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米国輸出管理規制アップデート~EAR違反の開示に関する政策方針の公表~

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NO&T International Trade Legal Update 国際通商・経済安全保障ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2023年4月18日、米国商務省産業安全保障局(the U.S. Department of Commerce’s Bureau of Industry and Security、以下「BIS」といいます。)のマシュー・アクセルロッド次官補は、輸出管理規則(Export Administration Regulations、以下「EAR」といいます。)違反に関する自発的な自己開示及び他者に関する開示についての政策方針を明確化するための覚書※1(Clarifying Our Policy Regarding Voluntary Self-Disclosures and Disclosures Concerning Others、以下「本覚書」といいます。)を公表しました。本覚書は、EAR違反に対する効果的な法執行を行うためには産業界及び学術界による協力が必要であるとした上で、(1)自己の潜在的なEAR違反に関する自主的な開示(voluntary self-disclosures、以下「VSD」といいます。)と(2)他者による潜在的なEAR違反に関する開示についての政策方針を公表するものです。BISはこれまでもEAR違反に対する法執行に関する覚書を公表しており、2022年6月30日付で公表した”Administrative Enforcement Memo”※2等を通じてEAR違反に対する法執行を強化する方針を明確に打ち出しています。本覚書もこのようなBISによるEAR違反に対する法執行の強化の一環として位置付けることができます。

本覚書のポイント

 本覚書は、EAR違反に対する法執行のコア・ミッションが米国の機微な技術及び製品を悪質な利用(malign purposes)から保護することにあるとした上で、急速に成長・拡大する技術がこれまでの社会やビジネスを破壊する潜在的な可能性を秘めており、このような技術の保護は国家安全保障の核心であるとしています。その上で、産業界及び学術界がともにEAR違反を関知し、予防し、緩和するための適切かつ強固なコンプライアンス体制を構築する必要があり、そのようなコンプライアンス体制には、以下に述べるような2種類の情報開示のプロセスが含まれるとしています。

1. 自己の潜在的なEAR違反に関する自主的な開示

 2022年6月、BISはVSDに関するデュアルトラックの手続きを導入しました。自主的にEAR違反が疑われる情報を開示・申告した場合において、BISは当該違反が軽微な場合は申請から60日以内に警告状(warning letter)又はノーアクションレター(no-action letter)を当該開示・申告を行った当事者に対して提出して事案を解決する一方、申告された違反がより深刻な場合は調査員と弁護士を任命し、最も深刻と思われる事案については、司法省の弁護士を任命し対応することとしています。このようにBISは申告された違反の程度に応じた対応を取ることとしていますが、本覚書は、国家安全保障に対して潜在的に脅威となり得る重大(significant)な違反に関するVSDの申告数を増加させることを主眼に置くものです。

 従前BISは、「BIS問題解決ガイドライン」※3(以下「本ガイドライン」といいます。)において、適時、包括的、かつ全面的な協力を行うVSDに対しては、適用される民事罰の大幅な軽減を認め、悪質なケースでない場合については民事罰が全面的に猶予される場合がある等として、VSDを行った当事者に対して潜在的な罰則を大幅に免除する取り扱いを認めてきました。例えば、2023年4月6日付で公表されたマイクロソフトの和解事案※4においては、マイクロソフトによるEAR違反並びに対キューバ、イラン、シリア及びロシアを含む制裁への違反に関して、マイクロソフトがいずれの違反についても自主的に開示を行い、BIS及び財務省外国資産管理局への捜査に協力したほか、積極的に改善措置を講じたとして罰則が軽減されています。

 これに対し、本覚書は、当事者が輸出管理プログラム等を通じて重大なEAR違反の可能性を発見したにもかかわらずVSDを提出せず、輸出管理法法令執行課(Office of Export Enforcement、以下「OEE」といいます。)が当該違反を後に発見した場合には、当事者がVSDを行わなかったという事実がBISによる審査における加重要因(aggravating factor)とみなされることを明確にしました。すなわち、EAR違反の可能性を認識した当事者は、VSDを通じて大幅に減刑されることで大きな利益を得る可能性がある一方で、重大な違反の可能性があるにもかかわらずあえてVSDを行わなかった場合は、大幅に増刑されるリスクがあります。そのため、本覚書は、産業界及び学術界に対して、重大なEAR違反の可能性を認識したにもかかわらずVSDを行わないという決定を行う場合、上記リスクを踏まえて慎重に検討する必要があるとの注意喚起を行っています。

2. 他者による潜在的なEAR違反に関する開示

 本覚書は、EARの遵守を通じた米国の機微な技術の保護には官民がともに協力することが必要であるため、第三者によるEAR違反を認識した場合には積極的にBISに対して通報を行うよう呼びかけるとともに、そのような積極的な通報を行うためのインセンティブが存在することを明らかにしています。

 まず、EARを遵守している企業が収益減を被り、EARを遵守していない企業が収益をあげるという不公平な状況は作るべきでないとして、秘匿性が確保された通報フォーム※5を活用するよう呼びかけ、通報があった場合はBISが積極的に調査を行い必要に応じて適切な対応を取ることとしています。

 また、そのような通報を行うインセンティブとして、本ガイドラインがBISによる審査の際に考慮すべき3つの軽減要素(Mitigating Factors)を規定していますが、そのうちの1つの要素として「OEEに対する特別な協力」(Exceptional Cooperation with OEE)という事項が含まれているため、通報・開示を行った当事者に対しては自身が将来EAR違反を犯した場合における具体的なメリットがあるとしています。すなわち、過去BISに対して情報提供を通じて特別な協力を行った実績がある場合、自身が将来EAR違反を犯した場合に、当該過去の協力実績が審査における軽減要素として勘案されることとなります。なお、例え過去の協力実績が自身のEAR違反と無関係な行為に対するものであったとしても、審査の際の軽減要素として考慮されることも明示されています。

 更に、本覚書は、潜在的なEAR違反の可能性だけではなく、潜在的な制裁違反の可能性についても通報を行うインセンティブがある点を指摘しています。EAR違反が問題となるケースでは同時に制裁違反が問題となるケースが多く、米国の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)又は司法省に対して他者の潜在的な制裁違反の可能性について通報を行い、当該通報がその後の法執行につながった場合は、相当の金銭的報酬を受けられる可能性があるため、第三者の潜在的な制裁違反の可能性についても通報を行うインセンティブがあるとしています。

今後に向けて

 上記のとおり、本覚書は、米国の機微な技術に関わる重大なEAR違反を摘発するために、VSDを意図的に行わなかった当事者に対する罰則が加重される可能性があることを示しつつ、自己又は他者に関する開示を通じたEARにかかる法執行を積極的に強化する方針を明示しています。また、2023年4月19日付でEARの直接製品規制に違反したとして3億ドルの民事制裁金が課されるなど※6、近時EAR違反に対する非常に重い処分が課される事例が見受けられます。更に、本覚書を通じたEAR違反の開示に関する政策は、半導体や最新の変革技術のみならず、EARによって管理されるすべてのデュアルユース品目、サービス、技術等に等しく適用されることとなります。このようなEAR違反に対する法執行の機運が高まっている状況において、EARの対象となる可能性がある日本企業においては、コンプライアンス部門のみならず会社組織全体を通じてこれまで以上のEARの遵守体制の見直し・その遵守の徹底が求められる状況にあり、仮にEAR違反が生じた場合には大きなビジネスリスクを抱える可能性があります。そのため、本覚書を含めたEARに関する今後の政策方針について引き続きその最新の動向を注視する必要があります。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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