーズを合併法人、PGMP4を被合併法人とする50%超100%未満の支配関係のある法人間における適格合併(法人税法2条12号の8のロ、「本件合併2」。本件合併1と合わせて「本件各合併」)を行いました。PGMプロパティーズは、法人税法57条2項、81条の9第2項2号に基づき、PGPAH6の繰越欠損金をPGMプロパティーズの各連結事業年度において生じた連結欠損金額として、損金の額に算入しましたが、これに対し、税務当局が「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」(法人税法132条の2)として、かかる繰越欠損金の引継ぎを否認したというものです(なお、法令は本件当時のものです。)。

 ①PGPAH6とPGMP4はPGPの完全支配関係にあるため、本件合併1が適格合併となるためには事業継続要件や従業者引継要件(法人税法2条12号の8のイ並びに法人税法2条12号の8のロ(1)及び(2)参照)は要求されず、問題なく要件を充足し、また、②PGMP4とPGMプロパティーズとは50%超100%未満の支配関係にとどまるため(法人税法2条12号の8のロ)、本件合併2が適格合併となるためには事業継続要件や従業者引継要件が要求されるものの、PGMP4は現に事業を行っており、同要件の充足に疑義はありませんでした。一方、実際の事実経緯とは異なり、PGPAH6とPGMプロパティーズとが直接合併した場合には、50%超100%未満の支配関係にとどまるため、本件合併2同様に事業継続要件や従業者引継要件が要求されるところ、実質休眠状態にあったPGPAH6が同要件を充足することは困難でした。そのため、本件においては、同日中に、本件合併1、本件合併2という2段階の合併を経たこと(あるいは本件合併1を差し挟んだこと)が「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(法人税法132条の2)といえるかどうかが争われています。

法人税法132条の2とは

 法人税法132条の2は、合併、分割その他組織再編等を行った法人やこれらにより資産等の移転を受けた法人などの行為又は計算で、これを容認した場合に「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(「不当性要件」ということがあります。)について、税務署長が、その行為又は計算にかかわらず、かかる法人に係る法人税額等を計算することができると定めています。

 最高裁は、ヤフー事件において、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(不当性要件)とは、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものと解し、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当であると判示しています。

 また、東京高裁は、TPR事件において、法令の文言上は、事業継続要件や従業者引継要件が要求されない完全支配関係のある法人間における適格合併(法人税法2条12号の8のイ)についても、「移転資産等に対する支配が継続する場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させる」という組織再編税制が制定された平成13年度税制改正当初の基本的な考え方※3から、被合併法人が適格合併前に行っていた事業が適格合併により合併法人に移転し、合併法人においてかかる移転した事業が継続して営まれることが想定されていると解した上で、適格合併による被合併法人の繰越欠損金の合併法人への引継ぎについても同様に、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続が想定されていると判示しています。

PGM事件における東京地方裁判所の判断

 TPR事件判決については、「裁判所が実際の個別規定の改正等を軽視し、立法当初における発想に拘泥することとなれば、個別規定または条文構造から読み取れる客観的な立法者意思とはかえって衝突する危険性が強くなることに留意すべきだろう」という批判があったことに加えて※4、本件は、TPR事件とは異なり、完全支配関係がある子会社の残余財産が確定した場合、その繰越欠損金が親会社に引き継がれる旨の改正(すなわち、子会社の清算という、事業の承継・継続が認められない場合における繰越欠損金の引継ぎを認める改正)がなされた平成22年度税制改正以降の事案ということもあり、同改正が裁判所の判断に影響を与えるかという点でも注目を集めていました。このような中、東京地方裁判所は、大要、以下のとおり判断して、税務当局の更正処分を取消し、PGMプロパティーズの請求を認容しました。

1. 本件の事実関係について

 判断の前提とされた事実関係は、大要以下のとおりです。

  • PGMグループにおいては、2017年に実行された本件各合併の10年以上前から、経営危機に陥るなどしたゴルフ場運営法人を買収して規模を拡大させ、多数のゴルフ場を本部で集中管理し、ゴルフ用品等を一括購入するなどしてスケールメリットを追求するとともに、買収により増え続ける子会社の数を合併により削減することにより、経営の合理化・効率化を追求するというビジネスモデル(「本件ビジネスモデル」)を採用していた。このような合併に当たり、ゴルフ場事業を営んでいない法人も合併の対象となったほか、合併に伴って被合併法人から合併法人へ繰越欠損金が引き継がれない合併も複数あった。
  • PGPは2009年2月頃、大手商社から、ゴルフ場運営会社であるPGPAH6の株式100%を譲り受けた。PGPAH6では元経営陣による横領事件が発生していたため、PGPは横領事件に係る簿外債務を承継しないように、ゴルフ場事業のみを買収することを希望した。しかしながら、大手商社がPGPAH6全体を取得することを求めたため、以下に述べる本件分割及び本件株式譲渡により簿外債務のリスクを低減することが可能であるとの判断の下、PGPAH6の全株式を取得した。
  • PGPAH6は、2009年7月頃、簿外債務債権者から損害賠償請求を受けてゴルフ場事業が差し押さえられることがないように、上記簿外債務を除くPGPAH6の営むゴルフ場事業に関連する権利義務の一切及び従業員を吸収分割により、他のグループ会社(PGP千葉)に承継させるとともに(「本件分割」)、本件分割の対価として取得したPGP千葉株式の全てを新設したグループ会社(PGMP1)に譲渡した(「本件株式譲渡」)。PGPAH6は、簿外債務の管理や債権者対応などのために存続したが、簿外債務に係る債権者と称する者からの連絡がなくなった2013年12月以降、簿外債務への対応に関する具体的な活動は行っていない。
  • 本件株式譲渡によりPGPAH6は多額の損失を計上し、これがPGPAH6の繰越欠損金の大部分を占めている。
  • PGMグループにおいては、本件ビジネスモデルの下、数年間にもわたる検討過程において様々な合併を想定し、合併期日、繰越欠損金の状況、繰越欠損金の引継制限の有無、メリット・デメリット等を検討していた。本件各合併によるメリットとしてPGPAH6の繰越欠損金を引き継ぐことによる税金費用の削減が挙げられるとともに、本件各合併について、PGPAH6の繰越欠損金を引き継ぐためには、PGPによるPGMP4の株式の保有割合を100%にした上で、PGPAH6とPGMP4が合併した後に、PGMP4とPGMプロパティーズが合併する二段階の合併が必要であることが指摘されていた。
  • PGMP4は、本件合併に1年以上先立つ2015年10月、PGP以外の株主(「外部株主」)から無議決権優先株式を取得の上で償却し、PGMP4はPGPの100%子会社となった。PGMグループの持株会社であるPGMHDは、2014年2月にシンジケートローン契約(「本件シンジケートローン契約」)を締結したところ、同契約上、同契約締結日現在における連結子会社に対する直接又は間接の議決権割合を100%に維持することが求められていた(「本件コベナンツ条項」)。上記のとおり、PGMP4の外部株主が有する優先株式は無議決権株式であったが、上記優先株式の発行から10年間を経過した2015年10月以降、外部株主は普通株式への転換権を有することとされていた。このような状況下において、上記のとおり、PGMP4は当該無議決権優先株式を取得・償却した。
  • PGMグループは、PGPAH6について、簿外債務のリスクが顕在化する可能性を恐れて静観していたものの、元経営陣による横領事件から約8年間が経過したため、リスクはゼロではないものの、新たな問題は発生しないだろうと考えて本件各合併を行った。その際、清算よりも合併の方が手続が簡便であること、PGMグループでは過去に清算の経験が少なかったこと、清算の公告をすると潜在的な債権者を刺激して反応される可能性があることから、清算ではなく合併を選択した。

2. 「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」(法人税法132条の2)の判断枠組みについて

 東京地裁は、上記のヤフー事件最高裁判決の判断枠組みに言及した上で、以下の判断も加えています。

 「行為・計算の不自然性が全く認められない場合や、そのような行為・計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等が十分に存在すると認められる場合には、他の事情を考慮するまでもなく、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用したものということはできず、不当性要件に該当すると判断することは困難である」。もっとも、この考え方は、ヤフー事件最高裁判決の調査官解説※5において既に示されていたところです。

 また、「株式会社が合理的な事業目的のある組織再編成を行うに当たり、通常は想定されない手順や方法ではなく、実態と乖離した形式を作出するものでもない、不自然性の全く認められない複数の手順や方法の中から最も税負担の少ないものを採ったとしても、そのことから直ちに組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用したものということはできない」という判断も示されています。ただし、「不自然性の全く認められない手順や方法」である限りにおいては、ある意味当然のことともいえます。

3. 繰越欠損金の引継ぎを定める法人税法57条2項等の趣旨及び目的について

 東京地裁は、繰越欠損金の引継ぎを定める法人税法57条2項等の趣旨及び目的について、大要以下のとおり判示し、完全支配関係のある適格合併について、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続が、法人税法57条2項等の適用の前提になっている、あるいは、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続がない完全支配関係の適格合併にこれらの規定を適用することはその本来の趣旨及び目的に反するなどと解することはできないと判示しました。

  • 平成13年度税制改正により導入された組織再編税制の基本的な考え方は、「原則として、移転資産等についてその譲渡損益の計上を求めつつ、組織再編成により資産を移転する前後で経済実態に実質的な変更がない場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させるというものであり、この考え方に基づき、組織再編成において、移転資産に対する支配が再編成後も継続していると認められるものについては、経済実態に実質的な変更がないことから、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べることとしたもの」であり、「組織再編成に伴う未処理欠損金額の取扱いについても、基本的に、移転資産等の譲渡損益に係る取扱いに合わせて従前の課税関係を継続させることとするか否かを決めることとされて」いる。
  • 平成12年に組織再編税制に関する小委員会において示された組織再編税制の基本的な考え方※6は、「飽くまで、組織再編成の前後で経済実態に実質的な変更がない場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させるというものであり、」「『資産の移転が独立した事業単位で行われること』と『組織再編成後も移転した事業が継続すること』が必要とされたのは、『個別の資産の売買取引と区別する観点』からにすぎない。」
  • 「組織再編税制に係る法人税法57条2項等の趣旨及び目的は、組織再編成により資産を移転する前後で経済実態に実質的な変更がない場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させるというものであり、経済実態に実質的な変更がないか否かを判断するなどのために、法人税法2条12号の8及びこれを受けた法人税法施行令4条の3等において、適格合併と判定するための具体的な要件が定められているものと認められる。」(注:強調は筆者によります。この点は、後述します。)

 また、被告(国・税務当局)の、法人税法57条2項等は、完全支配関係のある適格合併の場合も含めて、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続を前提として、被合併法人の有する繰越欠損金の合併法人への引継ぎを認めたものと解すべきという主張については、以下のとおり判示して退けています。

  • 租税法律主義の原則に照らすと、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈したり拡張適用したりすべきではないところ、完全支配関係のある適格合併については、支配関係のある適格合併及び共同事業のための適格合併とは異なり、従業者引継要件及び事業継続要件のいずれも要求されていない。また、法人税法57条2項等の規定をみても、完全支配関係のある法人間の合併について、事業の継続がない場合には一律に適用がない旨をうかがわせる文言はない。
  • 上記小委員会においては、「資産の移転等を個別の資産の売買取引と区別する観点から、『資産の移転が独立した事業単位で行われること』及び『組織再編成後も移転した事業が継続すること』を要件とすることが必要とされたが、これに引き続いて『ただし、完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成については、これらの要件を緩和することも考えられる。』との見解が示されていたものであり」、「これを踏まえて、完全支配関係のある法人間の適格合併の要件は緩和されて定められたものと解するのが自然である。」
  • 実際にも、「完全子会社の事業継続が困難となり、親会社が当該完全子会社を吸収合併した上で、継続困難となった当該事業を取り止めるというような事案において、課税実務上、資産の移転が独立した事業単位で行われておらず、合併後に事業が継続していないという理由により、法人税法132条の2に基づき親会社の行為又は計算を否認するとの取扱いがされていることはうかがわれない」。

4. 本件が「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」といえるか

 東京地裁は、大要、以下のとおり、本件は「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」とはいえないと判断しています。

(事業目的について)

  • PGPAH6は休眠会社であったものの、残存させておけば毎年一定の管理コストが発生し得る上、PGMグループにおいては、本件ビジネスモデルの下、繰り返し合併を行い、子会社の数を削減することにより、大幅な費用の削減が実現されていること等からすると、本件において、PGPAH6を残存させず、PGMグループ内の既存法人に吸収合併することには、合理的な理由となる事業目的が十分に存在するといえる上、何ら不自然なものではない。

(本件各合併に係るスキームについて)

  • 会社法上、吸収合併は、単一の存続会社と単一の消滅会社との間で行われるものと整理されているため、同一日に行われる複数の吸収合併を実質的に一体のものとして行うため、実務上、各吸収合併に順序を付し、その効力発生に条件を付けるという方法が採られており、課税実務上も、その順序どおり合併が行われたものとして、適格合併に当たるか否かの判定を行うこととされている※7。したがって、本件各合併が二段階で行われたからといって、必ずしも、通常は想定されない手順や方法が採られたということはできない。
  • PGPAH6とPGMP4には外部株主が存在しないのに対し、PGMプロパティーズには外部株主が存在していたため、①本件各合併のスキームを採れば、PGPに対しては、PGMP4の1社分の株式についてのみ、PGMプロパティーズの株式を割り当て交付すれば足りるのに対し、②仮に、本件合併1を経ずに、PGPAH6及びPGMP4をそれぞれ被合併法人とし、PGMプロパティーズを合併法人とする各合併を実施した場合には、原告とPGPAH6との合併比率及びPGMプロパティーズとPGMP4との合併比率をそれぞれ計算した上で、PGMプロパティーズに対してPGMP4とPGPAH6の2社分の株式について、PGMプロパティーズの株式を割り当てることが必要となり、一定の煩雑な実務が生じることになる。そのため、PGMプロパティーズが直接PGPAH6を吸収合併するのではなく、PGMP4がPGPAH6を吸収合併した上で、PGMプロパティーズがPGMP4を吸収合併するという本件各合併のスキームは、客観的にみて、効率的な事務の遂行に資するものであったと評価することができる。
  • これらの事情を踏まえると、本件各合併のスキームは、「通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づくもの」などではなく、むしろ、一般に採られている合理的な手順・方法の一つと認められる。
  • (PGMプロパティーズが直接PGPAH6を吸収合併する場合には適格合併とはならず、繰越欠損金がPGMプロパティーズに引き継がれず、本件各合併によれば、いずれも適格合併となり、また、繰越欠損金が引き継がれることになる点については、)本件各合併のスキームは、上記のとおり、通常は想定されない組織再編成の手順や方法ではなく、一般に採られている合理的な手順・方法の一つと認められ、かつ、実態と形式との間に乖離は認められない上、①課税上のメリットがなく、かつ、事務効率化のメリットもない(事務の煩雑さがある)、PGMプロパティーズが直接PGPAH6を吸収合併する方法と、②課税上のメリットがあり、かつ、事務効率化のメリットもある(事務の煩雑さが生じない)、本件各合併のスキームのうち、後者を採用したのであるから、事務効率化のメリットを数値化したり、課税上のメリットと事務効率化のメリットの大小や目的の主従関係を比較したりして検討するまでもなく、営利企業にとって合理的な経済活動と評価できるものであって、何ら不自然なものではない。
  • PGMP4は、本件各合併に1年ほど先立ち、外部株主から自らの優先株式を取得し償却することにより、PGPの完全子会社となり、本件合併1に係る完全支配関係が生ずることになったが、これは、適法な手続に従ったものであり、通常は想定されない手順や方法に基づくものでも、実態とは乖離した形式を作出したものでもなく、何ら不自然なものではない。また、PGMプロパティーズの外部株主が優先株式の転換請求権を行使することで本件コベナンツ条項に違反し、本件シンジケートローンの期限の利益を喪失するというリスクに対処するという、合理的な理由となる事業目的が存在した。
  • 本件各合併に係るスキームの採用に当たり、PGMグループにおいて、繰越欠損金のPGMプロパティーズへの引継ぎを重視したことは否定し難い。しかしながら、株式会社が一定規模以上の取引をするに当たり、税務上の影響を全く考慮しないことは考え難く、そのような考慮をすることはむしろ当然である。上記のとおり、本件各合併に係るスキームは、通常は想定されない手順や手法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなどといった、不自然なものでは全くないのであるから、そのスキームの採用に当たり、繰越欠損金のPGMプロパティーズへの引継ぎを重視したとしても、このことを持って、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるものということはできない。

(結論)

  • 以上を総合すると、PGMP4がPGPAH6を吸収合併し(本件合併1)、その効力発生を停止条件として、PGMプロパティーズがPGMP4らを吸収合併する(本件合併2)という本件各合併について、その各部分を個別に見た場合においても、その全体をみた場合においても、「通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づくもの」でも、「実態とは乖離した形式を作出したりするもの」でもなく、何ら不自然なものとはいえないし、かかるスキームを採用して合併を行うことの「合理的な理由となる事業目的その他の事由」が存在することからすると、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるものとは認められない。

本判決の評価

 本判決の論点は多岐にわたることから、若干のコメントにとどめたいと思います。

 まず、本判決における東京地裁の評価・判断は、PGMグループにおける本件ビジネスモデルの存在に大きく依拠している印象を受けます。すなわち、本件各合併が、本件ビジネスモデルにおける一連の法人数のスリム化・管理費用の削減の一つとして位置づけられたことが判断の前提となっており、本件各合併において実際にどれだけの管理費用が削減されることになったのかは判断の基礎とされておりません。この点、東京地裁の不当性要件の判断において、判断の基礎としては直接言及されていないものの、本件ビジネスモデルにおいて、繰越欠損金の引継ぎが認められない合併が行われていたという点も、その心証形成に相応の影響を及ぼした可能性があります。そのため、本判決を、合併によって管理費用の削減が認められれば、それによって繰越欠損金の引継ぎを正当化する事業目的が基礎付けられるといった一般化をするのは適切ではないように思います。

 次に、東京地裁は、繰越欠損金の引継ぎを定める法人税法57条2項等の趣旨及び目的について、組織再編税制立案当時の基本的な考え方に言及しつつも、同項の文理解釈から、上記結論を導いています。近時は、裁判所において、特に納税者側に不利な形で厳格な文理解釈が用いられることが多いという指摘がある中で※8、文理解釈により納税者を勝訴させたという点でも注目すべきといえます。他方で、このような判断がなされた結果、平成22年度税制改正が法人税法57条2項等の趣旨及び目的の解釈に何らかの影響を与えるかという点については判断がなされませんでした。

 最後に、東京地裁は、上記のとおり、「組織再編税制に係る法人税法57条2項等の趣旨及び目的は、組織再編成により資産を移転する前後で経済実態に実質的な変更がない場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させるというものであり」と判示しています。しかしながら、これは組織再編税制における課税繰延べの趣旨及び目的を述べるものであり、この部分だけを読むと違和感を覚えます。この部分は、「組織再編成に伴う未処理欠損金額の取扱いについても、基本的に、移転資産等の譲渡損益に係る取扱いに合わせて従前の課税関係を継続させることとするか否かを決めることとされて」いるというヤフー事件最高裁判決でも示された判断を受けてのものと思いますが、東京地裁が、適格合併における課税繰延べの趣旨及び目的と、適格合併における繰越欠損金の引継ぎの趣旨及び目的の相違についてどれほど意識的であったのか、疑問が残ります。

 本判決については控訴がなされており、今後の控訴審の判断も注目すべきものといえます。

脚注一覧

※1
本稿は、情報公開請求により取得した判決文、「PGM事件・東京地裁令和6年9月27日判決」(T&A Master No.1047 4頁)などの公開情報によっています。

※2
法人税法上の用語は「未処理欠損金額」となりますが、本稿では、一般的な用法に従い、繰越欠損金といいます。

※4
吉村政穂「繰越欠損金の引継ぎと組織再編成に係る行為計算否認規定の適用」(税務事例研究177号 1頁)13頁

※5
徳地淳、林史高「最高裁判所判例解説民事篇(平成28年度)」109頁(法曹会、2019)。

※8
太田洋「日産キャプティブ再保険CFC課税事件最高裁判決の分析と検討(下)」(国際税務 Vol.44 No.11)51頁は、谷口勢津夫「租税回避と税法の解釈適用方法論―税法の目的論的解釈の『過形成』を中心にー」『税法創造論』(清文社、2022〔初出2015〕)112頁及び『税法の基礎理論―租税法律主義論の展開―』(清文社、2021)第2章を引用して、このように述べている。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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