
木村聡輔 Sosuke Kimura
パートナー
東京
NO&T Capital Market Legal Update キャピタルマーケットニュースレター
ニュースレター
上場ベンチャーファンドに関する2023年の改正動向について ―東証ルール、日証協ルールの改正(2024年1月)
インパクトIPOの情報開示に向けて―GSG国内諮問委員会による情報開示・対話ガイダンス草案の公表―(2024年2月)
インパクトIPOの情報開示に向けて(2) ― GSG国内諮問委員会による情報開示・対話ガイダンスの確定 ―(2024年6月)
グロース市場の機能発揮 ― 情報発信の充実化と上場審査に関するFAQ―(2024年6月)
政策保有株式の開示と売却2024(2024年12月)
セミナー
2025年4月から義務化!東証プライム市場の英文開示制度を徹底解説!(2024年12月)
2024年は、能登半島地震の発生、自民党総裁選・米国大統領選、日経平均株価の過去最高値と最大下落幅の更新、マイナス金利政策の解除、物価・賃金・為替動向など、日本の資本市場にマクロレベルで影響を及ぼす要因が多数ありました。また、株式を非公開化する企業が増え、東京証券取引所の上場廃止数は過去最多になりました。
本ニュースレターでは、新年の初回号として、キャピタルマーケット分野の以下の主要トピックについて、2024年の動向を振り返るとともに、2025年の展望をご紹介します。
2024年は、日本の上場企業による政策保有株式(いわゆる持ち合い株式)の売却が非常に活発に行われた年でした。政策保有株式については、従来より、保有企業側における資本効率の低下要因や発行会社側における経営規律に歪みを与える要因になりうる等として海外投資家を中心に批判的な評価が主流となっており、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)においても縮減を含む保有方針等の開示や保有の適否の検証が求められているところです。このような流れの中で、株式会社東京証券取引所(以下「東証」)が2023年3月に公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に係る要請への対応を各社が迫られたことや、(とりわけ2024年の上半期において)株式市場全体で株価が概ね堅調に推移したこと等を受けて、政策保有株式の削減が一気に加速したものと思われます。
個別の案件を振り返ってみると、政策保有株式をゼロにする方針を打ち出した大手損害保険会社をはじめとして生命保険会社や銀行を含む金融機関による大規模な売却案件が多数に上ったほか、事業会社同士で持ち合い解消を意図して実施された案件、発行会社の主導のもと自社の新たなコーポレートガバナンス体制・株主構成等の構築を企図して実施された案件など、その背景・目的において多種多様な案件が登場したことも印象的でした。
売却手法としても、従来型の市場売却やブロックトレードだけでなく、発行会社の主体的な関与のもと、新たな株主となる投資家層へ自社の成長戦略を訴求するべくグローバルオファリングを含む「売出し」を選択する事例が増加し、非常に大規模な案件が多く登場しました。また、保有企業側の政策保有株式の削減とあわせて、発行会社側での株主還元・資本効率の向上を達成するべく「自己株取得」の手法を選択する企業も多く、とりわけ取得価格を市場株価対比でディスカウントした水準とする「自己株TOB」の実例が多く登場したことも特徴といえそうです。さらに、「売出し」と「自己株取得」を組み合わせることで、双方のメリットを享受できるスキームを採用する事例も増加傾向にあるように思われます。
政策保有株式の縮減に向けた動きは2025年も継続・加速することが見込まれます※1。
売却手法・スキームについては、2024年に行われた多くの先行案件によりそのメリットや特徴については一定の整理が付いたところですので、今後は、これらの先行案件を踏まえて各社が取捨選択の上、効率的な案件運営・執行が志向されていくように思われます。また、2024年において政策保有株式の縮減が行われた発行会社側においては、いわゆる安定株主が不在となる中、新たな株主構成における株主総会運営やIRその他のエンゲージメント等について改めて方針を確立していく必要が生じるものと思われます。
当事務所は、2024年も多くの政策保有株式の売却案件に関与しており、関連する法的論点や実務対応に関するノウハウを蓄積しておりますので、引き続き、これらの知見を活かして政策保有株式の売却ニーズのあるクライアントの皆様をサポートしていきたいと考えております。政策保有株式の開示ルールの最新動向と売却方法については、キャピタルマーケットニュースレター第44号「政策保有株式の開示と売却2024」(宮下優一・北本孟・洲脇結衣、2024年12月)もご参照ください。
2022年4月の東証の市場区分見直しにより、プライム市場はグローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場と位置付けられ、それに先立つCGコードの改訂で、プライム市場上場会社は開示書類のうち必要な情報について英文での開示・提供を行うべき旨が追加されるなど、英文開示の充実に向けた取組みが進んできました。その結果、プライム市場上場会社では、英文開示の取組みが相当程度進み、海外投資家の肯定的評価も拡大した⼀⽅、⽇本語との情報量の差、開示のタイムラグ、中小上場会社における開示不⾜などについて否定的な評価も引き続き見られるとの指摘がありました。そのような中、「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」での議論を踏まえ、東証は2024年5月にプライム市場における英文開示の拡充に向けた上場制度の整備(以下「本制度改正」)を公表しました。本制度改正の概要及び実務対応の詳細については、ADVANCE企業法セミナー「2025年4月から義務化!東証プライム市場の英文開示制度を徹底解説!」(オンデマンド配信中)(水越恭平、2024年12月)もご覧ください。
本制度改正では、前述の市場区分のコンセプトを踏まえ、プライム市場上場会社を対象に、①企業行動規範の「遵守すべき事項」として、特に投資判断に与える影響が大きく、速報性が求められる決算情報及び適時開示情報について日本語と同時の英文開示が義務化されるともに、②企業行動規範の「望まれる事項」として、重要な会社情報について、可能な限り、日本語と同時に、英語で同一の内容の開示を行うよう努める旨の努力義務が新設されます。
本制度改正は、2025年4月1日から適用されます。但し、必要な体制整備に時間を要する会社が存在することを考慮し、2025年1月6日から3月14日の間に、具体的な実施予定時期を示した書面を東証に提出した場合には、適用が1年間猶予されます。
英文開示を行う範囲は、日本語による開示内容の全部が対象となるものではなく、その一部又は概要で足ります。実務上の負荷を踏まえて、決算情報のうち、短信のサマリー情報を対象とすることや、適時開示情報のうち、決定された事案の概要を英文で開示した上で、日本語の開示を参照することも可能です。また、原則として、英文開示は、日本語の開示と同時の実施が求められます。しかしながら、発生事実の開示で迅速な対応を要する場合や、内容準備のため直前まで原文の内容が確定できない場合など、同時開示によって日本語の開示が遅延するときには、同時開示は要しません。但し、英文の同時開示のために日本語の開示が遅延することや英文開示の負荷を考慮して日本語の開示を控えることのないようにすることが必要です。
東証の説明によれば、英文開示は日本語の開示の参考訳と位置付けられ、万が一英文の内容が不正確であったとしても上場規則の違反とはみなされないとされています。但し、法的には、上場規則の違反とは別に、例えば、故意又は過失によって内容に誤りがある英文開示を実施した場合に、風説の流布や一般不法行為の問題を招来する可能性は排除されません。そのため、いわゆる免責文言の記載はもとより、内容の正確性・適切性の担保に向けた体制整備(例えば、開示文書の作成・レビューに係るスケジュール/プロセスの明確化、ネイティブレビュワーによる確認、英文情報開示の実務に精通した外部法律事務所との連携など)を進めることが肝要です。
2024年は、日本におけるサステナビリティ開示基準の具体化が進んだ年でした。2024年3月、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)から、サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案「サステナビリティ開示基準の適用(案)」、サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第1号「一般開示基準(案)」、同第2号「気候関連開示基準(案)」が公表されました。これらの基準は、2023年に策定された国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のIFRSサステナビリティ開示基準に相当する日本版の開示基準の公開草案であり、国際的に整合性のあるサステナビリティ開示基準となることが期待されています。
また、サステナブルファイナンスに関しては、2024年11月、環境省から、グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン(2024年版)が公表されました。これは2022年以来の本文の改定となり※2、国際原則の和訳部分と国内向けの解説部分を整理したガイドラインの構成の変更等がなされました。
そして、2024年は、比較的新しいテーマであるインパクトファイナンスに関する議論が活性化した年でもありました。2024年3月、金融庁から、インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針が公表され、インパクトファイナンスについての共通理解を醸成する動きがありました。この基本的指針を踏まえて、投資家・金融機関、企業、自治体等の幅広い関係者が参加するインパクトコンソーシアムで更なる議論が重ねられています。また、2024年5月には、GSG Impact JAPAN(旧GSG国内諮問委員会)から「インパクト企業の資本市場における情報開示及び対話のためのガイダンス」が公表されました。これまでインパクトファイナンスの議論は投資家側によるものが中心であったところ、このガイダンスは、インパクト企業側における情報開示・対話に関するものであり注目されています。このガイダンスについては、キャピタルマーケットニュースレター第37号及び第39号「インパクトIPOの情報開示に向けて」(宮下優一・脇田隼輔・吉野貴之、2024年2月・6月)もご参照ください。
SSBJのサステナビリティ開示基準は2025年3月末を基準確定の目標時期としているため、公開草案を経た最終版がどのような内容で確定するかに注視が必要となります。また、SSBJのサステナビリティ開示基準を有価証券報告書等の金融商品取引法に基づく法定開示にどのように取り込むかについて、2024年3月に金融審議会に設置された「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」において具体的な適用対象企業や適用時期、保証制度等の検討が進められているため、この議論動向にも注視が必要となります。
また、サステナブルファイナンスについては、金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議※3等でも議論が継続されています。そして、インパクトコンソーシアムでは、各分科会での議論を踏まえた成果物が2025年に作成される予定です。
2024年は、東証の新規上場会社数は合計130社となり、2023年と比べ10社増となりました。このうち、プライム市場への上場案件としては、東京地下鉄の上場のような大型の民営化案件のほか、リガク・ホールディングス、キオクシアホールディングス(旧東芝メモリ)の大型グローバルIPOがありました。また、このうち、TOKYO PRO Marketへの新規上場会社数は50社と、2023年比18社増、2022年比29社増となり、顕著な増加が見られました。
新規上場を巡る制度動向としては、2022年以降に進められてきた公開価格の設定プロセスに関する各種制度改正を踏まえた、仮条件の範囲外での公開価格設定・売出株式数の変更などのIPOに関する柔軟な条件設定の実務の定着がみられたほか、上場承認前届出書(いわゆるS-1方式)を用いたIPOがありました。このほかに、2024年5月には東証より「グロース市場における投資者への情報発信の充実に向けた対応について」と「上場審査に関するFAQ集」が公表されました(上場審査に関するFAQ集は2024年11月に更新されました。)。ここでは、新たな市場区分の実効性の向上に向けたフォローアップを受けて、グロース市場の機能発揮のための対応として、情報開示の強化とIR活動の強化の観点から、グロース市場上場会社に期待される情報発信のあり方が示されました。また、上場審査に関するFAQでは、スタートアップの成長に資するべきIPOの準備の観点から、赤字上場の許容性や上場準備期間におけるM&Aの留意点のほか、予実管理・業績予想開示の考え方などが明確化されました。この詳細については、キャピタルマーケットニュースレター第40号「グロース市場の機能発揮 ― 情報発信の充実化と上場審査に関するFAQ ―」(宮下優一・川村勇太・吉野貴之、2024年6月)もご参照ください。
さらに、2024年3月には、成長性豊かなアジアの有力企業による東証へのIPO促進に向けたエコシステムとして、「東証アジアスタートアップハブ」が立ち上がりました。これは、アジアの有力企業に対して、日本での事業・資金調達支援、IPO支援などの各企業のニーズを踏まえたサポートを行うことを通じて、中長期的な視点で、東証IPOの後押し等を行うもので、証券会社、監査法人、銀行・信託銀行などがパートナーとなっており、当事務所もパートナー法律事務所としてこの取組みに参加しています。
そのほか、2024年は、前年に顕著に増加した国内のスタートアップ企業の米国NASDAQへの直接上場事例のうち、その複数が上場廃止を決定するなどの動きも見られました。
2025年に向けてはグロース市場の機能発揮のための対応や東証アジアスタートアップハブの取組みを受けた、スタートアップ企業・アジア等の外国企業の日本におけるIPOの増加が見られるかが注目ポイントになります。
また、上場承認前届出書(S-1方式)を用いたIPOについては、承認前届出書提出後~上場承認時までに行われるいわゆるTTW(Testing the Waters)の実施方法や、証券会社のアナリストが作成するいわゆるプレディールリサーチレポートの取扱いを含め、様々な論点が存在するため、後続案件における事例の集積が待たれます。
また、近年、マネジメント・バイアウト(MBO)を含むプライベートエクイティ・ファンドによる非公開化取引が活発になる中で、そうした非公開化案件のイグジットのためのIPOがどのように増加していくかにも関心が集まります。
昨年の国内のスタートアップ企業による米国への直接上場事例における上場廃止は、上場後の取引価格の低迷や上場維持コストの負担によるものが見られるところ、今後、この傾向がどのように推移するかも注目したい点です。
2024年は、株式報酬の「使い勝手」を良くするために、様々な法令改正・解釈指針等が公表・施行された年でした。例えば、上場会社の株式について適用があるインサイダー取引規制との関係では、同年4月に、金融庁・証券取引等委員会により、「インサイダー取引規制に関するQ&A」応用編のQ&Aの追加が公表され、これにより、譲渡制限付株式※4やRSU・PSU※5について、実務上悩ましいと思われていた論点(例えば、源泉徴収額充当のための株式売却の取扱い)について、一定の解釈指針が示されました。また、同年6月には、「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」の改正案が公表され、当該改正においては、業務執行決定機関による株式報酬としての株式発行等に係る決定については、(a)希薄化率が1%未満と見込まれるか、又は(b)価額(時価)の総額が1億円未満と見込まれる場合には、軽微基準をみたし、インサイダー取引規制上の「重要事実」から除外されることとなりました※6。
また、株式報酬に係る開示規制についても、例えば、2024年3月に割当先の個人情報に関する記載の見直しが行われたほか※7、同年11月には、譲渡制限付株式やRSU・PSUの付与について、1億円以上の有価証券の募集又は売出しであっても有価証券届出の提出を不要とし、臨時報告書の提出で足りるとする、いわゆる特例制度の利用要件拡充などが公表されています※8。
また、ストックオプション※9についても、令和6年度税制改正において税制適格ストックオプションの要件(年間権利行使限度額、株式保管委託要件)が改正されたほか、同年9月には、会社法の特例として、産業競争力強化法において「募集新株予約権の機動的な発行」(ストックオプション・プール)に関する制度が創設されるなど、その「使い勝手」を良くするための改正が実施されています。
2025年も、株式報酬の「使い勝手」を良くするための動きが継続することが予想されます。上記①で述べた改正のうち、インサイダー取引規制の軽微基準に関する改正は本年4月1日に施行されることが予定されており、譲渡制限付株式やRSU・PSUに関する開示規制の改正についても、本年に施行されることが予想されます。
また、会社法関係では、法務省が2024年9月から、商事法務研究会「会社法制研究会」において、会社法改正に向けた検討を進めており、当該検討において、従業員等に対する株式報酬としての株式の無償交付が提言されていることから※10、当該改正の議論動向にも注視が必要となります。
J-REITについては、2022年及び2023年に引き続き、2024年においてもIPO銘柄はなく、合併により上場銘柄数は昨年より1減少し57銘柄となりました。
インバウンド需要の高まりを受けてホスピタリティ業界は引き続き活況であり、ホテルアセットの取得及びホテル系リートの公募増資は活発に行われた一方、日銀が2024年3月にマイナス金利政策の解除を決定したこと等に伴い引き続き金利環境は不透明であること、厳しい物件取得環境は継続していることから、多くの銘柄では、投資物件の入替え等の手法により物件取得機会を確保する動きが継続しているものと見られます。
J-REIT市場は不安定な状況が継続していることもあり、公募増資(PO)は2024年12月末までに14件と2023年の水準(22件)を大きく下回りました。また、かかる投資口価格の動向を踏まえ、自己投資口の取得・消却を通じて資本効率の改善を図る動きが多く見られ、取得枠の設定額は暦年ベースで過去最高水準となりました。加えて、2024年1月から新NISA制度が開始されたことを踏まえ、投資口分割により小口化を進める銘柄も多く見られました。
私募リートについては、2023年は過去最多の10銘柄が新規に運用を開始しましたが、2024年の新規運用開始は4銘柄に留まりました。もっとも、2024年末時点での私募リートの銘柄数は58となり、上場リートの銘柄数を超える状況となっています。ARES(一般社団法人 不動産証券化協会)の発表※11によれば、私募リートの運用資産規模は、2024年9月末時点において、1,829物件(前年同時点比263物件増)、約6兆6,808億円(取得価格ベース。前年同時点比約8,077億円増)となっています。
2024年においては、初の物流リート同士の合併が行われましたが、当該案件は、近年多く見られた同一スポンサー傘下の合併と異なりスポンサーを跨いだ合併である点、合併に伴って資産運用会社においても会社分割を行い、ダブルスポンサー体制を構築している点も注目すべきところです。また、2023年に引き続き、スポンサーチェンジの事例も複数見られました。
J-REIT同様に投資法人が用いられるインフラファンド市場では、2022年、2023年とスポンサー等による公開買付けにより上場廃止となった銘柄が見られましたが、2024年は同様の事例はなく、同年末時点で上場インフラファンドは5銘柄となっています。
2025年においても2024年と同様のマーケットトレンドが継続する場合、J-REITに関しては、合併を通じた業界の再編、資産入替えを中心としたポートフォリオの改善、自己投資口の取得による投資主還元等の動きは継続する可能性が高いと思われます。特に、不動産現物取引価格の高騰により、J-REITの買収を不動産取得機会と捉え、特にP/NAV倍率が1倍を割っている銘柄を対象とした同意なき買収提案などを含む投資主等によるアクションも活性化する可能性があります。また、2024年においてはセキュリティトークンのような新しい投資対象資産への投資姿勢を打ち出した銘柄も見られたことから、規約や資産運用ガイドラインの変更を伴うアセットクラスの見直し等の動きも継続することが予想されるところです。
私募リートについては、とりわけ鉄道業界において「資産回転型(循環型)」「アセットライト」事業の一環として私募リートの組成計画を推し進める事例が続くことが予想される一方、新規参入トレンドが一巡し、合併や資産運用会社の売却等の再編の動きが活発化する可能性があります。
昨年に引き続きセキュリティトークン(以下「ST」)の中心を占めている不動産STについては、案件数、発行規模も引き続き堅調に推移しています。2024年においては、信託税制において受益証券発行信託の元本払戻しとして金銭の交付を受けた場合における投資家による所有受益権の譲渡損益の計算上の論点が生じていた関係で、新規案件数が一時停滞していたように思われましたが、令和7年度税制改正の大綱(令和6年12月27日閣議決定)において、受益証券発行信託に関する会計の見直しを前提に、投資家が有する特定受益証券発行信託の受益権につき元本の払戻しとして金銭の交付を受けた場合における所有受益権の譲渡損益の計算につき、その譲渡原価を所有受益権の帳簿価額に元本減少割合を乗じて計算した金額とする等の手当(元本払戻しの非課税化)が掲げられたことで、かかる論点は解消されるものと想定されます。
不動産ST以外としても、公募型映画デジタル証券(匿名組合出資持分)も出現するなど、各社様々な取組みが進んでいる状況にあります。
米国では、Securitize社が2024年3月21日に公表しているところですが、BlackRock社がSecuritize社と提携して、パブリックブロックチェーンであるイーサリアムネットワーク上で初のトークン化ファンド「BlackRock USD Institutional Digital Liquidity Fund(BUIDL)の組成を行いました。BUIDLのデータは、Etherscanから誰でも閲覧が可能であり、発行総額、取引履歴、保有ウォレットなどの透明性を実現しています。同公表文においてはトークン1つあたり1ドルの安定した価値を提供すると宣言しており、USDC(米ドルステーブルコイン)に瞬間的に、いつでも交換(償還)できる仕様となっています。また、オンチェーン(ブロックチェーン上)での利回りの取得が可能です。ビットコインETFを筆頭とした暗号資産ETFについて近時国内でも議論が盛んになっているところではありますが※12、一方で、このように、セキュリティトークンとステーブルコインの連結が進んでいる状況になっており、オンチェーン完結型でのポートフォリオ管理を望む投資家に対して伝統的な金融商品の投資機会をもたらすこととなっています。
2025年は、不動産STや社債STといった商品だけでなく、令和7年度税制改正大綱を受けた形で国内不動産以外のアセットを裏付けとしたSTの開発もなされることが予想されます。また、産業競争力強化法上の債権譲渡の通知等に関する特例を用いた案件として、デジタル対抗要件(確定日付)によるいわゆる二項有価証券に係るSTの商品が増加することが期待されます。
日本では、オンチェーンでの資産管理が普及していない現状であると思われるため、Blackrock社のような取組みが国内において魅力を有することになるのかは定かではないものの、今後オンチェーンでのポートフォリオ管理が普及するにつれて、そのような商品が重要になる将来性はあるように思われ、その場合、暗号資産関連法制/税制とは連結してくるものと思われます※13。
2024年は、非上場株式の発行市場・流通市場の活性化に向けた動きが見られました。
発行市場については、特定投資家私募制度(J-Ships)という、証券会社を通じて非上場企業の有価証券をプロの投資家である「特定投資家」向けに発行する制度を利用した案件がありました。また、少額募集の有価証券届出書における開示内容の簡素化について、金融庁から2024年11月に政府令の改正案が公表されています。
流通市場については、2024年5月の金融商品取引法改正により、PTS(証券取引所を経由せずに株式を売買できる私設取引システム)の運営業務への業者の参入要件緩和(登録制度)へ向かっています。
また、幅広い投資家から非上場企業へリスクマネーを供給するための仕組みであるベンチャーファンド市場についても制度整備が進んでいます。2024年3月、東証の上場ベンチャーファンドの運用資産等に関する開示基準の見直しがなされました。その詳細については、キャピタルマーケットニュースレター第33号「上場ベンチャーファンドに関する2023年の改正動向について ―東証ルール、日証協ルールの改正」(糸川貴視・石内鴻壮、2024年1月)もご参照ください。そして、2024年11月、金融庁から、上場ベンチャーファンドについて、インサイダー取引規制等の対象に含めることや自己投資口の取得を可能とする旨の政府令の改正案が公表されました。また、この改正を踏まえ、上場ベンチャーファンドに関する適示開示項目を追加する等の上場制度の整備要綱が東証から公表されました。
以上の非上場株式の発行市場・流通市場の活性化に向けた制度整備の動きは、2025年も継続することが見込まれます。その上で、これらの制度を利用した実際の案件がどの程度増えるかが注目されるところです。
※1
なお、2025年には、2022年4月の東証の市場区分見直しにあたって導入された緩和された上場維持基準(経過措置)の適用が終了することが予定されています。具体的には2025年3月1日以後に到来する上場維持基準に関する基準日から、本来の上場維持基準が適用され、原則として1年間の改善期間内に基準に適合しなかった銘柄は、監理銘柄・整理銘柄指定期間(原則として6か月間)を経て上場廃止になります。当該廃止は、流通株式時価総額や流通株式比率に関する基準を含め、本来の上場維持基準を遵守できていない会社にとっては大きな課題となっています。
※2
2024年3月には付属書1の改訂が行われています。
※3
2024事務年度のテーマとして、サステナビリティ投資商品について、個人投資家を含め幅広い投資家への投資機会の拡充等が扱われています。
※4
役職員に対して交付する、契約上一定期間の譲渡制限が付された自社の普通株式をいい、譲渡制限は対象者による一定期間の在職や業績要件の達成を条件に解除されることが想定されているものをいいます。
※5
RSUとは、役職員に対して一定のユニットを付与した上で、一定の在職期間経過後に、確定したユニット数に応じた自社の現物株式(普通株式)を交付するものをいいます。PSUとは、RSU同様、役職員に対して一定のユニットを付与した上で確定したユニット数に応じて自社の現物株式(普通株式)を交付するもののうち、業績条件の達成度合いに応じて確定するユニット数が決定されるものをいいます。
※6
当該改正については、2024年9月にパブリックコメントが公表され、改正内容が確定するとともに、2025年4月1日から施行・適用されることが公表されています。
※8
なお、当該改正については、2024年12月26日までパブリックコメントの対象とされており、本日時点で最終的な改正案や施行日については公表されていません。
※9
自社の株式をあらかじめ定められた権利行使価額で購入することができる権利であり、会社法上の新株予約権の形態をとるものをいいます。
※10
現在、上場会社は取締役等に対して、報酬規制の遵守を前提に、職務執行の対価として株式を無償で交付できるところ(会社法202条の2など)、これに加えて、株式会社の従業員及び子会社の役員・従業員にも株式の無償交付を認めることが提案されています。
※12
2024年10月25日「国内における暗号資産ETF等の組成等に向けた提言」国内暗号資産ETF勉強会参加メンバー一同
※13
プラットフォーム事業者側の今後の展望の見立てとして、Progmatが2025年1月6日付で公表した「「デジタル証券(ST)マーケットアウトルック 2025」を公開」と題するプレスリリースの内容が非常に参考になります。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
(2025年1月)
水越恭平
(2025年1月)
内海健司、齋藤理、鈴木謙輔、洞口信一郎、鳥巣正憲、滝沢由佳(インタビュー)
木村聡輔、斉藤元樹、糸川貴視、水越恭平、宮下優一、北川貴広(共著)
(2024年12月)
清水音輝
(2025年1月)
水越恭平
木村聡輔、斉藤元樹、糸川貴視、水越恭平、宮下優一、北川貴広(共著)
宮下優一、北本孟、洲脇結衣(共著)
糸川貴視、米田崇人、吉野貴之(共著)
木村聡輔、斉藤元樹、糸川貴視、水越恭平、宮下優一、北川貴広(共著)
(2024年12月)
梅澤拓
宮下優一、北本孟、洲脇結衣(共著)
糸川貴視、米田崇人、吉野貴之(共著)
洞口信一郎
(2025年1月)
内海健司、齋藤理、鈴木謙輔、洞口信一郎、鳥巣正憲、滝沢由佳(インタビュー)
木村聡輔、斉藤元樹、糸川貴視、水越恭平、宮下優一、北川貴広(共著)
不動産証券化協会 (2024年9月)
井上博登、山中淳二、齋藤理、小山嘉信、洞口信一郎、糸川貴視、粂内将人、宮城栄司、渡邉啓久、加藤志郎、北川貴広(共著)
木村聡輔、斉藤元樹、糸川貴視、水越恭平、宮下優一、北川貴広(共著)
不動産証券化協会 (2024年9月)
井上博登、山中淳二、齋藤理、小山嘉信、洞口信一郎、糸川貴視、粂内将人、宮城栄司、渡邉啓久、加藤志郎、北川貴広(共著)
(2024年12月)
池袋真実、内海健司、齋藤理、洞口信一郎、渡邉啓久(共著)
(2024年9月)
清水啓子、鈴木謙輔、糸川貴視(共著)
(2025年1月)
水越恭平
(2025年1月)
松尾博憲、鈴木三四郎(共著)
有斐閣 (2025年1月)
伊藤眞(編集代表)
(2025年1月)
殿村桂司、壱岐祐哉(共著)
(2025年1月)
水越恭平
(2025年1月)
松尾博憲、鈴木三四郎(共著)
(2025年1月)
殿村桂司、壱岐祐哉(共著)
大久保涼
殿村桂司、松﨑由晃、近藤正篤(共著)
川合正倫、鹿はせる、艾蘇(共著)
長谷川良和、今野由紀子(共著)
森大樹、早川健、関口朋宏、灘本宥也(共著)
木村聡輔、斉藤元樹、糸川貴視、水越恭平、宮下優一、北川貴広(共著)
(2024年12月)
清水音輝
(2024年10月)
殿村桂司
(2024年8月)
殿村桂司、カオ小池ミンティ、灘本宥也、山本安珠(共著)
木村聡輔、斉藤元樹、糸川貴視、水越恭平、宮下優一、北川貴広(共著)
村治能宗
(2024年12月)
宮城栄司、加藤志郎、北川貴広(共著)
平野倫太郎、青野美沙希(共著)
木村聡輔、斉藤元樹、糸川貴視、水越恭平、宮下優一、北川貴広(共著)
(2024年11月)
佐々木将平
(2024年11月)
本田圭(コメント)
(2024年10月)
本田圭