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国税局文書回答事例「非財務指標を組み入れた業績連動型株式報酬の税務上の取扱いについて」

NO&T Tax Law Update 税務ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 近年、役員等に対する業績連動報酬の算定指標として、ESGに関する指標をはじめとした非財務指標が用いられることが増えている。非財務指標を組み入れた業績連動報酬は、役員等に対し企業ごとの特色を反映したインセンティブを与える手段となることに加え、投資家への開示を通じて、企業の環境問題等に対する姿勢を示す手段ともなり、その重要性は今後も一層高まっていくものと思われる。

 他方で、現行の法人税法上、非財務指標を組み入れた業績連動報酬は、原則として損金算入することはできない。この点については、経団連からも、客観性が担保され得る非財務指標について、損金算入できる業績連動給与の算定基礎となる指標に追加するよう提言が行われているところである※1

 このような状況の中で、最近、東京国税局から「非財務指標を組み入れた業績連動型株式報酬の税務上の取扱いについて」と題する文書回答事例が公表された。当該文書回答事例は、非財務指標を組み入れた業績連動報酬の導入や制度変更を検討する企業にとって有益であると思われるため、本ニュースレターで紹介する次第である。

役員給与の損金算入制限の概要

 法人税法34条1項は、損金算入できる役員給与を、定期同額給与(同項1号)、事前確定届出給与(同項2号)、一定の要件を満たす業績連動給与(同項3号)に限定している。

 このうち、業績連動給与については、概要、①同族会社でないこと(同族会社以外の法人との間にその法人による完全支配関係があるものを除く。)、②被付与者が業務執行役員であること、③金銭以外の資産が交付される場合には当該内国法人又は関係法人が発行した適格株式又は適格新株予約権に限られること、④他の業務執行役員の全てに対して要件を満たす業績連動給与が支給されること、⑤業績連動給与の算定方法が利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標又は売上高の状況を示す指標を基礎とした客観的なものであること、⑥金銭による給与は確定した額を、株式又は新株予約権による給与は確定した数を、それぞれ限度としているものであり、かつ、他の業務執行役員に対して支給する業績連動給与に係る算定方法と同様のものであること、⑦報酬委員会が決定していることその他の政令で定める適正な手続きを経ていること、⑧⑤の内容が遅滞なく有価証券報告書に記載されていること等により開示されていること、⑨その他政令で定める要件を満たすことなど(①~⑧についても政令等に詳細な要件が定められている。)の要件を満たした場合にのみ損金算入することが認められる。

 非財務指標との関係では、非財務指標は、基本的に、⑤における利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標又は売上高の状況を示す指標のいずれにも該当しないとされている。そのため、非財務指標に基づいて算定された業績連動給与は、損金算入できないのが原則である。

 他方で、役員給与の支給額の算定方法に上記業績連動給与としての要件を満たす部分と満たさない部分が混在している場合においては、業績連動給与としての要件を満たす部分を明示的に切り分けられるときには、業績連動給与としての要件を満たす部分につき損金算入できると解されている※2。そうであれば、非財務指標を組み入れた業績連動給与であっても、非財務指標に基づいて算定される部分と法人税法上の要件を満たす財務指標に基づいて算定される部分が明示的に区別されていれば、他の法人税法上の要件を満たしている限り、法人税法上の要件を満たす財務指標に基づいて算定される部分については損金算入することができると考えられる。

東京国税局による令和7年5月20日付け文書回答事例「非財務指標を組み入れた業績連動型株式報酬の税務上の取扱いについて」

 本ニュースレターでは、東京国税局により公表された令和7年5月20日付け「非財務指標を組み入れた業績連動型株式報酬の税務上の取扱いについて」と題する文書回答事例※3について紹介する。

1. 事実関係の概要

 上記文書回答事例の事実関係において、照会者は非同族会社の内国法人であり、非財務指標としてESG対応状況を示す指標を組み入れて役員に支給する業績連動型株式報酬を算定している。

 文書回答事例において公開された株式報酬の具体的な算式は、以下の通りである。

基準交付株式数(注1)×株式交付割合Ⅰ(注2)×株式交付割合Ⅱ(注3)×役務提供期間比率(注4)

(注1)役位ごとに定められた交付株式数の基準となる株式の数
(注2)照会者の株式成長率を示す指標(0~150%)
(注3)対象役員のESG対応状況を示す指標(80~120%)
(注4)役務提供期間における在任月数の割合

 照会者は、株式報酬のうち、上記算式の「株式交付割合Ⅱ」を80%(最小値)として算定するとしたならば算定される部分(以下「本件業績連動部分」という。)の額については、損金算入できるものと取り扱って差し支えないか照会を行った。具体的には、本件業績連動部分は、以下のように算定される。

本件業績連動部分=基準交付株式数×株式交付割合Ⅰ×80%×役務提供期間比率

 なお、照会において、「『株式交付割合Ⅰ』は、法人税法第34条第1項第3号イに規定する利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標又は売上高の状況を示す指標に該当する指標(以下「業績連動指標」という。)であること」、「『株式交付割合Ⅱ』は、業績連動指標に該当しない指標(以下「非業績連動指標」という。)であること」、「本件業績連動部分は、その算定方法が業績連動指標を基礎とした客観的なものであること以外の損金算入業績連動給与に係る要件(法人税法第34条第1項第3号イ(1)から(3)までに掲げる要件を含む。)を満たすものであること」が前提とされている。

2. 回答の概要

 上記文書回答事例において、「内国法人がその役員に対して支給する給与に非業績連動指標を組み入れて算定される部分があったとしても、支給の適正性・透明性が担保されている部分がある場合には、その担保されている部分については損金算入業績連動給与に該当するものとして取り扱っても差し支えないものと考えられます。したがって、業績連動指標に加えて非業績連動指標を組み入れて支給額等が算定される給与であっても、その給与について業績連動指標を基礎として客観的に算定された部分がある場合には、その部分は損金算入業績連動給与として取り扱っても差し支えないものと考えられます。」とする照会者の見解を東京国税局は是認している。

 その上で、照会に係る株式報酬の算定方法には、上記算式の通り、株式交付割合Ⅰ(業績連動指標)と株式交付割合Ⅱ(非業績連動指標)が混在するが、株式交付割合Ⅱが80~120%の範囲で設定されることからすれば、本件の文書回答事例において支給されることとなる株式報酬のうち、株式交付割合Ⅱの最低割合である80%で算定するとした場合に算定される部分については、株式交付割合Ⅱにかかわらず確定した部分であり、株式交付割合Ⅰを当てはめさえすれば自動的に算出されるといえるため、株式交付割合Ⅰを基礎として客観的に算定された部分と認められるとして、結論において、「本件業績連動部分の額は、損金算入業績連動給与の額として取り扱っても差し支えないものと考えられます。」とする照会者の見解を東京国税局は是認している。

本件の文書回答事例の意義・検討

 上記の通り、従前から、役員等に支給する報酬の中で、業績連動給与としての要件を満たす部分と満たさない部分が明確に区分されていれば、業績連動給与としての要件を満たす部分については損金算入が認められるとされてきたものの、具体的にどのような形で業績連動給与としての要件を満たす部分と満たさない部分を規定すれば、明確に区分されていると判断されるかは必ずしも明らかではなかった。本件の文書回答事例は、そのような区分や切り分けのうち、業績連動給与としての要件を満たす部分の損金算入が認められる具体的な事例の一つを税務当局が明らかにしたものと評価することができ、今後の役員報酬の設計に当たって有益なものであると考えられる。

 本件の文書回答事例の算式において、非財務指標部分の変動幅は80~120%とされており、これを業績連動給与としての要件を満たす部分に乗じるのであるから、見方によっては、非財務指標が業績連動給与としての要件を満たす部分を増減させる可能性があるとして明示的な切り分けがされていない(すなわち、算式の全体が非財務指標によって変動する)とする整理も考えられるところである。しかしながら、本件の文書回答事例においては、非財務指標部分の下限が80%に設定され、役員等へ支給される報酬額が、業績連動給与としての要件を満たす部分の80%を下回ることは想定されないことから、その80%を乗じた部分の限度で、業績連動給与としての要件を満たさない部分と明確に区分されていると整理されたことになる。

 本件の文書回答事例以外の方法で非財務指標を業績連動報酬に組み入れようとした場合、例えば、以下の通り、基準となる金額又は株式数に乗じる係数の中で、非財務指標に係る部分が明らかにされている場合には、非財務指標により算定される部分が明示的に切り分けられていると判断され、業績連動給与としての要件を満たす部分の損金算入が認められるものと考えられる。

報酬額=基準金額又は株式数×(法人税法上の要件を満たす指標X+非財務指標Y)

 他方で、基準金額等に対して、業績連動給与としての要件を満たす指標と非財務指標の両者を、それぞれの評価割合を明示することなく総合考慮して算定した係数を乗じる場合などについては、明示的な切り分けがなされていないものとして報酬全体の損金算入が否定される可能性が高くなると思われる。また、文書回答事例と同様に、基準金額等に業績連動給与としての要件を満たす指標に基づく係数と非財務指標に基づく係数をそれぞれ乗じる場合であっても、特に非財務指標に基づく係数の範囲が明らかでないもの(本件の文書回答事例では非財務指標部分の範囲が80~120%であることが明らかにされている。)については、いかなる部分が最低限の支給額かを確定することができないため、損金算入性に疑義が生じる可能性もあるように思われる。

 また、上記の非財務指標Yにつき、あらかじめ定められた目標を達成できた場合には一定の確定した数の株式等が付与されるものの、目標を達成できなかった場合には一切の株式等が支給されないような設計(いわゆる、オール・オア・ナッシングの条件)も考えられる。この場合には、業績連動給与としての要件を満たす部分については業績連動給与として損金算入が認められ、非財務指標に関する部分については、事前確定届出給与として損金算入が認められる可能性があると考えられる※4。一方、本件の文書回答事例のように、財務指標と非財務指標を乗じるような算式になっている場合(以下のような場合)、非財務指標の割合を「100%又は120%」などとすることによって、実質的には「業績連動部分+業績連動部分×(0%又は20%)」と考えることができ、オール・オア・ナッシングの条件とみなすことも可能であるように思われる。ただし、そのような場合であっても、非財務指標に関する部分は、財務指標によって支給する株式の数等が変動することになるため、事前確定届出給与の要件は満たさないように思われる。

基準交付株式数(注1)×株式交付割合Ⅰ(注2)×株式交付割合Ⅱ(注3)×役務提供期間比率(注4)

(注1)役位ごとに定められた交付株式数の基準となる株式の数
(注2)照会者の株式成長率を示す指標(0~150%)
(注3)対象役員のESG対応状況を示す指標(100又は120%)
(注4)役務提供期間における在任月数の割合

 さらに、本件の文書回答事例において、非財務指標とされたESG対応状況を示す指標は、「気候変動問題対応」に関する指標、「女性活躍推進」に関する指標及び「従業員エンゲージメント」に関する指標で構成されていた。これに対し、文書回答事例の見解を記載した部分においては、特に非財務指標の内容については言及することなく上記結論を導いている。そうであれば、本件の文書回答事例は、ESGに関連する指標に限られない種々の非財務指標を組み入れた業績連動報酬の設計の際に参考とされるべきであると考えられる。

終わりに

 本件の文書回答事例は、非財務指標を組み入れた業績連動報酬のうち、業績連動給与としての要件を満たす部分の損金算入が認められる事例の一つを明確にしたという点で意義がある。しかし、業績連動報酬は、企業それぞれのポリシーやニーズを反映したある程度自由な設計が可能である以上、今後も法人税法上の損金算入要件をめぐっては企業ごとに様々な論点が生じることが想定される。業績連動報酬の金額が大きくなればなるほど、損金算入の可否が企業の財務に与える影響も大きくなる以上、業績連動報酬の設計に当たっては、租税の専門家を含めた丁寧な検討が必要となるだろう。

脚注一覧

※1
日本経済団体連合会「役員・従業員へのインセンティブ報酬制度の活用拡大に向けた提言」(https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/002_honbun.html

※2
経済産業省「『攻めの経営』を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引~(2023年3月時点版)」95頁(https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230331008/20230331008.pdf

※4
法人税基本通達9-2-15の5参照。また、株式交付信託に関するものではあるが、信託協会「役員向け株式交付信託に関する税務上の取扱い(令和4年1月)」項番17参照。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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