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EUにおける企業のサステナビリティ・デュー・ディリジェンスに関する指令案の公表

NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1 はじめに

 2022年2月23日、欧州委員会は、数度の延期を経て、「企業のサステナビリティ及びデュー・ディリジェンス指令案(Directive on corporate sustainability due diligence)」を公表しました(以下「本指令案」といいます。)※1。本指令案は、後述するとおり、企業の人権・環境デュー・ディリジェンスの義務や、同義務に関連する取締役の責任についても定めています。本指令案の内容は今後の議会による審理の過程で修正される可能性がありますが、グローバルでビジネスを行う日本企業にとっても重要なものになると考えられるため、以下概要をご紹介させていただきます。

2 指令案の概要

(1) 対象企業

 本指令案における対象企業(2条)は、以下の要件を満たす企業とされています(以下「対象企業」といいます。)※2

  • グループ1:従業員数が500人超で、かつ全世界の純売上高が1億5,000万ユーロ超であるEU企業、
  • または
  • グループ2:従業員250人超で、かつ全世界の純売上高が4,000万ユーロ超のEU企業(この場合、純売上高の50%以上が「高リスク」セクター(繊維、衣料、履物、農林水産、食品、採掘を含む)で発生していることが条件となっています)。
  • EU域内に拠点を有しないがEU域内で事業活動を行っている企業については、EU域内における純売上高が1億5,000万ユーロ超である企業(グループ1)、または純売上高が4,000万ユーロ超1億5,000万ユーロ以下であり、全世界の純売上高の50%以上が上記の「高リスク」セクターで発生している企業(グループ2)。

 このような売上基準は2020年9月に公表された原案から追加されたものになりますが、EU域内に拠点を有しない日本企業も売上要件を満たす場合には直接適用対象となる点に留意が必要です。なお、グループ2についてはグループ1よりも2年遅れて規則が適用されることになります。

(2) 企業におけるデュー・ディリジェンス義務の内容

 本指令案では、対象企業においてバリューチェーン全体におけるデュー・ディリジェンス義務(ポリシーの策定、人権・環境デュー・ディリジェンスの実施、苦情申告手続の確立、定期的なモニタリング、及び公表)が求められており、具体的な要求事項としては以下のものが含まれます。

  • 企業のポリシーに人権・環境に関するデュー・ディリジェンスを統合し、当該ポリシーが毎年更新されるようにすること(5条)。
  • 自社及び子会社の事業、並びにバリューチェーンを通じて確立された取引関係から生じる、人権・環境に対する実際または潜在的な負の影響を特定すること(6条)。
  • 潜在的な負の影響を防止し、実際の負の影響を終息させること(7条、8条)。
  • 影響を受ける人々、関連するバリューチェーンの労働者、バリューチェーンに関連する市民団体が苦情を申告可能な手続を確立し維持すること(9条)。
  • 少なくとも12ヶ月に一度のレビューを通じて、デュー・ディリジェンス・ポリシーの有効性をモニタリングすること(10条)。
  • 前年度中に企業が実施したデュー・ディリジェンス措置について、企業のウェブサイト上で年次ステートメントを公表すること(11条)。

 なお、ここでの「バリューチェーン」は、商品の生産やサービスの提供に関連する活動として、商品やサービスの開発、商品の使用や廃棄に関する活動も含まれるとされており(2条)、上流・下流の取引先を含み、かつ、直接的な取引先(Tier1)に限定されていない点に留意が必要です。

 また、グループ1の企業は、パリ協定の1.5℃目標と事業戦略が両立するような計画を策定することも求められています(15条)。

(3) 取締役の義務及び民事責任

 本指令案の特徴の1つとして、取締役のデュー・ディリジェンス等に関する責任に言及している点が挙げられます。すなわち、本指令案では、(i) 取締役が企業の利益のために行動する際に、その判断が人権、気候、環境に与える影響を考慮すること、(ii) 企業のビジネスモデルと戦略が、持続可能な経済への移行及びパリ協定による1.5℃目標に適合するような計画を採用すること、及び(iii) ステークホルダーや市民団体からの関連する意見を十分に考慮した上で、企業のデュー・ディリジェンス・プログラムを導入し、監督する責任を有することを定めています(25条、26条)。

 また、企業がデュー・ディリジェンス義務を遵守しなかった結果、人権・環境の負のリスクが発現し、損害につながった場合、企業は当該責任について損害賠償責任を負う旨を定めており(22条)、欧州を中心として人権・環境に関するクラスアクション等が増加することが予想されます。

(4) 制裁

 本指令案は、具体的な制裁金額について言及していないものの、EU加盟国に対して本指令案で定められた義務の不履行に対して制裁を執行するメカニズムを定めており(20条)、当該制裁措置は効果的であり、比例性を有し(proportionate)、抑制的でなければならないとしています。

3 企業に求められる対応

 上記のとおり、本指令案はEUでの事業活動を行う企業に対して広範なデュー・ディリジェンス実施を求めるものです。本指令案は今後欧州議会及び欧州理事会に提出され、採択された後、加盟国は2年以内に同指令に沿った国内法の制定が求められることになります。

 もっとも、同指令の採択やEU各国法の整備を待たず、欧州企業が人権デュー・ディリジェンスを加速化させ、取引先である日本企業に対して人権デュー・ディリジェンスを求めることなどにより、日本企業も対応を迫られる場面が増えることは十分に考えられます。

 また、時を同じくして、日本でも2022年夏を目処に、人権デュー・ディリジェンスの企業向け指針を策定することが経済産業省より公表されています。

 企業が人権デュー・ディリジェンスをこれから実施しようとする場合には、自社のビジネスの商流やサプライチェーンを確認し、人権リスクを洗い出すとともに、これらの人権リスクの優先順位付けをすることが重要となりますが、これらの進め方については国際経済連携推進センターにより2022年2月に公表された「中小企業のための人権デュー・ディリジェンス・ガイドライン~持続可能な社会を実現するために~」※3も参考になると思われます。

 また、強制労働等の人権侵害に対する制裁についても欧州委員会により別途検討がなされているところであり※4、今後の動向について注目されます。

脚注一覧

※2
グループ1に該当するEU企業は9,400社、グループ2に該当するEU企業は3,400社と試算されています。

※4
米国の動向については、NO&T U.S. Law Update No.67「ウイグル強制労働防止法の制定」(2022年1月)もあわせてご参照ください。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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