座談会メンバー
パートナー
藤原 総一郎
企業買収(M&A)取引及びテクノロジー関連法務を中心に、企業法務全般に関するアドバイスを提供している。LegalTechスタートアップであるMNTSQの社外取締役も務める。
パートナー
殿村 桂司
TMT(Technology, Media and Telecoms)分野を中心に、M&A、知財関連取引、テクノロジー関連法務、スタートアップ法務、デジタルメディア・エンタテインメント、ゲーム、テレコム、宇宙、個人情報・データ、AI、ガバナンス、ルールメイキングなど企業法務全般に関するアドバイスを提供している。
アソシエイト
小松 諒
コーポレート、不動産、紛争解決(国際仲裁・訴訟)を中心に企業法務全般を取り扱い、テクノロジー関連法務、スタートアップ法務及びメディア/エンタテインメント・スポーツ関連法務にも幅広い経験を有する。
【はじめに】
「メタバース(Metaverse)」は、近年大きな注目を集めており、エンターテインメント分野のみならず様々なビジネスの場面での活用が検討されています。今年になり政府における検討会や業界団体も数多く設立され、法的議論も含め急激に議論が進んでいます。また、メタバースは、ブロックチェーン技術を活用した分散型インターネットであるweb3やNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)とも関連が深く、これらを語る上でも非常に重要なものとなっています。
急激に議論が進むメタバース・XRに関する動向や当事務所の取り組みについて、藤原弁護士、殿村弁護士及び小松弁護士がご紹介いたします。
CHAPTER
01
「メタバース」とは
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藤原
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本日は、「メタバース(Metaverse)」について、殿村桂司弁護士と小松諒弁護士とお話ししていきたいと思います。2021年にFacebook社がMeta Platforms, Inc.に社名変更したことが話題になったこともあり、この数年でメタバースというワードに触れる機会が多くなりました。まず、メタバースとはどういうものを指すのでしょうか。
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殿村
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メタバースは、「Meta(超越)」と「Universe(宇宙・世界)」から成る造語です。定義を試みる動きは様々ありますが、論者によって異なっており、統一的な定義はまだありません。「多数の参加者がアバターを通じて現実世界と同等のコミュニケーションや経済活動を行うことができるオンライン上に構築されるバーチャル空間」というのが、最大公約数的な使われ方かなと思います。
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小松
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2020年度に経済産業省が「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」を行い、その報告書においてメタバースの仮の定義として「一つの仮想空間において、様々な領域のサービスやコンテンツが生産者から消費者へ提供」されるものと説明しており、こちらも参考になります※1。
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藤原
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仮想空間においてアバターで活動するというものは、2000年代にSecond Lifeが注目された頃から存在するものでした。現在、メタバースはどのような広がりを見せているのでしょうか。
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殿村
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技術の向上、PCの処理速度や通信速度の向上に加え、VRゴーグル・VRヘッドセットなどのハードウェアの発展により、より没入感をもったサービスが拡大していた中、2020年以降、新型コロナウイルスの影響で在宅時間が増えたことにより、より注目されることになりました。技術面の進展もさることながら、今は、スマホがあれば気軽に自分のアバターを作成してバーチャル・ユーチューバーとして情報発信ができる時代ですが、Second Lifeが登場した頃は、人々がまだガラケーを持っていた時代ですので、まだ時代が追いついていなかったという見方もできるように思います。
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小松
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分野でいうと、エンターテインメントの分野を中心に動きが活発化していますが、その他にもショッピング、観光、スポーツなど様々な場面での活用が始まっています。
CHAPTER
02
「web3」「XR」との関係、企業との関わり合い
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藤原
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メタバースと並んで、「web3」や「XR」というワードも耳にしますが、これらとメタバースとの関係はどのようなものでしょうか。
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殿村
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web3は、一部の巨大プラットフォーム事業者にデータが集中しているWeb2.0時代からのパラダイムシフトとして、ブロックチェーン技術をベースに個人がデータを保有・管理する分散化・多極化されたWeb社会を指すものとして使われています。メタバースは、必ずしもブロックチェーン技術やweb3サービスを前提とするものではないので、その意味では、メタバースとweb3はまったく異なるコンセプトです。他方で、メタバース上の土地やアイテム等のオブジェクトをNFTとして販売したり、その対価をビットコインやイーサ等の暗号資産で支払うなど、メタバースの展開にブロックチェーン技術を活用する、又は、web3サービスを展開する「場」としてメタバースを活用するという動きはあり、今後、より一層そのような傾向が強まっていくのではないかと思います。その意味では、両者の関係性も正しく認識しておくことが重要だと思います。
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小松
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XR(Extended Reality又はクロスリアリティ)は、VR(Virtual Reality:仮想現実)・AR(Augmented Reality:拡張現実)・MR(Mixed Reality:複合現実)を総称するコンセプトです。VRは、バーチャル空間に没入するものをいい、他方、ARやMRは、現実世界にバーチャルの情報を拡張する又は重ね合わせるものをいいます。メタバースは仮想空間を前提にするものではありますが、メタバースを楽しむためにVRゴーグル・VRヘッドセットなどのハードウェアを必須とするものではありませんね。
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殿村
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そうですね。ゴーグル型のヘッドマウントディスプレイをつけて楽しむものだけがメタバースである、と誤解している方もおられるかもしれませんが、PCやスマホを通じて利用するものもメタバースです。また、ARやMRのように、現実世界に、バーチャルの情報を重ね合わせたり、バーチャルなオブジェクトを出現させたりするものを、「リアルワールド・メタバース」と提唱するような動きがあるのは、興味深いです。
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藤原
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メタバース空間を提供するプラットフォーマーとなる事業者の他に、企業はメタバースビジネスにどのように関わり合いを持つことが考えられるでしょうか。
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殿村
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メタバースに関与する主要なプレーヤーとしては、メタバース空間を構築・運用するプラットフォーム事業者と、メタバース空間を利用するユーザーがおり、ユーザーの中には、メタバース空間内でサービスを提供する事業者と、そのサービスを利用する消費者が含まれます。ユーザーの活動には、プラットフォーム事業者が定める利用規約が適用されることになります。
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小松
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それらのプレーヤーに加え、プラットフォーム事業者やサービス提供者のハードウェア・ソフトウェアの開発に協力する開発事業者や、メタバース上で使われるIP、コンテンツ、アプリケーションを提供する事業者など、メタバースビジネスには様々な企業が様々な形で関与することが想定されます。そして、web3サービスと融合する場合には、web3のエコシステムのプレーヤーも関連することになります。
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藤原
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メタバースの広がりに伴い、様々な企業が関連性を持つ機会が増えるため、企業がメタバースの動向等を注視する必要性が生じていますね。
CHAPTER
03
メタバースに関する法的議論とその動向
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小松
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2000年代にSecond Lifeが注目された際にも、仮想空間に関する法的問題が議論されていたかと思います。
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藤原
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知的財産権の問題として、現実世界の知的財産権の侵害になるかなどは議論されてきました。技術の進展に伴い出来ることが増えてくるので、現実世界で起こる法律問題のほとんどは、メタバース上でも起こり得るともいえます。
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小松
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メタバース上でのアバターによる「つきまとい」が問題になったりもしていますね。
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殿村
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興味深いですよね。法的な要素を含む問題でも、技術の面から解決可能なものも多くあります。例えばその「つきまとい」の問題は、アバターによる接近を制限するという技術的側面から対応が試みられています。
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藤原
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この手の分野では、法律による規制だけでなく、技術面での制約など、多角的な観点で問題にアプローチする必要がありますね。ただし、例えばメタバース上におけるアイテムの所有権については現行の法律では保護されないなど、現実世界での保護とメタバース上での保護に差があり、解決に法改正が必要となる問題もありますね。
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殿村
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法改正による対応のほか、ガイドライン等のソフトローによる対応もあります。法改正には時間もかかるため、動きの早いメタバースのようなトピックに関する事項については、既存の法律を変更する必要のない問題についてはソフトローによる対応が期待されるところです。特にイノベーションを促進する観点からは、法律の適用関係を明確化するだけでも意味がある領域がたくさんあるように思います。
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小松
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先ほど挙げた経済産業省の報告書においても、法的論点の整理と事業者が直面しうる問題の整理が行われています。今年度に入り、各省庁で研究会や調査事業が立ち上げられており、これらにおける議論の内容も注目されます。
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殿村
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また、民間の動きも活発化しています。業界団体やコンソーシアムが数多く設立されており、ガイドライン等のルールメイキングに向けた取り組みも活発です。関連するビジネスを行う場合は、このような動向に注視する必要がありますね。
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藤原
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メタバースビジネスは国境を越えるため海外の動向にも目を向ける必要があります。国際的に規格の調整を行うことをミッションとする国際的な団体も発足していますね。
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小松
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法制度の面でも、アメリカ、イギリスではNFTなどのトークンを含むデジタルアセットの移転などに関する議論が進められています。UNIDROIT(ユニドロワ:私法統一国際協会)でも、Digital Assets and Private Lawというプロジェクトが進められています。デジタルアセットは、あくまで無体物であるデータであるため、一般的には所有権の対象にならないという問題がありましたが、上記の動きは、control(管理)できるデジタルアセットについて権利関係を整理しようとする試みであり、今後の日本での議論にも大きな影響がありそうです。
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藤原
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メタバースにも関連するNFTについては、自由民主党デジタル社会推進本部「NFT政策検討プロジェクトチーム」が「NFTホワイトペーパー Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略」を公表し、政策提言を行っていて、殿村さんもメンバーとして参加されていましたね。
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殿村
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ワーキンググループメンバーとして作成に関与させていただきました。作成に際して業界の方からお話しを伺う機会も多く、また、公表後は多くの反響をいただき、私自身も大変勉強になりました。近時、「Web3政策検討プロジェクトチーム」として活動を再開しています。また、この秋から、デジタル庁の「Web3.0研究会」にも構成員として参加しております。いずれもweb3というタイトルがついていますが、メタバースも含めた大局的な視点から検討が進められています。
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藤原
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メタバースだけでなく関連する周辺領域も動きが早いので、新しい動向を常にウォッチしておく必要がありますね。
CHAPTER
04
当事務所の取り組み
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藤原
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当事務所では、テクノロジー法全般を議論の対象にする研究会があり、メタバース・XRを含め、NFTやDAOといった様々な新しい分野の法的問題について議論しています。
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殿村
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我々3名もその研究会のメンバーで、IT、知財・エンタメ、金融、不動産、個人情報、独占禁止法、紛争解決、危機管理など、様々な分野を取り扱う弁護士数十名が集まり、テクノロジー法に関連する新しい問題・課題について議論を深めています。研究会のメンバーには、官庁や企業への出向者も多く含まれますが、小松さんも企業への出向経験が豊富ですよね。
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小松
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大手不動産デベロッパーの大企業と、深層学習などの最先端技術に強いスタートアップに出向していました。業種や規模がそれぞれ異なり、それぞれの立場からのテクノロジー法務を肌で感じることができました。
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藤原
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官庁や企業への出向者からのフィードバックを直接受けられるのも、私たちの強みの一つかなと思います。また、研究会の議論の成果を、テクノロジー法ニュースレターとして公表していますが、最近のメタバースやweb3分野の盛り上がりを受けて、<XR/メタバース Update>、<NFT/web3 Update>という形でフィーチャーして取り上げています。クライアント企業向けのセミナーも、オープンなものだけでなくプライベートなものも積極的に行っています。セミナー等の場で意見交換させていただき、関連企業の皆さんの関心事により近づいた発信ができるよう心がけています。
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殿村
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メタバースに関するご相談は今年になりかなり増加した印象で、国内だけでなく海外のクライアントからの相談も受けています。メタバースがさらに発展していくためには、魅力あるコンテンツを生み出していくことも重要ですが、IP・コンテンツ大国である日本には大きなチャンスであると思います。
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藤原
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メタバースのように、新しく、かつ様々な法律問題を包含する分野は、当事務所のような様々な分野に専門家のいる総合法律事務所に期待される役割は大きいものと感じています。これからも、メタバースの分野の発展をサポートできるよう、一丸となって取り組んでいきたいと思います。
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小松
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今晩の研究会でも、引き続きメタバース・XRの議論をしましょう!
ニュースレター
当事務所のweb3/メタバースに関する取り組み
本座談会は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。