塚本宏達 Hironobu Tsukamoto
パートナー(NO&T NY LLP)/オフィス共同代表
ニューヨーク
NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報
当事務所が2021年4月1日に発行したニュースレター※1(以下、「前回ニュースレター」といいます。)にて、2021年国防権限法(the National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2021)の下、マネーロンダリング等の防止を目的としてCorporate Transparency Act(以下、「CTA」といいます。)が制定され、米国財務省管轄の金融犯罪捜査網(the Financial Crimes Enforcement Network、以下、「FinCEN」といいます。)に対して、一定の報告会社(reporting company)が米国において設立された事業体の実質的所有者(beneficial owner)の報告を義務付けられることをご紹介しました。前回ニュースレター発行時点では、この報告義務の詳細を定める米国財務省の規則(以下、「本規則」といいます。)がまだ公表されておらず、本法制の効力発生日、実質的所有者の定義、報告の時期等について不明確な点が残っていました。その後、FinCENから2022年9月30日に本規則の確定版※2、2023年3月24日にFAQ(以下、「本FAQ」といいます。)※3が公表され、2024年1月1日(以下、「本効力発生日」といいます。)が効力発生日として定められました。これらの公表により、これまで不明確と思われた点が解消され、報告義務の詳細が判明したことから、本ニュースレターにて以前お知らせした情報をアップデートいたします。
CTAは、報告会社が報告義務を負う実質的所有者について、①契約、合意、関係又はその他の方法を通じて、当該事業体に対して実質的な支配(substantial control)を行使する個人、又は②当該事業体の持分権(ownership interests)の25%以上を所有又は支配している個人と定義しています※4。①における「実質的な支配」の定義について、本規則は以下の者を含むとして明確化を図っています※5。
さらに、②の「持分権」は広範に定義されており、会社の株式や持分等はもちろんのこと、会社設立前発行証書又は設立前応募権(preorganization certificate or subscription)、議決権信託証書(voting trust certificate)、証券預託証書(certificate of deposit for security)、当該事業体の資本持分又は利益持分(capital or profit interest)、これらへの転換証券、プット/コール等のオプションを含みます※6。
報告会社は、FinCENのウェブサイトを通じて以下の情報を報告する義務があります※7。
実質的所有者情報の初回報告の時期は、本効力発生日時点において設立されている会社(以下、「既存会社」といいます。)と新設会社で異なります。すなわち、既存会社については2025年1月1日までに、新設会社については、(i)設立(米国国内法人の場合)又は事業登録手続完了(外国法人の場合)の実際の通知(actual notice)を受領した日又は(ii)当局が設立(米国国内法人の場合)又は事業登録(外国法人の場合)について公表した日のいずれか早い方の日から30日以内に、初回報告を行う義務があります※9。また、本規則は、本効力発生日時点又は設立時に下記4.(1)記載の適用除外要件によって報告会社に該当しない会社が、後に当該要件を満たさなくなった場合には、その日から30日以内に初回報告が義務付けられる旨定めています※10。
また、報告書提出後に提出が求められる情報に変更が生じた場合(報告書提出後に下記4.(1)記載の適用除外要件を満たすこととなった場合を含みます。)には、当該変更が生じた日から30日以内に変更報告を行う必要があります※11。
なお、報告内容に誤って不正確な情報が含まれていた場合、報告会社は当該事実を知った日から30日以内に訂正報告を行うこととされており、この期限内に訂正報告を行えば、報告義務を回避するために意図的に不正確な情報を含めた場合を除き、下記4.(3)に記載の制裁対象から除外されるというセーフハーバーが用意されています※12。
報告対象となる企業、FinCENに報告された情報の外部への開示及び制裁については前回ニュースレターでご報告した内容から大きなアップデートはなく、概要は以下のとおりです。
報告会社については、CTAは、主に小規模かつ既存の法制度で規制されていない企業に対して報告の義務を課しています。すなわち、報告会社の定義自体は、会社(corporation)や有限責任会社(limited liability company)等の形態を問わず米国国内法人及び外国法人を広く含みますが※13、他方で報告会社の例外も多数設けられており、大規模な事業体※14や上場会社、金融機関等の既存の枠組みで規制されている企業が報告会社から除外されています※15。
報告会社から提出された情報は、秘密として取り扱われ、国家安全、諜報活動又は法の執行に従事する連邦政府機関がこれらの活動のために利用する場合等CTAにおいて定められている一定の場合を除き、政府機関等によって開示されることはないとされています※16。
CTAは、以下の場合に民事罰及び刑事罰を定めています。
上記のとおり、CTAが基本的に小規模かつ既存の法制度で規制されていない企業に対して実質的所有者情報の報告を義務付けていることを踏まえると、日系企業が本報告義務に関して注意しなければならないのは、報告会社の適用除外に該当しない可能性のある、初めて米国に進出する場面や、市場調査又はリエゾン機能を果たすため必要最低限の機能のみを備えた米国子会社、又は米国投資用に設立された投資ビークルを設立又は保有する場面であると考えられます。本効力発生日及び報告期限まで若干の期間はありますが、CTA及び本規則は適用除外を含めて広範かつ複雑に規定されていることを考えると、期限に先立ち十分な調査及び準備が必要になると思われます。
また、適用除外要件を満たすことによって報告義務が免除される場合でも、その後適用除外要件を満たさないこととなった場合には30日以内に報告が義務付けられることになりますので、当該要件を定期的に確認する社内手続も整備する必要があると考えられます。
※1
当事務所発行の米国最新法律情報No.55「米国子会社の実質的所有者情報の報告義務」(2021年4月)
※3
2023年8月3日に公表されたアップデート版:https://www.fincen.gov/boi-faqs
※4
31 USC §5336(a)(3)(A)、本FAQ9
※5
31 CFR §1010.380(d)(1)、本FAQ9
※6
31 CFR §1010.380(d)(2)、本FAQ9
※7
31 USC §5336(b)(2)(B)、31 CFR §1010.380(b)(1)、本FAQ10-13
※8
「会社設立等申請者」とは、31 CFR §1010.380(e)において、会社を設立又は事業登録するための書類を当局に直接提出する者及び複数の個人が書類提出に関わっている場合には、当該提出を指示又は監督する責任を持つ者をいうと定義されています。また、本FAQ11は、会社設立等申請者は報告会社1社につき1人のみ存在すると説明しています。
※9
31 USC §5336(b)(1)(C)、31 CFR §1010.380(a)(1)(i)-(iii)、本FAQ4
※10
31 CFR §1010.380(a)(1)(iv)
※11
31 CFR §1010.380(a)(2)
※12
31 USC §5336(h)(3)(C)(i)(I)(bb)、31 CFR §1010.380(a)(3)
※13
31 USC §5336(a)(11)(A)、31 CFR §1010.380(c)(1)、本FAQ7
※14
以下の要件を全て満たす事業体(31 USC §5336(a)(11)(B)(xxi)、31 CFR §1010.380(c)(2)(xxi)、本FAQ8(xxi))
※15
31 USC §5336(a)(11)(B)、31 CFR §1010.380(c)(2)、本FAQ8
※16
31 USC §5336(c)(2)
※17
31 USC §5336(h)(1)及び(3)(A)
※18
31 USC §5336(h)(2)及び(3)(B)
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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