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People 弁護士等紹介

多岐にわたる分野の専門的知識と実績を持つ弁護士が機動的にチームを組み、質の高いアドバイスや実務的サポートを行っています。

Publications 著書/論文

当事務所の弁護士等が執筆したニュースレター、論文・記事、書籍等のご紹介です。多様化・複雑化する法律や法改正の最新動向に関して、実務的な知識・経験や専門性を活かした情報発信を行っています。

Seminars 講演/セミナー

当事務所では、オンライン配信を含め、様々な形態でのセミナーの開催や講演活動を積極的に行っています。多岐にわたる分野・テーマの最新の企業法務の実務について解説しています。

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長島・大野・常松法律事務所は、国内外での豊富な経験・実績を有する日本有数の総合法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題に対処するため、複数の弁護士が協力して質の高いサービスを提供することを基本理念としています。

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特集

スポーツ/eスポーツにおける危機管理


【はじめに】

スポーツにおける不祥事は、大規模な不正事案から個人の炎上トラブルまで、幅広く存在します。本特集では、当事務所によるこれまでの多くのケースにおける対応を基に、過去の取扱いや現時点での実務動向等を整理しつつ、どのような危機管理が適切なのかについて、スポーツ法と危機管理分野に豊富な経験を有する弁護士が議論します。

座談会メンバー

パートナー

糸川 貴視

資本市場・金融市場における様々なファイナンス取引及び規制を中心に、不動産取引、M&Aを含む企業法務全般にわたり幅広く助言を行っている。スポーツ分野ではスポンサーシップ契約などを中心に助言しており、スポーツ/eスポーツ法務への取組みを進めている。

パートナー

加藤 志郎

ロサンゼルスのスポーツエージェンシーでの勤務経験等を活かし、スポーツエージェント、スポンサーシップその他のスポーツビジネス全般、スポーツ仲裁裁判所(CAS)での代理を含む紛争・不祥事調査等、国内外のスポーツ法務を広く取り扱う。

パートナー

辺 誠祐

コンプライアンス・危機管理・企業不祥事対応、人事・労働法務、民事・商事争訟等を中心に、企業法務全般に関するアドバイスを提供している。スポーツイベント・スポーツ団体等が関連する危機管理事案・調査事案への助言も多数行っている。

アソシエイト

北島 東吾

2020年、長島・大野・常松法律事務所に入所。企業買収(M&A)取引、危機管理・企業不祥事対応、コンプライアンス等に関する案件を中心に企業法務一般を取り扱っている。その他、スポーツ法、動物法といった分野にも精力的に取り組んでいる。

CHAPTER
01

スポーツ選手に関する不祥事

糸川

当事務所のプラクティスの一つとして、スポーツやeスポーツに関わる不祥事に対する危機対応があろうかと思います。例えば、スポーツ選手、スポーツチーム、競技連盟・協会、あるいは大規模スポーツ大会の関係者等、様々な当事者の不祥事に対応してきましたが、一般の企業の危機対応に比べて、スポーツの特殊性はどのような面に表れるのでしょうか。

加藤

スポーツを構造的に見た場合、選手がいて、その代理人やエージェント企業がおり、団体競技であれば選手はチームに所属し、チームはリーグに所属しています。また、その他にも、そのスポーツを統括する競技連盟、大会を主催する団体、試合を放映・配信する事業者等がいて、さらに、それぞれにスポンサー企業がついているなど、様々なステークホルダーが存在します。そのため、選手個人の不祥事の場合でも、選手自身のみならず、所属チームやスポンサーを含め、関係する各ステークホルダーにおいて、それぞれの対応を検討する必要が生じる点は、スポーツが絡む問題の特徴の一つだと思います。

北島

実際に対応している中では、他のステークホルダーとの関係性を調整する必要が生じることもありますし、ステークホルダー間で利害が対立することもありますね。そのあたりは問題となるスポーツの業界の構造や慣習等にもよります。

糸川

登場するステークホルダーが多くなる傾向にあり、また、その関係性もスポーツ毎に構造や慣習等が異なるので、その点を理解した上で対応することが重要ということですね。また、不祥事の内容についても一括りにできるものではなく、選手レベルのものとしては、ドーピング、八百長等、競技そのものに関わるものから、未成年飲酒や恋愛関係のトラブル等、競技に関わらないプライベートな面の問題もあると思います。

北島

不祥事の内容やご相談いただいたタイミング等の様々な事情によって、対応方針は大きく変わりうるものの、選手側の対応としては、例えば、ドーピングで処分を受けた場合であれば、スポーツ仲裁で不服申立てを行うことが考えられますし、プライベートなトラブルであれば、相手方との交渉やメディア対応のほか、場合によっては、民事訴訟等も検討することになります。

選手個人のトラブルについては、スポンサー企業に助言することも多いですが、スポンサーを継続するのか、それともスポンサーシップ契約を解除し、企業として、選手によるトラブルを是認しない旨を明確に表明していくのか、さらには損害賠償や違約金を求めていくのか、企業にとっては難しい判断を迫られることも多いと思います。判明している事実の内容や確度等に照らし、スポンサーシップ契約上で、どのような対応をとりうるかを整理しつつ、世論の状況等も踏まえて、速やかに対応を決めていく必要があります。

加藤

スポンサー企業側から見た予防法務的な観点では、不祥事が生じた場合にはスポンサーシップ契約を解除できる旨のいわゆる「モラル条項」が重要になります。特に、選手が逮捕されて物理的に契約上の義務履行ができなくなるようなケースと異なり、不貞やヘイトスピーチ等のケースでは、試合出場や広告出演等は引き続き可能なことも少なくなく、その場合には、債務不履行を理由に契約解除できない事態も想定されます。そのため、このような場合にも、柔軟に対応できる可能性を確保するという意味では、スポンサーシップ契約の交渉において、モラル条項は大きなポイントの一つですし、その一方で、選手側から見た場合には、いわれのない形でスポンサーを降りることがないように権利確保がなされているかに気を配る必要があります。

糸川

eスポーツについては、従来のスポーツと同様に、ドーピングや八百長等も問題になりますが、会場外からインターネットを通じて対戦することも多く、チート行為等、eスポーツ特有の問題も生じています。

北島

チート行為には、様々な種類が存在しますが、行為態様によっては犯罪が成立する可能性がある重大な行為であり、実際に逮捕されるケースも発生していることは、もっと周知されるべきだと思います。また、チート行為との境界線が曖昧ですが、ゲームの公平性を害する様々な種類の迷惑行為も問題になっており、プレイヤーのモラルやマナー等が問われることがあります。

加藤

スポーツ/eスポーツを問わず、プロ選手は子供や若者等を中心に憧れの存在であり、自身の持つ社会的影響力が大きいことを再認識した上で行動する必要がありますね。特にスポンサーを背負っている場合、選手個人の問題がスポンサー企業にまで波及し、不買運動等の大きなリスクに発展する可能性があることを念頭に置き、責任ある行動を心がけることが求められ、選手以外のステークホルダーも、この点を理解しておく必要があります。

北島

スポーツ選手に関する不祥事ということで忘れてはいけないのが、スポーツ選手が不祥事の被害者になることもあり得るところです。例えば、行き過ぎた指導や暴言暴力等のハラスメント行為がスポーツハラスメントと呼ばれ注目を集めることがあります。

スポーツ分野におけるハラスメントは、実務上、判断に悩まされる場面が多い問題です。一般企業においても、「指導」と「ハラスメント」の境界線がよく問題となりますが、スポーツ分野の場合には、勝利や成果のために、ある程度厳しい指導が行われることがあり、選手自身もそれを受け入れやすい傾向にあるため、それらの事情をしっかりと踏まえた上で判断しなければなりません。
CHAPTER
02

スポーツに関連する団体の不祥事

糸川

スポーツに関連する不祥事における当事者となりうる団体としては、チーム、リーグ、連盟・協会、大会の主催者・運営者、スポンサー企業等、様々なものが考えられますが、その種の団体において不祥事を防止するために気を付ける点はあるでしょうか。

北島

スポーツ業界の不祥事への社会的関心の高まりを受けて、スポーツ庁は、スポーツ団体における適正なガバナンス確保を目的とした「スポーツ団体ガバナンスコード」を2019年に策定・公表しています。同コードは、公共性が特に高いと考えられる中央競技団体を対象とするものと、それ以外のスポーツ振興のための事業を行う一般スポーツ団体を対象とする2種類があり、いずれも2023年に改定されましたが、コンプライアンス教育について、統括団体・他団体が実施するコンプライアンス研修の活用を含め、競技横断的に取り組むことや、不祥事発生時の適時適切な公表等が追記されており、スポーツ界においても危機管理の重要性が高まっていることが窺えます。

大規模なスポーツ大会のガバナンスに関しては、2023年3月30日に、「大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方に関する指針」が公表されています。公的資金による援助を受ける大会等が主な対象として想定されていますが、スポーツの大会やイベント等を企画・運営する場合には、規模を問わず参考になる内容だと思います。

北島

また、スポーツ団体が自らのコンプライアンス強化に取り組むに当たっては、スポーツ庁の委託を受けて2018年に策定された「スポーツ界におけるコンプライアンス強化ガイドライン」も参考になると思います。

糸川

スポーツに関わる組織・団体のガバナンス整備がポイントになるわけですね。実際の事案の特徴や、どのような法分野が関わるかという点は、どうでしょうか。

実際の事案の特徴としては、やはり直接の当事者である団体のみではなく、国内外を問わず多くのステークホルダーが存在するという点や、業界のルールや慣習等がポイントになりうる点が挙げられます。後者については、業界のルールや慣習等を遵守していればよいというわけでは必ずしもなく、そもそも業界のルールや慣習等が一般社会の感覚に照らし妥当とされるべきものなのかが問題となることもあります。関わる法分野は、一般企業等における不祥事と同様に、労働法、独占禁止法、知的財産法等は問題になりやすいと言えますが、ケースバイケースであり非常に多岐にわたります。また、法令違反にならなくとも、競技規則や各団体の内部規則といった業界ルールの観点での検討も必要となります。

糸川

非常に幅広い法分野が関わり、また、業界におけるルールなども踏まえて整理していく必要がありますね。
CHAPTER
03

近時のスポーツ/eスポーツの不祥事の動向

糸川

近時は、SNS等が普及したことにより、些細なことであっても、いわゆる炎上が起こってしまう傾向にあるという認識ですが、皆さんはどのような認識をお持ちでしょうか。

加藤

SNS投稿等、選手自身による発信が容易かつ多様になっていることは、ファンとの交流の拡大や選手のブランディング等の観点ではよいことだと思っていますし、最近の選手は、炎上のリスクなども意識した上で、自分のパブリックイメージを上手にコントロールしている方も多いと感じています。特に、海外の選手は、社会問題の解決や意識向上等の目的でSNS等において積極的に発信し自らの社会的影響力を活用している方も多いですし、それを好意的に捉えるファンも増えていますね。

北島

他方で、SNS等を通じて、プライベートでの行動を含めて、すぐに拡散され、炎上してしまうリスクがあることも間違いありません。特にインターネット上での言動は、記録が恒久的に残ってしまう上、全世界に対し、リアルタイムで迅速に拡散されてしまうため、些細な発言・行動であっても、重大な問題に発展しやすいリスクがあります。選手については、競技成績だけではなく、私生活における品行方正・クリーンさが世間から求められる傾向が強まっており、チームやスポンサー等としても、それらを無視できない状況です。

糸川

eスポーツでも、ブースティングといったゲーム上での迷惑行為や、SNS上での不適切な言動等、プロ選手になる前の問題行為がネットの中でデジタルタトゥーとして残り続けることで、選手生命の危機に立たされることが珍しくありません。
問題ではあるものの、ゲーム上での迷惑行為に関しては、非常に幼いときにeスポーツ業界の常識を知り得たのかという点や、個人の私生活上の言動に過ぎないという点にも考慮した検討が必要ではあると思います。

北島

eスポーツ選手は、多くのゲームにおいて求められる反射神経や動体視力等が加齢によって衰えてしまうこともあり、従来のスポーツよりも平均年齢が若いため、コンプライアンス教育の重要性は相対的に高いと思います。

確かにスポーツ/eスポーツの持つ公共性や社会的影響力等の観点から、選手個人の問題だけではなく、スポーツ業界全体として、誠実性・健全性・高潔性を含む意味でのインテグリティが強く期待されるようになっていると思います。特に、長年の業界のルールや慣習等、業界内ではこれまで問題視されなかったものであっても、一般社会の感覚に照らして妥当かが問題とされるケースが増えています。「業界では昔からこれが普通」というだけでは通じなくなっており、そういったルールや慣習等にも懐疑的な目を向けつつ、組織のガバナンスや対応方針等を考える必要性があります。このあたりの検討は、どうしても組織内部では客観的に判断できないところがあるため、我々のような外部弁護士の意見を参考にしてくださることが多いように思います。
CHAPTER
04

スポーツ/eスポーツの不祥事の初動対応

糸川

問題事象が発覚した際、その内容の把握は当然に重要かと思いますが、スポーツ関連の危機管理案件を多数手がけている辺さんと北島さんとしては、初動対応としてどのような点がポイントになると考えていますでしょうか。

スポーツに限らずですが、あらゆる危機対応において、初動対応は非常に重要な意味を持ちます。スポーツに関する不祥事においても、多数のステークホルダーが存在するだけでなく、その公共性や社会的影響力等から世間の注目度も高いところ、事案発生後、事案の内容、発覚経緯、拡散状況等を迅速に把握し、それを法的に評価するなど、実務上、求められるポイントに適時適切に対応していくことが求められます。そのためには、危機発生時に、どういった対応が必要となるのか、また、意思決定の体制やレポートライン等について、平時からルールを作成した上、関係者間で認識を共有しておくことが重要と言えます。

北島

スポーツに関する不祥事では、情報公開のタイミングや内容等についても、気を配る必要があります。スポーツにおいては、リーグ、連盟・協会、スポンサー企業のほか、当然のことながら、ファンやサポーターの視点も考慮しなければなりません。その信頼を失ってしまう影響は、当該選手やチームだけでなく、場合によってはそのスポーツ界全体に及びかねないからです。そのため、ファンやサポーターとの信頼関係の維持も考慮しながら、メディアやSNS等を通じて、適切かつ迅速な情報公開を行う必要があります。

加藤

事案毎に問題となる法分野は異なりますし、複数の分野に及ぶケースも多いので、速やかな初動対応のためには、それぞれ必要な知識・経験を有する複数の弁護士が即時にチームを組んでサポートすることが非常に有効だと思います。そのようなチームプレイは、当事務所の強みとするところですね。

北島

先ほど言及したコンプライアンス強化ガイドラインにおいても、コンプライアンス推進組織の構成員には、弁護士・会計士・学識経験者等のコンプライアンス強化に関する外部の有識者が選出されています。また、懲罰制度において事実認定を行う者や処分審査を行う者が、中立かつ専門性を有するものであることも求められており、それらとともに様々なスポーツ団体や機関等で弁護士を活用している事例が紹介されています。

糸川

スポーツ/eスポーツにおける初動の重要性を踏まえると、何かが起きてから慌てて弁護士を探すというよりは、平時から連携を取っている方が望ましいということですね。弁護士としても、業界のルールや慣習、そのスポーツの特性等を理解した上で対応できるので良いと思います。いずれにせよ、弁護士として、選手や企業に助力できることは多いと思います。本日はありがとうございました。

本座談会は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。