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東証におけるベンチャーファンドの上場制度の見直し

NO&T Finance Law Update 金融かわら版

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 現在、日本においては政府も含めて、非上場企業への成長資金の供給促進に向けた議論が活発化している状況にあります。一連の動向として東証は、非上場企業への資金供給手段の多様化及び個人を含む投資者への投資機会の提供の観点から、上場ベンチャーファンドの柔軟な運営を可能とするためにベンチャーファンド市場の上場制度の一部見直しを行うことを公表しています。以下、ご紹介いたします。

 なお、以下でご紹介する内容は、2021年11月25日を期限として現在パブリック・コメントに付されている内容であって、2022年3月を目処に実施される予定のものであり、今後見直しがなされる可能性がある点にご留意ください。

1. 上場株券等の継続保有可能期間

 現在、投資法人は、原則として、未公開株等のほか、上場後5年以内の株券等を運用資産とすることができるにとどまります。

 今回の見直しでは、ベンチャーファンドにおけるイグジットのタイミング等に一定の配慮がなされており、投資法人の資産運用の柔軟性の確保が企図されています。具体的には、投資先の非上場企業が上場した場合であっても、投資法人は、非上場の時点から当該投資先の株券等を保有するときは、上場後5年を経過して継続保有することができます。上場株券等を継続保有する場合、その理由及び運用方針を開示することとなります。上場後5年を経過して継続保有している株券等を新たに取得できる訳ではない点には留意が必要です。

 なお、併せて、特定取引所金融商品市場(プロ投資家向け市場)に上場する企業の発行する株券等は未公開株等に含まれることが明確化される予定です。

2. 運用資産等の比率の計算方法

 現在、運用資産等の比率は、運用資産等の総額に占める未公開株等、未公開株等関連資産に係る未公開株等及び上場後5年以内の株券等に相当する部分並びに上場後5年以内の株券等への投資額の合計額の比率が70%以上となり、かつ、当該合計額に占める未公開株等及び未公開株等関連資産に係る未公開株等に相当する部分の投資額の比率が50%以上となる見込みである必要があります。

 投資法人の運用資産等に占める未公開株等に相当する部分の割合を維持した柔軟な運用を可能とするため、今回の見直しでは、当該比率計算上、投資法人の投資先の非上場企業が上場した場合、投資法人の保有する上場株券等について非上場の時点から継続保有するときは、上場後5年以内は未公開株等への投資とみなし、また、上場後5年を経過した場合、上場後5年以内の株券等とみなすことが予定されています。

3. 特定の投資先への投資制限

 今回の見直しにおいては、投資法人は、未公開株等又は未公開株等関連資産の取得に際し、特定の投資先に取得時における純資産総額の15%を超えて投資しない旨を規約に記載する場合には、特定の投資先に取得時における純資産総額の15%まで投資を行うことができるようになる予定です。投資法人は、未公開株等又は未公開株等関連資産の取得に際し、特定の投資先に取得時における純資産総額の10%を超えて投資する場合には、取得の際に、適切な投資であると判断した理由を開示することが必要となる予定です。

 一方で、特定の投資先に取得時における純資産総額の15%を超えて投資しない旨を規約に記載しない場合であっても、現行制度と同様に、投資法人は、原則として、取得時における純資産総額の10%を超えて特定の投資先に投資しない旨を規約に記載することが求められる点には留意が必要です。

 なお、今回の見直しでは、現行制度と同様に、上場株券等については、特定の投資先に対し、取得時における純資産総額の10%を超えて取得することができません。

4. 資金の借入れ及び投資法人債券の発行

 投資法人の柔軟な資産運用を確保するため、投資法人が資金流動性リスクのモニタリング等の適切なリスク管理を行う場合に限り、資金の借入れ及び投資法人債券の発行ができるよう見直しがなされます。具体的には、投資法人の規約又はこれに類する書類(運用ガイドラインや内部規程を含みます。)において、以下の事項が定められていることを確認できた場合、資金の借入れ又は投資法人債券の発行ができるようになる予定です。

  • ① 原則として総資産有利子負債比率が20%以下となる運用方針であること
  • ② 資金の借入れ又は投資法人債券の発行に係るリスク管理方針
  • ③ 資金の借入れ又は投資法人債券の発行に係る目的、限度額及び使途に関する事項

 なお、上記①~③のいずれかを変更する場合には、その内容を開示することが必要となる予定です。また、投資法人が資金の借入れ又は投資法人債券の発行を行うことについて決定をした場合、金額の多寡を問わず、その内容を開示することが必要となる予定です。さらに、総資産有利子負債比率が20%を超えた場合又はその後、総資産有利子負債比率が改善され20%以下になった場合、その内容を開示することが必要となる予定です。

 上場廃止事由につき、(i)規約又はこれに類する書類において、上記①から③のいずれか又はすべての定めがなくなる場合や(ii)投資法人に係る営業期間の末日において、総資産有利子負債比率が20%を超えた場合において、1年以内に、総資産有利子負債比率が20%以下とならない場合が追加される予定です。投資法人は、上場維持基準への適合状況についての確認を得る目的で、営業期間経過後3か月以内で資産の運用状況の判明後遅滞なく、東証に「資産の運用状況表」を提出することが必要となる予定です。

5. 終わりに

 ベンチャーファンド市場の活性化と健全性のいずれも確保するためには、資産運用の健全性や投資家保護等をどのようにバランスさせるかは引き続き課題となりますが、この点についても、東証は、継続検討する旨公表しています。ベンチャーファンド市場に上場する投資法人はかつて存在していましたが、現在、上場している投資法人はなく、制度枠組み及びルールも積極的に見直す必要がある状況になっているところです。投資法人が多数上場するリート市場においては、制度の見直しが数多く行われており、また、ガイドブックも充実しているところですが、かかるリート市場の制度の改定状況を踏まえた見直しが引き続きなされることが予想されます※1

 報道レベルでは、ベンチャーファンド市場への上場に向けた動きも見られるところでもあり、他方で、ベンチャー投資が他の投資商品と比べて比較的リスクが高いこともあることから、その具体的内容及び今後の動向は注目すべきように思います。

脚注一覧

※1
例えば、2021年に施行された資産運用会社における組織再編等に対する上場廃止審査手続の見直しは、ベンチャーファンド市場にも適用されるようになることが予想されます。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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