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気候変動対応を企業評価の向上に活かすための法務戦略 ~脱炭素経営におけるディスクロージャー、エンゲージメント、ガバナンス~


鼎談者

パートナー

大沼 真

M&A・コーポレートガバナンスに関わる案件を幅広く取り扱うとともに、欧州での執務経験も活かし、様々なエネルギー案件に関与する。

パートナー

宮下 優一

キャピタルマーケット案件を幅広く取り扱っており、その強みを活かし、脱炭素・気候変動をはじめとするESG・サステナビリティに関する企業情報開示や証券発行案件に積極的に取り組む。

パートナー

渡邉 啓久

エネルギー、環境、インフラ、不動産及びファイナンス案件を中心にアドバイスを提供するとともに、企業の気候変動対応・カーボンニュートラル関連の法務問題に携わる。

【はじめに】

2050年カーボンニュートラルの達成に向け、温室効果ガスの主たる排出者である企業の気候変動対応に社会全体が注目する時代を迎えています。各企業による脱炭素経営・気候変動対応への取組みは、企業のコストあるいは事業活動の制約に過ぎないといったネガティブな位置づけから、企業の評価や価値を左右する要素へと様変わりしました。こうした現状において、気候変動対応をどう企業経営に活かし、外部からの適正な評価を得るための情報開示を行い、ステークホルダーと対話していくべきなのかは、あらゆる業種の企業にとって無視することのできない経営課題になっています。

こうした経営課題に対処するためには、法務の観点から、企業の気候変動対応を巡る問題状況を正しく認識し、制度を理解することが重要です。本鼎談では、情報開示・キャピタルマーケット分野、コーポレート分野、エネルギー・インフラ・環境分野という多面的な法務領域からみた脱炭素経営のいまと、企業が気候変動対応をどう企業経営に結びつけていくべきなのかの視点に関して、脱炭素経営・気候変動対応関連法務を扱う弁護士3名が議論いたします。

CHAPTER
01

企業にとって気候変動対応とは一体何なのか?

渡邉

2020年10月の菅総理(当時)による2050年カーボンニュートラル宣言以降、国内企業の脱炭素化に向けた取組みは急激に加速したように感じます。実際、日々の我々の実務の中で、脱炭素関連のプロジェクトや法的問題に接する機会は飛躍的に増えました。企業にとって、気候変動対応はどういった位置づけになっているのでしょうか。

宮下

一言でいえば、気候変動問題への対応のあり方そのものが、企業の評価や価値を直接に左右する一つの要素になってきているといえるでしょう。つまり、企業の社会的責任(CSR)の問題に留まらず、企業に対して株価や財務的インパクトを直接及ぼす問題であるという位置づけになっているのだと思います。

渡邉

2017年6月のTCFD提言を皮切りに、気候変動問題は企業にとっての「リスクと機会」という意識が強まりましたよね。

宮下

例えば、世界的なESG投資の加速によって、機関投資家を中心に企業の脱炭素化に向けた対応を投資判断の材料とする傾向がここ数年で顕著にみられます。気候変動対応や脱炭素経営への移行が企業の評価や価値を左右する問題である、ということは、裏を返せば、外部から適切な評価を得るために、企業の気候変動対応や脱炭素経営への移行状況を適切に情報開示していくべき、という議論に繋がってくると思います。

大沼

近時、気候変動対応に関連する株主提案事例が多くなってきているのも、その兆候なのだろうと考えています。また、M&Aの際に行われるデュー・ディリジェンスにおいて、対象会社における気候変動への対応状況をチェック項目とするケースが出てきているのも、気候変動対応を重視する企業が増えつつあることの証左なのでしょうね。
CHAPTER
02

気候変動対応・脱炭素経営の難しさ

宮下

一方で、企業の気候変動対応や脱炭素経営への移行の難しさは、達成すべき目標が比較的明確であるもののその手段は数多ある、という点ですよね。

渡邉

そうですね。例えば、自社のネットゼロの実現を目標としたとき、省エネなどによるエネルギー消費量の削減や、再エネへの転換などのエネルギーのクリーン化などを通じた各企業の削減努力に、カーボンクレジットの購入や植林などによるオフセットを組み合わせることでその達成を目指すというのが一つのモデルですが、自社の事業内容や事業環境を前にして、どのように省エネ、再エネ調達やオフセットを進めるのが最適なのかについて、一義的な答えがあるわけではありません。

大沼

脱炭素化技術をターゲットとしたM&Aなど、気候変動対応を自社のM&A戦略に組み込む例が増加していくことも考えられますね。では、少しでも最適な形を目指すために、何を心がける必要があるのでしょうか。

渡邉

一つには、脱炭素のメニューを正しく理解することが大切だと思います。毎日のようにカーボンニュートラル関連の話題がニュースになる時代ですので、「再エネ」、「コーポレートPPA」、「FIT」や「FIP」、「カーボンクレジット」、「スコープ3」、「炭素国境調整措置」、「CCUS」といったキーワード自体はよく見聞きする、しかしそれがどういった仕組みなのかは把握できていない、という方も多いのではと思います。その最大の理由は、それぞれ個々にみても複雑なシステムである上に、相互に密接に関連し合っているからなのだと、つくづく感じます。
CHAPTER
03

政策・法規制リスクの認識とイニシアティブ

渡邉

また、TCFD提言には、低炭素経済への移行に伴うリスクの一つに、政策・法規制のリスクが挙げられています。国際社会や日本の政策と法制度がどこに向かおうとしているのかを見極めることも、各企業にとって重要なポイントですね。

大沼

TCFDもそうですが、RE100やSBTといった国際的な環境イニシアティブが先導する枠組みやグローバル企業の動向も大きいですよね。

宮下

例えば、国際的に認知されたイニシアティブに属しているということ自体が、企業評価を高める要素になるという面もあるでしょう。法規制のコンプライアンスだけが問題になるわけではない、というのが気候変動対応分野の特色の一つでもあります。

渡邉

そうですね。それに、こうしたイニシアティブが推奨するGHGプロトコルのスコープ3、つまりサプライチェーン全体のGHG排出量の算定基準の影響や、環境省・経産省が公表している「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」も寄与して、近時、自社のサプライチェーンに対しても脱炭素化を要請したり、温室効果ガスの排出量の把握を目的とした環境デュー・ディリジェンスを実施する企業も飛躍的に増加していると思います。

宮下

このようなソフトローの動きが重要でありつつも、ハードローの規制関連の動きというのも、非常にインパクトが大きいと思います。

渡邉

今国会においても、主に非化石エネルギーへの転換を一層促進する観点から、省エネ法、高度化法、電気事業法、鉱業法、JOGMEC法などの改正案が、空港分野における再エネ導入の促進という観点からは、空港法などの改正案が、それぞれ今年3月1日に閣議決定されました。燃料電池自動車の規制の一元化などを含む高圧ガス保安法などの一部改正案も同月4日に閣議決定されています。さらに、温対法についても、脱炭素化支援機構の導入などに関連する新たな改正案が今年2月8日に閣議決定されています。今通常国会では、脱炭素関連の改正法が多数成立する見込みです。

大沼

加えて、海外の動向にも注意が必要です。今年2月23日には、欧州委員会が企業サステナビリティデューディリジェンス指令案(Directive on corporate sustainability due diligence)を公表しました。一定規模以上の企業に、自社の上流・下流の取引先を含むバリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンスの実施やパリ協定を踏まえた事業計画の策定を求める内容となっています。まだ法案段階であり、成立までは数年要すると言われていますが、成立すれば欧州で事業を行う日本企業にも大きな影響を及ぼすことになると考えています。EU以外の諸外国でも類似の規制が導入される可能性もあると予想しています。

宮下

規制の観点からも脱炭素化の潮流が一層強まっているので、法務担当の方々にとっては、最新の情報をフォローして頂くことが重要ですね。
CHAPTER
04

脱炭素経営・気候変動への取組状況が適正に評価されるための情報開示のあり方

大沼

情報発信の観点でいうと、企業がどれだけ脱炭素化に熱心で、積極的に取り組んだのかを投資家に判断してもらうためには、脱炭素経営や気候変動対応への取組みが適切に情報開示される枠組みが必要ですよね。

渡邉

グローバルには開示の枠組みについて活発な動きがあるところだと思いますが、現状はどのような状況なのでしょうか。

宮下

カーボンニュートラルに関する情報開示のフレームワークは、国際的には「乱立」しているとも言われますが、様々な団体が様々な基準を設定しています。例えばTCFD提言は、日本のTCFD賛同企業は多い一方でそのフルディスクロージャーはなかなか難しく、そのような中、コーポレートガバナンス・コードで言及されたこともあり、日本での注目度は高いです。また、現在、国際的に認知度の高いIFRS財団において、気候変動に関する開示基準の策定が進められており、これにより国際的な基準の統一化の流れが加速することが期待されています。

渡邉

日本での情報開示はどういう状況でしょうか。

宮下

最近は、統合報告書やサステナビリティ報告書などの媒体での任意開示というフォーマットで、TCFD提言などに沿った充実した開示が日本でも進んできています。投資家などのステークホルダーから適正な評価を受ける観点から、このような任意開示での自主的な取組みは今後も加速するだろうと思います。

大沼

投資家からの評価という観点では、開示が不十分な企業は自然淘汰されていくはずであり、そうなりたくないと考える各企業の自主性に任せておけばよい、ということにはならないのでしょうか。

宮下

任意開示にも限界がありますので、気候変動対応の開示との関係では、法定開示化が非常に重要だと思います。例えば、法定開示書類である有価証券報告書に関していえば、開示すべき項目が決められており、かつ虚偽があった場合の損害賠償責任などについて法令上の特別な定めがあります。この法令上の制度に基づいて各社が開示をすることにより、投資家側からすると投資対象企業の比較可能性が高まることや、内容の正確性についての一定の実効性確保が期待できるでしょう。そのため、日本でも最近は法定開示でどのように気候変動対応を行うべきかという点に議論が移ってきています。

大沼

なるほど。来たる法定開示化について十分に理解しておくことが必要ですね。

宮下

はい。先ほど議論したとおり、脱炭素メニューの多様な選択肢を整理した上で自社の脱炭素経営を構築し、それを説得力のあるストーリーとして開示していくことが鍵となりますが、これを有価証券報告書などの法定開示書類でどこまで実現できるかがポイントだと考えています。
CHAPTER
05

脱炭素経営のガバナンスと気候変動対応時代の投資家とのエンゲージメント

宮下

企業と投資家との対話が、企業の成長と価値向上において重要なものとなっているという認識は比較的浸透していますが、とりわけ気候変動・脱炭素の文脈での対話の意義はどのようなものでしょうか。

大沼

投資家側において気候変動・脱炭素への意識が高まっており、機関投資家が、その投資先に対して、脱炭素化の達成に向けて、温室効果ガス排出量ゼロに向けた目標設定を要請する例や、投資基準として、投資先のCO2排出量ゼロを目指すと明らかにする例などが出始めています。このような投資家への対応が不十分な場合、機関投資家による投資の引上げ、ESG投資の機会喪失などを招き、財務コストが上昇する可能性も考えられます。

渡邉

その背景には、スチュワードシップ・コードの改訂により、機関投資家もサステナビリティを考慮した投資を求められていることもあるでしょうね。

宮下

対話を行う投資家にも様々なタイプのものがありますが、気候変動と株主対応という観点から、最近の動向としてはどのようなものがありますか。

大沼

株主が企業に気候変動対応を求めて株主提案を行う事例が出てきています。例えば、昨年は、三菱UFJフィナンシャル・グループ及び住友商事が、NGO団体から、パリ協定に従った事業計画の決定と年次報告書における開示を行う旨の定款変更に係る株主提案を受け、いずれも株主総会で否決されたものの、それぞれ20%以上の賛同を受け、注目を集めました。今後このような事例が増加していくことも予想されます。

渡邉

気候変動・脱炭素の流れは、企業のガバナンスにどのような影響を与えているでしょうか。

大沼

2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、気候変動などの地球環境問題への配慮を含む、サステナビリティを巡る課題の検討を深めること、サステナビリティを巡る取組みについての基本的な方針を策定し、経営資源の配分・事業ポートフォリオに関する戦略の実行が持続的な成長に資するよう監督を行うことなどが取締役会の責務として規定されました。また、サステナビリティに関するガバナンス機能を担う組織として、ESG推進委員会やサステナビリティ委員会などを設置する例も多く見られるようになってきました。

宮下

気候変動対応の推進にインセンティブを与えるための仕組みとしてはどのようなものが考えられるでしょうか。

大沼

取締役の報酬基準として、CO2排出量の削減など一定の指標を定めた上で、その成果を報酬に反映させる仕組みを採り入れるケースも見られます。このように環境指標をベースとした報酬制度を導入する例は欧米と比べるとまだ限定的ですが、気候変動対応を加速させる取組みとして日本においても今後一般的になってくるのではないでしょうか。

渡邉

企業としては、このような最新の動向もフォローしつつ、自社の実情に合わせた対応を検討していくことが求められそうですね。本日は、ありがとうございました。

本鼎談は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。