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【From Singapore Office】デジタル資産の「財産」としての保護(シンガポール)

NO&T Dispute Resolution Update 紛争解決ニュースレター

NO&T Technology Law Update テクノロジー法ニュースレター

著者等
カラ・クエック梶原啓(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Dispute Resolution Update ~紛争解決ニュースレター~ No.15/NO&T Technology Law Update ~テクノロジー法ニュースレター~ No.42(2023年11月)
関連情報

本ニュースレターは、「全文ダウンロード(PDF)」より日英併記にてご覧いただけます。シンガポール・オフィスの紛争解決チームについてPDF内にてご紹介しております。

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 デジタル資産への投資は近年注目を浴びている。しかし、他の古くから存在する形態の資産に比べ、デジタル資産の規制は緩く、法律は後追いの状況である。この2年間、シンガポールの裁判所は、デジタル資産に関与する当事者の権利と救済に重大な影響を及ぼす裁判例を相次いで公表した。これらの裁判例は、暗号資産等のデジタル資産の性質を検討し、「財産」に該当すると判断した。

  • CLM v CLN※1(以下「CLM判決」という。):暗号資産の一種であるEthereumは、仮差止命令によって保護され得る「財産」であると判断した。
  • Janesh s/o Rajkumar v Unknown Person (CHEFPIERRE)※2 (以下「Rajkumar判決」という。):非代替トークン(Non-Fungible Token。以下「NFT」という。)は、仮差止命令によって保護され得る「財産」であると判断した。
  • Bybit Fintech Ltd v Ho Kai Xin and ors※3(以下「ByBit判決」という。):ステーブルコイン※4であるTetherは、信託可能な「財産」であると判断した。

 デジタル資産が「財産」であると認められると、デジタル資産の保有者は強力な法的保護を受ける。対象物が「財産」ならば、差止命令や転々流通する財産の追跡など、一定の救済措置を利用することができる。これによりデジタル資産の保有者は、デジタル資産が不正利用されたり自身の権利が侵害されたりした場合に、有用な救済措置を受けることができ、安心してデジタル資産に投資できる。

デジタル資産の「財産」該当性はなぜ重要か?

 シンガポールの法律上、権利侵害についての救済方法として、対人的救済又は物権的救済のいずれかが認められる。

 対人的救済は、権利侵害を行った特定の人物に対して行使することができるもので、例えば損害賠償請求があり得る。一方、物権的救済は、権利侵害を行った者に対する請求のみに限定されるものではなく、特定の財産について執行可能である。例えば、当該財産の利用をあらゆる第三者に対して禁止できる。財産の所有権が善意の第三者に移転した場合でも、真の所有者は当該第三者に対して所有権に基づく救済を主張可能であり、一定の条件下ではこれが認められる。このような理由から、物権的救済は対人的救済よりも強力な救済方法と考えられている。

 物権的救済は特定の「財産」に関して執行されるため、あるものが「財産」に該当しない場合、裁判所はその財産に関して物権的救済を認めない。

Ainsworthテスト

 「財産」該当性の伝統的な基準であるAinsworthテストによれば、「財産」であるというためには、「区別ができること、第三者によって識別が可能であること、その性質上第三者によって引き受けることが可能であること、及び一定程度の永続性又は安定性を有すること」という要件を充足しなければならない※5

 CLM判決及びRajkumar判決において、裁判所は、以下の理由により暗号資産及びNFTはAinsworthテストの下で「財産」に該当すると判断した※6

  • 1.  暗号資産/NFTは区別可能である。暗号資産はブロックチェーン上に記録されたコンピュータで読み取り可能な文字列で構成され、個々の通貨は口座名義人に割り当てることができる程度に分別されている。同様に、NFTはブロックチェーン上に保存されるメタデータで構成され、このメタデータによって他のNFTと区別することができる。
  • 2.  暗号資産/NFTは第三者によって識別可能である。暗号資産/NFTの保有者が、ある口座から別の口座への送金を記録するために必要な「秘密鍵」を使用することで、第三者は暗号資産/NFTを利用することができなくなる。
  • 3.  暗号資産/NFTは第三者による引き受けが可能である。これは多くの暗号資産やNFTが活発な取引市場の対象となっていることから明らかである。
  • 4.  暗号資産/NFTはブロックチェーン上で管理されているため、一定程度の安定性がある。
  • 1.  暗号資産/NFTは区別可能である。暗号資産はブロックチェーン上に記録されたコンピュータで読み取り可能な文字列で構成され、個々の通貨は口座名義人に割り当てることができる程度に分別されている。同様に、NFTはブロックチェーン上に保存されるメタデータで構成され、このメタデータによって他のNFTと区別することができる。
  • 2.  暗号資産/NFTは第三者によって識別可能である。暗号資産/NFTの保有者が、ある口座から別の口座への送金を記録するために必要な「秘密鍵」を使用することで、第三者は暗号資産/NFTを利用することができなくなる。
  • 3.  暗号資産/NFTは第三者による引き受けが可能である。これは多くの暗号資産やNFTが活発な取引市場の対象となっていることから明らかである。
  • 4.  暗号資産/NFTはブロックチェーン上で管理されているため、一定程度の安定性がある。

デジタル資産の「財産」としての性質

 Ainsworthテストの要件とは別に、コモンローの枠組みの下では、「財産」は、「有形資産」又は「債権」のいずれかに必ず分類される。デジタル資産が「有形資産」でないことは明らかである。しかし、デジタル資産が「債権」に該当するか否かについては議論の余地がある。伝統的に、債権は金銭の支払を受ける権利など相手方に対して法的手段によって強制力を持つ権利と認識されているからである。直接の相手方を持たないデジタル資産が、「債権」、ひいては「財産」に該当するか否かは直ちに明らかではない。

 CLM判決とRajkumar判決は、問題となったデジタル資産を「有形資産」又は「債権」のいずれかに分類することなく、Ainsworthテストのみを適用した。これは、両判決が、実体法上の本案に関する最終的な決定ではなく暫定的な差止命令であったことによる。つまり、これらの判決においては、民事事件において本来必要とされる立証のための深い分析を行う必要はなく、デジタル資産が「財産」に該当すると立証し得る根拠があるかどうかという限度での判断が求められていた※7

 その後、ByBit判決は、デジタル資産の「財産」該当性を再度検討した。具体的な争点はステーブルコインを信託できるか否かであった。ByBit判決は、実体法上の本案に関する判断を行い、CLM判決やRajkumar判決よりもさらに踏み込んで、デジタル資産が「債権」であるか否かを検討した※8

 ByBit判決は、「債権」と分類されるものの範疇は「広く、柔軟であり、閉鎖的ではない」とし、「債権」の定義は進化し、現在では著作権などの無形財産権も含まれるようになったと述べた※9。そして、デジタル資産の保有者も、無形財産権と同様に特定のデジタル資産をブロックチェーン上の公開アドレスに「固定」する権利を有すると判示した※10。このように、裁判所は、デジタル資産の保有者が有する権利は「債権」であり「財産」に該当すると結論付けた※11

おわりに

 上記裁判例はデジタル資産に関する先端的な判断である。特に、ByBit判決はコモンローの判決として初めて、差止命令申立ではない事件において、デジタル資産が「財産」に該当し「財産」としての保護と救済を受けるとの考え方を示した。この判断は、デジタル資産が侵害された保有者に対しより強力な法的権利と救済措置があるという安心を与えるものである。

脚注一覧

※1
[2022] 5 SLR 273.

※2
[2023] 3 SLR 1191.

※3
[2023] SGHC 199.

※4
ステーブルコインとは暗号通貨の一種であり、価値の変動を最小限に抑えるために既存の通貨、商品、その他の金融商品に連動するよう価値を固定されている。Tetherの価値は米ドルに固定されている。

※5
National Provincial Bank Ltd v Ainsworth [1965] AC 1175 at 1248.

※6
CLM at [45]; Rajkumar at [69]-[72].

※7
CLM at [39]-[40].

※8
ByBit at [3].

※9
ByBit at [34]-[35].

※10
ByBit at [31].

※11
ByBit at [31], [36].

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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