
佐々木将平 Shohei Sasaki
パートナー/オフィス代表
バンコク
NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報
タイにおいては、東南アジア各国の中でも比較的早い1999年に競争法(Trade Competition Act。以下「取引競争法」という)が制定されたものの、その執行はほとんど行われない状況が長年続いていた。しかし、2017年の新取引競争法の制定以降、近年、徐々に執行事例が増え始めており、本稿執筆時点で公表されている限り、取引競争委員会により違反が認定された件数は、2021年は7件、2022年は8件に上っている。その中には、カルテル規制違反や企業結合届出規制の違反など、日系企業にとっても参考となる事例が出始めていることから、本稿では、注目すべき執行事例に触れながら、取引競争法の執行に関する最新動向を紹介する。
取引競争法においては、グループ内取引を除き、一定の基準を充たす合併、株式取得(非公開会社の場合には議決権ベースで50%超、公開会社の場合には議決権ベースで25%以上の株式等の取得)又は資産取得を行う場合に、①事前許可の取得、又は、②事後報告が求められている。届出基準は、端的に言えば、以下の通りとなる。
事前許可については、公表されている限り、年間数件のペースで許可申請が行われている。これまで企業結合が許可されなかったケースは見当たらず、企業結合後のシェアが非常に高くなるような案件も含めて、許可が付与されている。たとえば、2020年の大手財閥CP(グループで、タイ国内最大手のコンビニエンスストア「セブンイレブン」やスーパーマーケットを運営)による大手スーパーマーケットTescoの東南アジア事業の買収についても、買収後に課される一定の制約条件(問題解消措置)付で許可されている。
事後届出については、届出懈怠を理由として事業者に対して行政罰が科された事例が複数存在すること(その中にはタイ国外で行われた企業結合案件も含まれていること)には注意を要する。両当事者がタイに子会社等の拠点を有している場合には、タイ国外の当事者同士の企業結合取引でも届出対象になる上、年間売上(ある市場におけるタイ国内の売上)10億バーツ(約42億円)以上という届出基準も比較的低いため、届出対象となる取引の範囲は相当広範である。実際、統計上の届出件数も年々増加しており、2022年には公表ベースで72件の事後届出が行われている。また、タイの競争当局の実務上、当局から明確な回答を事前に得られないことも多いため、届出要否の判定が難しい案件においては、届出義務違反を防ぐために、念のため届出を実際に行うという対応を取らざるを得ないことも多い(2022年の事後届出案件のうち約4割に相当する29件は、結果的に届出義務なしとの判断が示されている)。届出書には比較的詳細な情報を記載することが求められるが、取引実行後7日以内に行う必要があるため、クロージング前に十分な余裕を持って準備を進めることが必要である。
取引競争委員会が公表している取引競争法違反案件の中には、カルテル規制違反が認められた事案も出始めている。公表内容によれば、複数の製氷工場事業者が、特定の県におけるチューブアイス及び砕氷の販売価格の引き上げに合意し、覚書に署名した上で、関係者に周知を行い、実際に価格を引き上げたという事案について、カルテル規制違反が認定され、製氷工場事業者に対しては最大約73万バーツ(約300万円)、関係した個人に対しては最大2万7,000バーツ(約11万円)の罰金が科されている。取引競争法にはリーニエンシー制度は存在しない(そのため、当局にとってカルテル規制違反の摘発・立証のハードルが高い)という事情もあり、現時点では、摘発事例は上記のようなもの(書面合意という明確な客観証拠が存在し、カルテルの立証が比較的容易と思われる事案)に留まっているが、今後の執行動向には注意が必要である。
取引競争法に関して実務上注目を集めている事案として、自動車メーカーによるディーラー契約の打ち切りに関する案件が存在する。公開情報に基づく事案の概要は、以下の通りである。
タイには、日本の継続的契約の保護に関する法理に相当する判例理論等は存在せず、契約期間が契約上明記されていれば、契約当事者は、当該契約期間の定めに従って契約を打ち切ることが可能であるというのが、従来は、実務上一般的な考え方であった。上記の事案における競争当局の判断は、契約上の明確な定めがあったとしても、継続的な契約の更新拒絶には、競争法上の制約がありうることを示したものであり、実務上インパクトが大きいと思われるため、最終的な司法判断の帰趨を注視する必要がある。
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