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ニュースレター

上場REITに対する同意なき買収

NO&T Real Estate Legal Update 不動産ニュースレター

著者等
内海健司門田正行山中淳二(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Real Estate Legal Update ~不動産ニュースレター~ No.10(2025年5月)
業務分野
キーワード
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 3D Investment Partners(以下、「3D」という。)が、いずれも東証に上場するREITであるNTT都市開発リート投資法人(以下、「NTTUDリート」という。)及び阪急阪神リート投資法人(以下、「阪急阪神リート」という。)に対して、相次いで行った同意なき公開買付け※1が終了した。公開買付けの概要及び結果は、以下の通りである。

  NTTUDリート 阪急阪神リート
開始日(公告日) 2025年1月28日 2025年2月13日
買付目的 純投資目的 純投資目的
買付前の3Dらの所有割合 2.19% 1.34%
買付予定数の上限 15% 15%
買付予定数の下限 10% 10%
買付公表前営業日のNAV割合 約82% 約72%
前営業日終値に対する買付価格のプレミアム 約10% 約10%
買付期間終了日(延長後) 2025年3月21日 2025年4月4日
買付けの結果 応募が下限に達せず不成立 応募が下限に達せず不成立

 いずれも不成立となっており、3Dによる上場REITに対する同意なきTOBによる投資口の大口取得の試みは、現状では頓挫した形となっている。

 しかし、経産省の企業買収における行動指針が2023年8月31日に公表され、その中で、上場会社の経営支配権を取得する買収を巡る当事者の行動の在り方を中心に、M&Aに関する公正なルール形成に向けて経済社会において共有されるべき原則論及びベストプラクティスが提示された。それを受けて、上場会社に対する同意なき買収提案が多数行われており、その流れが上場REITにも及んできているとも言える。

上場REITに対する同意なき買収の過去事例

 上場REITに対する同意なき買収提案は、今回の3Dによる公開買付けが初めてではなく、過去にも事例がある。スターウッド・キャピタル・グループ(以下、「スターウッド」という。)が、インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(以下、「IOJ」という。)に対して2021年4月に行った公開買付けである。IOJについては、IOJのスポンサーであるインベスコグループによる対抗TOBが行われ、スポンサー側のTOBが成立し、非公開化されるに至った。今回の2事例とあわせてまとめると、以下の通りとなる。

  NTTUDリート 阪急阪神リート IOJ
買収者 3D 3D スターウッド
スポンサー エヌ・ティ・ティ都市開発株式会社 阪急阪神不動産株式会社 Invesco Real Estate
資産規模 341,391百万円
(鑑定評価額)
180,021百万円
(取得価格)
274,320百万円
(鑑定評価額)
メインアセット オフィス・レジ 商業施設 オフィス
保有物件メインエリア 首都圏 関西圏 首都圏
NAV倍率(買付前) 82% 72% 99%
結果 不成立 不成立 ホワイトナイトによる非公開化

 なお、これらの同意なき公開買付けとはスキームが異なるが、スターアジアグループ(以下、「スターアジア」という。)が、ガリレオグループをスポンサーとするさくら総合リート投資法人(以下、「さくらリート」という。)に対して、2019年5月に行った資産運用会社の変更及び執行役員の変更等の提案に端を発する、スターアジアをスポンサーとするスターアジア不動産投資法人との合併事例もある。同事例においては、提案公表時点において対象となったさくらリート役員会との協議・交渉はなされておらず、スターアジア不動産投資法人との合併協議を円滑に推進するためとして、執行役員の選解任及び既存の資産運用会社との資産運用委託契約の解約とスターアジア不動産投資法人の資産運用会社と同一の資産運用会社との資産運用委託契約の締結を議題とする投資主総会招集請求及びその後のプロキシーファイトを経て、さくらリートの投資主総会において、スターアジア側の提案が可決され、その後最終的にスターアジア不動産投資法人とさくらリートの合併が成立した※2

 東証に上場しているREITは57銘柄であり(2025年3月末現在)、上場銘柄数を考えると、同意なき買収提案の事例は事業会社等に比べて、むしろ多いとも言えよう。その理由としては、上場REITは、基本的に賃貸稼働している不動産の運用のみを行うシンプルなビジネスモデルであり、各保有資産の鑑定評価等の時価評価が開示されていることもあり、公開情報によるバリュエーションやDDが容易であるため、市場価格がNAVを下回っている場合などにおいては買収対象となりやすいこと、事業会社等と異なり、従業員を雇用できず、資産保有ビークルにすぎないため、買収により影響を受ける利害関係人(ステークホルダー)が限定的であること、スポンサー(資産運用会社の親会社等)の投資口保有割合も一般的に低いため、投資口の取得を通じた買収が比較的容易であること、といったことが挙げられよう。買収提案の対象となった銘柄の保有物件を見ると、メインアセットは、オフィス・レジ・商業施設等の伝統的な不動産アセットであり、また、保有物件のメインエリアは首都圏・関西圏等の大都市圏である※3。バリュエーションの容易さ、ポートフォリオの換価性の高さや、買収が保有物件の運営に及ぼす影響が限定的であることも、買収者による銘柄選定の一因になっているのかもしれない。

 トランプ関税等により景気の先行きが読みづらい中で、クロスボーダー取引の影響を受けづらく、少なくとも短期的には影響を受けにくいと考えられる上場REITへの同意なき買収提案は、今後も続く可能性があるように思われる。

公開買付けの日程

 公開買付けが開始された場合、対象となった上場REITは、短期間に公開買付けの内容の分析、これに対する意見表明、対抗策の要否及び内容の決定等、各種の対応を求められることになる。以下は、3Dによる今回の2事例に関する主要イベントの日付をまとめたものである。

NTTUDリートの場合
2025年1月28日 3Dによる公開買付開始
2025年1月28日 NTTUDリートによる公開買付けに対する初期コメント開示
2025年2月10日 NTTUDリートによる意見表明(留保)及び3Dに対する質問書提出
2025年2月13日 3Dによる回答報告書
2025年2月18日 NTTUDリートによる公開買付けに対する意見表明(中立)
2025年3月21日 公開買付けの終了
2025年4月25日 スポンサーによる投資口の追加取得完了公表

阪急阪神リートの場合
2025年2月13日 3Dによる公開買付開始
2025年2月13日 阪急阪神リートによる公開買付けに対する初期コメント開示
2025年2月25日 阪急阪神リートによる意見表明(留保)及び3Dに対する質問書提出
2025年3月4日 3Dによる回答報告書
2025年3月19日 阪急阪神リートによる公開買付けに対する意見表明(中立)
2025年3月19日 スポンサーによる投資口の追加取得公表
2025年4月4日 公開買付けの終了

 金融商品取引法上、意見表明(買付者に対する質問権を行使する場合には質問を含む。)を、公開買付開始公告日から10営業日以内に提出する必要がある(同法27条の10第1項、同法施行令13条の2第1項)。しかし、同意なき公開買付けの場合、公開買付開始から10営業日以内に公開買付けに対する意見形成を行うことは困難であることが多い。そのため、この段階では意見留保とした上で、質問権を行使する場合には買付者に対する質問を併せて記載し、これに対する買付者の回答(質問が記載された意見表明報告書提出日から5営業日以内に提出される。)も踏まえて、公開買付期間中(但し、実務上、投資家の応募の判断に資する時期まで)に意見表明を行うことになる。

 上場REITに対する同意なき買収の場合、買収者側との事前協議がないのがこれまでの通例であり、全く事前準備していない上場REITにおいてはフィナンシャル・アドバイザーの選定も公開買付開始段階では行われてないのが通常である。最初の留保の意見表明と質問書の提出までに絞っても、フィナンシャル・アドバイザーの選定、公開買付届出書及び買付者に関する情報の分析、スポンサーを含む関係者による対抗策の要否及び内容等の検討、既存投資主の分析、意見表明報告書及び(質問権を行使する場合の)質問書の準備・検討等、多岐に亘る対応を10営業日以内に行う必要があるということになる。しかも、上場REITの場合、従業員がおらず、常勤の役職員は執行役員1名又は2名のみであり、資産運用会社も上場会社としては極めて異例の少人数で運営されているケースが多いことから、限られた陣容で上記の対応を行う必要があるということになる。よって、フィナンシャル・アドバイザーやリーガル・アドバイザー等の外部アドバイザーに依拠することとなる部分も少なからずある。以上を踏まえると、同意なき買収提案が懸念されるような場合には、アドバイザー候補と予めコンタクトをとり、万が一にも提案があった場合の体制や、シナリオ分析を事前に行っておくことが望ましいと言えよう。

今回の公開買付けを受けての動き

 上記の通り、NTTUDリート及び阪急阪神リートについては、それぞれスポンサーが投資口の追加取得を行っている。上場REITは、資産運用会社の親会社であるスポンサーからの物件パイプラインに象徴される、有形無形のスポンサーサポートによって、発展してきている。買収予防的な意味合いもさることながら、そのスポンサーサポートをより強固な形で示すためにスポンサーの保有割合の向上が求められているのかもしれない。この動きは、3Dによる同意なき買収の対象となった2リートに限らず、例えば、2025年3月24日に東急株式会社が東急リアル・エステート投資法人の投資口追加取得予定をリリースしており、2025年4月16日に大和ハウス工業が大和ハウスリート投資法人の投資口追加取得予定をリリースしている。これらは、いずれも市場での買い増しであるが、今後は、スポンサーからの物件取得と絡めた、スポンサーに対する第三者割当増資や、公募増資の際のいわゆる親引けによる投資口追加取得も十分に考えられる。

 また、これまでの同意なき買収は、傘下REITとの合併や少数投資主のスクイーズアウトを通じて上場REITを完全に買収するものが主流だったが、今回の同意なきTOBは、純投資を目的として保有割合を限定したものであったため、TOBが成立した場合の上場REITの運営に対する中長期的な影響の有無や、それを踏まえた対応方針など、上場REIT側で検討すべき事項やシナリオ分析のパターンも多様化するものと考えられる。いずれにしろ、今回の同意なきTOBは、上場REITマーケットに広く一石を投じたものと言えよう。

脚注一覧

※1
なお、公開買付者はいずれも3Dがその受託者に対して投資一任運用サービスを提供するケイマン諸島法に基づき設立された信託である。

※2
同事案を受けて、相反する趣旨の複数の議案が提出された場合を除き、投資主が投資主総会に出席せず、かつ、議決権を行使しないときは、投資主総会に提出された議案について賛成したものとみなされるとのいわゆる「みなし賛成」の制度(投信法93条)の問題点が認識され、上場REITにおいて、役員の解任や資産運用会社との資産運用委託契約の解約等、相反する趣旨の議案を提案することが困難であることが想定される一定の議案について、みなし賛成の適用を排除する/排除できる旨の規約変更の動きが広がった。

※3
さくらリートのメインアセットもオフィスであり、保有物件のメインエリアは首都圏であった。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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