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ニュースレター

欧州の人権・環境デュー・ディリジェンスの義務化に向けて~企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の欧州議会とEU理事会の暫定合意内容~

NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 欧州議会とEU理事会は、2023年12月14日、人権・環境デュー・ディリジェンスを義務付ける、企業持続性デュー・ディリジェンス指令案(Corporate Sustainability Due Diligence Directive)(以下「CSDDD」といいます。)について暫定合意に達したことをプレスリリースで公表しました※1。CSDDDはEU域内・域外の対象企業に対して幅広い環境リスク・人権リスクのデュー・ディリジェンスを求めるものであり、これまで2022年2月に欧州委員会から公表された案(以下「当初案」といいます。)に基づいて欧州議会及びEU理事会の審議が行われていました。

 今後、CSDDDは両機関の正式な採択を得て発効する予定であり、発効後各EU加盟国は2年以内に国内法を整備することになります。暫定合意の内容を反映した指令案自体はいまだ公表されていませんが、以下では、プレスリリースに基づき、CSDDDの暫定合意の概要について紹介します。

2. 暫定合意の概要

(1) 対象企業

 CSDDDの対象企業については、まず、EU域内の企業のうち①従業員数が500名を超え、かつ全世界での年間売上高が1億5,000万ユーロを超える企業、並びに②従業員数が250名を超え、かつ全世界での年間売上高が4,000万ユーロを超える企業のうち、繊維・衣料・履物の製造及び卸売業、林業・漁業を含む農業、食品の製造及び原材料農産物の取引、鉱物資源の採掘及び卸売業、関連製品の製造、建設業といった人権・環境のハイリスクセクターのいずれかに2,000万ユーロ以上の売上高がある場合とされています。

 また、EU域外の企業については欧州での純売上高が上記の基準を超える場合にのみ適用対象になるものとされており、欧州委員会はCSDDDの適用対象となるEU域外の企業のリストを公表しなければならないとされています(EU域外の企業については、CSDDD発効から3年後に施行されるものとされています)。

 なお、審議の過程では、金融機関をCSDDDの対象に含むべきかについても議論されていましたが、暫定合意では、金融機関が行う調達等のバリューチェーンの上流に関する活動はCSDDDの対象に含まれるものの、金融サービスについては一次的に対象から除外され、将来の見直しの可能性が留保されるものとされています。

(2) 対象企業の義務

 暫定合意では、対象企業が、自社及びバリューチェーンの川上・川下のビジネスパートナーが人権や環境に与える負の影響を特定し、評価し、その影響を防止・緩和・終息させなければならないとされています。人権・環境リスクには、児童労働、強制労働、労働力の搾取、環境汚染、森林破壊、過剰な水の消費、生態系破壊等が含まれます。詳細は条項案の公表を待つ必要がありますが、デュー・ディリジェンスの基本的な枠組みは当初案の考え方が維持されているように見受けられます。

 また、対象企業が気候変動緩和のための移行計画を採用し、最善の努力(best effort)を尽くして実施する義務が定められているほか、人権や環境の負の影響を受ける者(労働組合や市民団体を含みます)が損害賠償を提起できる期間を5年間と定めています。

 さらに、企業はビジネスパートナーによる人権・環境への侵害が確認された場合であって、当該影響を防止又は終了できない場合には、最後の手段として、取引関係を終了しなければならないとされています。

(3) 不遵守の場合の制裁

 暫定合意では、対象企業はCSDDDへの違反につき民事責任を負うほか、当局が少なくとも企業の純売上高の5%を上限とする制裁金や公表措置を制裁として課すことができるとされており、制裁金を支払わない企業に対しては、差止措置が設けられるとしています。また、違反の対象となりうる義務の中には、企業がデュー・ディリジェンスの一環として、影響を受けるステークホルダーと協議を行う義務が含まれることを確認しています。この点は今後、企業によるステークホルダーとの対話を促進する方向に働くことが見込まれます。

3. 企業の留意点

 欧州では、すでにフランスやドイツの各国法により人権・環境デュー・ディリジェンスの義務化が進みつつありますが、CSDDDが採択された際には、これが欧州全域に拡大することになり、欧州のデュー・ディリジェンス実務が加速することが想定されます。また、これに伴い、日本企業も、直接的にCSDDDの対象とならない場合であっても、取引先である欧州企業から人権・環境デュー・ディリジェンスの実施を行う誓約条項の挿入や取引先も含めた申告窓口(グリーバンス・メカニズム)の設置を求められるなど、更なる取組みを行う必要が出てくることが想定されます。

 CSDDDがカバーする人権・環境リスクは広範であり、企業が属するセクター(業種)によっては、自社の主要な人権・環境リスクがわかりづらい場合もありますが、各事業(部署)で認識しているリスクやこれまでの取組みを整理することで現在地を改めて認識し、人権・環境デュー・ディリジェンスの観点から優先すべき取組みを検討することも有用と思われます。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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