逵本麻佑子 Mayuko Tsujimoto
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CFIUSの調査・法執行権限を強化する規則案の公表(2024年5月)
当事務所が2024年5月に発行したニュースレター※1では、2024年4月11日、米国財務省が、対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States、以下「CFIUS」といいます。)の調査及び法執行権限を強化する規則案(Notice of Proposed Rulemaking、以下「規則案」といいます。)を公表したことを紹介し、その主なポイントを説明しました。
CFIUSは、2024年11月18日、この規則案を踏まえた最終規則(Amendments to Penalty Provisions, Provision of Information, Negotiation of Mitigation Agreements, and Other Procedures Pertaining to Certain Investments in the United States by Foreign Persons and Certain Transactions by Foreign Persons Involving Real Estate in the United States、以下「最終規則」といいます。)を作成し、公表しました※2。パブリックコメント手続きにおいて、規則案に対して多数のコメントが寄せられましたが、最終規則について、概ね規則案からの変更はありませんでした。今回のニュースレターでは、規則案からの変更点を説明するとともに、5月のニュースレターで紹介した内容を敷衍しつつ最終規則の概要を紹介します。
最終規則の柱の一つがCFIUSの情報収集権限の拡大です。最終規則では、CFIUSへの届出がなされなかった取引について、CFIUSが取引当事者に対して要請できる情報の範囲が拡大されました。この点については、規則案から特段変更はありません。
現状の規則では、CFIUSには、CFIUSの管轄権の対象となる取引に該当するか否かを判断するための情報を取引当事者等に請求する権利が認められていますが、最終規則では、これに加えて、(CFIUSの管轄権の対象となる取引のうち)CFIUSへの届出が義務づけられる取引に該当するか否か、及び、取引が国家安全保障上の懸念を生じさせるものであるかの判断に必要な情報を、CFIUSの要請に応じて提供することが取引当事者等に義務づけられました。このような情報は、届出がなされなかった取引について調査を行う場合に従前もCFIUSが要請していた情報ではありますが、今後はより広範な情報がCFIUSから求められる可能性があり、留意が必要です。
また、最終規則では、CFIUSが、(i)影響緩和措置に関する法執行及びモニタリングのための情報収集並びに(ii)取引当事者がCFIUSに提供した情報に重大な不備や虚偽がないかを判断するための情報収集において、取引当事者等に情報提供を義務づけることができることも明示されました。現状の規則では、CFIUSがこのような場合において情報提供要請をすることができるとされているものの、情報提供要請を受けた者に回答義務があるか否かは明示されていなかったため、この点を明示したものです。
加えて、CFIUSによる召喚(subpoena)権限も拡大されました。現状の規則では、CFIUSによる召喚権限は、CFIUSが召喚権限の行使を必要と考える場合において行使できるものとされていますが、最終規則では、CFIUSが召喚権限の行使を適切と考える場合において行使できるものとされました。これにより、CFIUSの裁量の余地が拡大されたといえます。
2つ目の柱が影響緩和措置に関する回答期限の設定です。この点については、最終規則において規則案から変更が加えられました。
現状の規則では、CFIUSによる影響緩和措置の提案に対する取引当事者の回答期限は定められておらず、取引当事者の回答に時間がかかることもありました。この点を考慮し、CFIUSの審査を迅速に進める観点から、規則案では、取引当事者はCFIUSによる影響緩和措置の提案から3営業日以内に実質的な回答をすることが義務づけられていました。
もっとも、3営業日以内で実質的な回答をすることが難しい場合もあり、また、そのような短期間の制限を形式的に当てはめることが望ましくない場合もありうることから、最終規則においては、3営業日以内の回答をデフォルトルールとすることを廃止し、Staff Chairpersonが裁量により3営業日以上の回答期間を定めることができるものとされました。かかる裁量による期限の設定の判断に際しては、(i)法令で定められたCFIUSの審査の期間、(ii)当該取引による米国の国家安全保障上のリスク、(iii)CFIUSへの取引当事者の対応、(iv)当該取引の性質、(v)当該取引を停止し又は条件を課すことの適切性、及び(vi)当該取引についてStaff Chairpersonが適切と考えるその他の事情が考慮されうるものとされています。なお、規則案同様、最終規則においても、設定された回答期限は、(取引当事者の要請の下)CFIUSにより延長可能となっています。
3つ目の柱が罰金の範囲等の拡大であり、この点については、最終規則において規則案からの変更は特段ありません。
現状の規則では、CFIUSに提供した情報に重大な虚偽や不備があった場合において罰金が科されるのは、CFIUSへの届出等に記載の情報に限定されていました。最終規則では、そのような場合に限らず、届出がなされずCFIUSからの要請に従って情報が提供された場合や、取引当事者ではない第三者として情報提供が行われる場合に、CFIUSに提供した情報に重大な虚偽や不備があった場合も罰金の対象としました。
現状の規則では、CFIUSへの届出が義務づけられる取引について適時に届出がなされなかった場合及び影響緩和措置の違反の場合、最大の罰金額は、$250,000又は取引金額のいずれか高い方の金額とされています。最終規則では、上記の$250,000の基準が$5,000,000へと増額されるとともに、影響緩和措置の違反の場合には、違反者の米国事業の価値も最大の罰金額において考慮されることになり、①$5,000,000、②取引金額又は③米国事業の価値のいずれか最も高いものの金額が罰金の最大額となります。CFIUSに提出した情報に重大な虚偽や不備があった場合の違反(取引当事者でなく第三者として情報提供した場合も含まれます。)についても、最大の罰金額が$250,000から$5,000,000へと増額されます。罰金額の増額は、CFIUS対応を適切に行わなかった場合のリスクを高めるものといえます。
現状の規則では、罰金の通知を受けた者は、通知の受領から15営業日が経過するまでの期間異議申立てをすることができるものとされており、CFIUSは、異議申立てから15営業日が経過するまでに異議申立てを審査し、最終の決定を下すものとされています。最終規則では、いずれの期間も15営業日から20営業日へ伸長されました。
最終規則は、11月26日に連邦官報(Federal Register)において公告されました。最終規則は、公告から30日経過後に施行されることになりますので、2024年12月26日が施行日となる見込みです。
最終規則の記載によれば、①影響緩和措置の回答期限の設定は、施行日時点で進行中の審査には適用されない、②罰金の増額については、施行日時点で締結済みの合意には適用されない、③罰金についての異議申立ての期間の伸長は係属中のものについては適用されない等の例外はあるものの、原則的には、最終規則は、施行日後のCFIUSの全ての行為に適用されます。
上記のとおり、最終規則は、CFIUSの規則の執行権限を強化するものとなっておりますが、強化された執行権限がどのように活用されるかは今後の実務運用次第であり、来るトランプ政権下での運用を含めて今後の動向が注目されます。ただ、いずれにしても、CFIUSとしては、モニタリングや執行を一層強化する姿勢であることは確かであり、より慎重にCFIUSへの対応を検討していくべきと考えられます。
※1
当初案の内容については、当事務所発行の米国最新法律情報No.119「CFIUSの調査・法執行権限を強化する規則案の公表」(2024年5月)をご参照ください。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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