
南繁樹 Shigeki Minami
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令和7年度税制改正大綱:ミニマム課税・CFC税制(合算タイミング)・移転価格税制(利益B)、今後の法人税のあり方(2024年12月)
当事務所が納税者を代理し、移転価格税制に基づく課税処分の取消しを求めた税務訴訟において、東京高等裁判所は納税者の主張を基本的に認め、概ね全額の取消しを認める判決を下した(東京高等裁判所令和4年3月10日判決。以下「本判決」という。)。課税庁と納税者の双方が上告等を行わなかったため、本判決は確定した。本判決は、「我が国の法令においてはもちろんのこと、OECDガイドラインをみても、残余利益の分割要因について、基本的には『重要な無形資産』のみをもって考慮されることが想定されているとか、『重要な無形資産』に匹敵する程度の価値(重要性)を備えたものでなければ分割要因として考慮しないなどといったことをうかがわせる条項ないし記載はない。」と判示した。
本判決は、残余利益分割法の実務に重大な影響を及ぼす可能性があるため、その要旨を速報する。
本件は、日本碍子株式会社(納税者)が海外子会社に対して技術をライセンスしていたところ、その対価として受け取ったロイヤルティが独立企業間価格(独立した第三者間の価格)に不足するとして、約62億円の課税処分を受けたというものである(国税不服審判所で約1億円取消し)。本判決は概ね全額の約58億円の取消しを認めた。
課税庁(控訴人)は、課税処分の根拠として、「残余利益の分割要因については、基本的には『重要な無形資産』のみをもって考慮されることが想定されており、重要な無形資産又はその影響により超過利益が発生している場合については、重要な無形資産の価値に応じて残余利益を分割しさえすれば、合理的な独立企業間価格を算定することができる」と主張していた(下線は筆者による。以下同じ。)。
課税庁の主張に対し、東京高裁は、まず、租税特別措置法施行令39条の12第8項1号や、OECD移転価格ガイドラインの関連規定を引用して、それらの趣旨を以下のように述べた。
「これらの規定等は、いずれも、『重要な無形資産』であるか否かを問わず、分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因と認められる限り、これを分割要因とするものであると解される。」
「我が国の法令においてはもちろんのこと、OECDガイドラインをみても、残余利益の分割要因について、基本的には『重要な無形資産』のみをもって考慮されることが想定されているとか、『重要な無形資産』に匹敵する程度の価値(重要性)を備えたものでなければ分割要因として考慮しないなどといったことをうかがわせる条項ないし記載はない。」
「むしろ、OECDガイドラインでは、……残余利益の分割要因が無形資産に限定されるとか、基本的に無形資産であるとかという考え方を採用してはいないものと解することができる」。
本判決は、従前の実務の根拠となっていた通達(平成23年税制改正前の措置法通達66の4(4)-5)の趣旨について、以下のように述べた。
「同通達は、……国外関連取引に係る独立企業間価格の算出方法の一つである残余利益分割法を定める措置法66条の4第2項1号ニ及び措置法施行令39条の12第8項1号の解釈として、『重要な無形資産』以外にも分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因があると認められる場合であってもこれを考慮しなくてよいとする趣旨であるなどと解することはできない(その意味で、平成23年改正前の措置法通達66の4(4)-5が前記のとおり分割要因として『重要な無形資産の価値』を挙げて残余利益分割法を定めていたことについては、代表的な分割要因を例示して規定したものと解するのが相当である。現に、平成23年の税制改正において、残余利益分割法の内容自体については法令上の変更がないにもかかわらず、同改正後の措置法通達66の4(5)-4では、分割要因を『重要な無形資産』に限定していないことが明らかである。)。」
本判決が述べるとおり、従前においては「残余利益分割法における分割要因は『重要な無形資産』に限られるかのような解釈もみられた」ところである。本判決を受けて、今後の実務にいかなる影響が生じうるのか、関心が持たれる。執筆者は、移転価格税制に基づく課税争訟に関し、本件を主任として担当したほか、武田薬品工業、本田技研工業の代理人を務めた。また、国際的取引に関する課税案件についてIBMを代理した経験を有している。本判決の検討を含め、当事務所は国際税務のさらなる進展に対応していく所存である。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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