福原あゆみ Ayumi Fukuhara
パートナー
東京
NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター
ニュースレター
欧州の人権・環境デュー・ディリジェンスの義務化に向けて~企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の欧州議会とEU理事会の暫定合意内容~(2024年1月)
欧州の企業持続可能性DD指令(CSDDD)案及び強制労働製品・流通禁止の規則案に関する近時のアップデート(2024年3月)
EUにおける強制労働製品禁止規則の成立を踏まえたサプライチェーン管理(2024年12月)
EUでは、企業に人権・環境デュー・ディリジェンスを義務付ける企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の成立に向けて長らく審議されてきましたが、対象企業の条件を緩和した案において本年4月24日に欧州議会による最終投票がなされ、5月24日にEU理事会における正式な承認を経て採択が最終決定されました。
CSDDDは以下の売上高の要件を満たす日本企業が直接適用対象となるほか、直接的には適用対象とならない日本企業にとっても、取引先である欧州企業からの要請等を通じて、実務上大きな影響を受けることが想定されます。そのため、本ニュースレターでは、CSDDDにより求められる内容を改めて整理し、日本企業に与える影響について紹介します。
CSDDDは、2022年2月に欧州委員会から案文が公表されて以降、欧州議会およびEU理事会の審議が継続しており、2023年12月にEU理事会と欧州議会による企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)に関する暫定合意がなされたものの※1、ドイツやイタリアの反対等により2024年2月28日のEU理事会では否決され、同年3月15日、大幅に対象企業の範囲を狭める形で修正されたCSDDD案(以下「修正CSDDD案」といいます。)に基づきEU理事会の常設代表委員会において合意がなされました※2。その後、上記のとおり、欧州議会・EU理事会による正式な採択がなされています。
今後、CSDDDはEU官報に掲載されてから20日後に発効し※3、加盟国は2年間でCSDDD導入のための法規制と行政手続を整えることになります。
正式採択されたCSDDDにおける対象企業は以下のとおりであり、基本的に修正CSDDD案の内容が維持されています。また、以下のとおり、企業の規模や売上高に応じて適用までのスケジュールが異なっています。
EU企業
非EU企業
上記の基準値については、単独で閾値を満たさない場合であっても、連結ベースでこれを満たす場合には親会社に適用されることになります。
CSDDDの対象に含まれる場合には、下記(3)で記載する人権・環境デュー・ディリジェンス義務等を負うことになるため、まず自社ないし自社グループが適用対象か否かの確認を行うことが重要です※4。
CSDDDは、対象企業に対し、以下のとおり自社のバリューチェーンにおける人権・環境リスクのデュー・ディリジェンスを求めています。対象企業の義務として求められているデュー・ディリジェンスは、国連のビジネスと人権に関する指導原則に沿った基本的な枠組みを踏襲するものですが、デュー・ディリジェンスの対象となるリスクの内容やバリューチェーンの範囲が広範であり、かつデュー・ディリジェンスの実施方法等が具体化された上で対象企業の義務として定められている点に特徴があります。
人権・環境リスクに関するデュー・ディリジェンスの実施(5~12条)
利害関係者(ステークホルダー)との対話(13条)
第三者に開かれた苦情処理手続(14条)
年次のモニタリング(15条)
年次報告書の公表(16条)
気候変動緩和のための移行計画の採用・実施(22条)
対象企業は、CSDDDに違反したことにより、生じた損害を賠償する民事責任を負うことが定められています(ただし、バリューチェーンの取引先のみによって生じた損害については、対象企業は損害賠償責任を負わないものとされています)。
また、EU加盟国の国内法規において、違反企業に対する制裁金(少なくとも全世界の純売上高の5%を上限とする)に関する定めを置くものとされています。
今後、CSDDDが直接適用される日本企業においては、CSDDDが定める広範なデュー・ディリジェンス義務を遵守することが求められることになります。CSDDDで求められるデュー・ディリジェンスを実施するためには、まず自社のサプライチェーンの状況を踏まえ、どこに優先的に対応すべき人権・環境リスクがあるのかを把握すること、およびCSDDDが適用されるまでに備えなければならない人権・環境デュー・ディリジェンスの遵守体制とのギャップを確認することが重要です。また、サプライチェーンのリスク分析・モニタリングや苦情処理手続の導入・整備については相応の期間を要するため、適用開始に備えて順次準備を開始することが必要となります。指令発効後、モデル契約条項に関するガイダンスやデュー・ディリジェンス義務の履行に関するガイドラインが整備されることが予定されており、これらが実務のスタンダードになることも見据えておく必要があるように思われます。
一方、CSDDDが直接適用されない日本企業においても、CSDDDの発効によりグローバル・スタンダードが変化し、また、取引先である欧州企業等からより具体的な取組を求められるなど、多くの企業が影響を受けることが見込まれます。また、将来的には、審議過程で削除されたハイリスクセクターの企業に関する適用対象の拡大がされるなど※6、対象企業の範囲が広がる可能性もあることから、上記のような取組を段階的に進めることが有用と思われます。
※1
CSDDD暫定合意案の概要については、2024年1月発行「欧州の人権・環境デュー・ディリジェンスの義務化に向けて~企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の欧州議会とEU理事会の暫定合意内容~」(本ニュースレター第82号)をご参照ください。
※2
2024年3月発行「欧州の企業持続可能性DD指令(CSDDD)案及び強制労働製品・流通禁止の規則案に関する近時のアップデート」(本ニュースレター第86号)参照
※3
2024年5月31日時点でEU官報は掲載されておらず、本NLは欧州議会において承認された版に基づき記載しておりますが、最終版において軽微な修正がなされている可能性があります。
※4
別途、一定の基準額以上のフランチャイズ契約またはライセンス契約を締結している場合の対象要件が定められています。
※5
製品の廃棄は対象としないものとされています。
※6
将来的に見直しがなされる可能性がある旨が明示されています。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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