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ヘルステック法の羅針盤


テクノロジーの進化を活用して新しいヘルスケアの形をつくる ― 「ヘルステック」の進展とともに、当事務所のライフサイエンス・ヘルスケアチームも様々なプロジェクトに関与してきました。もともとヘルスケア産業に関連する法規制は複雑である上に、新しいテクノロジーを融合させることで、これまでの法規制では想定されていなかったような製品やサービスが生まれ、そこに適用されるルールはさらに難解さを増しています。
今般、ヘルステック分野に取り組まれる皆様の気づきになるような書籍を目指して、同チームの有志で「ヘルステックと法」を執筆しました。本座談会では、同書籍の執筆メンバーがヘルステック法のポイントや近時の動向などを議論します。

座談会メンバー

パートナー

鈴木 謙輔

医薬品、医療機器、再生医療、医療データ、デジタルヘルスその他広くライフサイエンス分野において、規制・コンプライアンスに関する助言のほか、M&A・提携、ライセンス契約、新規参入、資金調達等の事業活動全般にわたってアドバイスしている。

パートナー

小山 嘉信

製薬会社、医療機器メーカーその他ヘルスケア関連企業に関するレギュレーションやコンプライアンスに関する助言、ライセンスその他契約交渉、患者団体対応、不祥事対応、介護施設を対象とする不動産関連取引や医療法人のM&A等を多く手掛けている。

パートナー

箕輪 俊介

現在バンコク・オフィスにて勤務。バンコク赴任前は、国内外の企業法務全般に従事。現在は、タイ及びその周辺国への日本企業の進出、並びに、在タイ日系企業に関連する法律事務を広く取り扱っており、薬事・ヘルスケア分野に関する法務支援にも力を入れている。

パートナー

粂内 将人

不動産・REIT、薬事・ヘルスケア、知財関連取引などを中心として、一般企業法務全般を取り扱っている。薬事・ヘルスケア分野に関しては外部委員を務めるなど、実践的な助言を行っており、ヘルスケア関連企業からの日々の相談にも幅広く対応している。

アソシエイト

鳥巣 正憲

ライフサイエンス・ヘルスケア分野を中心に、国内外を問わず、M&A、ライセンス、共同研究開発、データ関連取引その他の企業間・産学間の各種プロジェクト、並びに規制・官公庁対応等において、幅広くリーガルサービスを提供している。

CHAPTER
01

ヘルステックと法

鈴木

「ヘルステック」という言葉は、それを聞かない日はないというくらい、多くの人にとってなじみのあるものになりました。もはやヘルスケアとテクノロジーとは切っても切れない関係にあるといっても過言ではありません。

小山

やはり、近年の様々なテクノロジーの劇的な進化が、両者の関係を驚くべきスピードで強固にしたと言えるのではないでしょうか。例えば、スマートフォンが本格的に普及し始めてまだ10年余り、スマートウォッチが本格的に普及し始めてまだ5年余りかと思いますが、今やどちらもヘルスケアにとって欠かせない身近なテクノロジーです。

箕輪

それに加えて、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行が、ヘルステックの発展をより加速させたように思います。感染拡大のおそれから、これまでどおりの医療やヘルスケアサービスの提供がままならない中で、テクノロジーを活用した新たな製品やサービスの必要性が高まりました。

粂内

ヘルステックという分野の大きな特徴の一つとして、医薬品・医療機器メーカーや病院といった伝統的にヘルスケア産業を担ってきたプレーヤーだけでなく、全く別の分野で活躍してきた企業やスタートアップなど様々なプレーヤーが参入しているという点が挙げられると思います。

鳥巣

当事務所のライフサイエンス・ヘルスケアチームでも、ヘルステック分野の発展とともに、実に多くのプロジェクトをお手伝いしてきました。その中で、「ヘルステックに関する法規制は複雑で分かりにくい」といった声や、「なかなか全体像を理解するのが難しい」といった声を聞く機会が多くありました。

鈴木

今回、チームの有志で「ヘルステックと法」という書籍を執筆しましたが、ヘルステック分野に取り組まれている様々なプレーヤーの皆様に気軽に手に取っていただき、特に法令や規制といった観点からヘルステックという大海原を眺めていただく際のコンパクトな羅針盤になるような書籍として、少しでもお役に立てるといいなと思っています。

小山

本日の座談会では、同書籍の中で取り上げたトピックを中心に、ヘルステック法のポイントや近時の動向などを議論したいと思います。


CHAPTER
02

ヘルスケアアプリ

粂内

旧薬事法の改正により、アプリを含むプログラムが独立した医療機器として適用を受けるようになって、早くも約10年が経過しました。ヘルステックというと、まず思い浮かぶのはヘルスケアアプリだという方も多いのではないかと思いますが、近年は治療用アプリとして医療機器の製造販売承認を取得する例も複数出てきており、日進月歩で進化している印象です。

鳥巣

医療機器ではなく健康管理や運動などに役立てるアプリもたくさん種類がありますよね。私のスマートフォンにもいくつか健康関連のアプリがダウンロードしてあって、私自身良い結果を出せているかはさておき(苦笑)、いつもお世話になっています。アプリの医療機器該当性の判断についてプロジェクトの中でお手伝いすることも多いですよね。

小山

2023年3月にプログラム医療機器ガイドラインが改正され、また、厚労省がHP上で公表している過去の相談事例の件数も充実してきました。他方で、創意工夫を凝らした新しいアプリが次々と開発されていて、判断が悩ましいものもまだまだ多いと思います。プロジェクトの行末を大きく左右することになりますから、慎重な検討が必要な論点です。

箕輪

AI、特に自ら学習して市販後に性能が変化するいわゆるadaptive AIを活用した医療機器に対する規制の在り方も近時の重要なトピックです。米国やEU諸国のみならず、シンガポール・インドといったアジアの国々を含めて世界各国で規制の枠組みが議論されていますが、日本では、令和元年の薬機法改正で導入された変更計画事前確認制度(IDATEN)の活用などが検討されていますね。

鈴木

規制改革推進会議の答申などを踏まえて新たに導入される医療機器プログラムの二段階承認の枠組みが、今後実際にどのように運用されていくのかという点も、要注目のトピックだと思います。これを機に、日本におけるアプリなどの医療機器プログラムの開発がより一層活発化することを期待したいです。
CHAPTER
03

医療DX

鳥巣

医療DXは、日本政府が今まさに重点的に取り組んでいる分野です。オンライン診療・服薬指導から、電子カルテの標準化、医療データに関するプラットフォーム構築、ロボットやAIの医療現場での活用まで、幅広い取組みが含まれます。

鈴木

医療DXにおいて中心的な役割を果たす、医師をはじめとする医療従事者や病院をはじめとする医療機関に適用される法令や規制は、実に様々です。そして、医療DXに必要な製品やサービスを提供する企業の側も、それらの法令や規制をよく理解しておく必要があります。

箕輪

例えば、企業が医療関係者や消費者向けに提供しようとするサービスが、医師でなければ行うことができない医行為に該当しないかという点は伝統的な医行為の枠に当てはまらないサービスを提供することにより初めて検討されるものも多いため、様々なプロジェクトで論点になりますね。医療機器該当性と同様に、外縁が必ずしも明確でないため、判断に悩む事例が多い印象です。

粂内

医療DXの推進のためには、いわゆる産学連携など医療関係者と企業とのコラボレーションも重要になりますが、その過程で企業から医療関係者への不当な利益供与などが行われないように注意が必要です。近時も、贈収賄や公正競争規約違反の事例などが複数報じられています。

小山

新型コロナウイルス感染症の流行で最も注目を浴びたヘルステックとしては、やはりオンライン診療・服薬指導が挙げられると思います。オンライン診療指針は頻繁に見直しが行われているので、最新の規制を正確に把握しておくことが必要です。また、メタバースなどの新しいテクノロジーを遠隔での医療やヘルスケアサービスにどう活用していけるかも今後要注目のトピックですね。
CHAPTER
04

健康・医療データ・PHR

箕輪

ヘルステックの分野において今最も重要といってもよいのがデータの利活用だと思います。特に、個人の健康や医療といったセンシティブな情報を含むデータをいかに利活用できるかが、今後より質の高い医療や介護を提供するためのキーポイントになることは間違いありません。

鈴木

PHR(Personal Health Record)という言葉は、個人の健康・医療に関する情報を電子記録として本人や家族が正確に把握するための仕組みを指すことが一般的ですが、民間企業が提供するサービスだけでなく、政府が運営するマイナポータルもPHRの一つといえます。近時は民間のPHRサービスとマイナポータルが連携する事例も出てきています。

小山

通常、個人の健康・医療情報には個人情報保護法が適用されますので、利活用にあたっては個人情報保護法に基づく規制を遵守できるかをまずチェックすることが重要です。本人から必要な同意を取得できているか、同法所定の例外事由に該当するか、必要な安全管理措置を講じているかなど、チェックすべき項目は多岐にわたります。

鳥巣

近時は医療データに関連するサイバー・セキュリティ・リスクが顕在化した事例が複数報じられていますね。いわゆる3省2ガイドラインをはじめ、どのようなセキュリティ対策が求められるかの確認が重要になりますし、個人情報の取扱いを委託する場合には、委託先との契約や実際の監督などもポイントになります。

粂内

健康・医療情報を利活用する際にもう一つ忘れてはいけないのは、実質的に個人情報保護法の上乗せ規制にもなる医学研究に関する各種指針です。他方で、利活用を促進する仕組みとして、2023年に改正された次世代医療基盤法や、2023年の規制改革推進計画に検討事項として盛り込まれた「特定二次利用」に関する法制度の動向も、今後要注目のトピックだと思います。


CHAPTER
05

再生医療・ゲノム医療

鈴木

ヘルスケア分野におけるテクノロジーといえば、バイオテクノロジーについても忘れてはいけません。遺伝子・ゲノム関連の技術をはじめとして劇的な進化を遂げており、これまで有効な治療法が存在しなかった疾患についても、遺伝子・ゲノム関連の技術を応用することで治療法を開発できるのではないかと期待されています。

鳥巣

再生医療やゲノム医療と一口に言っても、実はいくつかの類型に分類することができ、それぞれ適用される規制が異なってくるので注意が必要ですよね。その他のヘルステック分野に適用される法令や規制もそうですが、ルールが複層的に入り組んでいて、一見すると分かりにくくなっています。

粂内

例えば、再生医療やゲノム医療の研究においては、その類型によって、臨床研究法、又は、再生医療等安全性確保法という二つの法律のいずれかが適用されることになります。ただ、いずれの法律についても今見直しが検討されていて、今後の改正でその適用範囲が変わることが予定されているなど、引き続き規制の枠組みも変化しています。

小山

実用化された例をみると、特に遺伝子・ゲノム関連の技術を応用した治療法は、一般的に費用が高額になることが多いと思います。通常の薬価制度に加えて、評価療養などの関連する制度についての理解もポイントになります。

箕輪

遺伝子・ゲノム技術を医療へと応用する場面においては、生命倫理の観点からも悩ましい問題が多く存在します。例えば、生殖細胞への遺伝子・ゲノム技術の応用は、生まれてくる子どもに特定の疾患を遺伝させないといったことを可能にするかもしれない一方で、生態系に与える影響は予測できませんし、場合によって差別を生むおそれなども否定できません。
CHAPTER
06

知的財産

小山

最新のテクノロジーを応用するヘルステックの分野において、知的財産権の重要性は言わずもがなです。知的財産を保護する法律としては、特許法、実用新案法、意匠法、商標法、著作権法、そして不正競争防止法に至るまで、多岐にわたります。

箕輪

それぞれの法律によって、知的財産の具体的な保護のあり方や保護の対象は異なりますが、それぞれ密接に関連していますので、戦略的に自社のテクノロジーを保護するためには、一つの法律だけを理解するのではなく、これら全てを横断的に理解しておくことが大事になってきます。

粂内

ヘルステックの分野におけるデータの利活用の重要性については、先ほども議論したとおりです。例えば、AIを用いた医療機器の開発を行うといったような場合には、大量の良質なデータが必要になりますが、このようなデータ自体を保護するには必ずしも法律が提供する枠組みでは十分でない場合もあり、技術的制限手段によるアクセスコントロールやデータ利用契約などの契約上の手当てが必要となることもあります。

鈴木

アプリやウェアラブルデバイスなど、従来の医薬品などとは異なるヘルステックならではの製品について、独自のユーザー・インターフェース(UI)をどのように保護していくかといった点や、ブランディングをどのように行っていくかといった点はよく論点になり、知的財産法の観点からの分析が重要になってきます。

鳥巣

知的財産法も、テクノロジーの進化に合わせるような形で頻繁に改正されているという点は要注意かなと思います。例えば、2023年の不正競争防止法の改正では、デジタル空間における形態模倣行為の防止や限定提供データの定義の明確化等の変更がなされましたし、その他にもヘルステック分野に影響のある改正が行われました。日頃から、改正に関する議論の動向を追っておくことも大事になりますね。
CHAPTER
07

アジア

鈴木

当事務所のライフサイエンス・ヘルスケアチームでは、東京オフィスに所属しているメンバーだけでなく、アジア各国のオフィスに所属しているメンバーも交えて、定期的に勉強会を開催し、お互いに知見や経験の共有を行ってきました。

粂内

ヘルステック分野に関連する法令や規制の内容は、国によって様々です。アジア諸国の制度の中には、日本の制度が抱える課題に重要な示唆を与えるようなものもあったりして、いつもとても勉強になっています。今回の書籍の中でも、アジア諸国のヘルステックと法に関する現状が幅広く取り上げられています。

箕輪

日本の企業がアジア諸国でヘルステック関連の製品やサービスを展開する例も少なくありません。日本と同様に、各国で、ヘルステック分野に適用される制度が次々と導入されたり改正されたりしていますから、ヘルステックに関するビジネスを展開する際には、最新の状況を常に把握しておくことが重要になりますね。

小山

各国の法制度の中でも、近年特に動きがあるのは、やはり個人情報に関連する法制度でしょうか。近年は特に個人情報保護法法制の制度整備及び改正が特に活発です。ヘルステックの分野では、アジア諸国の医療機関と共同で研究開発を行うような場合もあり、その際に各国で取得された患者の医療データなどを用いるといった例もあります。データの域外移転に関するルールなど、各国の制度を慎重に確認することが求められます。

鳥巣

オンライン診療など医療の提供方法に関する各国の法制度も要注目のトピックだと思います。また、技術的にはインターネットを通じて国境をまたいだオンライン診療を提供できる可能性はあるものの、各国の医療資格に関する法制などに照らしてそのようなことが認められるのかなどについては、慎重な検討が必要です。
CHAPTER
08

おわりに

鈴木

本日の座談会では、様々な切り口で、ヘルステック法のポイントや近時の動向について議論してきました。今後も色々と重要な動きがあることが予想されますので、当事務所のライフサイエンス・ヘルスケアチームからもタイムリーに様々な形で情報発信を行っていきたいと思っています。

本座談会は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。