塚本宏達 Hironobu Tsukamoto
パートナー(NO&T NY LLP)/オフィス共同代表
ニューヨーク
NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報
トランプ大統領は、2025年9月19日にH-1Bビザプログラムに大幅な改正を加える大統領令(以下「本大統領令」といいます。)を発表しました※1。本大統領令によれば、この改正は、本来米国の労働力を補完するために高度な技能を持つ外国人労働者を受け入れる目的で設けられたH-1Bビザプログラムが、一部の雇用主によって低賃金の外国人労働者で米国人労働者を置き換えるために悪用されているという懸念に対応するためのものであるとされています。本大統領令は、H-1Bビザプログラムの下で最も高度な技能と必要性を持つ外国人労働者のみがH-1Bビザを受給できるようにすべく、様々な制限を追加しました。本ニュースレターでは、本大統領令の概要及び実務的な影響について簡単にご紹介します。
本大統領令により、2025年9月21日(以下「本発効日」といいます。)以降、米国外にいる従業員のH-1Bビザスポンサーとなることを希望する米国雇用主は、新規申請ごとに10万ドルの支払い義務が発生します。これは各ビザの申請ごとに一度きりの手数料であり、同一のビザについて毎年払わなければならないものではありません。なお、本大統領令は、本発効日以降に提出された新規H-1Bビザ申請に適用される一方、本発効日よりも前に提出された申請、現在のH-1Bビザ保持者及び有効なビザには適用されません。また、当局による補足説明によれば、現在のH-1Bビザ保持者の米国への出入国を妨げるものでもなく、米国内で申請内容の修正(amendment)、身分変更(change of status)、または滞在期間の延長(extension of stay)を申請し、承認された場合にも適用されません※2。
また、本大統領令は労働省に対してはH-1B従業員に適用される賃金水準を引き上げるよう指示し、国土安全保障省に対しては高給・高技能労働者を優先的に審査するよう求めています。なお、国土安全保障長官が外国人労働者の雇用が国益に沿うものであり、米国の安全や福祉を害せず、当該職務を担える米国人労働者が存在せず、当該外国人労働者に代わって雇用主に申請費用の支払いを求めることが国益を著しく損なうと判断した場合には、個別に適用除外が認められるとのことです。なお、本適用除外は「極めて希な状況」(extraordinarily rare circumstance)においてのみ認められるとされています。
今後H-1Bビザで従業員を米国に派遣する予定の日系企業は、多額の追加コスト等の負担が課されることになります。新規H-1Bビザ申請ごとの10万ドルの手数料は、H-1B従業員のビザスポンサーとなるための費用を増加させ、採用判断やプロジェクトの人員配置、全体的なビジネス戦略に影響を与えます。
日本企業は現在のH-1B従業員と今後のニーズを見直し、重要な役割を優先することが求められ、また、代替可能なビザの選択も検討すべきと考えられます。さらに、新たな賃金要件によりH-1B従業員の給与コストがさらに増加すると見込まれるため、注意が必要です。
なお、2025年10月16日付けで、全米商工会議所(Chamber of Commerce of the United States of America)が、H-1Bビザ申請に高額な手数料を課すのは違法であるとして、高額な手数料の徴収の差止めを求めてコロンビア特別区連邦地方裁判所において訴訟を提起する等、本大統領令の適法性を争う法的手続が複数提起されており、今後も事態の推移を注視する必要があります。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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