対談者
パートナー
本田 圭
再エネ発電プロジェクトや環境法関連案件(ESG投資、排出権取引等を含む)、不動産流動化・証券化案件などを主に担当。
アソシエイト
田中 宏和
再生エネルギー法務、不動産証券化取引等を中心に、不動産ファイナンスや金融規制法に主に従事。
【はじめに】
ESG/SDGsが世界の潮流になっていることもあり、環境規制の動向についてもさらに注目が集まっているところです。今回は、2022年及びそれ以降に施行される予定の重要な環境関連法改正のポイントについて議論します。今回取り上げる法令については必ずしも注目されていないようなものもありますので、関連する企業の法務担当の皆様には是非気を付けていただきたいと思います。
CHAPTER
01
プラスチック循環促進法
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田中
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まず、報道などもされており、注目度が比較的高いと思われるプラスチック循環促進法(「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」)について話したいと思います。これは改正法ではなく、新しい法律となりますが、ポイントはどのようなところにあるのでしょうか。
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本田
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この法律は、近年、海洋プラスチック(マイクロプラスチック)などでも問題とされているプラスチック製品について、さらにリサイクルを進めること等を目的とした法律です。「製品の設計からプラスチック廃棄物の処理までに関わるあらゆる主体におけるプラスチック資源循環等の取組を促進するための措置」とされています。
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田中
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日本は世界的に見ればプラスチックのリサイクルが進んでいると言えると思います。事業者に厳しい義務が課されることになると大変だと思いますが、その辺りはどうなっているのでしょうか。
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本田
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必ずしも厳しい義務が課されているものではなく、事業者が特に留意しておくべきポイントとしては以下の2つが挙げられます。
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① One-wayプラスチック製品(例:プラスチックのカトラリーなど、商品/サービスの提供に当たって無償で提供されるプラスチック製品)の提供事業者について、取り組むべき判断基準が策定されます。主務大臣は、対象事業者に対して指導助言をすることができ、また、One-wayプラスチック製品を多量に提供する事業者について、勧告・公表・命令の措置を行える場合があります。
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② プラスチック製品廃棄物を排出する事業者について、取り組むべき判断基準が策定され、主務大臣は指導・助言を行うことができます。また、上記①と同様に、多量にプラスチック製品廃棄物を排出する事業者について、勧告・公表・命令の措置を行える場合があります。
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田中
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なるほど、指導を受けたり、勧告/命令を受けたりする場面は限定されているのですね。
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本田
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そうですね。上記①②の事業者類型に該当するかを確認するともに、取り組むべき判断基準は適宜改定されていく想定なので、該当する事業者は今後も留意していく必要があると思います。
CHAPTER
02
化管法の改正
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田中
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次に、施行は2023年予定ですが、化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)についても改正があると聞いています。どのような内容なのでしょうか。
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本田
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はい、化管法の改正は2021年に成立し、2023年4月での施行が予定されています。かなり間が空いているのは、改正に伴う対応準備のためで、関連する化学物質等取扱事業者においては引き続き準備を進めておくべきものとなります。
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田中
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具体的に、どのようなインパクトがある改正なのでしょうか。
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本田
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化管法は、①PRTR制度(Pollutant Release and Transfer Register:一定の事業者が、対象化学物質を排出・移動した場合、一定時期までに国に届け出る制度)という制度と、②SDS制度(Safety Data Sheet:事業者が他の事業者に対象化学物質等を譲渡・提供する際に、その情報が記載されたデータシートを提供する制度)という2つの制度を柱として成り立っています。これらの制度によって、事業者による化学物質の自主的な管理を促し、環境被害等を未然に防止しようとするものです。日本特有のものではなく、同種の制度は海外でも実施されています。
今般、PRTR制度とSDS制度の対象となる第一種指定化学物質の範囲が462から515物質に、また、SDS制度のみの対象となる第二種指定化学物質の範囲が100から134物質に拡大されました。SDS提供義務は2023年4月1日から開始ですが、サプライチェーン上の事業者に情報が広く行き渡るよう、可能な限り早期に新規指定化学物質に対応したSDSの提供が求められているため、2022年も含めた事前の対応が必要とされています。
CHAPTER
03
大気汚染防止法の改正
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田中
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次に、大気汚染防止法の改正についてお願いします。大気汚染は以前に比べると問題が少なくなっていると思うので、大気汚染防止法改正と言ってもイメージが持ちづらいのですが、どのような改正なのでしょうか。
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本田
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イメージされているような大気汚染関連の改正ではなく、アスベスト(石綿)関連の改正になります。全部で三段階の改正となっているのですが、①2021年4月に既に施行された第1弾は規制対象建材の拡大等が規定され、②2022年4月施行の第2弾では、建築物等の解体等の作業を行う際に必要となる事前調査(石綿含有建材に関する調査)の結果を都道府県に対して報告すること等が義務化されます。また、③事前調査を行う者の資格要件についての改正が第3弾となり、2023年4月施行予定です。
これまでも、解体等の場合に石綿含有建材に関する事前調査は必要でしたが、上記第2弾によって、その結果を都道府県に対して報告することが義務付けられるとともに、結果の保存義務等が定められました。また、第3弾によって、事前調査についての資格が必要とされました。これら一連の措置によって事前調査に関する規制を厳格化し、引き続き散見される石綿被害を防止しようとする改正となります。
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田中
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なるほど、よく分かりました。
CHAPTER
04
再エネ特措法
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田中
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次に、再生可能エネルギー特措法の改正が2022年4月に施行予定ですが、環境法の視点からは何か留意点はあるでしょうか。
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本田
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はい、2022年4月施行予定の改正は、固定価格の全量買取制度(FIT制度:Feed-in Tariff)から、市場価格連動で一定のプレミアムを付与する制度(FIP制度:Feed-in Premium)に変更されることや、事業計画認定の失効制度が導入されることなどがメインですが、環境法的な視点から重要なのは、パネル廃棄費用の積み立て義務です。
太陽光パネルには有害物質も含まれているため、FIT制度開始当初から、FIT期間(20年の電力買取期間)経過後に大量のパネルが放置/廃棄されて社会問題になってしまうのではないかという懸念が呈されていました。今回の改正で、事業者は原則として廃棄費用を外部積み立て、具体的には、電力広域的運営推進機関(略称:OCCTO)に対して積み立てをしなければならないこととなっています。なお、ファイナンスが付いていて既に必要な積み立てが内部的に(事業者側にて)なされているような場合は当該義務から逃れることができます。
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田中
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こちらのニュースレターでもお伝えした話ですね。
CHAPTER
05
脱炭素関連の改正
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田中
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再エネ特措法が対象としている再生可能エネルギーの導入の促進は、2050年のカーボンニュートラル目標の達成にも資するものと言えますが、脱炭素関連で注目される改正はあるでしょうか。
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本田
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脱炭素関連では、①2022年4月施行の温対法(「地球温暖化対策の推進に関する法律」)の改正と、②今後の改正が予定されている建築物省エネ法(「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」)が挙げられます。
改正温対法では幾つかの改正がありますが、温室効果ガス排出量の算定報告公表制度に関する改正が注目と言えます。今般の改正で、紙媒体による算定報告を改めて、電子システムによる所轄官庁への報告を原則としました。また、これまでは開示請求をしなければ報告内容を見られなかったのですが、国が各企業の温室効果ガス算定排出量の情報について、事業所ごとの排出量情報等を含めて遅滞なく公表することとされました。つまり、企業の排出量等の情報の”見える化”を促進し、それによって温室効果ガス削減を促進させようとしています。
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田中
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建築物省エネ法についてはどうでしょうか。
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本田
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建築物の省エネ/脱炭素化についての法律としては、建築物省エネ法の他に、エコまち法(「都市の低炭素化の促進に関する法律」)という法律があります。審議会において、いわゆるネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB:”ゼブ”)/ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH:“ゼッチ”)を促進させるべく、以下の両法令における水準をZEB/ZEH水準に引き上げて整合性を図る改正が想定されています。
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(i) 建築物省エネ法:性能向上計画認定(省エネ性能の優れた建築物の省エネ計画を認定する制度)における、省エネ性能関する誘導基準。
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(ii) エコまち法:低炭素建築物に関する認定基準。
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田中
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なるほど、脱炭素を達成するためには建築物等の省エネ促進も欠かせないでしょうから、今後もこのような流れは続きそうですね。
本対談は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。