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農林水産法務シリーズ第4回「農林水産業の活性化~規制緩和/ファイナンス/ブランド保護~」


座談会メンバー

パートナー

笠原 康弘

主な業務分野は、M&A/企業再編、プライベートエクイティ・ベンチャーキャピタル、一般企業法務。米国及びブラジルにおける勤務経験を活かし、北中南米を中心とした国際案件も幅広く取り扱っており、農林水産エリアへの投資についても助言している。

アソシエイト

宮城 栄司

資源・エネルギー、不動産ファイナンス、プロジェクトファイナンス、J-REIT及び私募ファンドの組成・運営等を含むインフラ・不動産取引全般、その他一般企業法務を取り扱う。近時は、テクノロジー、カーボンニュートラル、農林水産分野等に関する法律問題にも取り組んでいる。

アソシエイト

岡 竜司

買収ファイナンス、プロジェクトファイナンスを中心としたファイナンス取引、再エネプロジェクトを含むエネルギー関連案件その他企業法務について幅広く取り扱っている。近時は、農林水産分野におけるファイナンスなどにも取り組んでいる。

アソシエイト

羽鳥 貴広

知的財産に関する国内及び国外の紛争やライセンス契約等の知的財産についての取引や契約などを中心に企業法務についてアドバイスを提供している。また、農林水産分野に関する法的問題への取り組みも行っている。

アソシエイト

荒井 耀章

ファイナンス、インフラ/エネルギー、不動産取引、労務をはじめとした企業法務全般についてアドバイスを提供している。また、農林水産分野に関連する法律問題にも取り組んでいる。

アソシエイト

三浦 雅哉

ファイナンス、労務、危機管理をはじめとした各種の企業法務分野でアドバイスを提供する。また農林水産、自然環境保全に関連した法律問題にも取り組んでいる。

【はじめに】

今回は、農林水産業の活性化というテーマで、主にこれまで行われてきた規制緩和の流れ、ファイナンスの観点からみた農林水産業、それから、海外輸出も視野に入れたブランドの保護という点について議論したいと思います。

CHAPTER
01

規制緩和

宮城

まず、農業分野についてですが、2009年の農地法改正が最も大きな改正です。元々農地法の目的には、「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当である」と規定されていたように、いわゆる自作農主義が根幹となる概念でした。これが削除され、新たに「農地を効率的に利用」という表現が追加されています。これに伴い、法人が農地を所有するのではなく賃借する、いわゆるリース方式が全面的に解禁されました。リース方式の解禁以来、法人による新規参入数は増加しています。

企業が事業として農業に参入するには生産効率を高めた上で収益性を確保するため、大規模な農耕地が必要になりますね。土地を確保する方法としてはリース方式のみでもよいともいえますが、企業が農地を取得するとなると、引き続き高いハードルがある状況といえます。法人が農地を取得しようとする場合、株式譲渡制限がある株式会社や持分会社であることに加え、主たる事業が農業であることや農業関係者が議決権の過半数を保有すること、役員の過半数が農業に常時従事している者であることなどが必要となります。

荒井

漁業の分野でも、2018年に漁業法が70年ぶりに改正され、企業による漁業への新規参入が期待できるのではないかと思います。すなわち、従来は、区画漁業権や定置漁業権については、都道府県が漁業権を付与する際の優先順位が法定されていました。これにより、地元の漁業組合等が優先的に免許を受けられる仕組みだったといえるのではないかと思います。改正後も既存の漁業関係者の権利が損なわれるものではないですが、法定の順位がないため、漁場を適切かつ有効に活用している漁業者に免許が与えられることになります。そのため、新規参入の余地も広がったという評価がされています。

宮城

新規参入のためには規制法に対応するための準備も必要となりますので、新規参入が増加すればそれだけ法務面でのサポートも必要となりますね。
CHAPTER
02

ファイナンス

宮城

企業が農林水産業に参入していくためには、規制緩和に加えて、安定した資金調達の方法を確保することが重要で、今後の課題になっていくと思います。そのため、他の分野でも用いられているようなファイナンス手法も参考に、農林水産業の特性にも配慮したファイナンス手法について考える必要があると思います。

荒井

まず、ファイナンス手法のうち融資取引を中心としたデットファイナンスの手法に関連して、2022年3月に農林水産省から、農林水産業・食品産業に関するESG地域金融実践ガイダンスが発表されています。そこでは、地域金融機関に対し、農林水産分野におけるESGの取組を後押しする金融活動を行うことが推奨されています。農林水産業分野においては政府系金融機関や農協等が中心となって重要な役割を担っていますが、ESGへの関心の高まりにより、地域金融機関による融資もその重要性はますます高くなっているといえます。
金融機関による融資にあたっては、債権の保全の観点から、どのように担保価値を把握・評価するかが重要となります。もっとも、農林水産業分野、特に農業では、農地を担保にとると、処分にあたり農地法上の許可が必要となるため、その他の大型の機械設備といった伝統的な担保物に対する担保権の設定や農業信用基金協会の保証により保全を図っているのが現状ではないかと思います。

現在、法務省では、不動産や個人保証に過度に依拠しない、事業価値を前提に与信判断をすることを志向する担保法改正の議論もされています。担保法改正の議論を踏まえると、農作物・家畜・養殖魚などの生産物や種苗法を含む知的財産法上の権利・ノウハウといった新しい担保手法についても検討できますね。こうした新しい担保手法を農林水産業分野においても活用するためには、法務面のサポートが重要になるだろうと考えています。

荒井

次に、ファイナンス手法のうち有価証券の発行等を中心としたエクイティファイナンスの手法に関連しては、2021年4月にいわゆる投資円滑化法が改正され、農林漁業法人等に対する投資の円滑化に関する特別措置法となりましたね。この改正によって、もともと農業法人に限られていた出資対象が、林業・漁業を営む法人やスマート農林水産業に取り組む法人なども拡大され、投資機会の拡大が今後期待できます。

宮城

エクイティファイナンスについては、安全保障上の問題などもあるため、規制が完全に撤廃されることはなく、色々な点で難しい側面もあると思いますが、2022年6月7日に閣議決定がされた、いわゆる骨太の方針でも、林業に対する民間投資を促進するために、森林リート市場の検討を行うことが、脚注ではあるものの言及されているなど、農林水産分野における投資法人の活用も示唆されています。

森林投資は、伝統的な資産と比較的相関性の低いポートフォリオを築けることや、ESGと密接に関連することなどから、投資対象としても注目されており、アメリカでは既に複数銘柄が森林リートとして上場していますね。また、林業分野だけでなく、農地についてもリートの創設を求める声がありますよね。

宮城

農林水産業分野とファイナンスは、農業を行おうとする企業の資金調達の側面だけではなく、資金提供者である金融機関や投資家のESGの要請を満たす側面もあり、今後大きく注目される分野だと考えています。
CHAPTER
03

ブランド保護・輸出

笠原

日本政府は、近時、日本の農林水産物・食品の輸出促進に関する様々な取組みを進めています。また、令和2年には、2025年までに2兆円、2030年までに5兆円という輸出額目標を設定しました。さらに、農林水産事業者の利益増大、輸出拡大の実現を目的に策定された令和2年11月30日付け「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略~マーケットイン輸出への転換のために~」が令和4年5月20日に改訂されました。

荒井

事業者への投資支援、現地での支援体制の強化等の輸出拡大のための具体的な施策により、今後、日本の高品質かつ魅力的な農林水産品や食品の輸出拡大が期待されます。農林水産品や食品の輸出拡大に関して、法務の観点で留意すべき点はありますか。

羽鳥

輸出先の規制や規格に関する問題など多くの法的な問題がありますが、輸出先を含めた市場における競争力やブランド価値の保護、投下資本回収や利潤獲得の機会を守るという観点から、知的財産の保護とその利活用が重要です。

三浦

例えば、昨今、シャインマスカット等のブランド品種の海外流出の問題が注目を集めました。流出により、海外市場における利潤獲得の機会の減少や日本産品の競争力低下につながります。

羽鳥

この問題などを踏まえて改正された種苗法の施行により、海外流出を制限できる制度が設けられました。当該制度の活用による海外流出の防止が期待されますが、加えて、海外でも品種登録を行い、権利行使できるようにすることも重要です。

宮城

日本産品の海外流出に関しては、和牛の受精卵等が持ち出されそうになった事件もありましたよね。これを受けて、いわゆる和牛遺伝資源関連2法が制定され、和牛4品種等の遺伝資源が知的財産として保護されることになりました。

三浦

ブランド品種や和牛の遺伝資源を含む日本の優良農林水産品について、知的財産権を確保・行使することが、流出を防止するとともに、市場での競争力維持や利潤獲得機会の保護につながります。

笠原

農林水産品に関する生産技術などの技術やノウハウの保護・流出防止も市場での競争力維持のためには欠かせません。ノウハウ等の営業秘密としての保護に関しては、「農業分野における営業秘密の保護ガイドライン」も公開されており、その活用を通じて、適切な保護が期待されます。

羽鳥

技術やノウハウの保護だけではなく、輸出先等における農林水産品や食品の名称等に関する商標権の確保も重要です。また、農林水産品や食品のブランド価値を保護するために、商標権を行使するなどして、模倣品対策を行うことも大事ですね。

三浦

ブランド価値の維持や向上という点に関しては、地理的表示(GI)制度もありますね。多様な知的財産保護の制度の戦略的な利活用が、輸出先等を含む市場におけるブランド価値の保護・向上や利潤獲得機会の保護にとっての鍵になりますね。

羽鳥

そうですね。また、輸出先において農林水産品や食品の販売等を行う場合、現地の企業と協働することが想定されますが、その際には、競争力の源泉となる知的財産が流出したり、ブランド価値を毀損したりすることのないように、適切なパートナーの選定や契約等を通じたリスクコントロールが重要です。

三浦

また、今後は、生産技術などの技術やノウハウの保護・流出防止という守りの観点だけでなく、技術、ノウハウ、ブランドが一体となったビジネスそのものを海外の第三者にパッケージで提供していくというビジネスも徐々に拡大しているところかと思います。その場合の留意点はどういったところになるでしょうか。

笠原

先ほど申し上げた点と共通することが多いと思いますが、当該第三者との間での契約内容がより重要になってくるところです。海外の第三者が製造委託先であり、ディストリビューターとなることが想定されますので、後で不測の事態が生じることがないような契約内容とする必要があります。
以上、本日は、農林水産業の活性化というテーマで、これまでの規制緩和の流れ、ファイナンスの観点、海外輸出も視野に入れたブランドの保護などについて議論をさせていただきました。どの観点からも、法務面でのサポートがこれまで以上に重要になってくるということかと思います。本日はありがとうございました。

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第5回 「農林水産業とカーボンニュートラル(仮)」

(渡邉啓久弁護士、宮城栄司弁護士、稗田将也弁護士、水野奨健弁護士)

※次回は、2月7日の公開を予定しています。

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