
塚本宏達 Hironobu Tsukamoto
パートナー(NO&T NY LLP)/オフィス共同代表
ニューヨーク
NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター
NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報
2023年5月11日、カナダにおいて、「サプライチェーンにおける強制労働・児童労働の防止等に関する法律(S-211)」(Fighting Against Forced Labour and Child Labour in Supply Chains Act)(以下「本法」といいます。)が成立しました※1。本法は、2021年11月にカナダ上院議会に提出され、2022年4月に上院議会にて可決されていましたが、この度2023年5月3日に下院議会にて可決されたことにより、国王裁可を経て成立したものであり、2024年1月1日から施行される予定です。
本ニュースレターでは、本法の概要について、適用対象となる企業が負う報告・開示義務の内容等を中心にご紹介します。
本法は、カナダで物品を生産し、又は国外で生産された物品をカナダに輸入する企業のうち後述する売上要件等を満たす企業に対して、自社及びそのサプライチェーン上での強制労働・児童労働リスクに関する報告・開示義務を課すことにより、強制労働・児童労働を防止することを目的としています。
また、従来、カナダでは関税定率法により強制労働により生産等された物品の輸入を禁止していたところ、本法の制定に伴い、同法で定義される強制労働・児童労働によって全部又は一部が製造又は生産された物品の輸入を禁止される旨、本法の記載に併せて関税定率表が改正されています。
本法では、(a)カナダ国内外において物品を生産し又は販売する事業体、(b)カナダ国外で生産された物品をカナダに輸入する事業体、(c)上記(a)又は(b)に記載された活動に従事する事業体を支配する事業体のいずれかに該当し、かつ以下の①~③のいずれかの条件を満たす企業が適用対象となる事業体とされています。
対象事業体の範囲は、上記③のとおり、別途規則を定めることで拡大することが可能と考えられていますので、今後、本法が適用される対象事業体の範囲が広がる可能性があります。
対象事業体は、カナダ国内での物品の生産過程、又はカナダに輸入される物品の生産過程のいずれかで、強制労働又は児童労働が利用されるリスクを回避し、同リスクを削減させるために前会計年度に講じた措置を記載した年次報告書について、毎年5月31日までに大臣※2に提出することが義務付けられています(すなわち、施行後最初の期限は2024年5月31日に到来することになります)。
また、年次報告書には、次の項目(a~g)を記載することが要求されています。
なお、本法は、対象事業体が自社及び自社のサプライチェーンにおける強制労働・児童労働を是正するために措置を講じること自体を義務付けるものではなく、講じた措置についての報告を義務付ける建て付けとなっています。また、本法は、強制労働・児童労働を是正するために講ずるべき具体的な措置内容については規定しておらず、この点で企業に裁量権があると考えられますが、特に上記eの要件については、先行して制定された英国現代奴隷法やオーストラリア現代奴隷法では定められていない項目であり、今後ガイドライン等により記載内容が明確化されることが望まれます。
対象事業体の年次報告書は、当該事業体の統治機関(取締役会等が想定されます)によって承認されなければならないと規定されています。
そして、年次報告書を提出した後、当該報告書を一般公開するために、対象事業体はウェブサイトの目立つ場所に年次報告書を掲載することが義務付けられています。また、カナダ事業法に基づいて設立された対象事業体の場合には、年次報告書の写しを年次財務諸表とともに株主に提供することが要求されます。
本法は、対象事業体が本法を遵守しているかについて検証するために、大臣が指定した職員等による広範な調査権限を認めています。例えば、指定された職員は、対象事業体の建物内に立ち入り、書類等を含むその場にある全てのものを調査することができ、他方、当該場所の所有者等は、当該職員が権限を行使するために合理的に必要とされる全ての事項に対し協力しなければならないとされています。
本法に違反する行為(年次報告書の提出若しくは同報告書の開示を怠ること、又は調査の協力を怠ること若しくは調査を妨害したこと等が含まれます)をした全ての個人又は事業体は、250,000Cドル(約2,500万円)以下の罰金の対象となります。また、故意に虚偽若しくは誤解を招く報告等を行った全ての個人又は事業体も、同様に処罰対象となるものとされています。
本法は、報告・開示義務の違反や虚偽報告等の行為につき、法人及び関与した役員等の個人の双方を対象とする直接的な罰則規定を定めるもので、英国現代奴隷法やオーストラリア現代奴隷法と比べても厳格な規制になっていることから、今後の執行動向も注目されます。
カナダで事業を行う日本企業は、本法の対象事業体に該当する場合には2024年以降直接的に報告・開示義務を負うため、本法の適用対象になるかをまずは検討する必要があります。
また、カナダ政府は、別途、強制労働を用いて生産等された製品の輸入禁止を強化する法律を2024年までに導入する意向を公表しており※3、輸入規制の動向についても留意しておく必要があると考えられます。
※2
具体的には、公共安全・緊急事態準備担当大臣を指しています。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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