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ニュースレター

区分所有法改正と実務への影響

NO&T Real Estate Legal Update 不動産ニュースレター

著者等
粂内将人海老原広大(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Real Estate Legal Update ~不動産ニュースレター~ No.14(2025年9月)
業務分野
キーワード
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 令和7年5月23日、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、区分所有法が改正された(施行は令和8年4月1日。)。

 近年、老朽化した区分所有建物が増加していることに加えて、マンション所有者の高齢化も進み、集会等に参加しない区分所有者も増えており、区分所有建物の管理が十分に行われないケースや、老朽化した区分所有建物の再生が困難となっているケースなどが生じている。今回の区分所有法の改正は、そうした社会情勢に鑑み、区分所有建物の管理・再生の円滑化を図ることが喫緊の課題となっていることを背景として、①区分所有建物の管理の円滑化、②区分所有建物の再生の円滑化及び③被災した区分所有建物の再生の円滑化を企図して行われたものである(以下、改正前の同法を「旧区分所有法」といい、改正後の同法を「改正区分所有法」という。)。

 本ニュースレターにおいては、区分所有法制の改正に関する中間試案の補足説明(以下「補足説明(中間試案)」という。)及び区分所有法制の改正に関する要綱案(案)についての補足説明(以下「補足説明(要綱案)」という。)等も踏まえて、実務に影響があると思われる点を中心に、改正区分所有法による改正箇所の概要を紹介する。

区分所有建物の管理の円滑化

1. 集会の決議の円滑化

 旧区分所有法では、区分所有建物に関する区分所有者による集会の議事について、基本的に全ての区分所有者の頭数及び議決権※1を母数とする多数決(絶対多数決)が必要とされていた。特に、建替え決議等の特別決議※2については、規約により決議要件を緩和することができる項目はあったものの、その場合であっても必ず絶対多数決を得る必要があった。

 そして、集会の決議において、集会に出席せず議決権を行使しない者や所在不明の区分所有者は、反対した者と同様に取り扱われるため、集会に出席しない区分所有者や所在不明の区分所有者が多い区分所有建物においては、決議に必要な賛成を得ることが困難な状況が生じ、区分所有建物の円滑な管理が阻害されるおそれがあることが指摘されていた※3

 上記を背景に、改正区分所有法では、集会の決議の円滑化のために、以下のような規定が設けられた。

(1) 所在等不明区分所有者の集会の決議からの除外

 裁判所は、区分所有建物において、所在等不明区分所有者がいるときは、一般区分所有者(所在等不明区分所有者以外の区分所有者)又は管理者の請求により、一般区分所有者による集会の決議をすることができる旨の裁判(「所在等不明区分所有者の除外決定」)をすることができることとされた(改正区分所有法第38条の2第1項)。かかる裁判により所在等不明区分所有者であるとされた者は、集会における議決権を有さず(同条第2項)、また、所在等不明区分所有者に対しては招集通知の送付も要しないこととなった。

(2) 出席者の多数決による集会の決議

 集会の決議の成立に関する規律について、①普通決議、②共用部分の変更決議、③復旧決議、④規約の設定・変更・廃止の決議、⑤管理組合法人の設立・解散の決議、⑥義務違反者に対する専有部分の使用禁止請求・区分所有権等の競売請求の決議及び専有部分の引渡し等の請求の決議並びに⑦管理組合法人による区分所有権等の取得の決議について、出席した区分所有者(議決権を有しないものを除く。)の頭数及びその議決権の一定の多数で決することができることとなった(改正区分所有法第39条)。これにより、出席者の中での多数決で決議ができることになるため、絶対多数決を定めていた旧区分所有法の規律に比べ、決議要件が柔軟化され、区分所有建物の円滑な管理に資することが期待される※4

 他方で、特別決議の対象となる事項のうち区分所有建物の建替え(改正区分所有法第62条)を除く事項に係る集会には定足数の規定が設けられたことから、区分所有者(議決権を有しないものを除く。)の過半数(これを上回る割合を規約で定めた場合はその割合以上)の者であって議決権の過半数(これを上回る割合を規約で定めた場合はその割合以上)を有するものが出席する必要がある。

 また、旧区分所有法上、集会の招集通知において、集会の目的たる事項が共用部分の変更、規約の変更等、復旧又は建替え決議であるときに限って、議案の要領を通知しなければならないものとされていたが(旧区分所有法第35条第5項)、出席者の多数による決議が可能となったため(改正区分所有法第39条第1項)、招集通知を受けた区分所有者において、集会に出席し、議決権を行使すべきかどうか判断できるよう、招集通知において議案を認識できるようにする必要があることから、全ての決議事項について、議案の要領を通知しなければならないこととなった(改正区分所有法第35条第1項)。

 上記(1)及び(2)の改正により、区分所有建物の集会における合意形成が容易になると考えられ、区分所有建物の維持・管理等が円滑化することが期待される。

2. 共用部分の変更決議の要件緩和

 建物の基本的構造部分に大規模な改変を加える工事等の実施は、区分所有建物の老朽化の予防・長寿命化や区分所有建物の再生の観点から重要であると考えられる。しかし、当該工事等の実施は、旧区分所有法第17条第1項の「共用部分の変更」に含まれるところ、共用部分の変更については、原則として区分所有者の頭数及び議決権のそれぞれ4分の3以上の賛成が必要であり、これを規約で緩和するとしても、区分所有者の頭数の要件を過半数にまで緩和することができるに留まっていた。このような厳しい決議要件の下では決議の成立は容易ではなく、必要な工事を実施することができないケースや、合意形成に長期間を要するケースがあることが指摘されていた※5

 そこで、改正区分所有法第17条は、基本的な決議要件については旧区分所有法のまま維持しつつ(区分所有者及び議決権※6の各4分の3以上)、①共用部分の設置若しくは保存に瑕疵があることによって他人の権利若しくは法律上保護される利益が侵害され、若しくは侵害されるおそれがある場合におけるその瑕疵の除去に関して必要となる共用部分の変更及び②高齢者、障害者等の移動若しくは施設の利用に係る身体の負担を軽減することにより、その移動上若しくは施設の利用上の利便性及び安全性を向上させるために必要となる共用部分の変更に係る決議については決議要件を緩和し、区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権の各3分の2とされた(改正区分所有法第17条第5項)。

 これにより、共用部分の変更が容易になることが期待される。ただし、改正区分所有法第17条第5項は客観的事由による多数決割合の緩和を規定しているところ、かかる事由の有無については、基本的に区分所有者間の決定に委ねられ、これに争いがある場合には、客観的事由の有無について、最終的には決議の無効確認の訴え等の訴訟によって解決が図られることが想定されている※7。そのため、同項の客観的事由について要件充足性が必ずしも明らかではないケースでは最終的には訴訟で争われるリスクが残るため、実務的には、保守的に、通常通りの決議要件に従い、4分の3以上の賛成を得ておくことも考えられる。

3. 共用部分等に係る請求権の行使の円滑化

 区分所有法第26条第2項は管理者に、損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領の代理権を認めている。

 しかしながら、東京地判平成28年7月29日は、管理組合の管理者が、共用部分である外壁に瑕疵があったとして、マンションの分譲会社及び販売代理を行った会社に対し、区分所有者のために原告として損害賠償請求した事案において、「区分所有法26条4項の『区分所有者のために』とは『区分所有者全員のために』と解釈すべきであり、本件のように各区分所有者に個別的に発生し帰属する請求権に係る訴えについては、区分所有者全員に当該請求権がそれぞれ帰属し、管理者が区分所有者全員を代理できる場合に限り、規約又は集会の決議により、管理者が区分所有者全員・・・の利益のために訴訟追行をすることを認めたものと解するのが相当」と判示し、当該事案においては一部の区分所有権が転売されており、かつ、損害賠償請求権が転得者に譲渡されていなかったことから、管理者には原告適格がないとして訴えを却下した。この裁判例の判示内容に従うと、上記事案と同様の場面において、管理者が区分所有者を代理して権利行使し、補修費用等を回収することが困難になるため、条文の整備が必要と考えられていた※8

 そこで、改正区分所有法第26条第2項において、管理者が「区分所有者であった者」(以下「旧区分所有者」という。)をも代理できることが明記されたが、他方で、旧区分所有者が別段の意思表示をした場合には当該旧区分所有者の権利を管理者が代理行使できないこととされた(いずれも改正区分所有法第26条第2項括弧書き)。また、特に修補に代わる損害賠償請求権については、区分所有権の譲渡に伴い新たな区分所有者に当然に移転するものとする規律を設けるべきであるとの提案もあったが、かかる提案は採用されなかった※9。したがって、旧区分所有者が区分所有権の譲受人に損害賠償請求権等を譲渡せず、管理者による権利の代理行使に反対した場合には、依然として、管理者による請求権の代理行使及び訴訟追行が妨げられてしまう可能性が残されているが、実務的には、規約の定めや集会の決議によってかかる不都合を回避することが考えられる。具体的には、管理規約において、①改正区分所有法第26条第2項括弧書きに規定される旧区分所有者による別段の意思表示を制限する旨、及び②共用部分について生じた損害賠償金の使途を予め定めておくことで、旧区分所有者が有する損害賠償請求権に基づく賠償金を確実に修繕費用に充当することが可能になると思われ、現在、これらの内容が盛り込まれた管理規約の作成が円滑に行われるよう、国土交通省において、マンション標準管理規約の改正に向けた検討が行われている※10

4. その他

 上記の他、改正区分所有法では、区分所有建物の管理の円滑化のための制度として、所有者不明の専有部分や管理が不適当な状態の専有部分を管理するための新たな財産管理制度(所有者不明専有部分管理命令につき改正区分所有法第46条の2以下、管理不全専有部分管理命令につき同法第46条の8以下。)、専有部分の管理の円滑化のために、共用部分の管理に伴い必要となる専有部分の保存行為等を集会の決議で行うことができる制度(同法第18条第4項)、国外居住の区分所有者が専有部分の管理のための国内管理人を選任するための制度(同法第6条の2)及び管理事務の合理化のための事務のデジタル化に関する制度(同法第33条第3項)が創設された。

区分所有建物の再生の円滑化

1. 建替え決議の要件緩和

 区分所有法上、区分所有建物の再生のための仕組みとして、区分所有建物の建替え決議制度が存在する(区分所有法第62条)。しかしながら、建替え決議は、区分所有者の集会において、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数の賛成が必要であることから、①建替え決議は多数決要件が厳格であるため、これを成立させることは容易ではなく、必要な賛成を得るのに多大な労力・時間が必要となる、②決議において反対票を投じた区分所有者も、建替え決議がされれば、その後の催告手続の中で、大部分は建替えに参加する方向に転ずることが一般的であり、決議の段階で5分の4の賛成まで得る必要はない、③建替えに向けたファイナンスが確保できているケースでは、反対者が多くてもこれに対する売渡し請求の原資があるのであり、それにもかかわらず一律に5分の4の多数の賛成を要求するのは要件として厳し過ぎる、④区分所有建物が耐震性不足等で生命・身体・財産への危険を生ずるおそれがある場合や、大規模災害により被災した場合には、公共の福祉の観点から、多数決割合を引き下げて、その建替えを促進する必要がある、⑤合意により多数決割合を引き下げる仕組みがあれば、建替えによる更新がしやすい区分所有建物の取得を望む者のニーズに合致するといった指摘がなされていた※11

 上記を背景に、改正区分所有法においては、建替え決議の原則的な要件(絶対多数決及び多数決割合(各5分の4))は維持しつつ、区分所有者の頭数から議決権を有しないものは除くこととし(改正区分所有法第62条)、また、次の㋐から㋔の場合には、多数決割合が4分の3まで緩和されることとなった(同条第2項)。

  1. 地震に対する安全性に係る建築基準法(昭和25年法律第201号)又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に準ずるものとして法務大臣が定める基準に適合していない
  2. 火災に対する安全性に係る建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に準ずるものとして法務大臣が定める基準に適合していない
  3. 外壁、外装材その他これらに類する建物の部分が剝離し、落下することにより周辺に危害を生ずるおそれがあるものとして法務大臣が定める基準に該当する
  4. 給水、排水その他の配管設備(その改修に関する工事を行うことが著しく困難なものとして法務省令で定めるものに限る。)の損傷、腐食その他の劣化により著しく衛生上有害となるおそれがあるものとして法務大臣が定める基準に該当する
  5. 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)第14条第5項に規定する建築物移動等円滑化基準に準ずるものとして法務大臣が定める基準に適合していない

 上記㋐から㋒の事由は、マンションの建替え等の円滑化に関する法律(以下「マンション建替円滑化法」という。)第102条第2項第1号から第3号までに定められていた特定要除却認定基準を援用したものであり、また、上記㋓及び㋔の事由は、マンション建替円滑化法第102条第2項第4号及び第5号に定められていた要除却認定基準を援用したものである※12。補足説明(中間試案)によれば、特定要除却規準該当性は、基本的に建築士等の民間の専門家において判断することが可能であり、区分所有者としても、適宜こうした専門家の知見を活用して客観的事由該当性を判断することが可能と考えられるとのことであり※13、このような客観的事由該当性の判断基準が一定程度確立されていることにより、区分所有建物の建替えの実施が容易になることが期待される※14

2.建替え決議がなされた場合の賃借権等の消滅

 国土交通省が実施した調査によれば、賃貸住戸のあるマンションの割合は、完成年次が1984年以前(築41年以上)のマンションでは87.0%であり、築年数が経過するほど、賃貸の割合が高くなる傾向がある※15。区分所有建物の建替え決議が成立すると、区分所有者は取壊しに備えて専有部分を明け渡す義務を負い、専有部分に賃借人がいる場合には、当該義務を履行するために、賃借人に明渡しを求めることになる。

 しかし、旧区分所有法上、建替え決議は専有部分の賃貸借に何ら影響を及ぼさないと解されていたため、賃借人が賃貸借契約の合意解除に応じるか、更新拒絶・解約申入れの正当事由が認められない限り、賃貸人である区分所有者は、賃貸借関係を終了させることができず、専有部分から賃借人を退去させることができなかった。そのため、専有部分の賃借権の存在が、区分所有建物の円滑な建替えの支障となっているとの指摘がなされていた※16

 上記を背景に、改正区分所有法では、区分所有建物において建替え決議がなされた場合の賃貸借の終了に関して、以下のような規定が設けられた(改正区分所有法第64条の2)。

  1. 建替え決議があったときは、建替え決議に賛成した各区分所有者、建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者(これらの者の承継人を含む。)若しくはこれらの者の全員の合意により指定された者又は賃貸されている専有部分の区分所有者は、当該専有部分の賃借人に対し、賃貸借の終了を請求することができる。
  2. (ア)の請求があった時は、当該専有部分の賃貸借は、その請求があった日から6か月を経過することによって終了する。
  3. (ア)の請求があったときは、当該専有部分の区分所有者は、当該専有部分の賃借人(転借人を含む。(オ)において同じ。)に対し、賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金を支払わなければならない。
  4. (ア)の請求をした者(当該専有部分の区分所有者を除く。)は、当該専有部分の区分所有者と連帯して(ウ)の債務を弁済する責任を負う。
  5. 専有部分の賃借人は、(イ)により当該専有部分の賃貸借が終了したときであっても、(ウ)及び(エ)による補償金の提供を受けるまでは、当該専有部分の明渡しを拒むことができる。

 上記(ア)から(オ)の規律は、専有部分に配偶者居住権が設定されている場合に準用されており(改正区分所有法第64条の4)、また、上記のうち、(ア)及び(イ)の規律は、専有部分が使用貸借の目的物とされている場合に準用されている(改正区分所有法第64条の3)。

 上記の改正により、専有部分に賃借人が存在する区分所有建物についても建替えが容易になると考えられる。具体的には、借地借家法上の正当事由が認められない場合、旧区分所有法の下では賃借人の意思に反して賃貸借契約を終了させることは困難であったが、改正区分所有法の下では、建替え決議が成立すれば、正当事由がなくても補償金を支払えば賃貸借を終了させることができるため、たとえば、正当事由が認められるほどには老朽化しておらず、耐震性等にも問題がない建物を、より高付加価値の建物に建て替えるような場合であっても、賃借人の意思に反して賃貸借契約を終了させることが可能になった。この点、非区分所有建物については、上記のような、建物の建替えに際して賃貸借を終了させる旨の規定が存在しないため、区分所有建物と非区分所有建物との間で賃借人の権利に大きな差が生じることになる。

 「賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金」については、公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定)における借家人等が受ける補償(いわゆる通損補償)と同水準とすることが想定されており、公共用地の取得の場合との異同を踏まえた上で、適切な額が算定されることになるとされている※17。適正な補償金額が実際にどのように算定されるかについては、改正区分所有法の施行後の実務や裁判例等の動向を注視する必要がある。

3.一棟リノベーション及び区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み

 その他、一棟リノベーションのための新たな仕組みとして、建物の更新に関する規定が設けられた。「建物の更新」は「建物の構造上主要な部分の効用の維持又は回復(通常有すべき効用の確保を含む。)のために共用部分の形状の変更をし、かつ、これに伴い全ての専有部分の形状、面積又は位置関係の変更をすること」と定義されており、原則として区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及び議決権の各5分の4以上の多数決で、前記「1. 建替え決議の要件緩和」の㋐から㋔のいずれかに該当する場合は各4分の3の多数決で、決議できることになった。建物の更新は、いわゆる一棟リノベーションに関する規定であり、今回の改正によって、建替えよりも一棟リノベーションの方が要件が厳しいというアンバランスな状況が是正されることになった(改正区分所有法第64条の5)。

 また、区分所有関係の解消のための新たな仕組みとして、建物敷地売却決議(改正区分所有法第64条の6)、建物取壊し敷地売却決議(改正区分所有法第64条の7)、取壊し決議(改正区分所有法第64条の8)に関する規定が設けられた。これらの規定によって、建物の抜本的な再生方法として、従前から可能であった建替えの方法以外に、区分所有関係それ自体を解消するという選択肢が加わることになる。

団地・被災区分所有建物の再生の円滑化

 旧区分所有法では、老朽化や災害等により団地内建物の全部又は一部が滅失した場合には、滅失した建物の所有者であった者(以下「元所有者」という。)については、土地等の共有持分は持つものの、建物の所有者ではなくなるため、団地に関する区分所有法の規定が適用されなくなると解されていた。そのため、上記の場合に、土地に建物を再建したり、土地を売却したりするためには、基本的に元所有者全員の同意が必要であった(民法第251条参照)。もっとも、元所有者が多数に上る場合は、全員の同意を得ることは必ずしも容易ではないと考えられ、団地内建物の全部又は一部が滅失した後でも、元所有者を含めた団地建物所有者が、土地の管理を多数決原理の下で行うことを可能とする必要性が指摘されていた※18

 上記を背景に、改正区分所有法においては、団地建物の再生の円滑化のための方策として、団地内の建物を一括して建て替える場合の一括建替え決議の要件の緩和(改正区分所有法第70条)や、団地内の建物の一部を建て替える建替え承認決議(改正区分所有法第69条)の要件の緩和、多数決による団地建物・敷地の一括売却を可能にする規定(改正区分所有法第71条)及び団地内の建物が滅失した場合における再建等の決議を可能にする規定等(改正区分所有法第81条から第85条)が設けられた。

 また、被災した区分所有建物の再生の円滑化のための方策として、旧区分所有法は、政令で指定された災害により被災した区分所有建物について、被災していない区分所有建物と同様に、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数の賛成が必要とされていたところ(旧区分所有法第62条第1項)、政令で指定された災害により被災した建物の建替え決議の多数決要件の緩和(被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法第5条第2項)等が規定された。

まとめ

 本ニュースレターで紹介した区分所有者の集会における決議要件の緩和等により、区分所有建物について、管理、修繕や建替え等が容易となることから、不動産ファンドの投資対象として検討できる物件の範囲が広がる可能性がある。①区分所有建物の管理の円滑化、②区分所有建物の再生の円滑化及び③被災した区分所有建物の再生の円滑化が実現し、区分所有建物の開発やリノベーション等が促進され、不動産取引の活性化が図られることが期待される。

 なお、改正区分所有法に基づく政省令については、2025年9月にパブリックコメントが実施され、10月に公布されることが予定されているため、これらの動きも注視していく必要がある。

脚注一覧

※1
各区分所有者の議決権は、規約に別段の定めがない限り、その有する専有部分の床面積の割合による(旧区分所有法第38条、第14条第1項)。なお、かかる議決権割合の考え方は改正区分所有法においても同様。

※2
区分所有建物の建替え(旧区分所有法第62条)、共用部分の変更(旧区分所有法第17条)、規約の設定、変更又は廃止(旧区分所有法第31条)、管理組合法人の設立又は解散(旧区分所有法第47条、第55条)、専有部分の使用禁止の請求(旧区分所有法第58条)、区分所有権の競売の請求(旧区分所有法第59条)、占有者に対する引渡し請求(旧区分所有法第60条)及び大規模滅失における区分所有建物の復旧(旧区分所有法第61条第5項)。

※3
補足説明(中間試案)3頁、7頁。

※4
補足説明(要綱案)2頁。

※5
補足説明(中間試案)28頁。

※6
ただし、改正区分所有法においては、出席した区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及びその議決権。

※7
補足説明(中間試案)32頁。

※8
補足説明(中間試案)44頁。

※9
補足説明(要綱案)4頁。

※10
令和7年6月27日以降、国土交通省において、令和7年マンション関係法改正等に伴うマンション標準管理規約の見直しに関する検討会が開催されており、同検討会における議論等を踏まえ、令和7年9月末を目途にマンション標準管理規約が改正・公表される予定となっている。また、最判平成27年9月18日民集69巻6号1711頁の射程の捉え方次第では、現在のマンション標準管理規約の文言であっても、旧区分所有者が「別段の意思表示」をしても管理者による請求権の代理行使及び訴訟追行は妨げられないと解する余地があると思われる(補足説明(要綱案)4頁~5頁参照)。

※11
補足説明(中間試案)59頁。

※12
なお、マンション建替円滑化法についても、旧区分所有法の改正とともに改正され、「マンションの再生等の円滑化に関する法律」という名称に変更され、マンション建替円滑化法第103条は削除されている。

※13
補足説明(中間試案)63頁。

※14
上記㋐から㋔の各要件の具体的な内容については、今後制定される「法務大臣が定める基準」や「法務省令」によって明確化されると思われるので、その内容にも注視する必要がある。

※15
国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」2頁
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001750158.pdf)。

※16
補足説明(中間試案)71頁。

※17
補足説明(要綱案)6頁。

※18
補足説明(中間試案)99頁。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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